【最終章】第七六話 『太古の人』
さて、本作銀河連合日本TNEも、最終章に入ります。
どのぐらいの話数になるかはわかりませんが、突っ走りますので宜しくお楽しみください!
――――― 銀河連合日本 The Next Era 最終章 ―――――
その一報が月丘にもたらされたのは、カイア10986型トーラルシステムが復旧してから、約一〇日ほど経った朝の事であった。
月丘和輝は、PVMCGのアラームが目覚ましになり、その日は普通に目を覚まし、久々の普通な役人出勤で登庁して、まあ特に任務もなく、溜まっていた事務処理でもして一日を過ごすかなとそんなトコロだったのを、出勤途中で緊急の連絡が入って、情報省本庁を目の前にUターン。急遽移動先をヤルバーン自治国医療局所属の中央病院に変え、公園の手洗いに入り、ちょいとラフ目のジャケット姿からPVMCGの服飾機能を使って少し変身。毎度のスリーピーススーツをキメて急ぎ病院へ向かった。
* *
さて、カイア10986型を『お友達』というカタチで制御に成功した月丘。
彼女のアバター素体とこの一〇日ほど、日本とヤルバーン自治国の文化慣熟、というかデータ蓄積作業のためになるべく密接に過ごしたわけだが、事前にあの“タロウ”と“ハナコ”についての情報もカイアから色々と得ていた。
例の移民船『ゲルベラール』で対峙した際に得た情報も含めて総合的に、かの二人の身の上を簡単にまとめると、以下のようになる。
●男性体の名前は、『ジェルダム・ヌタ・ガークラ』という。年齢は……肉体及び精神的な年齢は、二八歳ぐらい。地球の年月で言えば、五〇歳少し上ぐらいで、寿命はイゼイラ人と同程度らしい。
職業は兵士だが、所謂、僧兵のような種類の兵士だそうだ。国軍の兵ではないという。
●女性体の名前は、『アルカーネ・ミョン・ヒェルビオ』という。年齢は……肉体的及び精神的な年齢は、二五歳ぐらい。地球の年月で言えば五〇歳程度。
職業は医師だという。
この二人が何故に最後まで生き残っていたかといえば、カイア曰く、それはセルメニアの思し召しということで、つまり言い方を変えれば、運が良かった(のか悪かったのか)と言うだけの話だそうだ。
ちなみにこの二人以外で、少し前まで生きていたペルロード人は他に三人いたそうで、その職業は、男性でレストランの店主と、女性教師と、女の子供だったという。
で、注意しなければならないのは、この二人は、生体機能停止措置に入ってから、なんと地球時間で三〇〇〇年も経っているそうだ。
まあ確かにニーラ達が調査した時も、恐らくそれぐらい前の人物ではないかと予想はしていたが、この事実をカイアから教えられた時、月丘はニーラの予測が本当だったのかとビックリするのだが、「ちょっと待て」と考えると、カイアは情報としてマルセアを知っていたし、ミニャールも知っていた。
つまりマルセアやミニャールもカイアにゲルベラール移民船が在った時代と同年代の人物にシステムだという事になる。
するとミニャールやマルセアもカイア型同様に、惑星ゼスタールに流れつくまでには、相当な時間、単純計算で二二〇〇年間は、コールドスリープのようなものを繰り返して生き延びていたことになるが、そこのところはニーラ曰く、
『マルチバース空間の繋がりは、時間軸も同一時間軸上に在るとは限らないので、我々の一〇〇年前が、別の世界の一〇〇〇〇年前であったりする可能性も充分考えられマスね。私達の宇宙での感覚で話すのは、あまり意味はないかも』
と言う。どっちにしろそんな人々が次元空間を超えて方方散り散りになるぐらいなのだから、あのヂラールの災厄はペルロード人にとっても筆舌に尽くしがたいものであったのだろうと容易に想像できる。
となるとペルロード人の末裔を語るスタインベックの先祖という人々も、相当な時代を遡った時に地球人と接触していなければ、スタインベックの話は成立しないとなるわけで……と月丘も思うが……
――それはともかく――
ヤルバーン自治国医療局管轄の大規模病院待合室で、約束の時間を待つ月丘。
そんなこと考え、思い出しながら待つわけであるが、それも束の間のコトで待ち人来る。プリルであった。
「おはようプリちゃん」
『おはよーですっ! でもふぁ~あ……』
「あれま、結構忙しそうみたいですね、プリちゃん」
ご存知の通り、プリルは月丘の嫁予定者なので、月丘のヤルバーン区の家と、プリルの秋葉原の家を転送装置で繋げて同棲中なのだが、今プリルはちょいと航空自衛隊百里基地に泊まり込みであったのだ。
その理由は、かの新型機動兵器『栄鷲』の運用方法をレクチャーするためである。
先日のボツワナ共和国でのプリル達の活躍は本土自衛隊も知るところであり、まあ言ってみれば君島重工製の純国産ティ連技術運用機動兵器である栄鷲は、本土自衛隊も運用したいところで調達を検討しているのだという。
陸海空万能のティ連技術系機動兵器だが、栄鷲は運用的には航空機のジャンルになるので、対象は今のところ航空自衛隊のみである。
米国のUSSTCと、空軍、海兵隊、海軍からもライセンス生産希望の打診を受けていて、日本政府と米国が交渉中である。
とまあそこらへんはさておき、そんなわけで結構忙しいプリルだが、プリルが連れてきているのはもう一人。それは勿論カイア10986型の別嬪さんアバターであった。
なんかプリルと手を繋いで仲が良さそうである。
「カイアさんもおはようございます」
『おはよう、ツキオカ』
「どうですか? 日本やヤルバーン関連の情報収集の方は」
『順調である。昨日はヤルバーン中央トーラルとのリンクが許可された。これで互いの情報データベースを任意に利用、情報交換が可能だ』
「では、我々も端末からカイアさんの蓄積した情報を閲覧することができるということですか?」
