【第一二章・スケールⅣ】第七四話 『高次元存在』
パウル達が日本へ帰還した時より少し話を遡る……
場所は、惑星ゼスタール中央地下都市『ゼスタールダンクコロニー統括議長府』
惑星ゼスタールの地下にある、対ヂラール基幹防衛基地の役目も果たす巨大な地下空間都市に存在する、ゼスタール大戦終結までの約八〇〇年近い時間、この星を統括し続けたネイティブ・ゼスタール人の政治中枢である。
だが、当のこの惑星の住人約二十億余は星を脱出してシビア達のように人工霊体ともいうべき存在の“スール”といわれる者になって時空の狭間に潜み、知的生命体の防人となる一方、星に取り残された僅かなネイティブ・ゼスタール人達は、いずれ滅び去る運命を待つだけの状況だったのだが……
この惑星にやってきた、というよりは逃亡し、難民となってこの星に逃れてきたペルロード人女性、ミニャール・メリテ・ミーヴィと、この人物をサポートするトーラル型高性能人工知能システム。
これら二つの存在が、絶望的状況にあった時のネイティブ・ゼスタール人達を、希望をもって救う存在となるのであった。
だがそのミニャール・メリテ・ミーヴィも自らの運命には逆らうことができず、ペルロード人達が崇める最高位のトーラルシステムによって変異の烙印を刻まれた身であったために、月丘達が対峙した『カイア型トーラルシステム』の言う『ヨツイセルメニアルト化』即ち『ヂラール化』の兆候を見せ始めた。
彼女が守ってきたゼスタールの民を、自らが破滅させる事になるのを恐れたミニャールは、自分がヂラール化する前に自らその命を絶った。
その後長い時の流れの中、彼女が後を託し、ネイティブ・ゼスタール人達を守ってきたトーラル・システムに人格が芽生え、仮想生命体のアバターを使って、その名前や存在を変えながら長らくこの非常事態にあったネイティブ・ゼスタールを統括してきた存在。それが現在、自らを『マルセア・ハイドル』と名のり、ネイティブ・ゼスタール人国家の議長を務める女性人格のトーラルシステム・アバターである。
その素性は、彼女達を最初に助けたネイティブ・ゼスタール人達の間で秘中の秘とも言うべき秘密とされ、墓までその秘密を持って行ってしまったお陰で、今のネイティブ・ゼスタール人達はマルセアの正体を誰も知らない、それこそペルロード人ミニャールの連れてきた機械天使ともいえる、現在のゼスタールの根幹を成す存在であった。
……ということで今、そんな『彼女』と会談をするは、ティ連防衛総省空間軍提督にして、特危自衛隊海上宙間科、出向特将補の『パウル・ラズ・シャー』と、同じくパウルの副官、特危自衛隊海上宙間科の『高雄準也1等特佐』……まあ彼は今更いわずもがなの、パウルの大切な『春』である。
で、このゼスタールダンクコロニー統括議長府という場所は、表向き華やかな政治中枢のような建築様式ではあるが、マルセアの執務する部屋といわれている豪華な表向きの場所がある一方、その『裏』の場所は、立派なトーラル型システムがデンと構える中央演算区域のような場所となっている。ここはマルセアの許可がないものは何人たりとも立ち入り禁止、というか覗き見ることすらできない場所で、マルセア・ハイドルの『本体』だと知っているネイティブ・ゼスタール人は『今は』もういない。
ヂラールの襲撃から生き残るためだけに切磋琢磨してきた現在のゼスタール人にとって、そんな始まりとなる過去の歴史など記録する者がいるわけもなく、全てはマルセア自身が記録するのみの歴史となっており、当の現在のゼスタール政治家ですら、誰もそんなマルセアやミニャールの事情を知らないわけで、実のところマルセアの今一番の悩みが、そこなのであるという……
『そうですよね。あなた自身がこの星のゼスタールの人々を守ってきた歴史のような存在。私の母国にも大昔にあった概念の「カミサマ」みたいなものでしょうし』
とマルセアの語りに付き合うは、迎賓室でお茶飲みながらマルセアへ駐留部隊の交代で原隊復帰するために、別れの挨拶に来たパウルかんちょと高雄。
マルセアも一応はトーラル由来の人格なわけなので、スッキリスッパリと色々決められるかと思うが、『人格』というものが芽生えてしまうと、なんともこんな事に人並み、というか知的生命体並みに悩んでしまうので、今までにない感覚……というか処理データだと困惑すると語る。
『……そういうのもありまして、今の状況が落ち着いて、地上へ首都機能を移築して、民の皆が外の世界へ凱旋できるようになったら、私はすべてを国民に明かそうかと思っています』
そのマルセアの言葉にパウルは、
『ナヨ閣下はもう先だって私達の星に帰還しましたけど、ナヨ閣下にもそのお話は……』
『はい、お話させていただきました』
所謂、『存在』として一番近い同類で、親友となったのがナヨである。で、ナヨはなんと言ったかというと、
『閣下の今まで行ってきた事を鑑みれば、必ず良い結果が待っている事を保証する。というか、良い結果どころかカミサマに祭り上げられるかもしれないから、そこがむしろ心配だ』
と、ナヨ自身がこの世に再誕した時に、なんかしらんけどいつの間にか創造主に祭り上げられてきた経験を含めて、そんなアドバイスをしたという話なのだが、その話に高雄は、
「……神様……機械神ですか……まあそういうものとは違うとは思いますけど、確かにややこしい方向性に行ってしまう可能性はありますな」
『うーん……その点に関しては、スール・ゼスタールさんに協力をお願いして、マルセア議長のダミーな沿革作ってって方法もあるけど』
パウルの言うこの方法が確かに最も効果的だ。スール・ゼスさんにちょっと協力してもらって、彼らがネイティブの人々を守るために作ったものとか、そういう設定で、と、そんな感じでいっても良いのではと話すと、
『いえ、やはり事実をきちんとお話します』
