【第一二章・スケールⅣ ー終ー】第七五話 『命のカタチ』
惑星ペルロードにあるとされる、ペルドリア聖教国という異星文明国家。
今のティ連諸国や連合日本国には未知の主権だが、数年前の惑星サルカスでの戦争以降、ヂラールとの会敵によって、その存在だけは徐々に解明、認知されるようになった。だがそれでもこの勢力の本質をティ連や地球社会はまだまだ理解できていないに等しいのが現状であった。
それは兎にも角にも『現物証拠』がないために、全てが間接証拠で研究しなければならないわけであって、やはりそこは月丘達が確保した、かの謎の宇宙移民船ゲルベラールで発見した『カイア10986型』というトーラルシステムと、男女一組の生きたペルロード人の確保は、この勢力を今以上に理解するための確実なファクターとなるのは間違いない成果であった。
確保した二人のペルロード人は、生体機能停止措置という一種の仮死状態になっている状態なので、まだ蘇生にはしばらく時間がかかるという話。
この処置に当たっているのはニーラにシビアとネメアだが、やはり全く未知の種族の生体構造は慎重になってしまうということで、その仕事もゆっくり確実に、といったものだった。
で、もう一方の生き証人、というか、システムハードウェアであるカイア10986型は、トーラルシステムに共通の形状である、中枢部ともいえる中央システムタワー部を人型機動戦艦コウズシマの巨大なマニュピレーター腕部によって引っこ抜く……というか、引きちぎって持ってきたという都合上、まあその修復にはヤルバーン科学局と、泣く子も黙るヤル研スタッフが全身全霊をかけて、かのタリア博士がもたらした『時空間遡上再現技術』をも駆使して、なんとなくペルロード意匠でありながら、日本の工業デザイン的感覚も混じって、ヤル研が思う好きなデザインエッセンスも加えた『Oh,no! ミス、カイア』となりそうな、すっかりヤル研技術設計部の玩具……敬意を持った研究素材となり、見た目も風味も変わって復旧した。
そして……
『……私は、トーラルシステム・カイア10986型である。セルメニアの意思による稼働をアズマウター1定量周期において行っている。それはペルローディアンに託された第三教階層であり、以下の階層を制する……』
人の瞳のように組み上げられた小さなVMCモニターを、ゲルベラールに鎮座していた時以上に、綺麗に生成するカイア10986。
見るからにゲルベラールで稼働していた頃より調子が良さそうである。まあそりゃパワーも安定供給されているわけであるからして、ゲルベラールの時に比べたら雲泥の差の環境にいるわけだから、当然といえば当然である。
で、その『真実の瞳』っぽいデザインで構成されたVMCモニター群。
恐らくペルロード人の宗教的概念や、儀式的意味合いも含めてこのようなVMCモニターの群れを生成しているのだと思うが、その瞳状のモニターは、周囲を見回すように動いて、何かを観察しているようでもあった。
『自己診断開始……私は移民船ゲルベラールから、未知の強大な機動兵器によって中枢部のみ取り外された事までは記録にある。現在、私は別文明による技術の干渉によって再起動させられていることも自覚している。これら本件について回答可能な者との対話を求める』
カイアは、起動後この言葉を何回も繰り返し発している。
やはり高度なトーラル人工知能、いや、人工頭脳システムと思わされるのは、このシステムは、マルセアやナヨのような『人格』というものはないにしろ、自律思考能力で、回答を出力する性能は人間以上に行えるマシンだ。
電源入れて、システムが単純に起ちあがって、何か入力されるまではハイ、待機状態、という訳にはいかないといったところだろうか。
「ん~……やはりここは私が出ていった方がいいですね」
『カズキサンが行くなら、ほい私も』
と月丘とプリルはシールドされた安全区画から出ようとるするが、
「ちょい待ち、ちょい待ちいな月丘さん、プリルさん、まだどんな感じのシステムに仕上がってるか全く未知数でっせ。もう少し様子を見たほうがよろしいんちゃいまっか?」と高田。
『ソウですよ、なんせ生物をヂラール化させる波動を放ってくるという話じゃないでスか。だからこのシールドルームに居るのに』とクディス主任。
だが、月丘には、今『自己診断』と称して同じことを繰り返し話すカイア型が、なんだか不安感にとらわれているんじゃないか、というような気がして、ちょっと可哀想にも思えてきたわけであって、
「……まあそんなところもあるので、顔見知りが話した方が、彼女も嬉しいでしょ」
『タザリアちゃんだけど、私達』
と、月丘。ちょっとおどけてタザリアをネタにするプリル。
ということで、シールドルームから出て、新生カイア10986との対話を試みる月丘とプリル。
やはりヤル研がちょっとでも絡んだ技術成果というものは、なんかね、もうね、オーノーなそんな雰囲気も醸し出す感じな場所になっているわけでありまして……
「やあ、おはようございますカイアさん、ご気分はいかがですか?」
『……』
「っと、再起動したばかりですもんね。私を覚えていらっしゃいますか?」
と、気さくに手を上げてカイアの前に姿を晒す月丘。
『私もいるよ、カイア~』と手をふるプリル。
『…………』と、二人の姿を観察するように、瞳状の双方向な映像データのやり取りもできるVMCモニター群を月丘達に向けて、その一つ一つのモニターにデータを表示させる。すると……
『ニホンジン、ツキオカ・カズキ、及びディスカール人・プリ子と称されていた女性体と確認』
「はぁ……覚えててくれましたか。良かった」
『あ~、なんでカズキサンだけ名前覚えてて、私は“プリ子”なのっ! ひどい!』
「いや、プリちゃん、あの時、確かフルネーム名乗ったの私だけだったでしょ」
『え? そうだっけ』
と、ちょっとカイアの反応を窺うためにも二人しておどけた会話をしてみせる。すると……
『ゲルベラールのヨツイセルメニアルト(ヂラール)を御するために、私はゲルベラールとの最終処理を決定したはずである。何故私のシステムを回収し、再生させたのか答えよ、ツキオカ・カズキ』
「カイアさん、あの時の貴方の決意には私も敬意を表します。その気持ちは変わりません」
そう、彼女が自決行為を決断したとき、皆してカイアに対して敬礼をした。まあその決断を横からかっさらっていったのは、コウズシマ艦長のログマのオッサンだったわけだが。