『肯定だ』
「それは素晴らしい」
『但し、セルメニア教の密教に関連する情報は閲覧が制限される』
「なるほど、わかりました」
と、そんな話をしていると、ニーラがやってきたようで、
『おはよーございまーす、みなさん』
「あ、おはようございますニーラ教授」
と諸氏挨拶。
さて、月丘達は今日ココへ何をしに来たかというと、昨日、やっとこさ覚醒したあのゲルベラールでの生存者二人へ、お見舞いとお初の挨拶と軽い事情聴取を行うためにやってきたのである。
だがまあ月丘は実のところ、元公安警察の山本チームの方がその手の任務には最適だと白木に朝言ったのだが、
「オメーが持ってきたんだから、オメーが責任持ってやってこい。んで手柄にでもしとけ、給料上がるぞ」
と言われたので、月丘がその手のヒューミントをやる事になった。まあ偏屈カイア型ですら懐柔することができた彼の、『人当たりの良さ能力』も見込んでの話でもある……ってかいや、給料は人事院が決めることで、白木班長が決めることじゃないんじゃ、と思う月丘。
ということでニーラに、まずは先んじて目を覚ました女性型、というか、女性のペルロード人、コードネーム“ハナコ”こと、『アルカーネ・ミョン・ヒェルビオ』の病室へ入る。
衛生カプセルのベッド上半身部が少し介護ベッドのように斜めになって、アルカーネは、おどおどした表情で看護師のディスカール人に、色々検査やら説明をされていた。容姿は美人さんではあるが、やはり六本の腕は目立つ。
無論、PVMCGの翻訳機能にはマルセアから提供されたペルロード語翻訳データベースも収録されているので、看護師達とも言葉は通じている。というか、アルカーネはそんな見も知らぬ異星人と母国語で流暢に会話ができている事に、ものすごく戸惑っているようである、まあそりゃそうだろう。
そこへ更に見知らぬ異星人が一種類追加だ。地球人で日本人の月丘だが、その背後にはカイアがいるわけで、アルカーネはその姿が目にとまると、
『あ、あなたはペルロード人! ね、ねえ! ここは、ここはどこ!?』
とすがるように手を伸ばしカイアに尋ねる。月丘達は眼中にないようだ。
カイアは月丘と顔を合わせて頷くと、
「えっと、アルカーネ・ミョン・ヒェルビオさん、落ち着いてください。私達は貴方の敵ではありません。あなた方をあの大型宇宙船から救出し、保護させていただきました」
『え? え?』
「まあこれでも飲んで気を楽にどうぞ」
月丘は清涼飲料のようなものをマグカップ一杯渡す。これはカイアからペルロード人が好んで飲むポピュラーな清涼飲料のレシピ、というか成分組成を聞いて、それをハイクァーンで造成したものだ。
『マルナだ。はあ、お、おいしい……』
知った味というものは、体が安心感を覚える。所謂『オカンの味噌汁効果』というやつだ。
「良かった。あ、自己紹介が遅れました。私はあなた方をお助けした、ティエルクマスカ星間共和連合構成国、連合日本の情報省職員、月丘和輝と申します。この女性は、私の相方で、プリル・リズ・シャーです」
『プリルですっ。ディスカール人っていう種族です。チキュー人さんとよく似てますけど、お耳の長さがちょっと違うから見分けが付きますよ』
「そして、この水色お肌の女性が、あなたを蘇生させたイゼイラ人という種族の科学者、二―ラ・ダーズ・メムル先生です」
『ご気分はいかがですかぁ? もうかなりの時間って、そんじょそこらの時間じゃないぐらい生体機能停止措置してたみたいですから、ホント心配したんですよぉ』
で、月丘は一対の手で腕を組み、もう一対の腕は腰に当て、もう一対は後ろ手に組んで休めの格好をしている御方に平手を指して、
「で、この方はあなたもよく知っている方です」
『よく……知っている?』
「ええ、あなたが乗っていた超大型宇宙船の中央システム、カイア10986型さんですよ」
その言葉を聞いて、アルカーネは『どええええええ???』という表情を見せ、まだよく動かない体を無理に動かしてベッドから降りようとする。その無茶な行動を「いやいやいや!」と制止する月丘、プリルにニーラ。
「い、いやどうしたんですかっ!? 落ちついて、落ち着いて」
『な、何を! この方は第三教階層のベルアのトーラル、カイア様って! で、でもどうして私達と同じようなお姿を!』
何か必死で跪こうとするアルカーネをなんとか医療カプセルのベッドへ戻そうとするが、いかんせんアルカーネも六本の腕をつかってカプセルから降りようとするのでなかなかこれがうまい具合に抑え込めず、
「カ、カイアさん、貴方からもなんとか言ってくださいよっ!」
『了解した。アルカーネよ、委細を説明するので、落ちつきなさい』
カイアはトーラルシステムらしく、何事も動じぬような落ち着いた声色で……というか、ある意味、システムらしい無機質な調子でアルカーネに話す。
アルカーネもその落ち着いた雰囲気のカイアに、普通ならひざまづいて頭を垂れるところを月丘達に戻された衛生カプセルのベッドで頭を垂れて、胸に手を当てカイアの話を聞く。
カイアは自分達が月丘らに発見されるまでの話を、システムらしく時系列を丁寧に遡ってアルカーネに語る。
その話の中で、アルカーネは仲間達がことごとく宇宙船のパワー不足で息絶えていく説明に涙していた。流石にそのくだりはそれまでの情報として、懇切丁寧に月丘やプリルも聞いていないので、月丘も沈痛な表情になり、プリルももらい泣きしていた。
『じ、じゃぁ、あの第二次次元跳躍をしていなければ、まだみんなも……』
『かもしれないが、最高階層のトーラル・セルメニアにヨツイ化された者達から追撃される可能性もあった。そうなれば我々宇宙船の人員もヨツイ化して応戦しなければならない。そう考えれば、リスクという点では同程度だっただろう』
