【第一二章・スケールⅣ】第七一話 『発達過程文明』
北朝鮮人民軍偵察総局工作員。
忌避の意味を込めて、世界から『何でも屋』の悪名を持つ工作員、『李方博』という男。
まだシビアが総諜対の仲間になったばかりの頃、当時国連で管理され、日本以外の国が外交交渉で合法的に入手することのできた異星人のオーバーテクノロジーデータが入ったSSDを、技術分配の非対象国であった北朝鮮が、この男を使って盗み出したという事件があった。
その際、事態の収拾をするために派遣された月丘とシビアとプリルが、この男達と対峙し、月丘達によってこやつらはあの時、海の藻屑となって消えたはずであった……と思ったのだが……
「ツキオカさん? どうしました?」
『どしたの? ケラー』
『???』
スタインベックとメイラにプリルは怪訝な顔をして、月丘に話しかける。
プリルはあの時、『機動兵器 海襲』に乗っていたので、李方博の顔は知らないし、李方博もプリルやメイラの事など知らないだろう。
ある意味今のパートナーがシビアでなくて良かったと思うが……
月丘は、チラ見で李の方を見ながら、彼の視界から離れるように、さりげなく奴と反対方向の物陰へ歩いて、隠れる。
で、チョイチョイとスタインベックに指で『こっちゃこい』というジェスチャーをすると……
「スタインベックさん、あの東洋人の男は何者ですか? あなたの表情を見る限り、あまり良い感情を持ってないような感じですけど」
「はは、流石ツキオカさんには隠し事はできませんわね……あの男はデイビッド・シャオ。この名前聞いたことない?」
「デイビッド・シャオ……デイビッド・シャオ……ああ! 確かシンガポールに本社のある、シャオバンクグループ総帥の!」
「そそ」
「でも、デイビッド・シャオといえば、もっとイケメンで若い男性だったと……」
「ウフフ、世間一般の人々が知っているアレは影武者ね。あの男が本物のデイビッド・シャオよ」
えっ!? と思い、また、はぁ~、そういうことかと思う月丘。そんでもって、なるほどこれこそが『グレー組織、インベスター』か、と。
世間で知られている表の顔と裏の顔は全然違う。今そこにいるデイビッド・シャオは、TIME誌なんかに出てくる爽やかイケメン華僑とは似ても似つかない、太いフレームのメガネをかけた、中年の中肉中背なアジア人のオヤジだ。
そんなのが影武者使ってビジネスやってるとは、と。
「その事知ったら私、消されるんじゃないんですかぁ? 普通は」
「オホホ、それは私が今、勝手に教えた情報ですわよ。向こうはそんなこと知りゃしませんし……ま、仰る通り、私もあの男の事はあまりね……で、ツキオカサン、それがどうかしましたの?」
「いや、ではスタインベックさん、あのシャオ氏の隣に付き従っている男は誰かご存知で?」
「いえ……最近よく目にする男ね。素性は全く知らないわ。まあひと目見て胡散臭そうな男なのはピンときたけど……また新しいボディガードでも雇ったのかしら? ぐらいにしか」
胡散臭そうなのって……アンタが言うか? と噴きそうになるが、まあそれはおいといて、
「あの男は李方博と言いましてね、実は……」
スタインベックとメイラに説明する月丘。プリルも当時の作戦には従事していたので知ってはいるが、先の通り直接見るのは初めてだ。
「えっ! それは本当ですの?」
「ええ。なるほど、インベスターほどの組織でも、あの李に関しては追えていませんでしたか。流石は人民軍偵察総局で名の知れた工作員だけはありますね」
月丘の話を聞いて、今まで明るい表情だったスタインベックも流石に少し眉間にシワが寄る。
メイラも地球に来て、北朝鮮という国がどういう国家かというのはもう流石にわかっているので、少し目つきが変わる。
「やはりツキオカさんに来ていただいて正解でしたわ。そんな情報をおしえていただけるなんて」
「……やはりあの遺跡に北はまずいですよね」
「それは勿論」
なんせ今はなき黒電話をヤッたのは、当のインベスター組織だ。だが、スタインベックはちょっと待てよと思う。
「ツキオカさん、でもお話のようなイザコザがあったのなら、あの李とかいう工作員は、北に帰っても粛清されるだけのなのでは?」
奴の姿、今の奴には、顔面に大きな傷跡があり、スカーフェイスな面構えになっている。そんな容姿を見た時、実は月丘もスタインベックと同じ考えを持っていた。
おそらくあの傷は、シビアと月丘が、李と戦った時に付いた物だろう。
「そう思いますか……実は私もですよ」
するとプリルが、
『んじゃカズキサン。私がカイシューでケチョンクソにやっつけた工作船母艦が大爆発を起こしたあの時、あのヤローはなんとか逃げられたってコト?』
「そうなりますね」
驚くプリル。彼女は彼女で、総諜対専用機動兵器『海襲』で、その北の工作船母船を襲った。それはもうモンスター映画ばりに船の上に乗り上げて、ブリッジから何からボコボコにしたわけで、あの状況から脱出するとはスゲーなと思う。
メイラも、話の流れを大体つかむと、
『ト、いうことは、奴なりの裏のツテで、ノースコリア国の工作員を抜けて、あのシャオという男に取り入ったと言う感じかしら? ケラー・スタインベックが仰るように用心棒みたいなところで』
「まあおそらく今現在の奴はメイラさんの言うことがアタリでしょうね。でも……」
『でも?』
「ここの情報を北の中央へ手土産に持って帰って返り咲き。よしんば朝鮮労働党の幹部に……なんてのもあるんじゃないかなと、私なりに妄想するんですけど……まあ、李とはそんな男ですよ。今は幸いなことにあの独裁者一族の権限や影響もないに等しいあの国ですから、そんなことも考える事ができるはずです」
それをボディガードに雇うというのも、シャオという男がそこらへんも見越しているのかそれとも知らないのか。だがインベスターという組織である以上は、シャオの周辺にいる参謀なり、施設警備の連中なりも相当に優秀であろうから、対応はすると思うんだがとも思いつつ……
