【第一二章・スケールⅣ】第七二話 『インベスター分裂』(上)
二〇二云年 某月某日。
これが何かの映画作品なら、毎度のごとく電子音で打ち出されるような音にそんな日付が映像の端っこに表示されるような、そんな情景。
ティエルクマスカ銀河星間共和連合、アマノガワギンガ内太陽系第三惑星地球、地域国家日本国の相模湾から発進する一機の飛行物体。その正体は、かの特危自衛隊やティ連加盟国で幅広く使われている『AFV-Type15・15式多目的機動兵器「旭龍」』を、ヤル研が比較的マトモな改良発展型として研究していた機体『試製24型多目的機動兵器・栄鷲』であった。
その容姿は、旭龍のフレームをベースにした拡大発展型で、その姿も完全な日本国で地球意匠の工業デザインなので、旭龍のような、元がイゼイラのデータを元にしたヤル研連中の趣……イゼイラ意匠“も”尊重したようなデザインではなく、非常にまとまったステルス形状の航空機的な翼竜型、もしくは怪鳥型のようなデザインをしている。
それもそのはずで、この機体はヤル研オンリーの独自開発ではなく、君島重工も開発に関わっており、あの連中が今回は自分らの好き勝手にできなかった機動兵器なわけでブーブーと文k……日本の工業デザインらしい地球意匠の機動兵器となっている機体であった。まあただそれでも元の基礎が旭龍ことマージェンツァーレで、ヤル研連中の意地もあるので、そこはそれね……といったトコロ。
で、旭龍をベースにしているところはそのフレーム構造のみなので、まあ旭龍とは明確にその見た目は違う。
先の名前の通り旭龍の『龍人』という感じよりも『鷲』のようなデザインであって、見た目を表現するなら大型戦闘機の下部に顔面バイザー型頭部と一体化したような胴体があり、スタビライザーを兼ねた薄型腕部マニュピレータと鳥の脚のような大型の逆関節脚部がついているような機体で、翼状の空間振動波機関や、背面と脚部に装備されている斥力発生機なども旭龍に比べて大型化している。
ガタイとしては旭龍よりも多少華奢な感じの機体であり、その翼下や腕部に強力な兵装を多数搭載する武装搭載の汎用性が高い機体で、日本国特危自衛隊や、本土自衛隊、ティ連各国向けに開発されている新鋭機動兵器なのであった。
この機体を試作段階で、その試作機数機の内の一機を二藤部の政治力で総諜対に回してもらい、プリ子パワーとセンス全開で、センサー、レーダー類を強化改造して、所謂戦闘偵察型、ティ連でいう『アウルド型』に近い総諜対仕様に改造した機体。
それが今、ヤルバーン自治国より飛び立っていったのであった。
ちなみにまだ試作段階なので、正式番号は存在せず、試製型式に現在の開発名称もあるが、略して『試製・栄鷲』の名前で関係者には呼ばれている。
『……でね、でね、カズキサン。この機体のデザインは、私のラフスケッチが元なんだよん』
「え? そうなの。そいつはすごいですね……って、うぉーーー!」
なんか急な加速にG食らってうめいている月丘の旦那。
『私のスケッチを、君島サンの開発者さんに色々手直ししてもらったの~~♡』
となんか嬉しそうにVMCモニターの推力加速スライドをイジイジしているプリ子
不用意な急加速で死にそうになる月丘。
なんでこんな感じになってるかは、後で語るとして……
メインパイロットとして操縦するはプリル。でもってコパイ席に座るは月丘。
そんな話の通り、機体の基本形状は、ヤル研に以前提出したプリルのデザインスケッチが元になっているそうで、何かご機嫌な彼女。
プリルはヤル研以外にも、日本の重工業機械メーカーへもアドバイザーとして度々出向いていたりと、なかなかにソッチ方面で顔が広いので、そんな経緯もあってのことだそうな。
とまそんな割と御大層な機体であるのだが、こんな試作機を持ち出して月丘とプリルは何してるのかという話だ。
先の安保調査委員会にもたらされた緊急事態情報である、『ボツワナ共和国のパイド・パイパー社考古学研究発掘施設が、ボツワナ共和国軍に包囲制圧されている』という情報を受けてのもので、その情報収集と調査のために二人はこの新鋭マシンでアフリカへ飛び立っていたのである。
総諜対が普段持っている機動兵器は、『蒼星プリルカスタム』に、『海襲プリルカスタム』、『コマンドカーニス(所謂、むせるトルーパー)』、『データ装備の月丘ローダー1・2型に付属のサイドカー二機種』と、そんなところである。
月丘ローダーとサイドカー以外は、支援部門であるスペクターチームが使うのだが、基本ヤル研の廃棄予定品を払い下げてもらった“お古”である。従って今回の『栄鷲』は初めての新品機動兵器調達なので、プリ子も力の入り様が違うといったところか。
とにかく状況が切迫しているので、二藤部の政治力で本来予定されていた諸々手続きスっとばして総諜対に試作一機を配備。本日が実働となった。
斥力波動エンジン全開で大気圏を突破して弾道航行。アフリカ大陸上空に差し掛かる手前で大気圏再突入し、難なく一路アフリカへ向かう。
この機体はそういうわけで、色々装備が充実している。そんな機器を使い、ボツワナ近郊に到着次第対探知偽装をかけて情報収集であった。
そのミッションには、可能であればスタインベックの救出も含まれている。
* *
…………と、そんな状況になる幾時間か前のこと。
「班長!」
受付の大見美加嬢への挨拶も適当に、総諜対事務室へ突入してくる月丘。
「おう月丘、来たか。ニュース見てスっ飛んで来たんだろ」
「はい」
「ま、コッチからの連絡よりも先にスっ飛んでくると思ったんでな。あえてメール入れなかったが」
情報省とは言え、他国の一般情勢となると、現地に記者を常時配置しているマスコミ情報のほうが公的情報より早い場合は多々ある。
「それよりも、なんですかアレ。ボツワナ軍じゃないですよね」
「お前は中東アフリカ情勢には詳しいからな。すぐにわかったか?」
「ボツワナ軍があそこまで中露寄りの兵器で武装しているなんてありえませんよ。欧州や米国の兵器も使っていますからね、あそこは」
「まあな、多分柏木や大見も同じこというだろうな」
「それに私のPVMCGへのこの連絡ですよ……みなさんへは?」
「来てるよ。といってもこの間、御大にお前が教えた総諜対用の連絡用量子掲示板アドレスだけどな……ということは、お前に個別でその写真つき連絡が来たということは……」