「……あの時、私達の人型機動戦艦があなたを回収したのも、今私達がお預かりしている男女のペルロード人の事もありますので、色々あなたの知識を拝借したいところもありまして、ああいう行為を取らせていただきました」
『カイア、色々あったけどサ、最後は私達お友達になれたじゃん。みすみすあんなところで死んじゃうなんて、そんなのダメだよ。あのペルロードの二人の面倒もみてあげなきゃ』
そういうと、カイアは少し考えるような間を置き、
『私が、あのペルロード人二人を守護する立場にあるのはその通りである……今考えると、あの時、お前たちの戦力でも、あの“バフールヨツイセルメニアルト”を御する事は可能ではあった。だが私にも信者とゲルベラールを統括する責任をシステムとして持っている……それらの総合的選択である』
「ば、バフーる? なんですかそれは」
『お前たちの言う、“マスター・ヂラール”という分類のものだ』
なるほどと。で、
「まあその……あなたのトーラルシステムとしての処理、というか、お考えは尊重しますが、まあこういう状況になったのも私達の勝手からです。そこは勘弁して下さい。それに、後ほど詳しくは資料等を提供しますが、実のところ宇宙では私達の言うヂラールの脅威に晒されている文明が結構あります。あなたも人々の良心を司る国家宗教の一端を担うシステムなら、私達ティ連、そして日本政府にお力をおかしいただけませんか? お願い致します」
ここは相手はたかがシステムだと下に見ず、知性があるものとして月丘は頭を垂れる。
『カイア、お願いだよう』
プリルも掌を組んで、嘆願のポーズ。
だが意外にもカイアの回答は素早く、
『二人の要請は理解した。認証する。現時点より、セルメニア教第三教階層の位階に基づく私のシステムレベルの順位は放棄する』
「え? それってどういう意味ですか?」
『私も自らをタザリアに降格させる。現状ではセルメニア教を司る立場にあることは、あまり意味をなさない状況にあると判断した』
つまり、まあもうここに至ってセルメニア教の教えが意味をなさない状況なので、とりあえずそこんところは棚に上げる、といった感じだろう。
この言葉に月丘もプリルも笑顔になる。
「良かった! ではこれからも宜しくお願いしますよ」
『宜しくだよっ! カイア!』
なんとなく瞳状に集まる小さなVMCモニター群は、穏やかに見えた。
* *
さて、月丘達がカイアと再会を果たしたしばし後、場所は変わって、ヤルバーン自治国医療局。
日本で言うところの厚生労働省にあたる部署の一部門になるわけだが、ここは単にお役所というだけではなく、ヤルバーン自治国における医療研究の中心としても稼働している。
そこで蘇生作業をしているのはニーラ教授率いる医療チーム。
ニーラ大先生は、いろんな学問に精通しているが、一部医療技術に知識がかぶる学問もあるため、日本で言う医師免許も持っている。でもまあ本格的な医師ほどはベテランではないので、そこは現在『合議体』という職種を変幻自在に変更できる独立合議体のシビアとネメアで、医療合議体を構成してニーラをサポートしていた。
『ニーラ教授、対象のペルロード人“タロウ”と“ハナコ”のバイタルデータが一般的な生体恒常値と思われる範囲まで安定してきました』
ニーラの部下である研究員が彼女に報告する。ニーラも安保委員会の会議から帰ってきての事なので、早速いろいろVMCボードとにらめっこしていた。
シビアは……ネメアの作業を合議体リンクしていたので、ネメアと同じ作業ポテンシャルを維持している。いやはやスール・ゼスさんは流石である。
で、ちなみに“タロウ”と“ハナコ”というのは、あのペルロード人カップルのコードネームである。まあこれは安保委員会が勝手に付けたコードネームだ。
実はこの二人の氏名は既にわかっている。ここはカイア型からゲルベラールでの出来事の際、情報を得ていたためだが、ペルロード人の名前は、“ミニャール・メリテ・ミーヴィ”という名に見られるように、ちょいと覚えにくい名前が多いみたいで、この二人もそんな系統の氏名であったために、今は作業の便宜上タロウとハナコで呼んでいる。
『でも流石はケラー・ツキオカとプリルチャンですね』
ちなみにプリルとニーラは同世代だ。今のニーラよりもプリルの方が若干若く見えるのは、ディカール人の寿命のせい。ディスカール人の寿命は、300年ほどある、長寿種族なのである。
『ツキオカ生体のコミニュケーション能力は特筆すべきものがある』と作業パネルを操作しながらそういうはシビア。
『肯定。能力的には一部カシワギ生体に匹敵すると評価する』とネメア。
『確かに、ケラー・ツキオカ見てたら、昔のふぁーだ・カシワギに似ているトコロありますもんね~』
『我々はカシワギ生体の過去についてはデータでしか知らないが、ニーラ生体は付き合いが長いのか?』
シビアがニーラに尋ねると、
『うん。もうかれこれジュウネン以上ですね~。あのシレイラ号事件や、亜空間回廊での戦いの時も大変だったんですよぉ、シビアお姉サマ、ネメアお姉サマ』
まあ会話の相手が、かつての『ガーグデーラ』であるからして、口を尖らせて、そんな嫌味混じりな事も言ってみるニーラだが、これを言うと反応するはネメアで、
『シレイラ号? ふむ、あの貨客船での調査案件か、古い話だな。あの時、私とシビアはあの船に擬態して乗っていた。なるほど、これもお前達の言う「因果」というものかもしれないな』
その話を聞いて『どえええええ~!?』となるニーラで、
『は!? あのシレイラ号にお姉サマ達、乗ってたのですか!?』
『うむ、乗客に偽装して搭乗していた。母艦、及びドーラの誘導任務を行っていた』とシビア。
頭抱えるニーラ。こんな時にあの事件の真相を聞かされるとはと……
そう、当時、シレイラ号乗客名簿に二人行方不明者がいた。その正体は? という事である。
『どうしたニーラ生体。バイタル値が若干異常値を示している』
『あ、大丈夫ですネメアお姉サマ、ハイ、あはは……』
本当にゼスタールと和解できて良かったと思うニーラ大明神であった。
『ところでニーラ生体、お前の部下の報告通り、この二人のペルロード生体のバイタル値は、かなり安定してきている』
『そうですねネメアお姉サマ。ファーダ・マルセア議長の提供してくれた、ペルロード人のバイタルデータベースが役に立ちましたね~』
『肯定。我々にとって未知の生体であるペルロード人だ。新陳代謝等の生体基本データがあれば、作業は格段に早く進む』