「まあ~、総諜対の私がインベスターの幹部なスタインベックさんにご忠告するような話でもないですが、あんなのを雇うシャオ氏も、何かね」
わかるだろ? 言いたいこと。というような目と言い回しでスタインベックに同意を求めると、彼も眉を動かして同意する
といっても、このスタインベックも、何企んでるのかわからん男なので、そのあたりも考えての想定で、ここは話をしなければならない。
で、スタインベックが月丘の話を聞いて、今『マズイ』と思っているのは、あのシャオが何を考えてるか? というところだ。
「まさかとは思うけど、あのシャオの奴、北の連中を後ろ盾に何か企んでいるという事はないでしょうね」
月丘もそれは、この数分の間に選択肢の一つとして考えた。可能性としてはありえる話だ。つまりシャオのようなインベスターの大物と、北をつなげる橋渡し役になれば、李も実績となり、北でまた偉そうな立場に返り咲ける。
しかもこのトーラル遺跡の件となればなおさらだ。なんせこの遺跡は、もうまったく稼働しないトーラル遺跡ではあっても、それを地球上で発見したという主導権を持ち得るだけでも、世界に対するアドバンテージは相当なものになるからである。
国連はもとより、ティ連とも対等交渉可能となる要素も十分にありえるのだ。
月丘は最初この遺跡を見せられた時、スタインベックはおそらくそのあたりをネタにして、世界に対峙しようとしているのではないかと頭をよぎった。
それに彼はペルロード人の末裔だ。何を考えてるかわからないが、その思考は月丘などの凡人が考えるより、もっとトンデモ方向に飛躍するようなところだろう。
だが、あの李のボケが生きて今ここにいることで、何やら事がややこしい方向に方向転換しそうな気になってきた月丘。
「スタインベックさん、一つ確認ですが、ここは貴方の会社の施設で、あのシャオ氏はただのゲストなんですよね?」
「それは勿論。ですが……彼も幹部ですから、そこは私達の事情というのもありましてね」
「互いの相互監視ですか?」
「まあ、そんなところもあります。ですので、彼らがやってきても帰れとはいえないところもあります。それにこの社内にも、インベスター内部派閥の各間諜がウヨウヨいますしね。でもまぁ私のところだってそういうのを送り込んでますし」
それはそうだろうと思う月丘。でないと国連から日本政府から、あそこまで情報がダダ漏れにはならんだろと。
* *
ということで、現状月丘が李に身バレしたら大変困るので……それこそ殺し合いが始まるレベルで……スタインベックに「こっちこっち」と連れ添われ、何人たりとも立入禁止の研究室に押し込まれる。
「あいやスタインベックさん、関係者以外立ち入り厳禁の場所に私達を押し込んじゃっていいんですかぁ?」
「あなた達は別に良いですわよ。だって当のトーラルシステムを熟知してらっしゃるんだもの。むしろこの研究室で扱ってる遺跡の発掘物を見て、研究員にアドバイスして欲しいわ。特にプリ子さんと、メイラさん」
『はあ……』とハモるプリルとメイラ。
で、スタインベックは月丘の話を聞いて、おおまかな月丘と李と、スタインベックとシャオの関係を連想するに、月丘達とシャオ達を接触させるのは自分にとっても色々とマズイと理解したのだろう、
「少し私がシャオの相手をしてきますわ。それまでここの研究室の遺跡発掘物でも見学しててください」
「すみませんね、私の存在がご迷惑おかけしてしまってるみたいで」
「いえいえご迷惑どころか偶然とはいえ有益な情報を頂いて感謝してますわ。では……」
そういうとスタインベックは少しため息つきながら部屋を出ていった。
『大変みたイね、インベスター内部の派閥抗争って奴』
と、メイラが腕組んでそんな一言。
ま、ここにいれば問題ないというのであれば、遠慮なくこの研究室にある遺跡発掘物を見学させてもらう月丘達。
月丘はこんな考古学は全く専門外も専門外。発掘物を見ても何がなんやらさっぱりわからない。そこんところはメイラも同じくだが、そこは流石学のあるプリちゃんで、その発掘物を見るやいないなや、爛々と目を輝かす。
『こ、こりは……! もしかしてこの洞窟に生息していた生き物の化石ですかっ?』
とプリルが問うと、そうだと研究員は答える。
「まあそりゃ、数万年前の遺跡っていう話なんですから、生物の化石が出てきても別段不思議じゃないですよね」
『イエイエちょっと考えてみてよ、カズキサン。ここって地下二〇〇〇めーとるの深さなんだよね? そんなところに普通生き物なんていると思うっ?』
「え? あ……いや……そうか確かに……」
『え? いるんじゃないの? イゼイラにはあのクソツァーレからなにからウジャウジャいるけど』
『もう、ケラー・メイラ。そんなイゼイラの特殊すぎる例を出したって参考にならないじゃないですかっ。あの星はおもいっきり変わってるんですから』
そうなんだと、メイラはよくわからん顔をするが、確かに一般的な地球型惑星を基準に考えれば、地下二〇〇〇メートルもの坑道レベルの深さに生物なんて存在しないだろう。そこにこれだけの生物の化石が陳列されている……確かに少しおかしいと思う。まあとはいえ地下二〇〇〇メートルの世界に生物が全くいないわけではない。いるとしても、微生物、つまり細菌の類である。そこは誤解なきように。
『実はねカズキサン、今ティ連の考古学者や、トーラル工学者が考えてる仮説があるんだけど……ティ連の、トーラルの発見で発展してきた文明圏って、実はその星の知的生命体の進化にトーラルが関わってるんじゃないかって、そんな話が出てるんだよ』
「トーラルが、生物の進化にですか」
するとメイラも、
『あ、その話私モ聞いた事がある。でもそんなことをトーラルがして一体何の意味があるんだ? って、学会ではあまり支持されてなかったって聞いたことあるけど』
『んー、まあそうなんですけどね。イゼイラでも初期の帝国文明からトーラルとの接触まで数万年かかってるわけだから、生物の進化となると、もっと気の長い話になるわけでしょ? そこんところどう説明するのとか』