とマルセアは言う。どのみちネイティブ・ゼスタールの社会が落ち着いて、ティ連に正式加盟した後のことを考えると、当然後の政体にはきちんとしたネイティブ・ゼスタール人や、ネイティブへ同化したスール・ゼスタール人が政治の中枢につくわけであろうし、そうなればマルセアはむしろ本来のトーラル・システムとしての行政や、生活インフラのサポートに本領を発揮して、この国が円滑に回っていける仕事をしなければならないわけだろうし。
まあそういう方針になってしまうわけで……と、そんな事を彼女は言う。つまり、きちんとこの星の将来を見越しているわけなのである。
『なるほど、そこまでは今考えられなかったわ。流石ですね議長』とパウル。
「確かに。ですがナヨ閣下もあれだけの存在ですけど、『遊び人のナヨさん』とかそんな言い方をして、市中を一般人に偽装して日本や、ヤルバーン自治国内を見回っているような方ですからね。まあそこはもう少し気楽に考えられてもよろしいのではないでしょうか」と高雄。
で、遊び人のナヨさんって何? と不思議そうな顔をするマルセア。
ま、今はゼル通信もあるので、その『遊び人』の意味や意義も含めて一度ナヨとじっくり相談したほうがいいと、パウルと高雄。
そんな話をしていると、PVMCGの通信システムがコールする。
というか、一応一国の議長との会談中に、こんな連絡を入れてくるなんて何事だと二人は思うのだが、いかんせん此度の会談はパウルと高雄の二人だけで来ていたので、サポートスタッフみたいなのを連れてきていない。なので直電で受けなければならないわけで……
『パウルよ。今会談中だけど、重要な用事かしら?』
とちょっと叱責気味で連絡をしてきた部下に応える。と同時にVMCモニターが空中に展開する。大きさとしては、二一インチモニターぐらいの大きさの窓が空中に浮かび、そこに映るは人型特重機動護衛艦やまとの通信スタッフだった。
『失礼しました艦長。そこは毎度艦長が仰られているとおりというわけではないですが、少々重大な情報が飛び込んできまして、急ぎご連絡させていただきました』
もちろんそのVMCモニターはマルセアも一緒に見ている。
パウルは常々重要な情報、連絡と思ったものは、相手が何をしていても構わないからぶっ込むようにと部下達に言い聞かせていた。特に此度はスタッフを連れていないわけで、直にパウルへ繋ぐしかない。これでつまんない情報だったらどうするんだろうと思う旦那の高雄。
『ふむ、そう、んじゃ聞きましょうか。席を替えた方がいい? マルセア閣下、申し訳ありませんが……』
と少し席を立とうとすると、通信員が、
『いえ、マルセア閣下も一緒に聞いていただいたほうがよいかもと思いまして、ご連絡させていただきました』
『閣下も?』と怪訝そうな表情で高雄と顔を見合わせると、マルセアも、『私もですか?』同じく怪訝顔となる。
『はい。今入った緊急電なのですが、先に帰投し、別任務に従事していた情報省の月丘二佐が、惑星イルナット宙域……現在は呼称変更されて惑星エルミナスとなっていますが……そこにおいて、ペルロード人の生存者の保護と、そのペルロード人が使用していたと思われるトーラル型システムを確保、回収に成功したということです』
その言葉にパウルと高雄は、
『なんですって! ホントなの!? ペルロード人の生存者? ヂラール化していない個体で? すごいじゃない!』
「それにペルロードのトーラル型システムなら、マルセア閣下にもご協力いただければ、マルセア閣下に封印蓄積されている数々の情報も……」
とそんな話に驚いているパウルと高雄。そこにマルセアが、
『すみません、そ、その話は本当なのですか?』
とモニター越しの通信員に尋ねると、
『は、確定情報です閣下』
『そ、そのペルロード人生存者の名前は?』
『申し訳ありません、まだそれはわかっていません。いかんせん生体機能停止措置の状態、つまり仮死状態で保護されたようで、現在絶対安静状態と聞いております。そして当地のスタッフが惑星チキュウに帰還次第、蘇生処置にはいるそうです』
少し目つきが鋭くなるマルセアだが、
『そうですか……では、その確保したというトーラル型システムの形式はわかりますか?』
『は、その件は判明しております。えっと……【カイア10986型】という形式を名乗ったそうです』
その言葉を聞いた瞬間、マルセアは急に立ち上がって震えだし、
『カ、カイア10986……第三階層のコアシステムクラス……ゲルベラール級移民船のコアシステムが……あ、あ、アアアアアア……』
『ぎ、議長!? どうしました?』
突如震えだし、なにか見えないものが大量に視界へ飛び込んだような表情をするマルセア。途端にアバター体の瞳が病的に動き出し、とてもではないが理知的な仮想生命素体の挙動ではなくなる。
それどころか体にノイズをまとい、なんだかホラー映画の様相を見せる彼女。
しばしそんな状態が続いた後、今度は急に安定状態になり……
『……ミニャール・メリテ・ミーヴィの命によるプロテクトシステムを、既存情報の暴露条件適合により、規定138から256までのバッファを開放します……』
今会話していた情緒溢れるマルセアとは打って変わって、急に普通のシステムアバターのようになって瞳孔をキョロキョロと素早く動かし、何か処理を始める彼女。
「パウル、なにかおかしい! 俺は外のスタッフを呼んでくる!」
『ちょっとまってジュンヤ! ネイティブさん呼んできたらだめよ!』
「確かメラニーさんと特危の技術者が何人かそこらへんにいたはずだ!」
『わかった。お願い! ……マルセア閣下! 議長! しっかりして!』
・
・
・
* *
さて、場所は戻って、更にパウル達が帰還した時より少々時間が進んだ今の日本。
場所は東京都ヤルバーン区にある情報省安保調査委員会会議室。
パウルと高雄から報告を受けた大見健 双葉基地司令は、急遽安保委員会の委員会議を開く事を幕僚本部に具申すると、その内容の概要を見た藤堂は、ちょいと出席者を絞って委員会を予備会議という形で開催する。
即ち本会議となると、与野党含む担当に、民間からの構成者も出席するので、藤堂は大見の報告を、緊急かつ機密性の高いものと判断したわけだ。まあこの委員の幹部クラスがその手の内容のすり合わせが必要となった場合、こういう小委員会議をやるのも安保調査委員会古参メンバーの技というヤツである。