「スタインベックさんがあそこにいるということですよ。彼もパイド・パイパー社で、ゼスタール技術を独自に解析したPVMCGモドキみたいなのを持ってますから」
スタインベックはご存知の通り、パイド・パイパー社が自ら独自に研究開発したPVMCGのようなパーソナルデバイスを持っている。これ売り出して果物野郎に対抗してやろうかとか言っていたのもついこの間の話だ。ただリソースがPVMCGのように万能ではないので、
「パーソナルシールドのようなものは張れますが、あらかじめ設定した二〇種類ほどの物品しか造成できないそうです」
「武器関係は持ってるんかな」
「さあ、どうでしょう。あ、でもスタインベックさんの持ってるヤツは、ゼル端子機能があるみたいです。元々のモノがゼスタールさんの技術転用第一号だそうですから。で、救出するのでしたら転送装置使えばいいのでは? 彼のPVMCGモドキのデータを追えば……」
こういうと、白木はちょっと待てと月丘を手で制すると、いいタイミングでメイラが入出してきた。
『ハンチョー、って、あ、ケラー・ツキオカ、ご苦労さま』
「で、メイラ、どうなんだ?」
『ダメですネ。例の転送阻害波動が張り巡らされています』
白木も同じことを考え、先んじてそれに伴う懸念をメイラに調べさせていたようだ。
その言葉を聞いて月丘は、「なんですって……」とスタインベックの置かれた状況より、転送阻害波動、つまりロシアが原産の転送阻害装置まで、あの遺跡をカバーする規模で持ち込んでいるのかと。
だがその情報でわかることは……
「連中、月丘の言う通り、ぜってーボツワナ軍じゃねーな。おそらくは……」
『いんべすたーデスね。仲間割れかしら』
そうメイラが言うと、しばし考え、月丘が、
「そんな単純な話じゃないでしょうね。仲間割れというよりは、表現的には分裂じゃないですか?」
「旧ガーグみたいにか? 月丘」
「はい。おそらくはあの遺跡が取り合いになった可能性が高いかと」
「なるほどな」
白木や柏木に大見達が一〇年前に振り回された影の主権体『ガーグ』。ガーグデーラの方ではなく、地球のこの手の秘密結社にヴェルデオがつけた呼称である。
ガーグは今のインベスターの、更に有象無象が寄り集まってできた主権体。まあ語弊なく言えば時のガーグのまともな連中の生き残りがインベスターであるという見方もできる。
なぜに“見方もできる”という表現なのかは、彼ら自身があまりガーグと呼ばれていることに肯定的ではないからであるが……
ということで、早々に現場への調査と、可能であればスタインベック以下、パイド・パイパー社社員救出の命を白木から受けた月丘は、白木から『総諜対・スペクターチーム』の研究棟に行って、新しい装備で現場へ急行するように命じられる。
ヤルバーン自治共和国内にある、日本国が割譲を受けている領土。その中の人工大陸パーツ内の一角にある総諜対スペクターチームの研究棟。
ヤル研のような本格的で巨大な研究棟ではないが、総諜対の使う機動兵器、乗り物、武装や装備品などを整備できる規模は持っている。そんな中に一際目立つ機動兵器があった。
それが、先の『試製・栄鷲』である。
「はっちゃぁ~ なんだこれは……ピカピカの新品って、もしかしたら出来立てホヤホヤの新型機ですか!?」
『あ、きたきた! カズキサ~ン』
プリルが栄鷲の搭乗ロープをスルスルと降りてくる。
「やあプリちゃん、もしかしてこれが新しい装備?」
『うん! ニトベダイジンが、キミジマ重工って工廠で開発していた試作機を一機こっちに回してくれたの。これでも一応、ジエイタイや、ティ連軍の主力機候補ですからねっ。私もチョットだけ関わってるんだから』
毎度自衛隊やティ連軍のお古で使い回しをプリルパワーで改造して使い続けてきただけに、新型機とは政府……というよりも、安保調査委員会がいかに此度のパイド・パイパー社遺跡の件を重要視しているかわかろうものである。
「ということで、まあもう見た感じこれに乗って現場へ急行するんだよね」
『デスデス。整備は一部機能を除いてもうできているから、いつでも飛べるよ。作戦内容も把握してるからね』
「わかりました。では……」
と、そのまま毎度のスリーピーススーツ姿で乗り込もうとする月丘だが、「いやちょっと待って」と月丘の搭乗を制するプリル。
「え? ティ連技術のマシンでしょ? 空間シフトナントカとかいう機能あるから、このまま乗ってもいいんじゃないの?」
『あ~、いやあの実はね、その機能を発動させる空間振動波機関がね、ちょっとまだ試験が済んでいなくて、積んではいるんだけど、機能はオミットされちゃってるの』
「え? じゃあ飛べないんじゃ……」
『イエイエ、斥力エンジンは稼働できますから、まあ、推力というか、そういうので指向性斥力波動マシマシですっ飛ぶわけでして……エヘヘ~』
と、何気にプリルは対GスーツのデータをPVMCGに送り込んで来る。
ってか、流石の場数を踏んだ月丘も、対Gスーツを着なきゃいかんような事、やったことないぞと。
とまあ、そんなこんなで某機動兵器アニメのような対Gスーツを初めて着る月丘君。
プリルも同じくで、このスーツも一式で、君島の開発試作品であり、テストの対象。ってか、この服をテストするために空間振動波エンジンオミットしたんちゃうかと。
「プ、プリちゃん……急加速はナシですよ。ちなみにこの機体って、斥力エンジンだけで最高速度いくらぐらい出せるんですか?」
『エット……大気圏内なら、まっは七ぐらいかなー』
ギョっとする月丘。確か昔、本で読んだロッキード・SR-71とかいう航空機は、世界最速記録保持のジェット機で、マッハ三.三を出せて、乗るときは宇宙服みたいなパイロットスーツ着て乗り込んでたのを思い出す。なんか嫌な感じモードで、
「プリちゃんは、対G訓練なんて受けてるの?」
『うん、そりゃ私も一応軍人さんだから。機動兵器からの脱出訓練とかでネ』
実は案外月丘よりタフだったりするプリ子。
ということで出撃するわけだが、まさか大気圏超えてぶっ飛ぶとはつゆぞしらない月丘であって……
* *
まあこういうところは、やはりプリルさんも可愛い顔して基本生粋の軍人さんであるからして、こういう機動兵器の操縦も慣れたもの。