『そう……ですか……』
『だが、アルカーネよ。お前にはまだ朗報もある』
『え?』
『ジェルダム・ヌタ・ガークラは生存している。このタザリア達に確保され、保護されている』
『えっ!! ジェルが!?』
どうやらアルカーネとジェルダムという男性体は知り合いのようだが……っと、そんな会話をしていた刹那、
『きゃーーーー!!』
という悲鳴と同時に、ガラス系の物体が割れ、金物が勢いよく落ちる音がする。擬音で言えば、ドンガラガッシャンというヤツだ。
『君! 落ち着きなさい!』『警備を呼べ! 早く!』
と、そんな医師達の声が廊下に響く。
月丘やプリルも何事かと思い、
『アルカーネさん、カイアさん、ここで待っててください。なんなんだ一体!』
『ここ病院よっ、て暴れるような患者サンなんかイないと思うけどっ』
プリルの言う通りで、ティ連の病院は、本当に人が少ない。そもそも病気になるヤツが少ないので、こんな病院にいる患者は、大怪我して再生手術を待つ患者か、相当に妙な未知の病気をもらってきたヤツぐらいなものなのだ。むしろ最近は日本人や、許可をもらった地球での外国人重症疾患患者の方が、ティ連人より入院している人数が多いぐらいだ。
月丘にプリルはアルカーネの病室を飛び出て、モメている声がする場所へと走る。
最近制定された情報省特別法の特種司法警察員資格の権限で、いつも腰に差している柏木からもらった実物版のインフィニティ月丘カスタムを引き抜き、病室を飛び出す。
プリ子はお気に入りの、旧日本軍南部銃製造所製の九四式拳銃プリルカスタムをポーチから取り出し、月丘に続く。
ちなみにプリちゃんの九四式は、この銃特有の不良部分をプリルがいじくって全部解消しているカスタム品である。グリップの形状がお気に入りらしい。
『動くなっ! 抵抗しないほうが……って、まさか!』
『撃っちゃイマスよ……ってあらら……』
銃を構え、警備員の代わりに狼藉を働くモノに対峙する月丘だが、その犯人の姿に怯んでしまった。
『あ、あなたは!』
『う、動くな! チッ……クソっ!』
ガラス系の何かを割った破片で、人質のパーミラ人女性看護師の喉元にそれを突き立て、別の腕は、何かをへし折った跡の鉄パイプ状のものを二本の腕で持ち、また別の腕で、人質のパーミラ人看護師の体を盾にして拘束している。
だが、体がまだうまく動かないようだ……その人物は、そう、かの男性体ペルロード人のジェルダム・ヌタ・ガークラであった。
その六本の腕をいかんなく使った人質を取りながらも攻撃態勢をとる戦法は、まさに鉄壁であった。
それもそのはずで、先の通り月丘達の事前情報では、彼は僧兵だという話を聞いていたので、軍の軍人と同等の戦闘力アリと踏んだ。
(クッ、そりゃそうだよな……目覚めたらこんな訳わかんない種族がいっぱいいるわけだしなぁ)
と月丘もディスカール星で同じような経験があるだけに……
「わかった、わかりました。落ち着いて、ね、ジェルダム・ヌタ・ガークラさん」
と、咄嗟に抜いたインフィニティを床に置く。
『!? な、なんで俺の名を……って、言葉が通じている?』
「PVMCGのおかげですよ。あなた達の文明でも同じような物があるんじゃないですか? 我々もトーラル文明の影響を受けている種族ですから。ま、とにかくその種族さんを解放してあげてください」
すると、プリルも、
『そ、そうだよっ! アルカーネさんも生きてるんだから、そんな事やっちゃダメだよっ!』
そのプリルの言葉に(プリちゃんナイス!)と思う月丘。先程のカイア達の会話で、アルカーネと、ジェルダムは知人同士と理解できたからだ。
で、プリルも九四式を床に置くと、ジェルダムがプリルの言葉に反応して、
『あ、アルカーネだと!? 今アルカーネと言ったか! お前!』
と、驚愕の表情をするジェルダムだが、月丘が説得しようと話しかけるより前に、背後から
『その通りだ、ジェルダム・ヌタ・ガークラ。アルカーネ・ミョン・ヒェルビオは生存し、今ここにいる』
自らと同じ容姿の六本腕の女性体、カイアを見て、更に驚くジェルダム。
『お、お前は!?』
『私は、移民船ゲルベラールの中枢システムにして、第三教階層の統括システム、カイア10986だ』
その言葉に目を見開くジェルダム。
『カイア10986……教階層猊下だと!』
『セルメニアの名において命ずる。其の者を解放し……とりあえず落ちつくのだ。この者たちはお前に危害を加えるような事はない。むしろ我々を救助してくれたタザリア達だ。その行為を仇で返してはならない』
だがジェルダムはまだその言葉を信用できないようで、
『ならば猊下に問う……俺の知っている猊下は、トーラルの祭壇そのものであり、そんな俺達のような容姿で顕現されたことは一度も見たことがない。ベルア猊下と一緒にいらっしゃるところもだ。なぜそんな御姿をしておられる?』
『お前の疑問ももっともだ。この姿は、ここにいるタザリアと、ナヨ・ヘイル・カセリアと仰るレミ・セルメニアから提供された、タザリア文明の技術を借りた姿だ。所謂、アバターというものだ。お前の言う通り、祭壇となるメインシステムは別にある』
『い、今なんと... ... レミ・セルメニアがいらっしゃるなんて……』
『しかも、タザリアのな』
『!!』
しばし俯き、何か考えるジェルダムであったが、彼は手に持った武器をすべて捨て、人質を手放す。
人質となっていたパーミラ人は逃げることなく、崩れ落ちるように跪くジェルダムに、なんと寄り添い、看護師の任を全うしようとしている。誠に天晴である。
それでも遠巻きに警戒していた警備員がジェルダムを拘束しようと彼に駆け寄ると、