すると、三人の話を聞いていたパイド・パイパーの研究員がやってきて、
「でもその話はなかなか興味深い話ですよ」
「と、言いますと?」と月丘。
その研究員と握手をする。互いに軽く自己紹介。
「ああ、あなたがJCIAの。スタインベックからよくお話は伺っています」
「ん? スタインベックさんと皆さんは、良くコミニュケーションを取られるのですか?」
「ええ。仕事の話に熱が入ると、食堂に集まって議論したりしますよ。みんなボスの事を尊敬しています」
へー、と思う月丘。プリルやメイラも意外なスタインベックの姿に意外そうな顔をする。
インベスターという組織を考える時、なんかのスパイ映画に出てくる秘密組織の親玉級な人物となれば、部下を奴隷の如くコキ使って失敗には死をとか、床がいきなり開いて始末されたりとか、変な改造人間でも作ってんのかとも思ったりしていたが、なんか社員からは結構な愛されキャラなんだなと意外に思う。
まあ確かにその素性は、月丘達だけが知る異星人の末裔となれば、その目的が大いに謎なだけであって、所謂悪人かどうかとは別問題ではあるが、彼らが国際社会に与えている影響は正直看過できない……というよりも、黒電話の一件のような、モノによっては犯罪級のものも実際にあるので、そこは切り離して考えないといけないのではあるが……
「それで先ほどの、“興味深い話”がどうのとかいう事ですが」
「そうそう、その話ですが、えっと、皆さんは【ミッシングリンク】という言葉をご存知ですか?」
「ミッシングリンクですか。確か、生物の進化を考える時に、本来ならその過程において存在しないといけない証拠となる化石や何かが発見されない進化の矛盾した時間軸、とか、そんな話だったと思いますが」
「ですね、よくご存知で」
月丘も一応は大学卒である。まあ考古学になんぞ全然興味がないとはいえ、大学の自然科学一般教養課程で、これぐらいのことは知識として学んでいる。でもこの程度で、それ以上のことはわからない。
「ここにある生物の化石なんですけど、私達が驚いているのは……実はですね、全部新種、すなわち新発見のものばかりなんですよ」
「え? どういう意味です?」
研究員が言うには、そもそもこんな場所で動物の化石が見つかること事態が奇妙である事に加えて、見つかる化石のすべてが古生物学者に言わせれば、全部新種で見たことにないものばかり。しかも所謂地球科学で言われる、そのミッシングリンクの穴を埋めるような形態の進化をしているものも数多くあるのだという。
「…………」
その話を聞いて黙してしまう月丘達。それはそうだ、その研究員の言葉を聞いて、今、トーラル型システムの遺跡がある場所にこんな発掘物が在るということは、この手の学問に興味のない人でも容易に想像がつく回答をすることができる。
しかも研究員の言葉に興味津々なのは、当のティ連人のメイラとプリルだ。
ティ連という国家連合組織が成立している一つの要因にトーラル文明がある。
つまり、ティ連加盟国は、その種族の歴史において、何らかのカタチでトーラル科学と関わりをもっている。ティ連はそんな文明国家の集合体なのだ。当然彼女ら二人も、その研究員の言葉に、月丘と同じ回答を頭に思い浮かべる。
「では、もしかするとこのトーラル遺跡は、地球の生物の進化に干渉しているかもしれないということですか?」
頷く研究員。
これは重大な言葉である。
「今後のこのトーラル遺跡を研究するにあたって、その言葉の意味はとても大きいものになるかもしれません。年代といい、この場所といい、人類誕生の歴史といいね」
するとプリルが少し声をうわずらせて、
『じ、じゃあ、私達ディスカール人や、イゼイラ人、パーミラ人や、ダストール人も、その進化においてトーラルが関わっていたのかもしれないってこと?』
「それはわかりませんね。関係あるのかも知れないし、ないのかもしれない。なにせティ連の方々はトーラルをなんらかの形で、稼働状態のものと接触できている。ゼスタールさんも、不完全な形ですがそうだと聞いています」
ゼスタールの場合は、不完全ながらでも稼働できる形でトーラルシステム、ゼスタール文明の言う『レ・ゼスタ』と接触できている。つまり、不完全な稼働状態である前は、正常に稼働していたという事であり、状況的にはパイド・パイパーがトーラルを発掘してしまった現在の状況に似てはいる形である。
「つまり、この地下の発掘状況自体が、動く事のないトーラルシステムがゆえに、何かを如実に物語っている、ということですか……」
「そういうことになりますね」
これはとんでもないものをスタインベック達は見つけてくれたと月丘は思った。
ここにある、もう動くことのない朽ちたトーラルシステムと、周囲に生息していたと思われる奇妙な生物達。これの意味することを考えればここの遺跡を所有する者がティ連や日本、国際社会に対する政治的な関与にも重大な影響を与えるだろうという事は容易に想像できるわけであって、インベスターが組織としてどう利用しようとするのか……? これは大変なことになるぞと思う月丘であった。
当然プリルにメイラも思いの形は違えど、同じ妄想を抱くに至っているのだろうか、ここの発掘物を念入りに見学しているようだ。
(スパイ映画のラストシーンで出てくる悪の組織の超兵器じゃないですが、それぐらいのインパクトはありますねこりゃ……)「あの……一つ質問してもよろしいですか?」
「はいどうぞ、スタインベックからは、ミスターの質問には可能な限りお答えするように仰せつかっておりますので、なんでもどうぞ」
「はは、そうですか、ありがとうございます……えっと、この遺跡の情報はどこから入手なさったのですか?」
すると研究員は、両の平手を横に上げて、
「スタインベックが持ってきた膨大な資料に基づいてこの場所を割り出しましたので、詳しい経緯は私達もよくしりません。この事に関してのみ、彼は何も教えてくれないのですよ」
頷く月丘。
(ということは、スタインベックさんがペルロード人の末裔であることに関係しているのか?)