此度の空間シフト航行が使えない分、ティ連製の優秀な対Ḡスーツ着て、ちょっと落ち着いてマッハ5ぐらいでぶっとび、そらもう何時間かでアフリカ。ボツワナ共和国近郊まで到着。
流石ティ連・ディスカール製の対Ḡスーツってなもんで、今回は栄鷲にブースターつけて大気圏突破の弾道飛行なんてのもしちゃったワケで、そんなことをホイホイやっても人はまぁまぁ生きていけるって事で……
「……きっつ……」
いっぺん大気圏突破して、弾道飛行。んでもってすぐに再度大気圏に突入して、現在はアフリカ近郊である。
前に来たときは、スタインベックのプライベート旅客機でオードブルでもつまみながら、機内ベッドで寝転んでのんびりやってきたのに、今回は何時間かの飛行である。
今はボツワナ共和国付近の成層圏に近い空域で滞空待機している。
『ゴメンねカズキサン、ちょっときつかったかなぁ……』
「あ、いえいえ……で、プ、プリチャンはなんともないの?」
『んー、まあ大変は大変だけど、デルゲード(パワードスーツ)装着して、衛星軌道から強行降下突入する訓練に比べたら、まだまだ全然マシかなぁ』
「い、いやなんですかその訓練は……」
今知ったプリ子の意外な側面。なんだかんだで大尉までいった軍人さんは伊達ではなかった。んなことやってたとはと。ちなみにフェルやシエ、シャルリも同じような訓練をしたことがあるらしい。シエとシャルリに至ってはもっとえげつない訓練もあったようだ。
なるほど、プリルが技術将校でありながら機動兵器の操縦がここまで上手いのも頷ける。流石はパウル艦長の妹君である。でも定期徒手格闘訓練ではヘロヘロにもまれているわけだが。
「プリちゃん、ボツワナ近くまできたけど、潜入は急ぐの?」
『あ、これから各種センサー使って、状況の詳細な情報集めるから、一ジカンほど待って』
「良かった。ちょっとその間休ませてくださいね」
『どうぞどうぞ。そういうのも織り込み済みだから。で、あそうだカズキサン』
「なに?」
『カズキサン専用のコマンドローダー、またデータ装備の仕様が変わったんで、入れ替えといたからね。確認しといて』
カズキサン専用コマンドローダー……一代目は、銀ピカのコマンドローダー。若さとは何かを考えたくなるデザインみたいな……
二台目は、キック攻撃がやたら強力だった、丸い半円状のバイザーがついたような、そんなヤツ。
なんか嫌な予感をしながらデータをポヨンと開けてみると……
案の定、カクンと項垂れる月丘。
一代目ルートに逆もどり。その銀ピカ二代目みたいなローダーになっていた。なんでもMk-2らしい。前の丸目バイザー型はデータ収集型で、此度のが完成版だとか。だが月丘にとってそんなんどうでもいいんだけど……目の部分が青いし。
(だから、なんでコレにこだわるのかなぁ……)
流石の温和な月丘も、いっぺんヤル研連中をシバいたろかと思うが、
『カズキサン、マァマァそんなグチは後にして、今はちょっと休んでて』
ここは素直に嫁の言う事を聞く月丘。しばし目を瞑って……
* *
プピプピッという少し大き目の電子音が目覚ましチャイムになって、居眠りから目を覚ます月丘。
「おっと……プリちゃん、何分ぐらい寝てた?」
『ちょうど一ジカン。で、私の作業も今丁度終わったトコロだよ。ナイスタイミングだね』
「そうですか。で、パイド社の発掘施設の様子はどんな感じですか?」
『小型のヴァルメを探知偽装かけて飛ばしたんだけど、一個師団ぐらいの規模の軍勢が、あの遺跡発掘施設を取り囲んでいるみたいだね』
まだちょっと寝起きの月丘で、眉間を指で揉みながら、
「一個師団ですか……戦車や中古の中露機動戦車もあるんですよね」
『うん。で、もう一部じゃ戦闘が始まってるみたいだけど、あの施設って大きくて分厚い壁に囲まれてたでしょ。あれに阻まれて、パイド社警備部の人たちも結構善戦してるみたい』
「え? パイドの警備部が、あの規模の国軍と戦闘ですか?」
一応はれっきとした民間企業の警備要員と、名目上は国軍が戦闘しているわけであって、これは体裁上でいえば、なんぼなんでも国際問題ではないかと思うわけだが、
「その点もさっきシラキ班長が調べてくれたんだけど、ブラジリア国政府がボツワナ国に猛抗議して、ブラジリア国の大統領令でパイド社警備部に国軍相当の権限を与えて反撃の許可を与えたんだって」
パイド・パイパー社は米国での活動が主だが、その総合本社機能はブラジルにある、ブラジルのドル箱企業だ。当然こんな状況になれば、そんな大統領令も出るだろう。さらに言えばパイド・パイパー社の警備部といえば、パイド・パイパーグループの一つである民間軍事会社だ。ブラジル政府とも契約を結んでいるからして、そんな大統領令も実行できる。しかもブラジル政府はかなりカンカンに怒っているようで、今のブラジル大統領の超タカ派の性格からしてそんな無理筋の大統領令にもサインぐらいするだろう。実際ボツワナ政府に相当な猛抗議をしたそうで、あまりにその様子が尋常ならざる状態だったので、米国が仲裁に入っている始末だ。
まあそれでもさすがにブラジル政府はこの遺跡がトーラルだとは知らないワケだが、ブラジル政府の政治家にもパイド社の袖の下は入っているだろうし、間諜も深く入り込んでいるだろう。そんなこんなでブラジルもだまっているわけもないということである。
「と考えれば……うーん、まずいですね……あの軍隊がインベスターの差金なら、ボツワナ軍関係者に、反スタインベック派のインベスター工作員が入り込んでいるという事も推測できますし、何も知らないボツワナ政府の普通の政治家は右往左往しているでしょう」
月丘は普通に国連安保理ものの出来事だと思うが、まあそこは井ノ崎達政治家の仕事である。そういうのは彼らに任せるとして、
「それでも下手をしたら、ボツワナとブラジルの戦争になりかねませんね……よし……プリちゃん、あのパイド社施設の空港はどうなっています?」
『健在ですね。あの壁のおかげでなんとかボツワナ軍の侵入を抑え込めていますから。っと、ちょっとまってください……』
プリルはモニターを睨みながら、
『あ、パイド社のヒコーキ使って、社員サン達が脱出しようとしているみたいですね』