「ああ、ちょっと待って待って、待ってください。彼は少し混乱してただけですから、ここは私に、あいや、情報省に免じて、ね、私が全責任を持ちますから」
と、ヤルバーン国警備員をなんとか説得する。プリルも『まぁまぁ』と警備員を説得しているようだ。
で、プリルは跪くジェルダムをじーーーっと見て、唇に人差し指当てて、何か思い返し、かつ、何やら思いついたのか、
『ケラー、ジェルダム、ちょっとまっててねっ!』
と言ってピュンっとアルカーネの病室に戻る。
そのままアルカーネが起き上がっている状態の衛生カプセルを、介護ベッドを押すようにジェルダムのいる場所まで突いてきて、
『ケラー・ジェルダム、ケラー・アルカーネだよっ』
と、二人を対面させた。
『ジェ、ジェル!?』
『ア、アルか!?』
アルカーネは衛生カプセルから飛び降りんばかりに複数の腕をジェルダムに伸ばし、ジェルダムも力なく跪く姿から、アルカーネの姿を見るやいなや生気を取り戻して彼女の元へ駆け寄ると……
『ああ、ジェル! ジェル!』
『アル! よくぞ!』
がっしりと抱き合って互いの名を呼び続け、涙する二人。
それを見るプリルは月丘に、
『やっぱりな~、そう思ったんだ~』
「いやー、プリちゃん、なかなかの殊勲賞ですねぇ。フリュの勘ってのですか?」
『いえいえ、ちゃあ~んとした状況分析だよん』
プリルはカイアがジェルダムの生存を知らせた時、彼女が『ジェルが?』と愛称で呼んだ事と、アルカーネがいることを知ったときのジェルダムの反応をみて、多分そうだろうなぁ~と思ったそうな。
と、そんな抱き合う二人は、頬すり合わせ、互いの生存を愛おしく確認するように離れない。まあここで横槍入れるのはヂラールに蹴られて死んでまえ、みたいな野暮なので、しばらくほったらかしておこうと。
「でカイアさん、ちょっとご質問が」
『何か』
「ゲルベラールの時から私達の事をタザリアの芥とかですね、で、今でも私達の事をタザリアと呼んだり、貴方自身もタザリアになるとか仰ったりと……そのタザリアってどういう意味なんですか?」
月丘は以前その意味を、ヒンドゥー教にみられる不可触民であるアチュートのような意味だと思っていたのだが、
『お前たちから提供された言語データベースに照らし合わせると、「異教徒」という言葉の意味が近い』
「ああ、そういう意味でしたか! まあ確かにそう言われればそうですが、でもカイアさんもタザリアになるということは? 異教徒というわけではないのでしょ?」
『セルメニア教の教えを、今は「棚に上げている」状態だ』
「あ~、そういう定義か。なるほどね」
だがカイアに『タザリアの芥』と月丘達は言われたわけで、まあ直訳すれば『異教徒のクソ野郎』という意味かと思うと、ちょっとムカっともくるわけだが、同時に吹き出しそうにもなったり。
(地球のどっかの厳格な一神教信者あたりに言ったら、カンカンになって怒るんだろうなぁ)
と妄想する月丘さんであった。
* *
そんなこんなで、無事に蘇生したペルロード人男女二人。
カイアから教えてっもらった情報では、別次元における時空間の相対的な時間格差があるにせよ、彼ら主観の時間では、地球時間に直すと三〇〇〇年近く放浪していたのだそうだ。
ゲルベラール移民宇宙船がその間まともに稼働していたのは、なんと一〇年ほどで、その大半は、かの宇宙船の中のヂラールが世代を重ね、普通のペルロード人は、コールドスリープ状態で息絶えていったという感じなのだそうだ。
そこはなんとも悲しい話だが、それでもジェルダムとアルカーネが生存していたのはペルロード人の今後にとって、明るい材料であるのは確かである。
彼らとて言ってみれば犠牲者なのである。ヂラール化もそうせざるを得ない状況になってしまった結果であり、その手段であったのだろう。
だが問題なのは、ヂラール化などという方法をとろうと判断した、彼らを束ねるインフラ制御の最上級システムであろうトーラルである。しかも宗教教義基準で事が運んでしまってただけに余計にタチが悪い。
まったくかなわん話だが、それでもこの事実が知れ渡っている今のティ連や地球世界である。当然『いつか来たる日』のための安全保障体制も、国際連邦―国連規模で進められている。
そこはティ連や地球世界だけの話ではないので、その被害を受けた国、即ちグロウム帝国に、現在の新生ゼスタール連邦、ハイラ王国連合にモフモフのガルムア人達も色々と協力を申し出てくれている。
さて、そんな地球世界において、その安全保障体制を指導していかなければならないのは、当然ティ連加盟国の中でも地球に主権を持つ連合日本国なのだが、現在日本政府は少々困った状況にあった。
それはここまでずっと続いてきた自保党政権の支持率低下である。
その原因となる国内問題は、ティ連技術の取り扱いに関してである。即ちここにきてティ連技術の取り扱いに民と官、そして世界との間で歪が顕著に出てきたのである。
言い方を変えれば、そんな問題も出てくるタイミングになった時代だ、という事でもあろうか。
というのも、ヤルバーンと接触があって、日本が連合に加盟して、かれこれもう一〇年以上の年月が経つのだが、その間色々とティ連技術の一部が日本の民間に公開されて、それらを利用した商品も開発されたりもしているのである。
ダイレクトなティ連技術の日本国民への普及というものは一〇年前から進みはしたが、それでも『劇的に』というほどでもなかった。
譬えばPVMCGは日本国民にとってヤルバーン国の国民と行政上なんらかの関係がないとまだ入手できない代物だし、東京都ヤルバーン区に住むには、色々と資格検査を受けないと居住権を獲得できない等々。