と思うわけで、当然彼の所有していた、先祖代々伝わるペルロード人の末裔に伝えられてきた相伝の知識みたいなものでもあるのかいなと考える月丘。
そんなこんなで暫く研究員と話し込んでいると、スタインベックが帰ってきた。
「ご苦労さまです、スタインベックさん」
と微笑して言う月丘。スタインベックも両の掌を横にして、
「なんとかお帰りいただきましたよ、ツキオカさん」
「李は、どうでしたか?」
「まあ特に何も。あなたの存在には気づいていないみたいでしたけど」
「デイビッド・シャオは?」
「そこがね……やはり私達、いえ、わが社がこの遺跡を掘り当てた事が、よほどお気にめしたのか、勝手なことばかりいって……でも、奴は私達インベスターの中でも一番急進的ですから、色々気をつけないと」
「え? あの温和そうなオッサンがですか?」
「ええ。人は見かけによらないわよ、ツキオカさん……私達が世界連邦化を進めて、色々手を回していたのは知ってますわよね」
「いまさらですけどね。自分からバラしますか普通」
「ホホ、ま、もう済んだことですし、あなたはそのあたりの話は通じそうな方と思ってますから」
「それはどうも」
なんとも、少し前までは『非合法組織』『ガーグの結晶化』などと言われていた謎の集団の最高幹部が、こんな感じで、正義の総諜対のエースと、四方山話をしている。
メイラが好きなあのスパイ作品も、悪党と主人公は最初馴れ合うが、腹を探り合って、暗殺者を送り丁々発止やったあと、さぁ決戦だ! となるんだろうけど、月丘とスタインベックはそんな感じではないようである。まあそこはスタインベックがペルロード人と関連しているところもあるからではあろうが……
「で、真面目な話をすると、中央アジアの件や、北朝鮮のアレを暗殺したのは、あのシャオの差し金ですから」
「ええっ!?」
驚く月丘達。当時、世界連邦化を進める最中で、ややこしい独裁国家をどうするかが国連の頭の痛い問題だった。それが思いの外スンナリと勝手に消えていってくれたわけで、その裏で暗躍していたのはインベスターであったことはわかっていたが、
『あなたが裏で手を引いてたんじゃ……』
とメイラが問うが、スタインベックは首を振る。
「あのシャオは、世界連邦化のような壮大な地球インフラの改変をやらかす時でも、結局は“金”ですからね。確かに私達は“利益追求の集団”ですが、彼は所詮銀行屋です」
スタインベックから言わせれば、やることは大胆で、悪も平気でこなすが、志はチンケだと。
だが月丘はそんな人間ほど厄介なのは知っている。彼もPMCで働いていた経験上、いろんなクライアントと交渉したが、金のためだけにデカイことを目論む奴が一番タチが悪い。つまり言い方を変えれば『金のためなら森羅万象なんでもやる』からだ。
(なるほど、だから李のような奴を抱き込む事もできたわけですか……)
と考える月丘。
シャオはシャオで、李をなにかの時に大きく動かす手駒として飼っているのだろうか?
「なんにせよ、あのシャオにこの場所を見せた以上は、ちょっと警戒をしませんとね……」
もともとインベスターは一枚岩でなんかあるわけがないのだが、利益のためなら、強固にその主権がガッシリと組み合うこともある。
当然この遺跡の事も、彼ら組織の議論にあがる題材ではあろう。だが、スタインベックの思うものとは違うように見える。従ってインベスターにとっての異端とは、彼なのかもしれないわけであって、スタインベックはそんな言葉も月丘達に漏らしたりもする。
* *
月丘達四人は地下の大空洞を出て、環境の良い近代的な地上施設のレストランで食事でも摂ろうということになる。
で、今後のスタインベックの思うことを問うてみたりするわけだが……
軽めの食事で、ということでクラブハウスサンドイッチを頼んで頬張る四人。
尋ねるは月丘。
「ところでスタインベックさん、まあなんといいますか、我々日本とティ連政府がまだ公表していないペルロード人関連の取引情報ということではありましたが、まあ今回の件ですけどね、これは日本、というよりも地球人類全体としてもさる事ながら、ティ連政府も捨て置けないレベルの情報になると思います。で、さっそく私は本国にあのトーラル遺跡の件を報告する義務があるのですけど、そこは構わないのですよね?」
「それはもちろん。だって、交換条件としての情報ですからね。でも正直扱いに困ってるでしょ、ウフフ」
「はぁ……ええ、まあそれはもう……」
それはそうだ。この遺跡の情報は、入手したはいいが、迂闊に世界へ発信することができない。いや、むしろ今は発信しないほうがいいぐらいのもので、こんなもの公表した日にゃ、あのヤルバーンがやってきた一〇年前の時に匹敵する世界混乱が発生するだろう。そして場所が場所だけに戦争が起きる可能性も含んでいる。国際連邦加盟国内の代理戦争だ。
一見一枚岩に見せて、何処かの国が抜け駆けし、代理テロという方法に、加盟国をわざと脱退させて、そこに代理戦争を起こさせるという手もある。更には元々平和なこの国にクーデターなり革命なりおこさせて傀儡政権側からパイド・パイパーに攻撃をかけるなどという方法もある。まあただこの方法は、元々独立以降、非常に安定した国家を運営してきたこの国であるからして、軍隊も最小限規模のものしか持っていないため、現実的ではないが。
そんな危惧も説明すると月丘はスタインベックに、
「……で、お互いの持ってるカードを見せあって、あなたは何を求めるのですか?」
そう、スタインベックが何を欲しているのかが問題なのだ。
彼は政府の役人でもない。公共に尽くすという立場の人物ではない。
となればつまるところパイド・パイパーの利益か、インベスターの利益か。だが結局そこも突き詰めると彼のような立場であれば、そこも何がしらの『野望』なんていうお粗末な言葉に置き換えられる。つまるところ彼個人の話になってしまうという結論に落ち着くわけで、月丘は……
「……と、そんな感じで予想というか、妄想と言うか、私ごときの発想で考えられるのは、結局あなた個人がどう思っているのかという話に落ち着かざるをえないということになるのですが……」
するとメイラも月丘の話に続いて、
『ケラー・ツキオカの言うとおりですネ。私も一言加えるなら、あそこまでの発見を、ケラー・ツキオカに見せてというのも少々不思議に感じるところもありまス。もし私があなたの立場なら、あの遺跡を隠し通して、世界相手に大立ち回りをする取引の切り札に使おうと思いますけド』