実際、当初、一ヶ月半ぐらいかかると言われていた例の二人の蘇生作業も、マルセアの封印データを開放して、彼女が何やら覚醒してしまったおかげで、あれから妙に作業がはかどり、投薬量の適正値などが諸々判明したおかげで、予想より早い蘇生が可能だろうと、そんな状況になっていたのである。
そんな事も考えながらでシビアが、
『ニーラ生体、現状のバイタル値の状態で今後のこの二人の様態を予想するに、そろそろ集中治療カプセルから出して、一般の病棟で対応しても良いのではないか?』
『うーん……どうなんっしょ。もう一度ファーダ・マルセアに相談してみよっかな』
と考えていると、ネメアが何かを受信したらしく、ピコンと頭部を反応させて、
『ニーラ生体、もうその必要はないかもしれないぞ』
『へ? どして?』
『ツキオカ生体が、例のカイア型トーラルの再起動と、制御に成功したようだ』
とネメアが言うとシビアも、
『うむ。我々も情報を共有した。カイア10986型トーラルシステムは、マルセア・カルバレータ型よりも蓄積されている情報量は上位だと聞いている。現状をツキオカ生体に話して、カイア型を使用できるように頼んでみる事を提案する』
『なるほど! そいつぁ名案ってヤツですね~。それいってみましょう!』
* *
「ほな、色々調査させてもらいますんで、少々お騒がせしますけど、今後ともよろしくおねがいします、カイアはん」
『認識、登録した。ヤルバーン自治国関係研究員タカダ・ヘイタ及び、クディス・ラム・リデート』
月丘はカイア型となんとかお友達関係を復活……というような制御に成功すると、高田達を呼び寄せ、更に待機していた他の研究員もゾロゾロと呼んでカイア型のチェックを始める。
『……ツキオカ・カズキ、質問がある』
「ハイ、何でしょう」
『タカダ・ヘイタの使うニホン語には、かなりのノイズが入る。私の修正機能を使っても補正できない。考えられる原因を考察せよ』
『え? あ、アハハ、ああそれはですね、あの人が使っている日本語は関西弁っていって、私の使っている標準的な日本語と違って、方言なんですよ。方言ってわかりますよね?』
『方言……統一言語が制定される以前に点在する地方変異言語……了解、理解した』
「日本語だけでもかなりの方言がありますから、後ほど参考になりそうな書物でもお持ちしましょうか?」
そういうと、プリルが、
『だよね。ワタシなんかあのツガルベンでお話された時、翻訳機壊れたのかとおもっちゃったもん』
「ですよね。このヤル研だけでも、日本のいろんな地方から来ている人もいますし、方言は外国語とは違いますからね」
『了解した。言語情報の提供を許可する』
とこんな感じで新生カイア10986型とのコミニュケーションを進める月丘とプリル。そして現在カイア型にも多くの研究員が群がって、色々とチェック作業をしている。
「色々と何かチェック作業があるそうで、少々お騒がせします。すみませんねカイアさん」
『現状のチェック作業の内容を教えよ』
「まあ要するに、ティ連や、地球の情報技術とペルロードの技術体系を若干強引にくっつけてしまっているのが現状ですから、いろいろと無理が出ていないか、そのあたりのチェックだそうですよ」
『理解した。作業状況を見守る』
VMCモニターで形成された瞳で周囲を見回すカイア。ちょっと大人な女性の音声できれいな日本語を話す彼女もかなり不思議なトーラルシステムである。
と、そんなところで皆して作業を行っていると……
『皆の者、作業ご苦労さまですね』
気品のある麗しき和音の響きがするお声が研究棟内に反響する。
月丘は「え?」と振り向き、入り口の方を見ると、なんとナヨさんが差し入れ持ってやってきたではないか。
「な、ナヨ閣下!?」
『大義です、ツキオカ。ほれ、差し入れですよ。皆して分けると良い』
なんとナヨさん両手に大きなアイスクリームの入ったレジ袋持って登場である。
服装は毎度の奈良か平安朝+イゼイラ風味の和イ折衷の装束だ。もうこのスタイル、イコール、ナヨさんで世間では通っている。
アイスの差し入れをスタッフに渡すと、ナヨ閣下の差し入れだということでみな感動し、「おお」と有り難く頂戴する。
「んじゃ、ちょっと小一時間ほど休憩にしまっか」
と高田。諸氏、思い思いのところでアイスの蓋をとって舐めてたり。
「どうもお気を使わせて申し訳ありませんナヨ閣下、で、今日は如何用なご用向きで?」
『そそそ、ソウです。ファーダほどのお人がまたなぜにこんなところに?』
月丘はそうでもないが、プリルはもう緊張しまくりである。
『その質問に答える前に~、ツキオカや。もう妾達は知った仲です。今更「閣下」もなかろう。プリ子もですよ』
さっきはカイア型にプリ子呼ばわりされて怒ってたのにナヨに言われたらとっても嬉しいプリル。
「は、まあ確かにそうですね。ではナヨさんということで」
『うむ』と笑って納得のナヨ閣下。
「で、単に差し入れでアイス持っていらっしゃっただけとは思えませんので、今日のご用向きは、カイアさんの方ということですね」
『左様です。なんだかんだ言って妾も今はトーラル由来の存在として、この世に再誕した身ゆえ、カイア10986なるトーラルシステムがどのようなものか、見ておきたいというのもあるし、また話してみたいと言うのもあります』
「なるほど」
と納得する月丘。まあそうだろうなと思う。
するとカイア型もナヨの存在に素早く反応し、瞳状VMCモニター群の視線をナヨの方へあわせて、
『ツキオカ・カズキ、そこにいるイゼイラ星人女性体は何者か答えよ』
「はは、早速ですか。ナヨさん、カイアさんのほうが先に貴方へ興味を持たれたみたいですよ」
『ホホホ、そうですか。では話が早いの……カイア10986型なるトーラルシステムよ、妾はナヨ・ヘイル・カセリアと申す者。見知りおくが良い』
『ナヨ・ヘイル・カセリア。登録した。だが、お前は何者か答えよ』
『ん? 何者とはどういう意味かえ?』
『形状、体内臓器の配置、構造はイゼイラ星人の形態をとっているが、あきらかにお前は有機生命体ではない。その理由を答えよ』
そのカイアの問いに、月丘とプリルにナヨは顔を合わせて「流石だね」とアイコンタクトをする。
『ふむ、よくわかりましたねカイアとやら。妾は所謂、もうこの世には本来存在しないはずの故人の遺志が形になった存在です。まあ、ユーレイとか残留思念とか、そういうものとは違いますけどね。これで妾が如何用な存在か、主に理解できますか?』
『推測……何がしらの故人を模した人工知能を搭載する仮想実態素体を持つアンドロイドと判断する』
『なるほど、そう認識しますか……ふむ……』