現在はティ連から何か特別な制限をかけられているわけでもなく、この手の制限は日本国が主体的にそういった『規制』というカタチで運用しているのだが、そこは日本の悪い慣習で、毎度の事の後手後手である。そしてマスコミはもっと前向きな報道をすればいいのに報道資格試験制度ができた今でも、政府の情報に関しては、ポピュリズムを誘導するような報道を巧妙にやらかして手前達がなんとか斜陽メディアから脱却しようともがいてる有様である。
更に野党からは最近、『国連規模でティ連に加盟するべきだ』と、かつて連立を組んでいた公正党が音頭取って野党有志連合でそんな会派を作ってリベラル化してきたり、国民は国民で、一部のメディア音痴な年齢層は、そんな左派メディアの報道にやられて意味も分からず批判に回ったりと、やはり日本特有の長期政権故の歪と脇の甘さがここにきて色々と噴出し始めていたりするわけなのである。
そしてかのインベスターが、国際連邦化へ世界を誘導するために暗躍した結果、その変化に逆らって悪い方向へ政変が起こった国々からの難民が日本に入ってきている。その地球世界での外国人難民がティ連系住民とトラブルを起こすことが多発してきているのも問題となってきている。
もちろんトラブルメーカーは難民を『称する連中』の方である。特定の国家を持たない民族が、高級外車乗り回しながら難民を称するパターンだが、そういった難民が、ティ連人からPVMCGを奪うことを試みたりと、無知に基づく犯罪が多発しているわけで……
当然、承知の通りPVMCG、所謂ゼルクォートは盗むことなどできないわけだが、そういうことを知らない難民の犯罪が後をたたなくなってきている。
ティ連人相手にそんな暴挙をかますのも相当無謀なのだが、まあ……『無知』なんだろうとしか言えないのだ。
そんな外国人だけではなく、国内でも悩みの種は尽きない。その悩みには、毎度定番の『政治汚職』というのもポツポツ見え始めている。
現在、自保党にはティ連系の議員も何人かいるので、そんな中で政治汚職が発覚するというのも、なんとも情けない話である……これも貨幣経済故の事で、そもそも貨幣経済社会ではないティ連銀河内の主権では、『利権による政治汚職』というものが発生しようがないのである。
ティ連人議員から見れば、『なぜにそんな事を起こすのだ?』と純粋な疑問の対象以外の何物でもないのだが……
で、そうなると、野党にもティ連系の国会議員がいるのか? というと、実はいないのだ。
ティ連人からみれば、自保党といえば、柏木であり、フェルである。即ちこの二人の元に馳せ参じたいという志の議員が全てであり、そもそもこの二人を批判する勢力側につくという事がありえないのである。
勿論、野党側からもティ連人に野党から議員立候補の打診がなかったわけではない。いや、むしろ今でも頻繁にスカウト攻勢はあるのだが、ティ連において『創造主候補』である柏木とフェルに対抗しようなどというのがティ連人からすれば先の通りありえない事でもあるし、そしてやはり野党のリベラル思考というものが、宇宙規模の国際関係を体現してきている彼らからすればこれまたあえりえない話も多いので、野党側のティ連人議員というものはいまだに実現していない。
そんなティ連人系議員の偏りも、自保党の責任だ、という声もでてきているわけで、そんな世相も自保党の支持率低下の原因の一つにもなっていたりする。
* *
「……と、そんなところもあって、まあなんといいますか、もう一〇年以上あの時から経て、その熱も日常と一体化してしまえば、これもまた新たな我が国の、普通の日常になったのだといえばそれまでの話なのですが」
と、話すは、現在の内閣総理大臣、井ノ崎修二。総理就任期間は現時点で三年目に入っている。
「なるほど。三島先生も今は引退して、二藤部総理、じゃなかった、大臣も情報省大臣になって、事実上ティ連関係の仕事に重きをおいてしまってるので、地球世界の政治の舞台にはここ最近関与してませんものね」
とこれまた話すは、ティエルクマスカ連合防衛総省長官の柏木真人閣下。
というワケで、柏木は本日、井ノ崎に呼ばれて首相官邸で会談中なのであった。
といっても柏木も自保党員なので、ま、天下のティ連防衛総省長官閣下様でも、そんな要請があれば、応じて差し上げるのが筋というものである。
でも、もう彼もティ連史、そして地球史に残る教科書級の活躍をしている御仁であるからして、党の対応も重鎮クラスと同等といったところである。
そういう柏木も以前の突撃バカはもう卒業……してはいないのだが……そこは落ち着いて、オッサンに磨きがかかった風格も出ている御仁となっているわけであった。
「ところで柏木先生、実のところ不勉強で申し訳ないのですが、ティ連防衛総省長官の任期って、正確にはいつまでなのですか? 確か地球時間で一期約三年と私は聞いていますが」
「任期ですか……えっと、私が今この役職についているのも、確かあのオペレーション WTFCのあと、すぐの頃でしたっけ。衆議院議員クビになって」
「いや、クビだなんてそんな、ははは」
と、おどけて話す柏木。井ノ崎もつられて笑う。
「いやもうなんだかんだで結構な期間やってますね。二藤部大臣の次に、春日先生で、井ノ崎総理ですから」
「で、結局どのぐらいの期間なんですか?」
「はい、実は防衛総省長官の任期って、ないんですよ。ま、ぶちゃけていうと、ティ連議長が解任するか、私が辞任するかしない限り、終身らしいんですけどね」
「そうなんですか!」
その話を聞いて驚く井ノ崎。
「あーいや、ですけど暗黙のルールみたいなのがあって、そのみなさんがお聞きになっている三年というのは、大体みんなその地球時間で約三年か四年という期間で後任選んでやめちゃうらしいんですよ」
実はそういう暗黙のルールみたいなのがあるそうなのである。柏木の前任も三年半ぐらいで、柏木を後任に推薦して辞めたそうだ。