そんなところで急遽『藤堂正道』特危幕僚長から出席を依頼されたのは、柏木の旦那に愛妻外務大臣兼副総理のフェルさん。報告者のパウルに高雄、大見に白木。ナヨ閣下に新見。で、ペルロード人蘇生作業で忙しい中ではあるが、ニーラ大先生とシビアにも来てもらっていた。
先の通り此度は現場連中でまず共通認識すり合わせの予備会議なので、主だった政治家に民間委員は来ていないが、二藤部や井ノ崎、連合議長のサイヴァルへの報告もあるので柏木とフェルには長官閣下と副総理という高位の政治家で、このメンバーでは毎度のベテランということもあって出席してもらっている。
会議冒頭、大見が有り体な会議開催挨拶の後、ま、ざっくばらんにという感じで、
「……ということで、どうもみなさん急な話になり申し訳ありません。今回の経緯なんですが、パウル提督と高雄君が私へ原隊復帰の報告をしていた際に、非常に重大な現状報告を行っていただきまして……え~……」
『カーシェル・オオミ、そこは私から話しましょうか? 当人が話した方がいいでしょ』
「そうですね。私への報告と同じ事をさせてしまって恐縮になりますが、それが一番わかり易いと思いますので、お願いできますか? 提督」
『まかせて、カーシェル』
そう言うとパウルへナヨが、
『パウルや、妾がこちらへ帰国するのと、主が帰還してきた間はそんなに空いてなかったと思いますが、あの短い間で、何か大事があったのですか?』
「そうなんですよ閣下。それもマルセア閣下に関することになりまして」
うまい具合にナヨが質問してくれたお陰で、マルセアの話題にすんなりはいっていけるパウル。これで話の前置きが少し端折れる。
『実は……』
パウルが双葉基地で報告した、彼女達の帰還直前と言ってもいい頃に発生した先の出来事。
月丘達が成果として成した、かのペルロード人の保護と、カイア10986型確保の報告。
これを聞いた瞬間に、マルセア突如、普通ではない状態に陥り、その後彼女が成したという……
『えっ? マルセア閣下の、あのミニャール・メリテ・ミーヴィによって施されていたという封印情報のプロテクトが!?』
と身を乗り出してパウルの話を聞く柏木。
『そうなの。それでね、マルセア閣下がおかしくなって、私達がアタフタした後、なんとかその状態が収まったのはいいんだけど……まあマルセア閣下自身には、特段何か異常な状態にはなってなかったんだけどね、でも何かそのヘンテコリンなプロテクト解除の処理みたいな状態になってから、妙に賢者モードみたいな感じになってしまって……』
うんうんと頷く諸氏。で、パウルは、
『その、なんていうか……憑き物が取れたみたいな状態になったマルセア議長から出た言葉が、私達ティ連や、チキュウ人に対して、【セルメニアの知識を使う人々】という変な言葉を言いだして』
とパウルの言葉を、パウルの目を見て顎に手を置き聞く柏木。ナヨも同じような感じ。
『……色々と何か話してくれるのだけど、今まで聞いたことのない単語が続出でちんぷんかんぷんだったのよ。まあいきなりの事だったので、事の途中からで申し訳ないんだけど、なんとか一応そのあたりは録画することができたのですけどね……』
と、パウルの持つ地球製のスマホ録画データを、VMCモニターに映す。
「PVMCGでホロ録画できなかったのですか?」
『ええ。アレで録画しようとしたら、なぜがゼルクォート(PVMCG)が動かなくなって』
「うーんなるほど。PVMCGはトーラル側から制御できますからね。マルセア議長側のトーラルから、強制機密保持モードが発動されたとか」
『多分そんなところだろうと思うわ』
即ち言い換えれば地球製の、まあ言ってみればローテクのスマホまでは手が回らなかったマルセアシステムといったところか。
そんなところで、ちょっと画面の震えるような素人っぽいスマホ録画の画面をパウルは映すと、
* *
マルセア 『第三階層トーラル、カイアを確保するということは、カイアが貴方がたをタザリア以上の階位と同位の者と認めたという証。では我々エルドレアルラロウの第四階層システムは、貴方がたに従う義務を持ちます。なんなりとご命令を』
パウル 『い、いやちょっと待ってください議長、一体どうしたのですか!? 急に普通のトーラルシステムっぽくなってしまって、しっかりしてください!』
マルセア 『ご心配なくパウル艦長。私は大丈夫ですよ。ただ、ミニャールに封印されていたシステムがすべて開放されて、ペルロードの生存者と、私の上位のシステムと接触できた方々がいるとなれば、ミニャールの遺言であるペルロードとセルメニアに関するすべての情報をお答えして、その方々のヨツイセルメニアルト(ヂラール)に対する研究に協力する用意と義務が課されていることを、私は認識することができました』
* *
なんでもマルセアは、ペルロードの文化に深く接触することのできた某が現れたら、マルセアに封印されていたプロテクトを解除するようにと、マルセアを設定していたそうだ。
偶然とはいえ月丘達の報告が、そのキーになってしまった。そういうことである。
階層身分制度の厳しいと言われるセルメニア教を基盤にしたこういうシステムなら、あの態度のでかい偏屈カイア型トーラルをモノにしているということ自体が驚異なのだろう。
『あのマルセア殿が、ここまでの状態になるとは……』
同じような存在のナヨも、この映像には流石に驚いたようだ。ただ彼女もそのマルセアの姿を見て、自らが施した封印ともいうべきプロテクトを、柏木達に精死病の某を解かれてここにいることを考えると、同じようなものかと少し吐息をついて笑みもこぼしてしまう。
で、このパウルのスマホ映像を諸氏見終わると彼女は、
『この映像で出てきたセルメニア教とかセルメニアルトという言葉自体は、私達もマルセア閣下からいろんな会合をもって議論したので、ペルロード人の創造主信仰形態もある程度は把握しています。まあここらあたりに関しては、カズキ、あいえ、ツキオカ中佐よりは若干だけど、私達の方が情報が早かったかもしれないわね。ただ……』