「なんですって? チッ、それはマズイな。ボツワナ軍は一応空軍戦力も持っているんですよ。それに戦闘ヘリの運用も考えないと。迂闊に飛び立ったら撃ち落とされますよ。何か方法があってやってるのかな」
ボツワナ軍は一応ノースロップF-5戦闘機も運用している。もし此度のインベスター工作員に扇動されているのが陸軍だけなら良いが、空軍もその中に入っていれば、ちょっと面倒だ。
「大体状況は掴めました。プリちゃんは探知偽装をかけて、あのパイド社の空港へ強行着陸してください。私はこのまま当初の作戦通り、降下突入してスタインベックさんを見つけ出し、話をしてきます」
『りょうかいですっ。んじゃいくねっ』
プリルは操作パネルを華麗に動かし、栄鷲を成層圏から降下させた……
* *
ボツワナ共和国国境より東から侵入する飛行物体。
ステルス形状の先鋭的な航空機に、胴体と逆関節の足が生えたような機体。
その機体は脚部を鳥のように屈伸させて、巡航飛行モードの如き形態になり、モザンビークやジンバブエを事実上の領空侵犯をしながらボツワナ共和国方向へ邁進していた。この方向からの方が、遺跡施設へ行くには最短コースだからだ。
モザンビークのノーヴァ・ゴレガンを超えたあたりでモザンビーク軍の対空システムの稼働を感知したので、即座に対探知偽装をかける。
すると、モヤッとした透明状の物体の低高度をぶっ飛ぶ姿を、多数の人に目撃されてしまう。
モザンビーク軍がスクランブルを普通はかけるだろうと思うところだが、実はモザンビーク空軍は、この時代あまり稼働できる状態ではないのである。詳しく語ると長くなるので割愛するが、この国の諸事情で稼働できる戦闘機は殆どないのだ。
おまけにプリ子の探知偽装は完璧である。モヤモヤ状の透明物体な光学迷彩はほどなく安定して、なかなかに見破れないぐらいの透明形状をつくり、一路ボツワナ目指して邁進する。
『カズキサン、ちょっとマズくなってきたみたい』
「どうしました?」
『パイド社の防衛壁が一部崩されちゃったみたい。地上部隊が侵入しはじめたよ』
「んー……確かにマズイですね。せめてスタインベックさんがどこにいるかがわかればいいのですが」
『やっぱりアレ? 妨害装置?』
「そうです。以前ペルロード人の末裔云々の件で、本人から提出いただいた生体パーソナルデータがあって、それを使って所在を追えばスタインベックさんだけでも転送救出できるのですが……ロシアも厄介なものを発明してくれたもんですよ」
『トいうか、相手もそれを狙ってるんだろうね』
とそんな会話をしている間にボツワナ領空に入り、遺跡施設全体を見渡せるまで高度を上げる。
「……あのあたりの防衛線が崩れましたか!」
『パイド社警備部の人達も善戦してるけど、戦車や機動戦車が入ってきたらマズイよカズキサン』
「わかりました。では作戦通り私は降下します。しかしまさか飛行機使って脱出しようとは……いくらなんでも撃ち落とされる危険もわかるでしょうに……プリちゃん、予定にはありませんでしたけど、探知偽装解いて、空港に着地。栄鷲の姿を敵に見せて威嚇しつつ、あの旅客機を守ってください。そのまま飛び立ったら護衛を」
『カズキサンは!?』
「私はこのPVMCGのゼル造成機能と、このコマンドローダーのデータ装備があればなんとかなります」
『わかった。んじゃ気をつけてね。降ろすよっ!』
プリルは機体を逆さまにして、機体上部にある装甲化されたコパイ用の後部コクピットハッチを開ける。
すると月丘はシートベルトを解除して、対Ḡスーツのまま、身を空中に投げ出さす……そのままスカイダイビングのような体勢になるとPVMCGを作動させる。
対Ḡスーツが仮想素材転換されて一見すると理屈に合わないメカが月丘の体に装着していくようなCG処理の如き見た目の後、月丘専用(銀ピカ)コマンドローダーMk-2に彼は身を包み、背中から小型の斥力波動エンジンを搭載した戦闘機の翼のようなものが造成され、よくスポーツチャンネルなどで見る翼をつけたスカイダイバーの如く、パイド社の遺跡施設めがけて飛行降下していく。
勿論月丘はそんなどっかのドラマの諜報員みたいに軍事教練でスカイダイビングなんてやったことないので、着陸まではコマンドローダーの自動稼働モードにお任せである。当然ローダースーツが体の挙動を計算して、勝手に稼働するので、
「うわわわわわ! こ、これは強烈ですねっ! コッチの体なんてお構いなしですかっ! まぁゼル奴隷化された時に比べればスーツ内が快適なだけまだマシですけどっ!」
月丘はローダースーツの自動稼働モードで強制的に体を動かされている状態に強烈な違和感を感じつつも、そこはヤル研のテクノロジーを信じて着地までコマンドローダーに身を任せる。
しばし飛行すると、まあ想定内ではあるが、ボツワナ軍モドキの対空警戒網に感知されて月丘は地上から機関砲弾やミサイルの斉射を受けるわけだが、そこはローダーのシステムAIが月丘を振り回しながら、まるでどっかの金持ち兵器メーカーの社長が作った赤と金のパワードスーツの如き挙動で、対空兵器の弾道をビシバシと避け、ミサイルをチャフで撹乱し、ボツワナ軍の警戒網を突っ切ってパイド社の施設に突入していく。
ローダーの頭部装甲内のバイザー状モニターに、月丘ローダーが着陸する予定の箇所がマーキングされ、視界に入った。
ローダーは自動稼働状態で、うつ伏せ飛行体勢から体を引き起こし、背中の斥力推進機の推力波動を前方へ向けて放ち減速。その状態から脚をスケーターのごとく滑らせながら着地成功。なんか残心のようなポーズを取らされつつ、背部のウイングが霧散して消える。
【自動稼働システム、空挺降下モード終了。装着者の制御下に入ります】
強制自動稼働状態から開放されて通常モードに移行した月丘。銀ピカローダーに目の青い部分がギラリと光る。
壁を破壊して、突破してきたボツワナもどき軍歩兵部隊の前にヤル研連中が勝手に組み込んだキメポーズさせられて立ちふさがる月丘(ホントは立ち塞がりたくないのだが)
角度変えて二、三カットパース入れて顔を撮りたいトコロ。
普通ならここで名乗りを入れるんだろうが、そんなわけにはイカナイトコロで、一瞬お互い目が合い、「……」となって停止状態だったが、両者すぐに我に返り、ボツワナモドキ軍が即座に散開、銃撃を浴びせてきた!