その理由は、ティ連防衛総省が最初にできた頃は、まあとにかく銀河規模の組織を回さなければいけないわ、人員が足りないわで激務だったそうで、各種族の文化習慣、家族関係等々で、大体みんな三年ぐらいで変わってくれ、と、そんなスパンでこの役職を回していたそうで、その名残で大体三年から四年ぐらいで自ら辞任するというのがマナーになっているんだそうな。
「なので、私なんかグロウム帝国の一件や、ゼスタールの一件なんかと、なんせ次々と事案が連発してふりかかってきましたんで、なんだかんだこの仕事やってますけど、確かに結構長いですね、私の場合。そろそろ後任選ばないと顰蹙かいそうな感じなんですよ」
と言いつつ、実のところサイヴァルなんかは『ずっとやってていいよ』ってな態度だったという話。これはこれで困りものではある。
まあそれはそれとして、実は柏木の任期の長さは、結構防衛総省内でも有名だったりする。でも、いかんせんフリンゼ・フェルの婿で、創造主候補で隠れ賢者の柏木というのもありーの、先の『案件』で、活躍した実績もありーの、親しみやすいというのもあって、最長在任期間更新してくれってな感じで省内では普通に認められていたりするわけで、他国からもなにかクレームが在るわけでなし、現連合議長のサイヴァルもそんな感じで別に何も言ってこないので、なんかズルズルやってるわけなのであるんだが……
「なるほど、そういう理由があるのですか……うーむ……」
「どうしました? 総理」
「いや実は今日、この席を設けさせていただいたのは、折り入って先生にお願いがあってですね」
「ふむ、まあそういう感じのお呼び出しなんじゃないかな? とは思ってましたので。で、何でしょう、何でも仰ってください」
「フェルフェリア先生、あいや、奥方様からは何もまだ聞いていらっしゃいませんか?」
「ええ、何も……とはいえ、そう言われますと、まあ……はは、ウチの嫁はなんか隠し事があるときは、妙に言動が不自然になるところがありますから、ま、そう言われればそんな感じもあったかなぁ。と……という事はフェルも知っているお話ですか?」
「はい、というか真っ先に相談させていただいたわけでして」
二藤部の同志とも言われた井ノ崎である。物事は二藤部ばりにはっきり言う方の彼が、ちょっと回りくどそうな、そんな感じなので、少々訝しがる柏木なわけだが、井ノ崎は意を決して、柏木にあるお願い、というか要請をした。
「柏木先生、もし可能であれば、防衛総省長官を辞任していただいて、日本の国政に復帰していただけないかと、そういうお願いをさせていただきたいわけですが」
「ええっ!?」
唐突なお願いにびっくらこく柏木。とはいえ彼ももう年季の入った宇宙規模の政治家であるわけで、一〇年前みたいな『どえええええええええええっ!???』みたいな事はないのではあるが、その唐突な要請と、その前に話していた雑談の内容を察するに、まあ予想できない話ではないとも思えるわけで……
「……もしかして、さっきの雑談の話に関する事ですか? 自保党の支持率とか」
「正直に言えばそれもありますけど、そこは大して重要な話ではありません」
「といいますと?」
「抽象的な言い方をするなら、今の自保党や、日本の国政にしっかりした軸がほしいと、そういったところでして」
「はあ、軸、ですか……」
井ノ崎が言うには、現在自保党の支持率が低下しているのは先の通りである。
国民には二藤部の次ぐらいに人気があった井ノ崎でも、今では随分下がったという話だ。だが、井ノ崎はそれ自体は問題ではないという。
「さっきも言いましたけど、結局この状況に慣れてしまった今の日本人なんですよ、柏木先生」
「今の、この銀河連合化した日本が、もう普通になってしまったと?」
そういうことだ。
幕末から文明開花で明治に入り、大正時代に入るころにはすっかり西洋文化を取り込んだ日本は、それで普通になってしまった。この国の最大の特徴である。
現在の日本は、その独特の国民エートス、それがまた発動してしまっているのだ。
「……ヂラールが……私も詳しくは知らないのですが、グロウム帝国事案のきっかけとなった、太陽系のすぐ近くでヂラールが発見されて交戦になった。この事実は国連で今でも重大な事件として議論されています」
「ヂラールの地球襲来の懸念、といったところですか?」
「ええそうです。ですがこの地球上で、いや我が国日本を含めてもまだこんな宇宙規模の安全保障に、柔軟に対応し、決断できる地球人はそうそういません。ですから我が党でもフェルフェリア先生以外の、ティ連系日本人の方々を議員として登用して対応しているのです」
「ふむふむ」
「で、私は今、『柔軟に決断できる地球人はそうそういません』と言いましたが、もちろん例外があります」
そう言われれば、柏木も、
「はは、それは私ですか?」
井ノ崎も笑って、
「その通り。連合防衛総省長官を長年やって、ティ連のトップとも親友で、宇宙規模の軍事作戦の指揮を取った……まあそんな人材、この地球で貴方しかいませんな。ははは」
まあ確かにその通りだが、そこで疑問を持つ柏木で、
「なるほど、理由はわかりましたけど、まあ私が国政に復帰するにしても、選挙に通らないと……それに国政に戻って、どんな役職で何をするんですか? そこは聞いておかないと、防衛総省長官を辞めるにしても、きちんとした理由がありませんとね……」
井ノ崎は、コーヒーを飲みながら、柏木からその言葉が出るのを待っていたようで、
「柏木先生、実は来月、私は衆議院を解散しようと思っています。そして次の内閣総理大臣には立候補しません。今期で終わろうと思っています」