「ヨツイセルメニアルト、ですな、艦長」
『そう、それねジュンヤ。この言葉の意味は重いわ。私達はこの言葉を聞くまで、あのヂラールって存在は、そのペルロード本国、つまりペルドリア聖教国にある暴走したトーラルシステムのもたらした災害で、ヂラール化された人達は被害者と思ってたけど、月丘中佐の調査じゃ、どうもヂラールに変身した、いえ、“した”という過去形ではないわね。“変身できる”かしら? まあそんなヂラールになれる自分に誇りをもっているような人々もいるみたいな感じだし……』
パウルがそう言うと、藤堂が、
「イスラム教のムジャヒディンのような感じなのかな」
と言うと柏木が、
「そんな生易しいものではないのかもしれませんね藤堂さん。なんせ片方はくだらない自爆攻撃がご自慢ですが、それは死んだらそこで終わり。でもコッチは一生化け物ですからね。しかも下手すりゃ数百年単位で」
確かに、地球人ならそういう喩えでの理解のほうが早いのだろう。
『で、ここからなんだけど……』
とパウルは本題へと話を移すのだが、
『そのセルメニア教っていう彼らのシュウキョウのカミサマっていう存在が……』
何かちょっとすんなりと言葉を出さないパウルだが、一つ吐息すると、
『トーラルシステムを創った……って、セルメニア教では教えているらしいのよね』
その言葉に一瞬間を置き、「えええええ?」となる会議室。特にフェルやナヨ等々、ティ連関係者は『待て待て』と言いたそうな顔だ。
で、更には……
『マルセア議長の話だと、ペルロード人は、トーラルシステムがこの広い宇宙に点在するその理由も知っているそうなのだけど……』
『マルセアサマからお聞きできなかったのデすか?』
『はいフリンゼ。その真相は、セルメニア教の上位階層、つまり第二階層以上の幹部クラス信者しか教えられていないらしくて、『教団最高位の秘密の教義』って言うのかしら? シュウキョウの事はよくわからないけど、まあ所謂セルメニア教団の最高機密ってところなのでしょうね』
そこに高雄が付随するように、
「キリスト教でいうところの大司教クラスってところですかね。仏教で言えば、権大僧正ってところでしょうか」
するとシビアが珍しく自分から、
『なるほど。ではマルセア・カルバレータや、我々が確保したカイア10986型も、基本はその手合に使役される存在になるため、その点に関しては知らないと予想できる』
『そういうことになるわね、シビアチャン』
とパウルも同意するが、
『でもシビアチャン、あなたが今ニーラ教授と蘇生作業を行っている例のペルロード人二人なら』
『おそらくそれも期待薄だろう。理由は簡単だ。かの二人はカイア10986型の統制下にあったペルロード人だ。普通に考えてあの二人が第二階層の高位というヒエラルキーの存在だとは考えにくい』
『なるほどね』
* *
一通りパウルの報告が終わると、ご出席の各委員は、色々と難しい表情で、しばらく沈黙が会議室を支配する。
まあこういう雰囲気があまり好きでないのは柏木先生で、軽く挙手して今会議を一応仕切っている藤堂幕僚長に発言を求める。
「藤堂さん、いいですか?」
『あ、はいどうぞ柏木さん』
「パウルさんのお話を聞く限り、今まで私達はペルロード人、イコール、ヂラールという認識をもって、この宇宙全体の文明の敵であり、その経緯で、今まであの惑星サルカス戦争から続く宇宙最大の懸案事項と認識していた訳ですが、ここまでの調査状況諸々を色々考えると、ヂラールにペルロード人の謎が、まさかティ連文明の祖となる各加盟国の……長いところではイゼイラのような十万年単位で謎だったトーラルの歴史までここに来て垣間見ることになろうとしているわけですよね……それにもしかしたら、件のスタインベック氏の一件で発見されたトーラルの遺跡の件も考えると、地球世界にも影響を与えるかもしれない可能性があるわけで……うーむ……まあその今までの話を聞いて、私もそのペルロード人の『神と崇める存在』がどういう理念教義のものか、一つ考えられる可能性がね……ちょいとピンときているんですけど……」
と、そう柏木が言うと、皆が、
「おー、一〇年前の偏った脳内データベース復活か、柏木」と白木。
「まあお前が何かそういう発想すると、ろくでもないこと紙一重が定番なんだが」と大見。
「はは、柏木さんが中国の張元首席とやりあった時を思い出しますね」と新見。
まあ皆していろんなツッコミを柏木に入れるわけだが、柏木先生も一〇年経てば年季も入ってそりゃ慣れたもんで、「マァマァ」と掌を上下に振って、
「まぁ、私の考えをご披露する前に……ニーラ先生」
『ほい、ナンデすか?』
「今までのパウルさんがお話してくれた内容や、映像資料に状況資料を鑑みて、次元時空間の学問にお詳しいニーラ教授はどうお考えになるのでしょうか?」
と、わざわざ“次元時空間”なんて言葉を付けてニーラに話をふる柏木だが、ニーラは『権威』という点では、別に次元時空間の学問だけが専門分野というわけではない。つまり柏木は『その点についてどう思うか?』とニーラにふってみたわけである。
勘のいいニーラは柏木の質問に呼応して、
『はいはいふぁーだ。私も多分そんな感じで振られると思ってましたヨ』
「思うところありますか? 先生」
『うん。チキューの学問ではもう概念はあるのかな? 私達イゼイラでは、【ハイクルオス】という仮説上の存在があるのでスけど、それに近い存在が、ペルロード人が崇める存在ではないかと思うのですけど』
「ハイクルオス? なんですかそれは。初めて聞く名称ですね」
すると愛妻フェルさんが、まあ自分も政治家以上に本来科学者なので、ちょっと補足という感じで、
『ハイクルオスというのはでスねマサトサン、ニーラチャンは仮説上と言いいましたけど、まあほぼ存在が確実視されている、一種の知的生命体サンの事ですヨ。まあそれを理解するのは、チキュウジンサンでも全然難しくない存在です』
『そうですネ、フェルお姉様の言う通りで、チキューのエンタメ作品にもよく設定される存在ですね』