二、三発、5.56ミリアサルトライフル弾を食らう月丘だが、その程度の弾丸なら、胸部に数発食らっても弾き返す。
ローダーの機動力に物を言わせ、車両の如き速さで横っ飛び。一回転すると停車してある重機を盾に隠れ、斥力銃を取り出し、速射モードで周囲を一斉射する。
それを察したか、即座に物陰に隠れる敵。手合図で月丘を包囲にかかる。
「!?」
月丘は兵士の中に白人が混ざっているのを見逃さなかった。フェイスマスクから少し覗く肌。
(こいつら……正規兵じゃない!? 傭兵ですか!)
動きも一般の兵士のソレではない。月丘やクロードクラスならわかるプロの動きだ。仲間同士のコミニュケーションも早く、即座に月丘は背後に回り込まれる。
それ以前に月丘の銀ピカローダーを見て、ここまで対処できるということは、もうその時点でボツワナの正規軍などではないと彼なら察するだろう。
だが今はそれを考えても始まらないので、周囲を見て味方をさがす。
するとバリケードを作って、以前来たときにスタインベックとランチを食べた社屋施設前で踏ん張っている警備部員が月丘の方を見てコッチへ来いと叫んでいる。
月丘は銃を斉射しながらバックパックのスラスターを吹かし、警備部員の方へとジャンプしてスタッと着地。
「あんた! その姿から察するに、トッキアーミーかJCIAの人か!」
銃声に爆発音響くこの場所、自ずと声も大きくなる。
「よくわかりましたね!」
「そんな格好してりゃな! ってか、ボスが必ず来てくれるって言ってたしな!」
「ボス? スタインベックさんですか! 彼は今どこに!?」
「遺跡だよ! 俺は良く知らんが、遺跡を爆破するって言ってたな! 何があそこの地下にあるのか知らんが、研究員達は、地球がひっくり返るお宝があるとかいってたけどまた埋め戻しちまうのか!? ってうおっ!」
砲弾が至近で着弾する。ボツワナもどき軍のBMP-1歩兵戦闘車から発射された、低圧砲弾だ。砲弾発射後にロケット噴進で加速してくる砲弾である。
「ボツワナ軍がBMP-1なんて持ってるかよ! 連中は一体何モンなんだ!」
警備部員が叫ぶと、それは確かに、と月丘も思う。ボツワナ軍のロシア製車両といえば、BDR装甲車ぐらいだ。
月丘は通信で上空を警戒しているプリルを呼び出す。
「プリちゃん! このあたりにドロイド兵をゼル造成できますか!?」
『状況は見てるよっ。おけ。その周囲にドロイド兵投入するねっ!』
しばし後、周囲にワイヤーフレームから高度なモーフィングがかかるような映像とともに、十体ほどのドロイド兵が送られてくる。
転送阻害装置がかかってはいるが、ゼル造成の投射と転送は、少しシステムが違うので、プリルは戦力をここに投入できた。
ドロイド兵は現在の陸上自衛隊仕様で、肩に無反動砲を装着し、軽機関銃を標準兵装として装備するメカメカしい等身大ロボット丸出しのものだ。
その戦力の登場に警備部員は目を丸くする。
「ここはこのロボット達にまかせて大丈夫です! あなたがたも下がって!」
「ミスターJCIA、あんたはどうするんだ」
「スタインベックさんを助けに行きます。まだ遺跡の中ですね!?」
「多分な。遺跡の爆破作業を確認すると言ってた。俺達は止めたんだが!」
「わかりました! あなたがたも適当なところで下がってください! 撤退手段は!?」
「特殊仕様のバローが数機ある! 俺達やボスに、地下にいた研究員もそれに乗ってズラかる予定なんだが!」
「わかりました!」
ゼル造成のドロイド兵は、それはもうどっかの元知事型アンドロイドのごとく、いやそれ以上にまるで人間のように反応し、遮蔽物に隠れ、やってくる敵に容赦のない反撃を加える。
防衛装備庁謹製のティ連AIシステムで動くそのドロイド兵に、並の人間がかなうわけもない。
だが基本は十体だ。どこまでこの場を抑えられるか。敵もプロであるからして、早々やられっぱなしというわけでもあるまい。
* *
そうこうしていると、やはり防衛装備に施設の整った民間企業のPMC的警備部とはいえ、ここまで重装備の軍事組織に対してそうそう持ちこたえられるわけもなく、徐々に遺跡施設周囲を囲む屈強頑丈な壁も破壊されて、ボツワナもどき軍が入り込んでくる。
脱出用旅客機が駐機し、脱出人員の搭乗がようやく終わった空港にも敵は接近しつつあった。
「(これはもう私も推参しないといけない状況ですねっ!)」
とプリ子もドロイド兵投入だけでは兵を維持するゼルパワーにも限りがあるし、限界かと判断。
対探知偽装、即ち光学迷彩を解いて、栄鷲を地上戦形態へ変化させ、着地体制を取る!
まるで猛禽類が獲物を脚部で鷲掴みにするような勢いでプリルは進撃してきた旧式のPOT-116機動戦車を栄鷲の脚部で戦車直上から握り潰すように着地を行う。
まるで航空機を頭部に頂いたハーピーの如きメカは、脚で掴んだ機動戦車をサッカーボールを蹴るがごとく放り投げクラッシュさせる。
中から搭乗員が慌てて逃げ出してきたが、煙を吹いていた車両は一寸間をおいて爆発した。
プリルはすかさず右腕部に保持しているブラスターライフルを地表周囲へ斉射。地上への着弾煙で煙幕を作り、周囲を撹乱する。
『プリちゃん、姿見せたの!?』
『うん! あのスタッフを乗せたヒコーキが“たきしんぐ”? だっけ? それして飛ぼうとしてるみたいだったから!』
『ホントですか! ホントこの状況で無謀な……』
とそんな会話をしていると、本格的に敵が壁を破ってきたようで、この空港にも砲弾の流れ弾が飛んできた。
その中の一発、恐らくRPG系のロケット弾が、パイド・パイパーのスタッフを乗せた旅客機に向かってすっ飛んでいく!
『マズイ!』
とプリルは叫んで栄鷲の機種先端に付いている斥力機関砲をロケット弾へ向けようと腰部を旋回させるが間に合わず、命中! こんなものが旅客機ごときに命中すれば……とプリルは思わずしかめっ面で目をつむり、刹那片目だけ開けてモニターを観るが……
『あ、あり?』
なんと! その旅客機、つまりスタインベック専用の旅客機はピンピンしており、シールドを展開してロケット弾を防いだのだった!