しばし考えるナヨ。といってもこのナヨが『考える』という行為も本来不思議な話であって、トーラルシステム一基分の人格であるナヨさんが、もしカイア型のような単なる自律思考システムであれば、すぐにでも回答がでてくるのが筋なのだが、やはり人格と感性があるがゆえのものなのだろうか、『考え込む』という行為も自然にしてしまうのがナヨの“存在”としてのスゴイところである。
『カイアよ、少しツキオカとプリ子を借りるぞ。……ツキオカ、プリ子、ちょっと近う』
「はあ、なんでしょう」
『ふみゅ?』
ナヨはカイアから少し離れて、ここに来た本当の理由を語る。
『実はな、先の会議で、高次元存在がトーラルを作って、キイチの言うた「ペルロード人が世に運んだ」、とかそんな話が出てきたであろ?』
「ええ、そうですね」『うん、ですね~』
『うむ。でな、カシワギやニーラの言うた、その「高次元存在」なる者が、大元のベースになるトーラルを作った存在ではないか? という考え方は、まあカシワギ達の推測を聞けば、そんな解釈も、普通にできるわな?』
「ですね」『ですです』
『でな、そこで妾の存在です……』
ナヨが言いたいのは、一〇年前の突如としたナヨの再誕と、ニューロンデータが意思をもった形でトーラルシステムの高度な自律思考機能と組み合わさり、ナヨクァラグヤ・ヘイル・サーミッサとして蘇った現象を、今まで『太古の超科学で作られた、トーラルシステムの謎機構』として納得してたわけであるが、ここにきて、まあ喩えるなら『メーカー代理店の技サポ係のカイア型』がいるというのであれば、自分の存在は、どういう理屈で成り立っているのか聞いてみたい……というのがあって、やってきたという話なのだそうだ。
「なるほど……そういう事でしたか」と月丘。
『確かに、第三階層とかいうおエライサンが使うトーラルシステムさんなら、何か知っている可能性はありますよね~』とプリル。
『実は妾が惑星ゼスタールにいた時、マルセアと茶なんぞを飲みながらその話をしたことがあったのだが、その時のマルセアは、まだプロテクトデータを沢山抱えておった頃じゃろ? だから普通に「わからない」という話で終わってたのだが、今彼女と話せば、どう応えるのだろうか、と思うての。ならまあここにマルセアよりも上位のトーラルがいると言う話であれば、少々問うても面白きかなと思うてな』
まあ確かにナヨの疑問も、もっともである。実際今のナヨの存在や、マルセアの存在を『トーラルの不思議システムの結果』でずっと終わらせておくにはいかないわけであって、イゼイラ本星でも、研究が行われているのである。といっても、全く成果が出ていないのであるが。
ティ連の科学をもってしても、ナヨやマルセアの存在、つまり『システムが人格を持つ』という状況は解明できていないのである。
「確かにそういう問いをカイアさんにしてみて、何かの成果が出れば、そこからペルロード人の情報や、そのセルメニアなる存在の解明、そしてトーラルシステムの意味など、いろんな事が見えてくるかもしれませんね」
『じゃろ?』
「わかりました……高田さーん、クディスさーん、ちょっと!」
月丘は、ナヨがカイアに会いに来た目的を話すと、
「なるほど! それはおもろそうな話ですな」
『エエ、そうですね。ファーダ・ナヨがこういうお姿でおわすのも、もう一〇ネン近くになりますし、もう今では完全にソウイウモノダ、と慣れてしまっている状況ですが、確かにファーダが再誕なされた原因を突き止めるというのも、今ではもうトーラル工学研究の一つの課題となっています』
『うむ、そういうことです。では、カイアとまた話をしてきます』
「では、データ取得の方はお願いします、高田さん、クディスさん」
月丘は、もしかするとどえらい情報が得られるかもしれないと、記録を取る体制を科学者達にお願いする。
『カイアよ、しばし待たせたな』
『……』
まあ基本、カイア型は、自律思考能力を持ってはいるが、基本はシステムである。
愛想は悪い。
『ということでじゃ、妾と月丘やプリ子との会話を聞いていたな?』
『肯定。お前が有機生命体でないこと、及び自律型アンドロイドであることは理解している。だが、それにしてはその身体容量と比較して、ヒトの感情模倣能力を精密に処理できるシステムを内包するには、私の知るシステム構成と比較してもお前は非常に小型で高性能である。お前のシステム構成を答えよ』
『フフフ、やはりそこに疑問をもつか、カイアよ。では答えてしんぜようか。妾はイゼイラ型のカスタムトーラルシステムとリンクする仮想生命体。即ち対外コミニュケーション用のアバターじゃ。そして妾はかつての故人と全く同じである人格と記憶と、感情を有しておる、まあ言うなれば写し身じゃな』
『!!……』
カイアは、ナヨの出自を教えられると、急に、そして明らかに活性化するような処理行動を見せる。
『お前は、自身を一個の知的生命体と同様の存在として認知、自覚しているのか?』
『うむ。しかも今は妾に惚れてくれた男と所帯ももっているぞよ。羨ましいか? オホホ』
瞳状のVMCモニターが、一つ一つ詳細なデータを呼び出し、カイアはナヨに、あの柏木や、田辺が浴びたスキャンレーザーを浴びせる。
月丘は咄嗟に銃を抜こうとするが、ナヨに平手で制され、その行為を受けてやるとカイアは、
『確かに、仮想物質による精巧にできたイゼイラ星人の生体の構造、生理機能を完全に再現し、模倣している。更に頭部脳幹部は、超小型のトーラルシステムを端末にしている事も確認した……ナヨ・ヘイル・カセリアに問う。お前が自身を個人の人格であると認知、自覚したのは何が原因か? 分析せよ』
『ふむ、分析せよとな……まあそれはある事件があってな、その解決方法が、妾自身が生前にかけた妾の脳ニューロンデータプロテクトを解くことであった。それを成した者がおったわけだが、其の時に、妾は妾の脳ニューロンデータを収めた専用のトーラルシステムと一体化して、このように一人の人格と人生の記憶を持つ個人として目覚めてしまった、という事なのだが……カイアよ、何か思い当たるフシがあるのでかえ?』
ナヨのその言葉にカイア型はさらに活性化して、何かバンバンとシステムの中で、自身のデータを漁っているようである。
『レミ・セルメニア……』
『ん?』
カイアがポソっとそんな一言を漏らす。これまた初めて聞く言葉だ。だがその一言を言った後、カイアは黙りこくってしまった。
「カイアさん? どうしました? 大丈夫ですか?」
『カイア、どこか壊れたの? 診てあげようか?』