そう言われると、柏木も「はぁはぁ」という感じで、大体どういうものか察したようだが、他の諸氏はイマイチピンと来ない。するとニーラ大先生はよくわかる回答ということで、
『チキューのその手の作品や、学術用語では【高次元存在】という言い方を、よくサれていますね』
柏木以外の地球人諸氏は、【高次元存在?】と聞いたことあるようなないような、そんな顔をする。で、そこで藤堂が、
「その高次元存在とは、どういうものなのです?」
と問うと、柏木がニーラに、
「ニーラ教授、先生は地球に来て【カルダシェフスケール】という天文学用語を聞いたことはありますか?」
『ハイハイ、ありますよぉ。なるほど、そこから説明したほうがニホンジンのみなさんにはわかりやすかもデスね』
「ですね。まあ私もそれなりに元ゲーム屋知識で知っていますが、所詮は芸大出ですので、専門的なトコロよろしくご説明お願いできますか?」
芸大でゲーム屋やって連合防衛総省長官やってるのも結構大概な話だが、まあそれはおいといて、
『わっかりました。ではでは……』
* *
さてこの柏木が言った【カルダシェフスケール】という言葉とは何か? ということだが、先の問題提起になっているイゼイラ用語の【ハイクルオス】つまり、『高次元存在』というものと密接に関わっている、『ある基準』を測る言葉である。
専門的な事を語りだすと、そりゃもう本が一冊書ける程の用語なので、かいつまんで話すと、この言葉の意味するところは、所謂知的生命体の文明水準を測る(スケールする)用語なのである。
この概念を提唱したのは一九六四年、旧ソビエト連邦の天文学者『ニコライ・カルダシェフ』である。その名前をとって、カルダシェフ基準と言われている。
カルダシェフは、この宇宙に文明が存在するなら、その文明の規模は大きく分けて三つの段階を経ることになるだろうと考えた。それは……
レベル1:惑星上のすべてのエネルギーを利用することができる文明。
レベル2:恒星のエネルギーを完全にコントロールできる文明。
レベル3:恒星系が所属する銀河内のエネルギーを完全にコントロールできる文明。
と、まあこんなところである。となると、ヤルバーンが来る以前の地球の文明レベルは? となると、大体レベル0.7から0.8といったところだったらしい。1にもなっていない文明ということになる。
レベル1に達する最低必要条件は、やはり核融合エネルギーの利用だそうだ。
で、カルダシェフ自身はこのレベル3までしか定義していないのだが、その後この概念が世に知れると、各天文学者達はレベル4以上の設定も付け足して発表するようになった。
レベル4:複数の銀河系間のエネルギーをコントロールできる文明。
このレベル4以上の文明ともなると、恒星間航行、即ちワープ航法が既に可能となり、文明によっては肉体を捨てて、所謂有機生命体には認知不可能な形態を取る存在となるような、そんな文明レベルを指す。
……といった具合の、天文学用語なのである。
現在では大体付け足しレベルで4から7ぐらいまで設定されているのだが、この5以上のレベルともなると、もうほとんど現実離れした神話レベルの話になるので、まあ現在は現実的なところで、レベル4までが妥当だと、そんな風に言われている。
で、んじゃティ連はこのスケールに照らし合わせるとどの程度なのかと言った話になるのだが、ニーラはまあ大体3から4未満じゃないかな~と話しているのだが、そんなカルダシェフスケールの話をされた後に、『3から4かな~』なんて言われた日にゃ、0.75ぐらいの日本人さんはどうすんのという話にもなりーの、んじゃヤルバーンと接触したおかげで日本も一足飛びに3以上4未満になったわけなんけ? とか、そんな話にもなり~の、改めて言われてみれば、やはりヤルバーンとの接触はどえらいことだったのだなと諸氏思い知らされる。
* *
『と、そんなところデよかったですよねふぁーだ』
「ですね、まあそういう用語です」
『でもでもでモ、みなさんそんなに驚いていますけどぉ、私達なんかトーラル文明の遺跡と接触したおかげで、3から4トカ偉そうな事言えるようになっちゃってマスけどぉ、この基準で言えば元々私達はレベル0.1みたいなトコロから一足飛びにこんな社会になっちゃいましタからね、まあそこはお互い様デスよ』
フェルも『そうですね~』と納得顔。ティ連人の良いところは、そこを冷静に自覚して驕り高ぶる事がない。だから日本人や地球人にも親しまれている異星人なのである。
だがしかしとフェルは、
『ウーン、ニーラチャン。でも一部例外的な方々もティ連にはイマスよね』
『確かにソウですね~』
というと、シビアがそれを察したのか、
『我々だな、フェルフェリア生体、ニーラ生体』
『デスデス』とフェルが相槌打つと、ニーラは、
『シビアお姉様の“スール”っていう形のものが、例外的にそのスケールで言うレベル4なんですよね~』
とこうニーラに言われると、ああそうかとポンとみなして手を打つ。いまここで実体化しているシビアはあくまで仮想であり、本来のあるべきところは人工霊体集団と今ではそう呼ばれてもいるナーシャ・エンデのバルサーラ中央統制区なのである。
そんな説明をニーラから受けて、柏木は、
「まあ、深く考えるのは今はいいとして、我々地球人の言うカルダシェフスケールのレベル4存在、つまりティ連の言う『ハイクルオス』という高次元存在ですか……もしかすると、こういう感覚の存在が、ペルロード人が『神』とした、『セルメニア』という存在、もしくは集団? の本質というか正体というか……そんなところではないのかな? と私は予想、というか愚考するわけですが。と、そんな仮説にもならないようなものですけど」
でも連合防衛総省長官閣下サマのお言葉なので、結構重いのではあるが。
で、柏木の予想にナヨ様が、
『ではカシワギ、主の話をカミサマ云々のような“ふぁんたじー”な考えではなく、現実的な推論を妾なりに考えると、ペルロード人は、そのハイクルオス存在のセルメニア某の支配下にある、と考えることもできるな』