その二人の言葉を少しニヤつきながら聞いていたスタインベックは、少し頷きながら考えて、やおら、
「まあ確かにそういう立ち回りも悪くはないですけど、それはあのシャオのようなタイプの人間が発想する考え方ですわよ、ミス・メイラ」
『と、言いますと?』
「勿論私もここまでの物を、本来、敵同士……というわけではないし、そうは私自身思ってはいませんが、それでもそんなお互いの立場の相違を超えてでも、私達は私達でなし得たいことはあるのです。それは『私の』立ち回り方なのですよ、ミス・メイラ」
まあここはちょっと政治的な話なので、プリ子はチュ~っとオレンジジュースをストローで吸いながら三人の話を目を左右に振りながら聞いている。
月丘は掌を少しメイラの方へ上げて、彼女の話を制すると、メイラも頷いて、
「では、お互いのここ近況の目玉情報公開大会が済んだところで……スタインベックさん、あなたは私達連合政府に何をお望みなのですか?」
「ウフフ、やっと事の進め方を理解していただきましたわね。では、お互いの此度の情報を活かせる要求ですけど……これはインベスターというよりも、私、つまりパイド・パイパー社からの要求ということになりますが」
「ええ、どうぞ」
「確か私の集めた情報では、このティ連関係の、事実上の最高方針決定機関は、日本政府の情報省になるという情報を得ているのですけど」
「!!」となる月丘達三人。確かにティ連関係の政策方針決定機関は、現在情報省内の『安全保障調査委員会』が主導している。だがこれは日本政府の最高機密だ。
ってか、この情報をつかんでいるスタインベックもえげつないが……
「まあそんな目で睨まないでください、オホホ。蛇の道はなんとやらですわ。勘違いなさらないでほしいのは、私も今後の世界を考えて、こんな情報も入手しているということですわよ」
「……続きを聞きましょう」
「ええ、で、そこにはイツツジさんや、OGHさんに、キミジマさんなんかも、民間の意思決定協力組織として席をおいているようですわね」
はぁ~……と項垂れる月丘。そこまで知ってるとはと。
プリ子やメイラも頭を抱えている。こりゃ帰って白木に報告して、外部の間諜洗い出して記憶消去の刑だと。
スタインベックは続ける。
「で、そこに私達パイド・パイパー社も席を一ついただけないかしらと、それを申し出させていただきたいのですけど、如何かしら? グロウム帝国との外交やらなんやら、今後はティ連だけというわけにもいかないでしょう? そこに私達の企業組織が入れば、大きな力になれると思いますけど? 如何かしら?」
「はぁ!? パイド・パイパー……というかスタインベックさんを、安保、あ、いやいや、えっと、あーーーー」
機密な情報なだけに、驚きを表現するにも吃る月丘。プリルやメイラも右に同じくで、その要求に口をポカンと開けている。
普段の人当たりのよい月丘がみせない狼狽ぶりに、笑ってるスタインベック。
どうしたもんかいなと……
* *
さて、所変わって場所はヤルバーン自治共和国内の、日本領となっている人工大陸パーツ区域。つまりヤルバーンタワーを螺旋階段のように構成されている巨大な六角形の人工大陸パーツのいくつかは、現在ヤルバーン自治共和国との約定で日本領土となっている。その中に月丘とプリルの住んでいるマンションなんかもあるのだが、さらにその領土には、かの『防衛省防衛装備庁ヤルバーン・ティエルクマスカ技術・装備応用研究所』つまりあのヤル研さんの支所もあったりする。
支所とはいえ元々はここが本部で、今はもう本部機能のみ市ヶ谷に移転したが、事実上の『本部のようなもの』はこの場所なわけで、毎度のあの連中がイカれ……今後の日本における宇宙的技術のレベルアップを考えた優秀な科学者が、まあ毎度の如く研究とやらを行っていた。
で、今回持ち込まれたのは例のブツ。人型機動戦艦コウズシマが、あのキャッスル・アンノウンことゲルベラールから持ち帰ってきた、というか、無理やり引っこ抜いてきたというか、まあその『カイア10986』型なるトーラルシステムの復元作業に取り掛かっていた。
「いや~、シビアさん、ネメアさん、ホント助かります。あなた方の状況記録能力が完璧なんで、いちいち端末にいったりきたりしなくて済みますんで」
と、なんか横着なことぬかしてるのは、毎度のこの部署の部長である沢渡耕平である。
『了解している。これだけ強力なトーラルシステムの復元となれば、作業の効率化は重要である』
と答えるはシビア。あの時の月丘達が経験した状況を、言ってみれば歩く記憶媒体の如く把握してくれていたのが、この褐色の美少女に美人さん二人であって、向こうでヤル研の作業員がネメアといっしょにシステムの内部を覗き込んで調査しているのはいいのだが、ネメアも一緒に無理やり覗き込んでくるもんだから、作業員の顔面にネメアの豊かな胸部が押し当てられて、デヘヘ顔になって仕事になってんのかいなとか、そんな感じで作業は進んでいるのだが……
「まあ、何にしてもタリアさんという方の、この時空間遡上データですか? これがなかったら、所謂『復元』というレベルのものは難しかったですね」
沢渡が言うには、つまるところ、この無理矢理持ってきたメインフレームの『修復』をして、カイア型とは違うキャラクターの、所謂『ペルロード式トーラルシステム』を修理することはまあ普通にできるんだけど、あの『カイア10986』としての『存在』を復元するには、このタリアのデータがなかったら不可能だっただろうという話である。
「……でも時空間遡上技術かぁ……確かに一〇年前の、あの騒動の時の火災事故資料みたけど、こんな技術が根幹にあるなんてなぁ」
『我々も時空間に関する技術においては、ティ連よりも優位にある文明だと自負してきたが、タリア生体のあの技術は驚愕した。合議体全体で久しぶりに大規模な議論が行われた』
「シビアちゃんところが言うんだから、やっぱり相当な技術だよなぁ。タイムマシンというのとはちょっと違うけど、過去情報を物理的に取り出せるって、それだけでもスゴイことだよ」
つまり過去の情報のみ、タイムマシン的に収集できるわけなので、量子力学的解釈における過去の分岐も関係なく、現代ではもう否定されている『タイムパラドックス』も関係ないわけで、ある意味健全な過去情報の取得技術とも言える。