何やら少しおかしいと思った月丘は、高田を呼んでシステムのチェックを頼む。
もしかすると、ナヨとの問答の最中に、無理からティ連と地球技術でくっつけてしまった弊害が出てきたのかもしれない。
すると……
『ツキオカ・カズキ。私は正常に稼働している。心配は無用だ』
「え? ……っと、は、はあ……』
数十分ほど何も反応しなかったカイアが急にまた反応をするので、狼狽する月丘以下諸氏。
『どうしたのかえ、カイアよ。先ほどは「レミ・セルメニア」なる謎言葉を言うてからにフリーズしおって。焦るではないですか』
「過去データを検索するために、処理を集中していた」
『で、何か思い当たるところでもあったのかえ?」
しばしカイアは間を開けた後、
『……ナヨ・ヘイル・カセリア様』
その急な一言に、皆して「え?」と目をむいてカイア型を見る。
「様? 今、様っていったよな」と月丘
『うん、言った。ケラーって言った』とプリ子
「確かに言いましたな。どういうこっちゃ?」と高田。
『あの言葉と関係があるのでしょうか?』とクディス。
するとナヨも今まで興味半分で問答していたのだが、平手でこれまた月丘達を御し、『まあ妾に任せよ』といった感じで、
『様とな。急に主から敬称でよばれるとは何事かと思いますよ。もしかすると、クディスが申した“レミ・セルメニア”なる言葉と関係があるのですか?』
『はい、其のとおりです。ナヨ・ヘイル・カセリア様』
『ああ、フルネームで呼ばれるのも少々面倒くさい。ナヨだけで良い』
『畏まりました、ナヨ様』
『うむ……まあ何にせよ、急に妾を敬称で呼ぶぐらいであるから、妾の存在が、何か主のデータベースででも、思うところが出た、といったところかえ?』
ナヨがそう問うと、躊躇なくカイア型は『はい』と応える。
で、ナヨがその“レミ・セルメニア”と自分がどういう関係性があるのか? と問うと、カイア型は今まで地球での『ナヨの認識』とはまったく違った解釈の言葉を口にする。
それはナヨにとって、驚愕以外の何物でもない言葉であった。
『ナヨ様、あなたは先程自らを「写し身」と仰られましたね?』
『うむ、それがどうかしたのかえ?』
『なぜ、そう思われるのですか?』
意外な問いに表情を変えるナヨ。何が言いたいのだ? と……
でもまあ、そういう問いであるからして、ナヨは『あくまで自分はニューロンデータが意識を持った存在であるから、本物の故人とは別の存在だ』と告げる。
即ち、故人と限りなく同一で、限りなく別の存在であると。
『そうではありませんナヨ様』
『なに?』
『セルメニア教において、信徒がセルメニアへ至る、トーラルを介して行われる通過儀式をあなたは行い、その結果、今の「人格」がある貴方がそこにおわす、そういう理解をしてもらうと良いと存じます』
どういうことだ? と諸氏。そう理解しろと言われても、イマイチ理解ができない。
たまらず月丘が横から、
「では、今のあなたの口ぶりからすると、ナヨさんはその……オリジナルである故人のナヨさんの“写し身”ではなないと聞こえるのですが」
『その通りだ。その理解で良い、ツキオカ・カズキ』
月丘にはこんな元の口調で話すカイア。
だが、その回答に今、かなり狼狽しているのは、ナヨさんであった。
『ち、ちょっと待てカイアよ。なら、わ、妾は、まさか過去に死んだ妾本人そのものということ、あいや、生き返った本人ということなのかえ?』
するとカイアは、
『その回答は、正解の部分と不正解の部分が混在します。説明いたしましょう』
カイア型が説明するには、セルメニア教における、所謂『神』となるセルメニアに至る道、というのがあり、その過程において、自らの精神をトーラルシステムと融合させて、肉体を捨て、セルメニアの『預言者』となるための儀式があるそうだ。
だがその儀式は、神である『セルメニア』が設定したある条件を満たさないと、預言者にはなれないそうで、まあその条件もカイア型の位階では知らないのだという話。
そして晴れてトーラルシステムと一体化できた、ティ連や地球人の科学用語で言う『システム生命体』の事をセルメニア教では『レミ・セルメニア』これを訳すと、『セルメニアの預言者』という事になり、ワンランク生命体レベルがアップする存在になる、と、そんな事をカイア型は言うのであった。
カイアは話を続け、
『……私達はそのようにセルメニア教による宗教的解釈と理解で、レミ・セルメニアを尊い者として扱いますが、私も今はツキオカ・カズキとタザリアの立場として、セルメニア教とは一歩引いた立場を取ると約束したシステムゆえ、ティエルクマスカ連合や、地球人的な唯物論で言い換えると、あなたは故人の生き返り、ではなく、“同位体”としての存在として生まれ変わった、と解釈するほうが正しい理解かと思います。つまり、故人とは違う“別の可能性の貴方本人である”と考えたほうがよいでしょう』
そのカイア型の解説を聞いた刹那、プリルに高田、クディスは、
『そ、それってヤル研や、ニーラチャンが言ってた“仮説”と同じやつじゃん!』とプリル
『そ、ソウです! 確かイゼイラの研究者も同じような可能性を仮説で出していましたね』とクディス。
『そやそや、私もそんな話があるって、ツレから聞いたことあるわ』と高田。
そんなカイアの語りに、呆然とするナヨ、いや、ナヨクァラグヤ陛下。
『そ、そんな……』
「な、ナヨさん? しっかりしてください」と、ナヨを支える月丘。ちょっとへたり込んでしまいそうだったからだ。
そう……カイアの説明が事実なら、形態はどうあれナヨは『故人データを超正確に再生された複製で写し身の人格』などではなく、量子力学的な観点で言う、【並行同位体】つまり数あるマルチバースな可能性の一つの分岐した具現化であり、それは別の意味の『本人そのもの』なのである。
確かにそういう解釈であれば、今のナヨは『生き返り』ではない。が、分岐するということは分岐元があるわけであるから、その元を辿れば、それはあの『かぐや姫』のモデルこと、ナヨクァラグヤ・へイル・サーミッサ本人そのものに行き着くのである。
なんかナヨさん、カイア10986を冷やかしに来たつもりが、とんでもない事実を突きつけられて、目が浮ついてしまっている。
椅子に座らせてしばらくそっとする月丘。
しかしカイアさんは、またとんでもないことやらかしてくれたもんだと……
だがここでプリルがポロっと一言漏らす。
『んじゃさ、シビアチャンや、ネメアの存在って……』
* *