「ええ!? そんな……えらい急な話ですね。で、辞めるって……支持率も下がってるとはいえ、まだ四〇パーセント前後、いや少し切ったぐらいですよね? 充分普通じゃないですか、もったいない!」
「いえ……あー、まあ詳しい話は後ほどしますが、はっきりと結論を先に言ってしまいますと……柏木先生、次の内閣総理大臣の職には、貴方に就いてもらいたのです。これは各会派の総意ですよ、先生」
と……さすがにこの言葉に柏木も……
「………………は? ………………」
となるが、井ノ崎も柏木とは長い付き合いだ。そんな一〇年前には連発していた彼の反応にも慣れたもんで、
「ティ連の安全保障のトップを今現在やっている貴方が、日本の内閣総理大臣ぐらいで、今更驚かれる事もないでしょう」
「いや、井ノ崎先生、何言ってるんですか! 日本も今やティ連の加盟国ですよ。そのトップって……って、先生はどうするんですか、そんあこといて」
ちょっと呂律が回っていない柏木。
「私は一兵卒に戻るだけです。まあ、先生に何か閣僚職をお願いされたら、喜んでお引き受けしますよ。あ、二藤部大臣は、『情報省大臣継続で宜しく』って言ってましたけど」
「二藤部センセぇ……はぁ……で、フェルは、あー、知ってるんですよねぇ?」
「そりゃ副総理ですから。あ、三島先生が『夫婦揃って総理副総理って、日本初の国民に認められた夫婦トップになるぞこりゃ、がはは』とか言ってましたけど」
三島のモノマネしてそんなことぬかす井ノ崎。
「はぁ……で、サイヴァル連合議長には……」
「いえ、まだ言っていません」
柏木は井ノ崎の目を見ると、『言ってますよん』と書いてあるのがわかる。実際、実はもうサイヴァルにも言ってたりする。
サイヴァルは、柏木の判断に全部任せると言ってくれたようで、井ノ崎にニヤニヤと笑っていたようだ……また面白くなるぞと。
柏木がアタマをボリボリ掻いていると、井ノ崎はなぜこういう判断になったのかを話す。
「柏木先生にこんな話をさせていただくのも、はは、まあサプライズや支持率釣り上げ、というのも理由としてないわけではありませんが、まあその程度の理由でティ連の防衛総省長官の座を降りてくれ、なんて言うはずもないわけでしてね」
「はは、まあそうでしょうね。本当にそんな理由だったら私引きますよ」
「ええ……で、本当のところですが、ティ連の世論調査で、これまた一〇年前の出来事が復活してきそうなところなのですが……次のティ連盟約主権国家選定選挙に、また我が国が有力候補に上がってきているのですよ」
「ああ! それですか。ええ、私も話には聞いています。で、最新の順位は?」
そう、かつて日本がティ連に加盟したその年に、ティ連の一定期間の司法・行政・立法・軍事を全加盟国へ指導する立場になる『盟約主権国家』の候補に、第三位で上がってきたことがあるのだ。
まあこの盟約主権国家五カ国の内、二カ国は持ち回りなので、いづれは日本にも順番は回ってくるのだが、選挙で選出の三カ国に入るというのは、やはりハクと格が違ってくる。
イゼイラはもう現在連続でこの国家に選出されている鉄板で、二位三位をまあ大体ディスカールかパーミラ、ドゥランテにユーン連邦にダストールあたりが接戦するわけなのだが、前回の選挙で、日本は第三位に付けて主権国家入り確実だったのを、二藤部達が『さすがに新入り国家ホヤホヤでそれはキツイっす』と降りたことで、その期の選挙には繰り上げ第三位でダストールが選ばれた事があった。
だが日本もあれから一〇年以上経ち、来年にその盟約主権国家選定選挙がある期になるわけなのだが、なんと今回の下馬評では、日本が一位と二位でイゼイラと競り合っているという驚愕の事実がティ連の世論調査で確認できている。
「えええっ!? マジですか!」
「はい、マジです。で、ですね……まあもう、これで言いたいことおわかりになるでしょう? ははは」
まあ皆まで言うなというやつだ。つまりもし、まかり間違って一位で、あいや、二位でもスゴイのだが、そんな順位で当選してしまった日にゃ、今の自保党の連中が、盟約主権国家、つまりティ連のトップファイブに入って、ティ連の運営を任されることになるわけで、更にそこから今後ティ連議長も選出される可能性もある。
となると、ティ連系日本人の議員を少なからず抱えている今の日本とはいえ、トップは井ノ崎ですら、ちょいと務まるかどうかわからないし、二藤部を帰り咲かせるにも年齢的にそろそろシビアだというのもある。
フェルを総理大臣に据える案も出たのだが、その時に、
『んじゃ、ワタクシよりもマサトサンの方がいいんじゃないデスか?』
とフェルに言われて、自保党の連中が思い出したように「ああそうか!」と手を打った、という次第だったのだ。
いかんせん柏木は防衛総省の長官で、政治家というよりは役人に近い役職だったので、日本がどうこうできるという発想がなかったようである。
確かに柏木なら、盟約主権国家・日本国の代表にふさわしいと思う人は大勢いるだろう。それどころか、今の『柏木真人』であれば、その期の盟約主権国家の顔にすらなりえると誰でも思うだろう。
と、まあそういうことなので……
「はぁ……なるほど……仰りたいことはわかりました。では三~四日ほど時間をもらえますか? フェルとも話し合いたいし、サイヴァル議長とも話さなきゃいけませんしね。あと今の職を辞めるにしても、後任を指名したほうがいいようなルールもあるみたいですし」
「わかりました。いいお返事をお待ちしてます、柏木先生」
とはいえ、お返事はもう決まっているようなものみたいではあるが……
* *
宇宙船ゲルベラールの生き残りである、ジェルダム・ヌタ・ガークラと、アルカーネ・ミョン・ヒェルビオ。
あの病院のひと騒動から三日ほど経った日の事……