* *
「……え? ホントですか、プリちゃん」
『う、うん、シールド展開して防いじゃった……で、今滑走して飛んでいったよ。ムセンで感謝するとか言ってたけど……どうする? 追っかけて護衛する?』
「お願いします。せめてボツワナの領空を抜けるまでは。まだ心配ですから」
すると横から白木の通信が割り込み、
『プリ子、月丘の言うとおりだ。ボツワナの国境越えるまで護衛してやれ。カグヤを特危さんに頼んで動かしてもらったから、国境まででいい。その後はあの艦の航空隊が護衛してくれるよ。で、日本へ誘導する。無理やりにでもだけどな』
『わかりましたっ、んじゃそういうことなんで、カズキサンちょっと待っててねっ! 護衛したらすぐもどってくるから』
「こちらはパイド社警備部の人もまだいますから、私だけでなんとかなります。頼みましたよプリちゃん」
了解と張り切ってパイド社旅客機の後を追うプリルの栄鷲。脚部を鳥のように折り曲げて引き込み、VTOLで離陸して反転加速。パイドの旅客機の後を追う。
「すみません班長。カグヤが来るって言ってましたが、応援ですか?」
『おう、俺も今、双葉基地の指令センターにいるんだけどな、おまえらをずっとモニターしてたけど、こりゃ諜報とか、もうそんな状況じゃねーな』
「はい、もう完全に戦闘状態に入っています。やはり敵の目的は、あの遺跡の接収みたいですね。そんな動きです」
『ということは、もう完全にそいつらはボツワナ軍じゃないな。確か他にあの情報知ってるのは……シャオとかいうオッサンしかいねーか、俺達の関係者以外は』
「ということですね」
とはいえ現状は今の状況をなんとか打開して、とにかくスタインベックと接触することだ。
『カグヤから今、大見達が発艦した。あまり大人数の部隊は出せないが、八千矛隊がいけば心強いだろ』
「八千矛隊? まさか大見司令直々ですか!」
『ま、そういうことだ。俺のコネだ、感謝しろよな。ということで後は頼んだぜ』
「了解です」
通信を切る月丘。スタインベック専用機にシールド機能が備わっているという事実は、話がややこしくなるので報告はしなかったが……
(そんな技術を民間企業がどうやって……シールド技術はまだ各国政府や軍向けのブラックボックス貸与しか制度がないのに。まさかゼスタールが供与してるのですか?
確かにティ連へ加盟する前のゼスタール合議体と世界各国の裏取引で技術情報を得た可能性はありますが、あれからゼスタールがティ連へ加盟して地球への技術供与協定基準に準拠するまでそんなに長い期間ではなかったはず……)
本当に何でも知ってて、どこから情報集めてくるのか。どこまで間諜を飛ばしてるのかと謎の多いパイド・パイパーの技術だが、まあとりあえずそれはスタインベックを捜し出して、この騒動が一段落ついてから聞くしかないかと思う月丘。
そう考えると、思考を切り替えて本来の任務に戻る。
遺跡発掘現場の地上施設区画には、“壁”を突破したボツワナ軍モドキ、まあもう言い方を変えると、『インベスター(反スタインベック派)の賄賂で動いた陸軍部隊と傭兵連中』が、徐々に占領域を拡大させている。
一応は外国の民間施設だが相手が相手だ。ブラジル政府公認の軍隊まがいな警備部を持つような、巨大国際企業だ。このような事態になって、ボツワナ政府も今、大混乱になっているだろう。
月丘は迫りくる敵を確実に排除しつつ、スタインベックがいると思われる、例のエレベーター施設へと急ぐ。
だが先回りしていたボツワナ軍の『SK105キュラシェーア軽戦車』に行く手を阻まれる。
フランスのAMX軽戦車に似た形の、オーストリア製の軽戦車だ。
独特の機能を持つ揺動砲塔、が歩兵部隊を一方的に蹴散らしている月丘に狙いを定める!
だが……
「そんな軽戦車でねっ!」
月丘は背部スラスターを吹かして大きくジャンプすると、SK105の105ミリ砲の一撃を軽々とかわし、肩からどっかの狩り好きなエイリアンがよく使う小型のブラスター砲みたいなのをせり出させると、キシュン! という発射音一閃、軽戦車のエンジンルームを貫いて、行動不能にする。
慌てて中から飛び出して脱出してくるボツワナ兵。この装備はボツワナ軍の正式装備なので、この兵は正規のボツワナ兵だろう。
月丘は更にリパルションガンを射撃しつつ、牽制しながらスラスター機能を存分に使って建物の上をジャンプで頻繁に飛び移り、エレベーター施設を目指す。
どうもこの月丘銀ピカローダーMk-2 型は、今までのものよりも空中戦機能を標準化しているローダーのようだ。
彼は地中掘削用の化け物みたいにデカいボーリングマシンのてっぺんに着地すると、周囲を見回す。
するとローダーに搭載されたシステムが見つけた目標をロックオンし、ピコピコ点滅させて、別ウィンドで目標発見を通知する。
(スタインベックさん! 良かった。無事でしたか)
だが何か手を大きく振って、退避を促しているスタインベック。服装はあの時の作業着を着用している。武器を持っているようには見えないが……
月丘はスタインベックの逃げる方向の反対を見ると、スタインベック達を追う、ボツワナ正規軍とは比較にならない高度なUSSTCばりの『将来歩兵システム』のような装備に身を包んだ連中がスタインベックを追って……いや、エレベーター施設に接近しつつあった。
「よし」
月丘はスラスターをまた吹かすと、スタインベック達が逃走する先に着地。その銀ピカローダーの姿にさしものスタインベックも尻もちつきそうになって急停止。
即座にスタインベックを護衛していた警備部が彼をかばうように前へ出て、銃を構えるが!
「あ、あ、あ、ちょっと待って待って! 私です、スタインベックさん!」
月丘は頭部ヘルメットのみ、どういう構造か不明なCGの如き収納アクションで、取り外し、素顔を見せる。
「え!? ツ、ツキオカさん! あらまぁ!」
スタインベックは警備部員に銃を下ろすように言うと、再会を喜ぶわけでもなく、
「は、話はあとあと! 逃げて逃げて! 退避よ! ツキオカさんも!」
月丘の背中を押して、とにかく逃げろという。
付きそうスタッフや警備部も同じく「そうだそうだ」というような表情で逃げるわ逃げるわ
「え? あ? い、いや一体って、ちょっとまってください!」
月丘も銀ピカローダーで素顔見せながらつられて走り出すが、スタインベックが右腕に付けた腕時計をチラと見て、
「あ、あと一〇秒よーー!」
と叫び、感覚で月丘もわけが分からずにカウントダウンを感覚で数えて……ゼロのタイミングで!
ドガーーーーンと地揺れを伴う豪快極まる爆発音に、軽いキノコ雲を立ち上らせて、逃げてきた反対方向、即ちエレベーター施設が大爆発を起こした!