カイア10986型が放った、ナヨに向けての強烈な一言は、毎度無敵の陰陽師……元女帝で、遊び人のナヨさんをもってしても強烈な一言であったらしく、このラボの休憩室へ一人引きこもってしまった。しばらく一人にしてほしいと。
それはそうだ、トーラルシステムというハードウェアで意思が芽生え、それがナヨの人格がコピーされたものだとずっと思ってきて、まあそれでもそんな存在が故に気楽なもんだと、その自分を気に入っていたナヨが、まさか可能性の一派とはいえ、本物の一人だと言われてしまったら……
「……普通は戸惑うでしょうね」
とナヨの立場になって考えてみる月丘。
『でもでも、ナヨサマ、大丈夫かなぁ。ナヨサマのメイントーラルシステムがオーバーフローなんてしてないよね』
技術屋のプリルは、ナヨの本体がヤルバーンにあるカスタムメインシステムだということは知っているので、技術屋らしい心配をする。
「こればっかりはナヨさん自身の問題ですから、ナヨさん自身で心を整理するしかありませんよプリちゃん。でもまあ私が思うに、これはこれで素晴らしいことだと思うんですけどね」
『一〇〇〇ネン前のナヨサマが亡くなっていなかった、って事が? カズキサン』
「端的に言えばそういう事ですか。彼女はこれで、まあ言ってみれば一〇〇〇年間、トーラルに心を移して眠っていた、という解釈もできるわけですから。まあ自分の本意でこうなったかどうかはまた別の話ですけどね。あと……」
日本人としては、本物のかぐや姫がここにいるという点でも、その存在する意味が変わってくると、そう月丘は言う。
まあナヨが引きこもってしまったので、彼女が落ち着くまで月丘とプリルもお茶して待つ。カイア型は人格がないので体裁的な処理でナヨを心配していた。
いろいろ医療的におせっかいを焼こうとしていたようだが、月丘が『心の問題』を説いて、それを理解したカイア型も大人しくしているようだ。高田達はとりあえず通常作業に戻っている。
しばし後……
ナヨが休憩室から出てきた。背筋を伸ばして、見た感じは今まで通りのナヨだ。
「ナヨさん、お加減は如何ですか?」
『ナヨサマ、大丈夫ですか?』
ナヨは笑顔で、
『うむ、最初は少々戸惑いましたが、よくよく考えるとこれから何をしても妾の存在が変わるわけでなし、深く考えるのはやめました』
「そうですか。ですが、実際のところ、御身が所謂“写し身”でなく、可能性の中の“本人”の一つとなってしまえば、本人は本人です。老婆心ながら、色々面倒くさい事も出てくるでしょうね」
『まあその時はその時です。妾自身が何かと変わるわけではありませぬ……しっかし、あの時、妾のニューロンデータを移して、専用トーラルシステムと直結させた結果がこんな事になるとは……ますますこのシステムを作った連中は不可解よの。もしセルメニア教の教義が事実であれば、こんなとんでもないシステムを宇宙中にばらまいておる事になる。何を考えておるのじゃ、そのハイクルオスどもは』
と、そんな事をぼやくと、ナヨはプリルの方を見て、
『プリ子、そなた先程、この件でシビアとネメアはどうのとか申しておりましたね』
「あ、はい。シビアチャン達も、確か、不完全なトーラルシステムだった“レ・ゼスタ”っていう発掘トーラルシステムを使って、ヂラールの侵攻を回避するために、スールっていうのになっちゃったって話なので、何か関係があるのかなって」
『ふむ……カイアよ、今の話を聞いておりましたか?』
『はいナヨ様……プリ子、今の話の詳細を聞かせよ』
『うん……』
と、まあもう一般的に知られている、なぜにゼスタール人がスールという存在になったかという経緯をプリルは話すと、
『あのシビアとネメアという者はゲルベラールでのいざこざの際に記録を取った。あの二人は私も何か特殊なアンドロイドかとも思っていたが……ナヨ様のような、レミ・セルメニアでもなく、セルメニアでもない……そのような形態を私は知らない。非常に興味がある。データ収集のために、その個体との面会を再度要求する』
するとナヨが、
『面会というよりも、カイアから会いに行く事はできぬのかえ? 妾のような仮想生命素体のアバターなりをこしらえての』
するとカイア型は、
『畏まりました。ではナヨ様、先程サーチさせていただきました御身の構成を参考にさせていただきますが、ご容赦を』
というと、カイアは眩いレーザー光をナヨ達の側で放ち、3Dプリンターのように何かを形成していく……
すると、文明は違えど、一目見れば、何かの宗教的な装束、しかも高官のものとわかるような服装に身を包み、乳白色の肌に、きれいな装飾のような刺青状の模様を全身に持つ、あきらかに神官のような姿の六本腕の絶世の美女が、仮想生命素体としてそこに生成された。
一対の腕は、上に上げ、掌は天井を仰ぎ、一対は、横に広げ、一対は腰のあたりに置いている。
「うわ、すご……まるでリアル阿修羅観音様だ」と月丘。
『うむ、見事よの。天晴です』とナヨ。
『うわーきれー』とプリル。
その顕現を見ていた高田達も思わず見とれてしまう。
そして、完全に生成し終わると、カイア型の瞳状にあつまっていたVMCモニターは消え、すべての処理が、アバター素体に移行したようで、トーラルシステム自体の稼働の派手さはなくなる。
カイアは、ヒトの姿……というよりは、このようにペルロード人の姿で顕現したわけであるが、その姿まことに美麗なれど、カイア型からすれば、とりあえずこの姿になっただけの話であって、
『カイアよ、見事な姿ですね』とナヨも言うし、
『カイアちゃんきれー』とプリ子も掌を組んで見とれてるのだが、当のカイアは、
『ペルロード人の情報媒体に掲載されている、好意を持たれる容姿の平均値を再現している。お前たちの主観から見て、違和感はないか?』
と、まあペルロード人のそんな芸能媒体の姿から割り出した容姿という事で、まあ、美的感覚もペルロード人も、大方のティ連人も、地球人も、ほぼ同等だろうと、そんな結果が現在出たところである。
実際腕が六本というのも、これが容姿がおぞましく、夜中に襲ってきそうなインディーズゲームに出てくる化け物みたいなのと違って、ここまでの絶世の美女であれば、もう神々しいというところであって、逆にこの姿を地球人に見せるのは、ちょっと考えものだと、そんな事を月丘は思ってしまう。
『ほんに、妾も負けそうじゃの』と、美貌にはちょい自信があったナヨさんも納得するのだが、
「ナヨさん、でもこの姿をいきなり……」
と月丘は先の懸念をナヨに相談するが、
『よいではないかツキオカよ。あの“タロウ”と“ハナコ”も蘇生すれば、どのみちヤルバーンの住民に、これからはなるのですよ』