で、ネメアも調査の手伝いを終えて、沢渡とシビアの元へやってきた……向こうで研究員がまだニヤつている。
沢渡はちょっと休憩ということで二人を喫茶室に連れていくと、丁度同じタイミングで瀬戸智子もやってきた。
「ああトモちゃん、良いタイミングで」
「沢渡部長、こんにちは」
智子はここで軽く食事をとってからヤル研へ行こうと思っていたという話で、彼女もカイア型というものが、どんなトーラル系システムか見ておきたかったのだという話。というのも、彼女は総諜対のスタッフではあるが、本業は連合外務局の偉いさんなので、おそらくもう既にティ連加盟各国にもこの件は情報が伝わっていると思うわけで、当然外務局にも問い合わせ殺到が目に見えてるので、彼女も色々事前調査も兼ねて知識を付けておきたいといったところである。
「シビアちゃん、ネメアさん、トモちゃんも好きなの頼んで。こっちで払っとくから」
『我々は、ヨーグルトチーズケーキを要求』とシビア
『我々は、ブルーベリーチーズケーキを要求』とネメア
「それじゃお言葉に甘えて、オムライス定食で」と智子。お昼がまだだったそうな。
沢渡はコーヒーフロートなんぞを注文。
とりあえず一息入れる……
「でさトモちゃん、ここに来る前に見てきたんでしょ、例のお二人。ウチでも結構話題になってるよ」
「はい、まあなんといいますか……ヤルバーンが地球に来てもう一〇年ちょっとになりますけど、フェル副大臣にしても、シエさんにしても、私達地球人と色々違うところがあるとはいえ、基本人間型じゃないですか……まあデヌさんは例外としても、かっちーさんや、私の友達のヴィスパー人の女の子にしても、これもデミヒューマンとはいえ、日本のサブカルチャーにもいそうな雰囲気で、なんか普通に慣れ親しんでる感じで不思議なものなんですけど、それでもヒューマノイド型で六本の腕というのは、流石にですね……そんな知的生命体いるのかしらとか」
「実は阿修羅観音は、かつて地球にやってきたペルロード人を模した姿だった! とかだったりして、ナヨ閣下みたいな」
流石にそれはないだろと言いはするが、一概に完全否定できないところがつらいところ。なんせ前例が実際におわすわけであるからして。
「で、まだ時間かかりそうなの、蘇生」
『相応にかかりそうだ』『うむ』
シビアにネメアがチーズケーキ頬張りながら回答。なんかものすごくうまそうに食ってる気がしないでもない。黙々と食べてる二人。
「となると、こっちもこのトーラルさん復元しても、情報の奥深いところまで聞き出せるかだなぁ」
「あのアダムとイブさんにカイア型と話しさせるんですか?」
「それが一番手っ取り早いでしょ。何か不具合でもあるの?」
智子は「資料を見ただけの感想ですが」と付け加えて、
「あのペルロード人の社会って、相当な階級社会みたいですからね。それも、トーラルシステムを扱えるレベルも、身分に応じた処理レベルでしか使えないような」
「それホント? ふむ……それが時代遅れなのか、それとも進歩したらそうなるのか。なるほどもしかしたらカイア型の方が、下手しちゃうとその二人を支配下においちゃって、調査に支障が出る可能性があるかもしれないと」
「私が資料を読んだ感じの予想ですけどね。でも月丘さんとはなんかすごく仲が良くなってたとか、そんな事も書いてましたけど、ウフフ」
「ホントですか。んじゃ彼が案外、この事案をスムーズに運ぶための重要ファクターだったりするのかな」
「さあどうでしょうね」
そんな話をしつつ、沢渡はふとシビアにネメアを見ると、じっと沢渡の顔を見ている。
「……おかわり、いる?」
頷く二人。
* *
月丘達がボツワナ共和国から帰国して、その翌日。
月丘はスタインベックとの話、そしてあの大空洞にあるトーラル遺跡のことを情報省へ報告した。
メイラは省を通じて、父親でもあるヴェルデオ議長へ報告するためにヤルバーン自治国へ出向いている。更に議長からイゼイラ本国を通じてティ連本部にも情報が行き、ほどなくティ連各国が知ることになる。
そういうルートを通じて日本を含めたティエルクマスカ連合各国が知ることになったこの事態だが、それはもう、あの一〇年前の、ナヨ閣下再誕やら、精死病の治療法が見つかった事やら、フェルさんのおとっさんが生きてたことやら、そんな驚愕の事件が連続で続いた出来事があったが、それに匹敵する『インベスター事案』として、広く知られることとなった。
それはもう日本政府に、智子が予想した通りティ連各国から問い合わせが殺到することになるのだが、今回ばかりは日本政府に問い合わされても、当の日本政府にも寝耳に水の話だったので、立ち位置で言えば他のティ連各国と同じ立場だ。
従って今までスタインベックと一番知り合っている知人である月丘のポジションが、総諜対のスタッフという以上に重要になってくる。
さらに言えば、この情報は現在インベスターですら、一部の幹部連中しか知らない情報でもあるし、地球各国の政府で言えば、日本以外の国連各国も知らない情報であるわけで、現在のパイド・パイパー-インベスタ-、そしてスタインベックの立場はかなり世の中に対して強気に出られる立ち位置でもある。
「……んー、そういうわけで、お前達の持ってきたこの情報はもうな、また胃に穴あくような案件なわけなんだわ……ハァ……で、メイラ少佐はまだ向こうなのか? 月丘」
「彼女は本来ティ連の軍人ですからね。ティ連情報部への対応も大変みたいですよ」
「そうかぁ……こりゃ当分こっちにゃ帰ってこないな。シビアもトモちゃんと一緒でなんか色々立て込んでるらしいし」
頭を掻きむしって、やれやれだと顔をしかめる白木。そういう彼も昨日、本省で二藤部や新見と朝方まで今後の方針を詰めていたので徹夜明けだ。
「で、プリ子よう、実際のところどうなんだ? そのトーラル遺跡の出どころは。まさか地球にもともとあった奴なんて言うなよ、話がめんどくさくなるから」
『モー、ハンチョー、なんですかソレ。ホントにもともとあったようなモンだったらどうするんですかっ』
「いやだからさぁ、二藤部大臣や、井ノ崎総理に、フェルフェリア副総理あたりが困惑してるのはな、その遺跡のトーラルシステムの出自によっちゃ、この地球社会も、トーラル文明圏となっちまうわけで、また地球社会が大混乱起こしちまうんじゃないかって、そりゃもう大事になってるってわけなんよ」
『うー、まーそだとしてデスね。結論を考えたら、別にそうだったとしてもかまわないと思うんですけどぉ』