「うおあああああっ!」
猛烈な爆風にすかさずヘルメットを造成させる月丘。ただちょっと立ってられない。
スタインベック達も身近にあった大型遮蔽物に身を隠しているようだ。
「ま、まさかスタインベックさん、本当に遺跡を爆破したのですかっ!?」
この状況で拡声機能の音声を上げて叫ぶ月丘。するとスタインベックと、科学者と思わしきスタッフが、なにか叫んでいるが、聞き取れないまでも手を左右に振って「ちゃうちゃう」と否定しているようだ。んで、スタインベックがこっちゃこいと大振りの手招きをしている。
追手の敵は、この爆発に警戒をしたのか、一旦下がったようだ。
その後退を見計らって月丘はスタインベックの側へ。
挨拶もすっとばして、
「勘違いしないでねツキオカさん。あの貴重な人類の宝といってっもいい遺跡を爆破なんてするはずないでしょう」
「いやでもさっき一緒に戦ってくれた警備部の人が、ボスが遺跡爆破するとかそんな話してましたけど」
「そうじゃなくて、『あの遺跡に通じる二〇〇〇メートルのエレベーター』を爆破したの。二〇〇〇メートルもの地下に続くエレベーターよ。あれを粉砕されたら敵もどうしようもないでしょ」
スタインベックはエレベーターのみ爆破して、地下の大空洞へは誰も行けなくしてやったと話す。
「はあ、なるほど……で、ほとぼり覚めたらまたエレベーター掘りですか。大変ですね」
「何をいってるの。パイド・パイパーが安保調査委員会に入れたら、ヤルバーンの転送装置が使えるでしょ。それで行き来したらいいじゃない。日本やティ連の科学者連れてね」
片目を瞑るスタインベック。ってか、もう安保調査委員会に入ることが既定路線かい! と思うが、まあ今はいい。
「お聞きしたいことはまあ山ほどありますが、ここは一旦下がりましょう!」
「そうね、みんな! って……あ……」
銃声が轟く。同時に、スタインベックが……倒れる……
「!!! スタインベックさん!」
「スナイパーーーー!」
パイドの警備部員が叫ぶと、月丘は即座にパーソナルシールドを広域展開する。
「スタインベックさん! スタインベック! おい!」
大きな声で叫び、意識を伺うが、半口開けて動かないスタインベック。
すると、胸から赤いシミが見えた。
「胸を撃たれた!?」と警備部員が叫ぶが、月丘はコマンドローダーの緊急衛生処置システムを作動させ、システムにスタインベックへの的確な救護措置を命令する。
【救命キットからサボール剤を投与し、PVMCGの強制止血壁を血管へ投射、緊急医療ハイクォートを稼働させます。血管バイパス処置を……】
基本月丘のPVMCGはゼル機能のみの装備だが、サバイバルツール関係のみ、簡易ハイクァーン機能が備わっている。ただし数回しか使えないが。
と、システムの言われるがままに処置をする月丘。撃たれた箇所が心臓に近い大動脈をカスっていた。恐らく地球流の救命措置なら、数十分で死亡確率が六割を超えるぐらいの重症だ。
だが流石はティ連の救命キット。即座に止血処置が終わり、傷ついた血管を応急修復する。
「う……うう……」
その声に月丘は、
「意識がある! よし……あなた、担架は!」
「今持ってきた! ボスは助かるのか!?」
「わかりませんが、希望は充分あります。しかしスタインベックさんならPVMCGモドきで、って、え?」
月丘はスタインベックの腕を見ると、彼がいつも左腕につけているPVMCGモドキを付けていない。あれがあれば狙撃銃の弾丸ぐらい弾き返すはずだが、付けていないとなれば論外だ。
「スタインベックさんの、いつも付けているあのブレスレットみたいなのは?」
「ああ、あのすごい機械か。あれは航空機で脱出させる時秘書に、なにか説明して持たせていたみたいだが」
なるほど……と項垂れる月丘。プリルが言っていた、RPGを弾き返したのは恐らくそれだ。多分、脱出用の旅客機に、スタインベックのPVMCGモドキの性能を拡張させるマシンか何かを積んでいたのだろう。あの飛行機はスタインベックの専用機だし。
担架を用意した警備部員は車を用意してきた研究員らとともに、先の警備部員が言っていた、『V-280バロー』という垂直離着陸ティルトローター機の特別仕様機まで諸氏連れて脱出と、そんな算段でいこうと言うはずだったが、
「ダメだ、バローの格納庫に行くまでに敵がワンサカいる」
「突破するしかないか」
「でもボスを積んだまま、あらっぽい運転をやるわけには」
と話している最中にも、あの大爆発で一旦引いた『将来歩兵システム』みたいな
連中が追ってくる……のだが、その中に!
「あれは……李方博!」
あの李方博が部隊の指揮を取っているようだ。部下と会話しながら部隊の散開を指示している。
月丘は聴音機能を最大にして、李の会話を聞こうと試みると……
「……俺がさっきスタインベックの野郎を始末した。とにかく死体を捜して死んだのを確認しろ、ミスター・シャオに報告しないといかんからな」
その言葉を聞いた瞬間、怒りが込み上げてきた月丘。別にスタインベックに何か義理があるわけでもないが、李があーいうことをいうと、PMC時代に、自分があいつにやられてきた諸々もあって……キレた月丘。
「警備部員さん。ここは私がなんとかします。みんなを連れて行ってください」
「あんたはどうする、って、おい!」
警備部員の言葉も聞かずに、スラスターを吹かしてジャンプする月丘。「あ……」と警備部員は思うが、それよりもけが人優先なので車をバローの格納庫へ向けて走らせた。だがこっちもこっちで敵中突破の可能性もあるので、油断はできないのだが……
* *
「どうだ見つかったか?」
「いや、見つからんな。本当に始末できたのか?」
「手応えはあった。だが頭は外したがな。しかしあの弾丸食らって無事に済むとは思えん。息があったとしてもそんなに遠くには行ってないと思うぞ。脱出できそうな場所をすべてあたってくれ」
仲間のボツワナ軍の格好をしたPMCとおぼしき人物と会話する李方博。
「で、ミスター・シャオが狙ってたもう一つの目標だが、エレベーター棟はどうだ?」
「完全に吹っ飛ばされてるな。あれは修復以前の問題だ。その地下二〇〇〇メートルか? そんな場所に行くのなら、鉱山会社を経営するぐらいの資金がまた必要になるな」
「クソッ、スタインベックめ、いらんことしやがって。で、あと一つだが、日本の諜報部が介入してきているとか言う話だが、その後はどうなっている」
「なんかまたすげーメック兵器使って、パイドの社員の脱出を手助けして空港から飛び立っていった言う話だ。で、なんでも他に銀ピカのヒーローみたいなやつがそこらじゅうでウチの部隊を蹴散らしてるって言うが、何もんだありゃ」
「何? 銀ピカのヒーロー?」
その言葉にまさかと思う李。だが、そのヒーローはこいつらが疑問に思う刹那に、すでにその姿を顕現させる!