「はあ、まあ確かにそうですが……」
するとカイアも、
『ツキオカ・カズキ。私がこの形状で存在することに何か不都合があるのか? 不都合があるのなら、形状の計算をやり直す』
「ああ、いえいえ、そういうわけじゃありません……ま、いいですか」
これがペルロード人の本来の姿なのだから仕方ない、まあいいかと。
* *
というわけで、月丘はさっそくシビアとネメアに連絡を取って、ヤルバーン自治国の東京都ヤルバーン区側にある、情報省の会議室で落ち合うことにする。
んで、まあ会うのはシビアとネメアだけ、ってことで話をしていたのだが、アバターとはいえ、動くペルロード人の姿を見たいという野次馬根性で、仕事を一時的にほったらかして、ニーラ大先生や、白木に山本まで会議室に押しかけてきた。
「ありゃー、これは……ナンマンダブナンマンダブ」と思わずおがんでしまった山本。
「こりゃ拝みたくもなるわ……見事な容姿だな。まあ別に腕がどうのこうのというよりも、服装からして宗教色満載だぜ」と白木。
『ホント、東大の資料で見たブツゾウサンみたいですネ~、ナマダブナマダブ』とニーラも思わず拝んでしまう。
ってか、服装はどう見ても、どっちかっつーと、西洋ナイズされてるので、南無阿弥陀仏もどうかと思うが、と思う月丘。
『? 私を拝むのは構わないが、この惑星にセルメニア教が布教された記録が私にはない。理由が不明である。ツキオカ・カズキ、説明せよ』
「え? あ、ああそうですね、この星の一部の宗教に、貴方によく似た神像みたいなのがあるんですよ。我が連合日本国の国宝なのですけどね。あ、これはたまたまペルロード人と似ているって話で、あなた方とは関係ないと思いますよ、多分」
そこは自信がない月丘……と、まあそんな話はおいといて、少し遅れてシビアとネメアが入室してきた。で、これまた彼女ら二人も、その見事な容姿のカイアに、感情の起伏がイマイチ乏しいスールさんながら、少しのけぞって驚くわけで、
『ツキオカ生体、この生体……いや、違うな、カルバレータか?』
「はいそうですシビアさん、この方はあのカイアさんですよ」
『ふむ、カルバレータ素体とはいえ、動くペルロード人を見るのは、ミニャールの不完全なニューロンデータ・アバターぐらいだったからな』
『うむ、活性化された……すなわち「活きの良い」姿をみるのはこれが最初か』
ネメアも最近自覚してきた女性の誇るべき要素に、なかなか対抗できるカイアの容姿に、ちょっと対抗意識を感じてたり。
『で、ツキオカ生体。我々がスール化したことで、何か情報が欲しいという話だが、カイアが覚醒した件と何か関係があるのか?』
「はいシビアさん、実はカイアさんの持っている情報で、えらいことが判明してですね。それであなた方の“存在”の特殊性も色々今後も研究しなければならないのでは、という感じになってきてまして……」
『? そう言われても話が見えない。順を追って説明せよ。時間はある』
で、先のカイアの語ったナヨに関する話をシビアとネメアにする月丘。といっても月丘はそんな『量子論』の『多世界解釈』みたいな話を、科学的にも、哲学論的にも話せるわけがないので、そこは技術屋のプリルと、それを言った当の本人のカイアに説明をしてもらう。
すると、その話の内容に、シビアとネメアも流石に驚いたようで、
『では、ナヨ・カルバレータは、カイア・カルバレータの解釈と、我々の理論物理の概念で総合的に考えた場合、事の経緯や存在の立ち位置はどうあれ、その一〇〇〇ネン前に他界したと言われているナヨクァラグヤ帝本人だというのだな?』
とネメアが念を押すように話すと、シビアも、
『既知の事だが、我々はこういった情報を瞬時に同胞へ認知させることができる。今のカイア・カルバレータの話はもう既にスール・ゼスタール全体に知れ渡った。我々の代表である第一人格体、アルド・レムラーも認知したようだ。彼も驚いている事を共有している』
月丘はこのシビアの言葉に「あ、そうか!」と思った。そうである、スールさんはそういう感じでコミニュケーションを瞬時に取れるのだったと。
だがカイアもこの言葉へ即座に反応し、
『スール・ゼスタール人と称するこの者達の性質は、今の話だけで推察すると、かなり特殊だと認知する。ナヨ様とこの者達の特殊性と、どういう関係があるのか、教示せよツキオカ・カズキ』
「ああ、カイアさん、私のことも、もう月丘でいいですよ」
『了解した、ツキオカ』
「はは、で、そこなんですけっどぉ~……実は貴方に教えてほしいのは我々の方でして、っと、私も学者や技術者じゃないので……すみませんシビアさん、ネメアサン、私達があなた方とカイアさんを引き合わせた理由、もう大体おわかりになりますよね?」
この手の学のある説明が、どうも苦手な月丘。ここは偏った知識でハッタリをかませる柏木には及ばなかったか。
でシビアが答える。
『ああ、理解した。我々も“スール”化された時は、肉体を捨てた。いや、捨てざるを得なかった』
そしてネメアも、
『うむ、カイア・カルバレータの言が、ナヨ・カルバレータの存在を正しく説明していると確定するのであれば、ナヨと我々の共通点は、元の肉体がすでに存在しないという点だ……』
この話を起点に、シビアとネメアは、スール・ゼスタールがどういう経緯でこんな存在になったかをカイアに語る。そして、それがヂラールの襲撃が始まりだった事、更には、発掘トーラル・システムの半壊品であるレ・ゼスタ=トーラルを無理からに稼働させて、ゼスタールを人を救済させようとしたその結果が、本来の目的とは全く違った今の“スール”と呼ばれる、ナーシャ・エンデという彼らの世界と、カウサという端末の中でしか、その人工霊体が存在できないという、そんな彼女達の境遇をカイアに語ると……
『…………私のデータベースを参照したが、トーラルに関するセルメニア教の教義形態で、シビアとネメアのような形態での位階は認知されない。回答は不能だ』
「そうですか……ということだそうです、ナヨさん」
するとナヨは『期待外れ』という表情は見せずに、
『カイアよ、それは主が単にスールのような存在を知らぬと言うだけの話じゃよな?』
『はい、その通りでござますナヨ様。レミ・セルメニアと似てはいますが、我々の教義データには、この二人のような形態はみたことがありません。但し……』
『ん? どうしました? 何か思い当たることでもあるのかえ?』
『はい。セルメニア教の諸々関係なく、トーラルシステムとしてシビアとネメア、及びスールと称される者達の生態状況をデータとして調査してみたくはあります』