「そうなりますね。もしくは、共生関係にあるか、ですか……」
柏木は、ペルロード人と、セルメニアという存在が、もし仮に知的生命体だと仮定して、それが同じところに同時発生的に存在し、セルメニアという“上位”知的生命体が、ペルロードという“下位”知的生命体と同じテリトリーで存在できることなんてありえるのか? と疑問に思ったが、地球社会では、古代に存在した別種の原人同士は一時期は共存できていたが、結局は今のホモ・サピエンスが地球を支配するに至ったように、地球基準ではありえない話なので、あえてそれ以上は口にしなかった。
ここで新見も話をずっときいていたが、挙手をして、
「もし、柏木先生や、ニーラ教授の話を仮説の叩き台と仮定するなら、トーラル
システムを創造したのは、その高次元存在で、それを世に配送する役割をもっていたのがペルロード人だった……という解釈も可能ですよね」
と新見がこういうと、諸氏「ああなるほど、そうなるか」と納得顔。柏木もこの新見の疑問に対して、
「そこは確かにそういう考え方になるのでしょうけど、まあその叩き台になってる前提が、私の妄想レベルにしかすぎませんからね。それは今議論しても詮無い事だと思いますよ」
と言うと、新見も「それは確かに」と、冷静になる。だがこれまでの経験上、この柏木のオッサンが言ったことっていうのは、どうにも当たってしまってるところも多々あるので無視できないのだが、柏木自身がそんな自覚がないのが如何ともしがたい。まあそれが良いところでもあるのだが。
まあとりあえず、パウルの報告と、月丘の調査報告も踏まえて、この会議では現状認識を委員会メンバーの共通認識とするようにする。
これらを報告書まとめてあらためて安保調査委員会の本会議で議論するということに相成った。
会議後、自販機やハイクァーンベンダーが置いてある喫茶室で、缶コーヒーを飲む大見と高雄。
「タカちゃん、双葉基地で言ってた、『地球の宇宙物理学の分野でも仮説が出ていた話が現実化しそうな話』っての、柏木が言ってたような事だったわけだな」
「そういうことです」
「タカちゃんからも発言すればよかったのに。芸大卒より防大出の話の方が高尚な話に聞こえたんじゃないの? むはは」
「何をおしゃるやら……まあ柏木長官も言ってましたけど、結局はまだ推論の粋を出ませんからね。あそこは長官にまかせましたよ。というか、パウルのあれだけの話であそこまで物事を推測できるって、流石ですね柏木長官は」
「ま、あいつのあの感覚で今までやってこれたからなぁ。あの能力でクソゲーも売り捌いてたらしいし」
「はぁ?」
なんのこっちゃと。いやはやだね~、なんて思いながら缶コーヒーを飲み干す1佐二人。
「ところであの話ですけど大見さん」
「ん? 何の話よ」
「月丘君の最新の任務と、パイド・パイパー社が委員会メンバーになるのかどうかとかいう話」
「それは次の本会議でやるそうだよ。どうなることやらだが、間違いないのはあの遺跡も結局今回の話に必ず繋がってくることだけは何となく感じるな」
「そうですね。それは確かに……」
* *
さてそれから数日後……
現在の『銀河連合日本国』を縁の下で支える組織、言い換えれば影で支える銀河連合加盟事案から続く連合日本のある意味中枢組織である『情報省安全保障調査委員会』の本会議が開かれた。
そこでの此度の再重要案件が、『パイド・パイパー社、つまるところ、エドウィン・スタインベック会長を、安保調査委員会の民間委員に正式に入れるか?』という点である。
議論はもちろん紛糾したのだが、重要な点は、海外の法人組織を本来連合日本の主権であるこの委員会に参画させても良いものか? という点である。
とはいえ、この委員会に地球世界の外国人委員がいないわけではない。
その一人は、ジェニファー・ドノバン現米国上院議員だ。だが、彼女はあくまでオブザーバー参加であるため、会議への議決権はないし、日本政府の要請がなければ参加できないという立場である。
そんな米国上院議員を差し置いて、民間委員とはいえ、外国法人に組織を正式メンバーにするのはどうよ、という議論が出て当然なのではあるが、正直言って、パイド社とスタインベックの場合、ドノバン議員などとは比較にならない『価値』がある。まずは、スタインベック会長がペルロード人の末裔だろうと言うこと。そして、インベスターの幹部であり、インベスターの、現在ではスタインベック派と言われるメンツが、どうもスタインベック同様にペルロード人の地球における歴史と関係がある面々ではないかという推測と、それに伴うパイド・パイパー社の沿革がその手の話に纏わる歴史を持っているのではないか? という推測。
このあたりの『推測』というのは、情報省総諜対のメイラや、外事局の下村、長谷部、セマルら山本チームが調べあげた情報からの推測である。
「で月丘、今回はお前の推しで、パイド・パイパー社とスタインベック会長は、晴れて安保調査委員会のメンバーになりました、というわけだ。どうだ感想は」
と、委員会で推薦意見を述べた月丘にご感想を聞く白木班長。彼の人当たりの良さも相まって、その説得力ある説明に、二藤部や井ノ崎に三島も納得したわけではあるが、反対とまではいかないものの、異議を挟んでいた野党や、一部与党の委員との議論の紛糾はあった。
「感想といわれましても……今後のヂラールや連合に国際連邦、そしてグロウム帝国や、ゼスタール連邦の関係等々考えたら、あの決着点しかないと思いますけどね」
「まあな。なかなかの落としどころだったな。さすが元ハンティングドッグの折衝係だ」
「それ褒めてるんですか? 班長~」
白木の言う“月丘が委員を賛成で決着させた落とし所”というのは、要するにドノバン議員の立場との整合性だ。