するとその場に同席していた、外務局の局長である山本が、
「いや、違うんだよプリ子ちゃん……もしその遺跡の所有者が不明の場合、まあこの不明という時点で、おそらく元々のいつの時代からか地球にあった、と解釈されるわけなんだろうが、今、ティ連が大分緩和されたとは言え一極集中外交を行ってるだろ? それがな、遺跡の出自が不明という時点で意味をなさなくなってしまうわけなんだよ」
この言葉に月丘も続いて、
「つまりプリちゃん、大袈裟な喩えでいえばさ、北朝鮮みたいな国も、『我が共和国は、ティ連と血肉を分けた同志であり、日本国が独占する異星人外交の破棄を要求するものである!』とか、そんなことを言い出しかねないというわけでね」
「そうそう、『地球共有の財産であり、その享受する権利を、我が国も有する!』とか、あのアナウンサーのババアが言うんだよな」
と白木がババアのモノマネで相槌を打つ。
この北朝鮮の例を出されて、事の重要性をプリ子もディスカール人ながら理解できた。
「でよ、そのスタインベック御大さんの取引要求だけどよ……パイド・パイパーとスタインベックCEOを、情報省の安保調査委員会の正規メンバーにすれば、このトーラル遺跡の情報は世界に公開しない、というか、遺跡の扱いを日本政府を含めたティ連に任せても良いって言ってるんだな?」
「ええ、そうはっきり言ってくれて構わないと彼も言っていました」
考える目をする白木。というのも、その先程の二藤部達と詰めてた件。この安保委員会のメンバーになりたいというところが、イマイチその真意がわからないと、二藤部達は結論付けていた。
その点を山本は、
「スタインベック氏はそれほどのもの、つまり素で世界に公表しても、十分破壊力のあるソレを、そんな規模の取引条件でティ連政府に遺跡管理を委託するって、ちょっとサービス良すぎだよなぁ」
そういうことである。
「あの御大が、ペルロード人の末裔を自称、って、まあ事実なんだろうが、そう言ってて、今回の件……つまるところその関連性を紐づける何かが、スタインべック氏の真意なんだろうけどな」
まあそんなところまでしか今はわからない。
遺跡の出自に関しても、きちんとしたヤルバーン側の、ニーラ大先生クラスの調査団が入ればその出自もすぐにわかろうというものなのだろうが、コレばかりはその扱い上、民間企業の一資産に手を出すわけにもいかないわけでである。
プリルもできる限りの調査はしたが、彼女も考古学者ではないので、わかるのはメカニックな部分だけだ。
「……わかった。この件は引き続き調査続行案件だ。で、パイド・パイパー社が安保調査委員会に加わる一件も、次の会合で柏木も交えて議題に入れるそうだ。そこで結論を出すと言っていた……月丘、御大と連絡は取れるんだよな?」
「はい」
「んじゃ、そう連絡いれておいてくれ。なんせこんな案件、非公式で極秘でやらねーとできないからな」
頷く月丘。
「でだ、話は変わるが……」と白木がパンと手を打つと、
「? どうしましたか? 班長」
「いや、実はここ最近のお前達や、総諜対メンバーの功績が目覚ましいってのもあってな、月丘とプリ子、そしてメイラ、まあメイラとプリ子はあとで連合防衛総省から別途連絡が行くと思うけど、お前ら、階級一つ上がるからな」
「ええっ? ホントですか」
「おう。お給料も上がってめでたいじゃねーか。メイラは憧れの中佐になれて泣くんじゃねーか? ぶはは」
ということで、月丘はコレまでの成果が認められて、二等諜報正、つまりまた特危自衛隊へ出向した場合は2佐(中佐)に。プリルは大尉に、メイラは先の通り、中佐に。
『わーい! 確かイル・キャスカーになったら、ハイクァーン使用権も大幅にアップするんですよね~、やたーー』
で、技術開発部門の企画開発担当官にもなれるので、軍で採用する機動兵器の設計を提案できたりするらしい。なんか小躍りして喜んでいるプリル。
「ま、ティ連の方の昇進式は追ってやるそうだ。で、月丘はしがないお役人だから、んな昇進式なんてのはねーわけで、せいぜい俺から辞令を祝詞みたいに読んで渡すだけだな」
「はは、確かに」
「というわけで、そういうのも味気ないんで今日は久しぶりに一杯行くか?」
すると山本が目を輝かせ、
「お、いーねぇ白木っつあん。長谷部と下村にセマルも呼びますか」
『んじゃ私、メイラ少、じゃなかった、中佐にも連絡入れときますねっ!』
「おうプリ子たのむわ。あとはトモちゃんと、シビアにネメアだな。まあ一応柏木夫妻にも連絡入れてみるけど、あの二人はちょっと無理だろうなぁ」
「まあここは総諜対内の内輪だけでいいいんじゃないの? 白木っつあん」
「ですね。んじゃ今日は毎度のぼだ~るでってのもの味気ないんで、銀座にでも行くか。官費で」
「おいおいおい、白木っつぁん、それはマズイだろうよぉ」
元警察官の山本の前で堂々というかと。まあそこんところは色々誤魔化す方法もあるようで、なんんせ機密を扱う『情報省』で御座います故……
* *
さて、そんな感じで月丘が二等諜報正となり、プリ子が一等諜報士つまりティ連の大尉に恙無くなってしばらく後のこと。
あれから安保調査委員会では、パイド・パイパー社の安保調査委員会民間協力会社登録を行うか等々色々とスッタモンダと話があった。
全体的な話の流れとしては、『反対』『賛成』という低レベルな話で推移したわけではない。
なぜなら、スタインベック率いる、パイド・パイパー社と、所謂インベスター内におけるスタインベック派は、ペルロード人との関係において、やはり有用な組織であるし、彼らの持つ情報は極めて重要であると安保調査委員会も認識をしてはいるのである。しかもインベスター内のスタインベック派は、そのペルロード人の末裔と言われる数人のインベスター幹部から成っており、彼らの助力も得ることができるようになるというメリットもある。
ただ問題なのは、現在安保調査委員会で、地球内の外国人関係者で在籍しているのは、米国政府の代表を兼務しているジェニファー・ドノバン上院議員がオブザーバー参加しているだけである。
このオブザーバー参加というのも、招集が日本側からかからなかったら出席権がないというような議決権が制限される立場であり、そこをスットばして民間協力企業という立場ではあれど、正式に外国企業で、しかも一時期は警戒していた結社組織を入れるというのはどうよ、というそんな話で否定的ではないにしろ、扱いをどういう形にするかで迷っているという、そんなところでモメているのであった。