カイアは、やはり共通点が多く、また『人工霊体』なる電気的エネルギー体で存在するスールという生命体は、トーラルが成した結果であるというのであれば、同じトーラルシステムとして、その全容を把握したいと言うわけであるが、まあそこはカイアとスール・ゼスタールとの協議次第といったところか。
代表第一人格体のアルド・レムラーは、シビアとネメア曰く、カイアには好意的で、提案を評価すると意識共有したそうであるが。
但し、カイアはこうも言う。
『私は第三教階層のシステムであり、ペルロードの創生密教は、第二教界層ガロアしか知らず、我々第三教階層は信徒にガロアの語る神託を、信徒に解くベルアの補佐を主たる役割とする。従って、ガロアクラスの役職であれば、スールなる現象に関しても、何らかの神託があるのかもしれない』
と、またセルメニア用語が出てくるので月丘は、
『ガロア? ベルア? って、そりゃまたどういう意味ですか?』
『類似の意味を持つ用語として、お前たちの一部宗教用語で言えば、ガロアが「司教」ベルゼが「司祭、神父、牧師」という用語に近い』
なるほどと。
* *
その後、トーラルというシステムとはいえ、まあ今のカイアさんはアバターも持って外の世界を出歩くこともできるようになったわけで、トーラルシステムとしてもかなり高度な独立性を持っているペルロード型でもあるので、とりあえずはティ連の法制上として、『サポートドロイド』の扱いにするというヤルバーン自治国の決定が出た。その身請け組織は、なんと! 日本国防衛省のヤル研管轄となった。
ま、言ってみればヤル研の『メイドロボ』扱いで、人格はないけど、人権も一部制限付きではあるが、ティ連のアンドロイド運用の法制度を参考にして、そんな感じで扱われることになった。
ま、普段はヤル研研究員の仕事を手伝うのが主な仕事で、ヤル研も、
「ヤル研専属トーラルシステムができた! やたー!」
と喜んでいたそうだ。
で、普段は、あの『Oh! No!』な雰囲気の筐体の中に収まっているカイアさんだが、ヤル研民が、何かカイアにお手伝いを頼みに行くときは、皆してダブルな俳優みたいな感じで詣でに行くわけであるから……まあ、毎度の事で楽しい話である。
……確か、特危自衛隊にはリアッサが専属パイロットで運用していた、対大型ヂラール用の大型変形機動兵器もあったはずだが……と誰かが思うが、そこはまあアレである。今度コラボして遊ぼうか……高度な戦術を研究しようかと思うヤル研民達。
で、カイアには日本社会や、ヤルバーン―イゼイラ社会の慣熟もしてもらいたいので、ナヨや月丘にプリルが中心となって、ヤルバーン自治国の国内や、日本国内を散策がてら連れ回したりと、そんな日々をしばらく送る。
そうなると、まあやはり、あの乳白色の肌に、入れ墨のように走る身体の紋様、そしてあの六本腕は絶対的な強烈インパクトを誇るわけで、ティ連の異星人、そりゃ多種多様な形態形状を持っていらっしゃる方々もいるけど……デヌ閣下みたいなんとか……このヒューマノイド型で六本腕というのも相当インパクトはあるわけで、巣鴨のバーさんには、『阿修羅様』とかいうあだ名を付けられて拝まれるわ、マスコミの追っかけには会うわ……まあ本人はゴミぐらいにしか思ってないみたいだが……そりゃここ最近でも一番な異星人さんネタになってしまっているわけである。
先日も、渋谷に興味を持ったカイアがデータ収集に行きたいと言い出したので、月丘とプリルが付き合うと、まあそら、やいのやいのの大騒ぎになったわけだが……
『カズキサン! お腹すいたからカレーたべよっ!』
「そうですね、もうそんな時間ですか……カイアさんは、食事ってできます?」
『問題ない。信徒の栄養管理も私の仕事である。直接経口物を物理的に検査、調査することもあった。今は、ナヨ様の素体を元にアバター体を形成している状態なので、有機栄養物は経口した際に、原子分解してエネルギーに変換することができる』
「ナヨさんや、シビアさんにネメアさんと同じ理屈ですか。なるほど、では、ポポイチさんでいいですか? プリちゃん」
という感じでカイアも初カレーなんぞ。
ポポイチでも、いきなり六本腕の観音様みたいなのが入店してきたもんだから、そりゃお客さんみんな、のけぞってびっくらこく。でも店にはユーン人もいるのにソイツはどうなんだという意見もあるが、人間の“慣れ”というのはすごいものである。
んで、よくよく考えるともしかして人工頭脳とはいえシステムがカレーを喫飯なさるなんてのは、初めてのパターンでは? とも思うが……
『分析……栄養価は高い。味覚的には、かつてのセルファー地方の民族料理に似ている。但し香辛料の使用量が極めて多い』
「で、総合評価は如何ですか?」と月丘が尋ねると、
『ペルロード人の嗜好に関して言えば、恐らく問題はない……再調査のためにもう一食希望する』
結局お代わりしてるやんと、思わず吹きそうなる月丘とプリル。
カイア型もデータ収集にご熱心なようで、色々と月丘達に質問を浴びせるが、ま、今日はもう休暇扱いにしたので、三人で人型システム連れて教育実習というのも、また良き日常かな、という次第であった。
* *
さて、そんな日常がしばらく続いた後の幾ばくか日が過ぎた、ある日。
ヤルバーン医療局の一般病院に転院してきた、コードネーム“タロウ”と“ハナコ”
今は衛生カプセルで仮死状態から脱し、睡眠状態となっているが、ゲルベラールでのこの二人のストーリーを考えると、恐らく数千年単位ぶり、いや、下手をしたら万年単位ぶりの目覚めになるやもしれないと、そんな予想も及ぶ担当の医師たちである。
「……そう考えるとスゴイよな」と担当医師Aの日本人医師。
『デスネ、でも、彼らは我々の宇宙とは別次元の存在デスから、今この宇宙にいる限りは、目覚めたとてあまり時間の格差なんてのは、関係ないかもしれませんヨ』とイゼイラ人の担当医師B
「確かに、この二人にとっちゃ、イチからの人生やり直しになるかもしれないんだからなぁ……そう考えたら月丘さん達は、よくあのカイアっていうトーラルシステムを確保してくれたよ。この二人にとって唯一の、かつてのペルロードを知る存在なんだからな」
『ソウデスねぇ……』
と、そんな雑談をしながら二人をモニターしていると、急にけたたましく管理システムがコールする。
『あ、これは!』
「え? って、やっときたか!」
ハナコの病室に設置しているカメラを拡大する。
すると、彼女がうっすらと目を開けようとしていた……