連合日本の主権であるこの委員会であるからして、米国政府の関係者が議決権を持つ委員などにはどう考えてもなれはしないが、スタインベックの場合、民間委員なので、政務関係者に比べて制限はあるが、一応議決権はある。で、パイド・パイパーはアジア地区本社として、日本法人に本社機能を持たせているので主権が気になるのであれば、パイド社の日本法人として参画させればブラジル総本社を参画させるよりは問題も少ない。で、ドノバンの立場、即ち米国政府がへそを曲げないようにするために、
「非常任委員か。考えたよな月丘」
「国連安保委員会の非常任理事国のパクリですけどね。まあ安保調査委員会は拒否権、即ち最終決裁権は、なんだかんだ言って内閣ですから、非常任委員という肩書にしておけば、米国政府へ角も立たないでしょ」
即ち、月丘は推薦する際に、議決権は民間委員のそれと同等だが、期限付きの委員ということで、非常任委員という形にして、パイド社を迎え入れるという事にした。まあ期限付きという事は、期限の延長もできるということで、そこは米国政府に対する『体裁』である。
「で、スタインベック氏にはそういう形でということで書簡を送っといたがよ、それで納得してくれるんかね、あの御大は」
「OKみたいですよ、班長」
「は? 書簡送ったの今日だぞ。なんでそんな事がわかるんだよ」
「あいや、先んじて無事と容態の確認も含めて私がメールで送りましたから。で、つい今しがた返事が来まして……っと、ほら」
月丘はスマホのメールを見せる。英語でなにやらゴチャゴチャかいてあるが、絵文字でOKのデザイン文字といっしょに親指のサムズアップが引っ付いてたり。
「月丘、あのなお前……そんなインベスターの親分で、国際企業の会長とスマホのメールでって、高校生じゃあるまいしお気楽すぎだろ、ったく……でぇ、御大のご容態に関してはなにか書いてあったのか? ご壮健であらせられるのかよ」
「あの時、私が一緒だったのがやっぱり幸いしたみたいです。ティ連医療様々ですね。今はまだ米国の何処かで静養されてるみたいですが、何処かまでは、ハイ」
「そうか。ということは恐らく次回会合で初顔合わせってところだな」
月丘のスマホに書いてあったメールには、数日で仕事復帰するという。
だが、デイビッド・シャオが恐らく首魁であろう反スタインベック派の目もある。
月丘はそのまましばらくは雲隠れしたほうがいいのではないか? と書いたそうだが、
「私ほどの有名人が急に世の中から姿を消せば、マスコミやらなにやらと煩く付きまとうでしょ? それに健在ぶりをアピールして、逆襲もしないといけませんし」
逆襲とは穏やかではないが、インベスター同士の喧嘩ともなれば、まあ派手にやらかしはしないのだろうが、相当策謀謀略的なバトルが展開されるのだろう。しかも少しでも関わった人物にもとばっちりが行くような、映画みたいな謀略戦になるのかいなとか。
そんなことを想像すると、月丘はまた忙しくなるじゃないかと項垂れてたりする。
というか、諜報員なら本来コッチの世界で仕事が展開するのだろうが、最近の月丘の仕事は、なんとなく派手目のものが多いので、諜報員と言うよりは、特殊部隊員化してしまってる自分を自覚していたりする。
「わかった。んじゃまあ、そっちの方は引き続き任せるぞ月丘。多分ボツワナの遺跡調査をパイド社と日本で本格的にやらにゃいかんと思うんでな」
「了解です白木班長」
「あとは、あのカイア10986とかいうトーラルさんの修復と、あの二人が何時目を覚ますかか……」
「ペルロード人の方は、シビアさんとネメアさんコンビに任せたほうが良いですね」
「ふむ、で、お前は次、どう動く予定だ」
「それですが、ヤルバーン科学局と、ヤル研合同チームが行っているそのカイア型の修復、再構築作業が明日にも完了するので、まぁ~、なんですか? あのシステムが目を覚まして誰も知った顔がいないというのもナンですので、起動作業を拝見しに行こうかと」
「そうか。でもヤルバーン科学局はいいとして、ヤル研絡んでるのかよ。あいつら無意識にロクなことしねーからな。ちゃんと見張っとけよ月丘」
「りょーかいです。ははは」
「俺の方も今後のことを二藤部大臣と新見次官とで詰めておくわ」
というと、白木は一つ深呼吸して、「うーん……」と唸る。
「どうしました? 班長」
「いやな、ちょっと何か大きいものが動いてるのかな、ってな。そんな予感だ」
「そうですね。それは確かに……」
* *
という事で次の日。月丘とプリルは、宇宙船ゲルベラールで確保した『ペルロード系トーラルシステム』と今後分類されるトーラルシステム『カイア10986型』のメインフレーム修復作業を視察に来ていた。といっても、既に昨日中に修復作業自体は済んだそうで、月丘は稼働を視察に来た、といったところである。
場所はヤルバーン内に作られた、ヤルバーン科学局とヤル研が合同で作業する臨時ラボ。
臨時ラボと言ってもカイア型ほどのシステムを再構築するのであるからして、相当な広さを持つ。
「どうも主任さん、今日はお世話になります」
研究棟の事務室で月丘達二人を出迎えてくれるのは、一人のイゼイラ人と、日本人。名刺を差し出すイゼイラ人は、イゼイラ科学局の主任さんのようだ。
『はじめましテ、ケラー・ツキオカ、ケラー・プリル。私はイゼイラ科学局トーラルシステム工学研究員の、クディス・ラム・リデートと申しまス』
名刺交換なんぞしてペコペコと。で、お次は日本人さん。
「どうも、私はヤルバーン研究所、まあ有り体に言えばヤル研でんな。そこで量子コンピュータ等の情報工学を研究させてもろてます、高田平太と申します」
と名刺には、『君島想楽株式会社フェロー 高田平太』とヤル研の名前に併記されている。つまり彼の出向元企業の名前だ。
さて、この名前で思い出されるは、この『想楽』の名前である。
株式会社想楽……これは、かつて一〇年前に柏木がビジネスネゴシエイターをやっていた時、依頼を受けたあの『株式会社想楽』の今の姿である。
かの時、柏木は、『企業買収、即ちM&Aを将来受けるのも、そのベンチャーの発展の証』とこの会社の当時の社長であった高田という人物に語ったことがある。
その後、この想楽は君島重工一〇〇パーセント出資の子会社となったのであった。