「……これはなかなか早々に結論が出るものではありませんね」
と彼も経験上、こういうのは初めてのケースだと頭を悩ませる担当大臣の二藤部。
「おいらも、民間部門理事の立場で言わせてもらえば、あのオネエ御大が今のヂラールの謎に対処する地球側の重要ファクターだってのはわかるけどな……だけどなんせあの北のをヤッチまった組織だしなぁ」
と、ただの民間企業の参加希望ではないと言うは、今は政治家を引退した民間部門理事の三島太郎。御年八〇過ぎでまだまだ元気。
「ですが、やはりその遺跡として出現したトーラルシステムの出自を調査する事が一番大事ですかね。ティ連本部もそこを重要視してほしいと日本政府に要請してますし」
と今はティ連本部側の立場で話をする柏木防衛総省長官。
『ワタクシも日本政府の副総理サンですから、日本政府の立場で話をしなければいけないのハ重々承知してるデすけれど、ここは元ティ連の調査局長サンの立場としてみれば、日本政府の立場よりも、ティ連本部の立場を重要視したほうがいいというのは理解できますネ』
「やはり、ものがトーラルだからか? フェル」
『デスね~……ナヨサンが恩を受けたこのニホン国のあるチキュウに、トーラルがあって、それがヂラールとペルロード人の関係を示唆して、更に惑星チキュウの進化に何らかの影響を与えてるかもしれない。で、そのことの何かを知っているパイド・パイパー社にスタインベックサン……やはりホっておけないですよネ~』
ここは日本国外務大臣兼副総理であるフェルの立場を棚に上げても、ティ連本部の主張を支持せざるをえないと、難しい顔をするフェルさん大臣。
ただ、怪しい組織で外国企業で、謎のペルロード人の末裔でオネエというのが、胡散臭いと思って普通なわけで、そこが彼らを悩ませる。
で、今回ドノバンは招集をかけていない。そんなものドノバン呼んだ日にゃ、米国に調査させろ調査させろと、ヘタこいたらボツワナに米軍送り込みかねないので、そんなのは普通呼べないわけであるからして……
ということで「結論はすぐに出す」とは言ってみたものの、色々なケースを考えるに、やっぱりというかなんというかでこれは早々に決められないんじゃないかと、そんな雰囲気になってくる今の会議。
この安保委員会には日本共産連盟を除く野党から選出された面子も席を持っている……ちなみになぜ日本共産連盟が席を持てないかというと、破防法調査対象団体だからである。なのでティ連側の連合法の関係で、ダメ出しを食らってしまった。
で、与野党問わずこの席では全員が所属する政党側から議員に指示命令してはならない。つまり党利党略で参加してはいけないと罰則付きの契約書にサインしなければならない。なので野党側からも比較的まともなのが顔を揃えてはいるのだが、今回のトーラル遺跡とパイド・パイパー社加入のこの件では、やはり保守とリベラルの意見の差というものも出てきてしまい、流石に会議は割れる。
本来なら全会一致としたいのだが、ここは多数決も致し方ないかと、そういう判断をしようとしていたところに……
会議中の会議室のドアを、控えめとはいいがたい勢いで開けて入ってくる情報省のスタッフ。
何か顔が青ざめているような気がしないでもないが、早歩きで二藤部もとへ。そして何か書類を見せて、耳打ちして話している。
フンフンと聞く二藤部が驚きの表情を見せてスタッフに、
「井ノ崎総理には報告はしたの?」
「はい、総理もスケジュールをキャンセルして、急ぎここへ来るそうです」
「わかりました。ヴェルデオ議長の方は?」
「そこは瀬戸外務局部長が動いてくれています」
なにかそんな話をしばしして、スタッフは早足で退出すると、スタッフの持ってきたペーパーを片手に、
「みなさん、今回の多数決は後日とることとしましょう」
その深刻な顔に、三島が、
「どしたい大臣。なにか問題でも出たのか?」
「ええ、かなり深刻ですね……まだ詳細はわかりませんが、ボツワナ共和国軍が、例のパイド・パイパー社所有の、トーラル遺跡を接収しようと動いたそうです」
「ええええっ!!」と会議室の皆がざわめく!
偏った知識担当の柏木が、
「いや待ってくださいよ。なんですかそれ。ボツワナ軍って言ったら陸軍でも八〇〇〇人ぐらいしかいない小さな軍隊ですよ。ヘタしたらパイド・パイパー社の警備部が持つ戦力でも追い返せそうな……陸軍の装備もショボい軽戦車や、装甲車ぐらいしか持ってないはずですが……」
この発言に二藤部は自分のPVMCGを操作して、紙書類を仮想造成で会議人数分複製し、各員のテーブルに顕現させる。
その写真つきの書類を手に取り見ると……なんと中国製やロシア製の戦車や古い形式の機動戦車まで擁してパイド社の発掘施設を包囲する画が映されていた。
『コ、このシャシンは……』と戦慄するフェル。
「あきらかにボツワナ軍の戦力じゃない……だけど軍の装備や兵器の塗装はボツワナ軍のものですね……なんだこれは……あ、で、この写真は誰が?」と話す柏木。
「パイド・パイパー社の、ここのスタッフの方が、この写真と、その書面のメール文面を総諜対の月丘さん宛に量子通信で送ってきたそうです」
「ちょっと待ってください。量子通信ですって? あそこでソレを使えるのは、ゼスタールの技術を解析してPVMCGと同じようなものを持ってるスタインベック氏だけですよ……ということはスタインべック氏もその施設にいるってことに!」
柏木のこの言葉に二藤部は頷いて、
「その通りです。このままでは間もなくスタインべック氏も拘束されかねませんね……」
「二藤部大臣、ということはこの事は白木や月丘君達はもう既に知っているということですね!」
「はい。もう既に彼らは状況調査に動いてくれているようです……」
なんと、パイド・パイパーの遺跡発掘施設がボツワナ国防軍に包囲されたという緊急の至急電が会議室に入り、会議参加者諸氏は戦慄する。
だが、ボツワナ国防軍は、ほぼ専守防衛に近い規模の小さな軍隊だ。空軍もあるが、戦闘機もF-5戦闘機という相当古いタイプのものを十数機もっている程度の規模だ。
それが旧式とは言え機動戦車まで擁している。
とてもではないが戦闘員や非戦闘員含めて八五〇〇人規模の小さな軍隊が擁する部隊規模ではない。
一体、何が起ころうとしているのか……