李の部隊が制圧したエレベーター施設一帯に断続的な爆発音が起こり、一斉に李の部隊の銃声音が轟く。
「隊長! な、何か訳のわからないやつが突っ込んできて暴れています! 何かギンギラした強化服みたいなのに身を包んで!」
部下の報告を聞いて、もう確信した李。ちょっとこいつはまずいという顔をして、部下に耳打ちしてなにか指示を出す。
部下は頷いて後方へ下がる。
だが、撃ち合う銃声に、何か聞いたこともない発射音の混じったソレは、段々と近づいてきた。
「後退! 後退だ!」
えらい化け物でも対峙したような必死の形相で後退射撃をする李の部隊。
目標を見失った兵士達。爆炎と砂埃舞う現場に、同士討ちを防ぐために射撃停止を叫ぶ声が響く。
李もその現場へ向かうと、砂煙が風に流され、、人影が見える。
次第にはっきりするその姿は、仁王立ちで、少し頭を傾げて李達に対峙する、月丘専用銀ピカコマンドローダーMk-2だった!
『李方博さん! お久しぶりですね!』
コマンドローダーの拡声機能を上げて叫ぶ月丘。
「やっぱりお前だったが、JCIA!」
その言葉に、朝鮮人民偵察総局の腕やコネをもってしても、月丘の実名を把握できていないと察する彼。流石はティ連の情報保全システムである。
『てっきりあの時、情けない声上げてくたばったと思ったのですが、しぶといですねあなたも』
月丘にしてはらしくない挑発の言葉を投げかける。
まあ、親しいわけでもなく、方法論は違法スレスレのモノもありはしたが、この男は世界に貢献していた人物に手をかけたわけで人として許せるものではないそんな感情を込めて話す月丘の言葉。
その言葉にカチンとくる李だが、部下に目配せして、
「おかげさんでな。あの手の現場は今までになかったわけでもない。まあ、あの配線ぐるぐる巻のゾンビみたいなのは参ったがね。で、スタインベックをどこかにやったのもお前の仕業か?」
『そんなものに答える必要はありませんよ。本来任務にはありませんでしたが、世界中の諜報機関やPMCからウザがられているあなたに、“インベスター”にまで入り込んで暗躍されたらたまったもんじゃありませんからね……』
インベスターという言葉に、その背景までやはり知っているかと思う李。これは早々にこいつを消さないとと思うが、
『これ以上あなたに世界をかき回されるのもウンザリですんで……ここで消えてもらいます』
なんと、月丘から殺害予告である。どっちが悪役かわからない状態。
どう見ても月丘の方が正義の味方の格好だが、そんな言葉を言い放つ。
「チッ!」
と李は舌打ちすると、「やれ!」と命令を出す。
するとこの会話の間にも配置転換を即座に済ませたボツワナ軍モドキのPMC軍団が、戦闘車両や最新の兵器を存分に擁して月丘一人を迎え撃つ。
一斉射撃が始まった!
まさにティ連、というかヤル研技術VS地球のその他最新軍事技術の激突である!
同時に現場はPMCに任せて退避をする李を、月丘のバイザーシステムが見逃さなかった。
(逃しますか!)
とはいえ、さしもの月丘ローダーも、プロの兵士が扱う『将来歩兵システム』に、最新の戦闘車両相手の中隊規模の部隊相手では、対抗できはするが防戦必至にならざるを得ない。
(ここはサイドカーを持ってきておくべきでしたか? 重攻撃兵器がない分、車両相手がめんどくさいですね)
リパルションガンを戦闘車両に食らわしても、被害を与えることはできるが、流石に吹っ飛ばすとまではいかない。兵装を破壊して機能を奪うわけだが、先の肩部についたブラスターキャノンみたいなのは、一発撃つとチャージに時間がかかるので、連射ができない。ここぞという時の虎の子だ。
そしてこの戦いには、スタインベックを乗せた車を、無事にバローまで運ぶ時間を稼ぐ意味もあるので、月丘に対峙する奴とスタインベックとスタッフを追う奴二つに気を配らないといけない二面戦闘の要領も必要になる。
だが、月丘は李方博を追いたいが……
(クソッ! 数が多すぎる! 抜け出せませんね! プリちゃんが戻ってくるのもしばしかかるでしょうし……)
と、そう思った刹那! 上空から地上を掃射する曳光が無数にほとばしる!
「え?」
空を見ると、特危自衛隊の通称『八千矛迷彩』のカラーに包まれたコマンドローダー小隊がスラスター降下して一帯を射撃制圧にかかった!
ローダーの中には、L型以外に、M型ローダーと重兵装のH型が随伴しており、H型は、数々の戦場で見せた『サイドカー装備』即ちあの対大型ヂラール用の、片側車輪付き機動砲を取り付けた奴がやってきた。
『月丘君! 応答しろ!』
通信が入る。その声にはもちろん聞き覚えがある。
「大見司令!」
ちょっと集中攻撃受けてて、瓦礫を被ってた月丘が大見のローダーを見つけて手を挙げる。
『おう、無事だったか!』
「良いタイミングです。助かりました」
『状況はオープンの量子テレポート通信で把握している。って、えらいタンカ切ったな、月丘君。ヘリ(チヌークTR)で、部隊の連中が「おお~」とか言ってたぞ』
「あの言葉は本気ですよ。真面目な話、インベスターに李方博が加わるのははマズイです。混乱が増えるだけです」
『わかった。後追うか?』
頷く月丘。
『了解。そっちはそっちの管轄でやってくれ。人を何人か貸そう』
「あいえ、ここは私一人で大丈夫です、無茶はしません。こちらもスペクターチームがバックアップしてくれていますから」
『そうか』
と頷く大見。私怨の片棒を担がせたくない月丘の配慮は理解している。
「あそうだ司令、スタインベックさん等は」
『そちらは保護したよ。ここに来る途中で発見してね。スタインベック氏の様態もまだ不明だが、なんとか助けてみせるよ』
「ありがとうござます。では」
ピっと挙手敬礼すると、大見も敬礼を返す。
月丘はスラスターを吹かして、李方博の後を追った……