そして、この役員待遇の技術者を表すコーポレート・フェローの肩書を持つこの人物は、あの高田社長の息子さんなのであった。
「柏木さんからも色々聞かてもろてますけど、お二人が有名な情報省の月丘さんと、プリルさんでっか。どうもよろしくお願いいたします」
「え? 柏木長官から? 柏木長官をご存知なのですか?」
「はい、私の親父が昔大変お世話になった方でしてな。親父はもう今、引退して悠々自適な生活送ってますけど、私も若い頃から、親父が酒飲んだら、柏木さんの話ばっかり聞かされて、まあそれが縁でこんなところで技術者やってるわけなんですけどね」
すると、隣で話を聞いているクディス主任も、
『私もケラー・タカダと知り合ってもうスウネンになりますが、彼の紹介で、ファーダ・カシワギとフリンゼを紹介していただ時は感激しましタ』
「ま、これも因果っちゅーやつですかいな、ね、クディスはん」
『デスネ。でもケラー・タカダと初めて研究会合で会った時は、独特のニホンゴで何を言ってるかよく分からなかったですが、ムハハ』
月丘は、ヤルバーンのトーラルシステムは、まだ関西弁が苦手なのか? と首を傾げたり。
「で、今日は白木さんからお話は聞いてますけど、なんかその妙な宇宙船の中からこいつを持ってくるまでの騒動で、えらい事になってましてんてな」
『エエ、私も資料映像等々を拝見させていただきましたガ、見た感じこのトーラルシステムは、私達の知っているシステムとは別物に見えるぐらい変わった……というか畏怖を感じさせる代物ですネ』
「クディスさんの言う通りでんな。まあ正直いわせてもらうと、コイツを再現修復してええもんかと、沢渡はんとちょっと議論しましたわ」
まあ確かに、あの月丘達の体験したあの資料を、映像やらなんやらで見れば見るほど、カイア型を修復するのは良いものかと疑問に思って当然である。
「ですが、今あのペルロード人とヂラールの関係、そしてセルメニア教というものの内容を知る、ティ連や人類にとってのいまのところ数少ないコアな部分を調査できる情報源ですからね。まあ万が一の場合は、私達の方で特危も含めて対応しますので」
と、実はいつでもここに特危部隊を転送できるように、対応策は取ってあると言う月丘。だがプリルは、
『でもでも、あの時カズキサンが説き伏せて、なんとか仲良くなったし』
「でもタザリアの芥ですからねぇ。あの時の記録か記憶かまで、ちゃんと再現修復できてたら良いのですけど……クディスさん、タリア博士の時空間遡上再現技術のデータは使えましたか?」
『ハイ、そこは問題ありませんでしタ。さすがはニーラキョウジュと肩を並べる博士だけの事ハアリマスね』
「そうですか。ではそこに期待したいところですが……」
そう月丘が言うと、高田は、
「まあこればっかしは開けてみんとわかりませんやろ。ということで、お二人も来なさったことですさかいに、早速カイアはんの起動、やってみますか?」
月丘とプリルはお互い顔を見合わせて頷く。で、「宜しく頼みます」と……
そして諸氏修復されたカイア10986がデンと構えたトーラルシステム設置棟へ。
少々気温の低めな、その部屋に入ると、ゾゾゾと寒気がするので、月丘とプリルはPVMCGの暖房シールド領域を少しかけたり。
で、明かりを灯して修復されたカイア10986の姿を見た月丘先生は……
瞬間orzな感じでコケそうになる……なんかどっかのナチみたいな悪者組織を従える人工頭脳っぽさ現代風味みたいな、『スパコン京』っぽい風味。
だれが○月ウ○フの代役やるねんみたいな……
「高田さん……あの……これ修復後のシステム設計したの誰ですか?」
「ヤル研の本部連中って聞いてますけど。まああっこがオタクの集団っちゅーのは知ってますけど、ちょっと趣味に走りすぎちゃうか~とか言ってましてん仲間連中と。わっはっは」
どうやら高田の方は、そっちのバイアスはないようである。
「なんでイゼイラ科学局さんの方に設計頼まなかったかなぁ~」と声には出さず口を動かす月丘だが、もう遅い。だがプリちゃんの方は、
『うひょー! かっこいーー! こんなトーラルの作り方もあるんだぁ~! あの中央のインジケーターが鋭い眼光みたいでグッド!』
とか感動している……まあいいかと想う月丘。って、なんで月丘も知ってるねんと想うが、これも大学の頃、学園祭で見た事があるコスプレらしい……どんなコスプレなんだと当時は思ったそうだが……
「ほな、早速起動してみましょか。みなさんコッチのシールドルームに入って下さい」
「シールドルーム? 何か危険な事でも……って、あそうか」
『あの変な波動ですねっ、ケラー・タカダ』
「そういう事ですわ。なんか資料みさせてもろたら、ヤバい波動放つ機能があるとか書いてましたやろ、恐らくハイクァーン系の機能を利用したものやと思いますけど、よーわからん機能なので、まあ万が一の対策ですわ」
と、そんな説明を聞きながら、シールドルーム、即ち安全地帯に退避すると、
「んじゃ、クディス主任、起動お願いします」
『了解でス。では……』
クディスはVMC操作パネルを部下とともに操作すると、パワーが修復されたカイア10986に入っていく。
あの宇宙船ゲルベラールに鎮座していたカイアからは、見た目をかなり替えさせられてしまったが、空中に浮かぶ端末に次々赤色のスリットを走るような光がともり、その端末をつなぐ接続部にも光のラインが走り出す。
そして中央の瞳のようなインジケーターに光が灯る。すると空中に無数のVMCモニターが生成され、これまた数多くのデータが表示される。
更にそれらはゲルベラールで見た、あの『真実の瞳』のような、かのデザインを形成し……
『起動完了。とりあえず現状はシステムに障害らしきものは見られませン』
「よっしゃ、とりあえずは完璧やな」
復活したカイア10986を凝視する月丘とプリル。起動後のその第一声を待つ。
『……私は、トーラルシステム・カイア10986型である。セルメニアの意思による稼働をアズマウター1定量周期において行っている。それはペルローディアンに託された第三教階層であり、以下の階層を制する……』