二人はあれから随分と体の調子も復調し、実時間で言えば三〇〇〇年近くも仮死状態にあったとは思えないほどの回復をみせていた。
ニーラ大先生の話では、やはりトーラルシステムであるカイアの状態が極限状態にあったとはいえ、ギリギリで二人の状態を守り続けていた事が大きいらしい。流石は経験値の高いトーラルシステムである。
ということで、この二人は恋人同士ということがわかったわけで、まあそういう事がわかってしまうと、二人を別々に置いておくというのも酷な話なので、病室間の移動は自由、監視も最低限度にしてプライベートを極力守るようにしていた。
まあこの二人に関しては月丘とプリルに一任されているので月丘も警備にはくれぐれも……と言っている。
で、回復してきているとはいえ、まだ体力がついていかない状態なので、二人はまだこの病院に入院中なのではあるが、病院のスタッフや入院中の患者とも随分打ち解けあってきたようで、この状況を一番警戒していたジェルダムも、随分と穏やかな表情を見せるようになっていた。
だが、まあ……なんというか……暇があればロビーでアルカーネと一緒にいるようで、そこはお構いなく、というところではあるのだが……
「こんにちは、ジェルダムさん、アルカーネさん」
『こんにちはですっ!』
二人を見舞いに来た……というわけではないのだが、まあ見舞いということにして病院にやってきた月丘とプリル。そして、
『回復状態が著しく僥倖である、ジェルダム、そしてアルカーネ』
三人が姿を表すと、ジェルダムとアルカーネはサッと跪いて一礼する。
「あぁそんな。楽にしてください」
と恐縮する月丘とプリルだが、
『いや、先日はこの病院の方々にも迷惑をかけた。申し訳なく思っている』
とジェルダム。物言いは流石元僧兵という聖職だけあって、礼儀は心得た人物のようである。
『私の方からも色々とお世話になったようで、皆様方には御礼を申し上げます』
とアルカーネも同じくと言ったところ。それでもここまで恐縮されるのもやりにくいので、
「いえいえ、まあとりあえず足腰にも差し障りますから、座ってください」
『もう私達はお友達なんだから、ね?』
とプリ子の明るく可愛らしい態度も相まって、二人も笑顔で気を楽にする。
「しかし、こちらでも色々とカイアさんのデータなどを閲覧させていただきましたが、私達の主観から見れば、あなた方は三〇〇〇年前ぐらいの方という事になります。信じられないですが。この地球の文明から見れば、私達の星がちょうど都市国家文明を作り始めた頃ぐらいですからね」
そう月丘が話すと、アルカーネとジェルダムは俯いてしまい、月丘の話に返答することができなかった。それもそうだろう、彼ら自身もまさか三〇〇〇年間も眠りに就かされるとは思わなかったからだ。
だが月丘が思うのは、ゼスタールの騒動が八〇〇年前で、ジェルダム達の騒動が三〇〇〇年も前、惑星エルミナスの件が、大体一〇〇年前で、グロウム帝国にペルロード人が神のようにやってきたのが数万年ぐらい前だとすると、文明というものは、これ案外長く続くものだと、そんな事も思ったりする。
『もー、カズキサン! そんな鬱な話から始めてどーすんのっ!』
「あっ、ゴメン! 申し訳ない!」
するとカイアが、
『二人とも、今の現実を早々に把握することが、これから生きていくには重要なことだ。言い換えればこのような状況でお前達が生きていられるのも、セルメニアが与えたもうたトーラルの恩恵である。その点を認識せよ』
まあ確かにそういう考え方できるか、と思う月丘。ジェルダム達も頷いている。
「とにかく、過ぎたことは仕方ありません。カイアさんの仰る通り、今は今後の事を考えましょう」
とはいえ、三〇〇〇年の空白の後の今後であるからして、まあ尋常じゃないのは確かだが。
「で、今日はお二人ともご回復早々で恐縮なのですが……」
と、月丘は顔の前で平手を申し訳なさそうにかざすと、ジェルダムが
『聴取ですね』
「あ、はい。ご理解が早くて助かります」
『いや、実は私達も「トーラルの腕輪」……あなた方の言葉で言うゼルクォートやPVMCGと呼ばれるものをいただき、使わせてもらったのだが』
『トーラルの腕輪』とは、えらくマンマな名前だが、まあわかりやすい。で、ジェルダムやアルカーネは、PVMVGでここ二日ほど、カイアの指導を受けながら状況を把握する教育を受けていたという。で、現在の自分達が置かれている状況と、それに至る経緯は大体把握したと。
『我が聖教国の災難が、次元を超えて諸々の宇宙に、その災厄が飛び火していたなんて……』
するとプリルが、
『でもね、お二人も、あいや、あのゲルべラールに乗っていた人達も、その災厄が大き過ぎたから脱出したんでしょ?』
『ああ、確かにそうだが、月並みな言い方をすれば、「まさかここまで事が大き
くなるなんて」という事だ……聞く限りでは次元を股にかけて何千年もの問題になっているみたいだけどな』
ジェルダムは少々諦め気味の表情で笑うと、
『だがあなた方はすごいな。資料では、ここ数周期間で起こったバフールヨツイセルメニアルトの襲来を何回も退けている』
「ま、色々とそういうことに長けた人材、政治家なんかもいましてね。それと、ティ連と言う国家連合の軍事力が、かなりのものという事もありますけど」
『みたいだな』
この会話で、とりあえずは互いの危機を認識し合えたとして、
『では、今から少々お時間をいただきまして、色々とあなた方の事をお聞かせいただければと思います。お辛いことを思い出させてしまうかもしれませんが、その際はご遠慮なく言ってください。我々も無理な尋問のようなことは致しませんので』
さて、ジェルダムにアルカーネ。
生き証人の二人の話は、どのようなものになるのだろうか。




