【第六章・ティ連日本国】 第三六話 『奪還』
レグノス要塞。
けたたましく鳴る警報音。不協和音の音階が、要塞中に鳴り響く。
『一体全体どうしたんだ!』
会議室の衛士が叫んでいる。
「あの閃光は一体……!」
ニーラの開いたVMCモニターに映る巨大で、強力な指向性の粒子ビームに柏木は戦慄する。
あんなものが一体どこから飛んできたのだと。
『あのような巨大なエネルギービームがディルフィルドジャンプしてくるなんテ、どういうこと?』
フェルはVMCモニターに映るその現象を見て……正確には警戒監視カメラが撮影した数分前の映像を見て……そんな疑義を呈する。
「それ以前にあんな、もう見た目マンマなエネルギービームが星に直撃したらただじゃすまなかったぞ! まるで“ディルフィルドゲート砲”じゃないか!」
柏木も伊達に長官様はやっていない。即座に彼も状況を分析する。
ただ、ディルフィルドゲート砲と違う点……ゲート砲の場合はゲートを砲身代わりに発射する転移兵器だが、今のは完全に通常ディルフィルドジャンプを応用した攻撃である。
火焔なんちゃら砲とか、かつて日本で流行ったSF作品にそんな転移兵器があったような気がするが、それによく似ている。
更に言えば、件の人型機動攻撃艦『フリンゼ・サーミッサ級』の必殺攻撃『ディルフィルドゲート一斉掃射』にも似ている。だが、一斉掃射攻撃の方は、距離が出ないという弱点を持っているわけで、その理由は単純に出力の問題である。サーミッサ級ぐらいの小型艦艇が、長射程を稼げる程のディルフィルドジャンプゲートを生成できないだけの話である。
という事は、それだけの距離を稼げるパワーを持った存在が、あのビームを転移させてぶっ放してきたわけであるので、そういった点を鑑み、想像できる状況はといえば……
『恐らくで多分でまずそうだとおもうんですけどぉ……』と、ニーラが珍しく眦鋭くして、『……グロウム本星のある恒星の、恒星エネルギーシステムの中核に取り付いちゃったヂラール・コロニーが一基あったって言ってましたよね、シャーダ・サージャル?』
『ふむ、確かにそんな事を言っていたな……ファール首相、あの情報は間違いないのだな?』
『はい殿下。間違いございません』
『うむ。となれば、今ニーラ教授に柏木殿の言を察するに……もしかしてその「恒星エネルギーシステムに取り付いた、バル……いや、ヂラールコロニー」が先程のエネルギービーム攻撃を行ったと?』
『ということデスね、シャーダ』
ニーラの推測を聞いて、ほぼ間違いないだろうと頷く柏木。現状考えられる状況はそれしかないからである。つまり……
「私達が初めてヂラールと接触したのは、メルちゃん……あ、いや、メルフェリア団長の故郷、惑星サルカスという別宇宙で……」
『ソウですね、マサトサン。あのヂラール達は、そんな宇宙からこちらの宇宙へ転移できるだろウと思われる能力を持つような輩デス。なので当然あの生体兵器はものすごい空間転移能力を持っているハズですから……』
「そういうことだよな。だけどどっちにしろあんなのがもう二、三発撃ち込まれて、その内一発でも惑星にブチ当てられたら一大事になる……君!」
柏木は、先程の部下であるユーン連邦人を呼ぶと、
「レグノスが惑星サージャル大公領の盾になれるような配置にするよう、パウル提督に伝えてくれ。それと観測チームには、さっきの転移現象の出現位置を可能な限り正確に察知して、すぐさま転移ビーム兵器の正面にレグノスを移動させられるよう、ブリッジへ随時データを伝えるように通達」
『了解しました、ファーダ!』
ユーン人は柏木の命令を受領すると、即座に会議室を飛び出していく。
『マ、マサトサン! レグノスを惑星の盾にするのデスか!?』
「ああそうだよ。とりあえずの暫定的な対処だ。今はコレ以外の方法を思いつかない」
するとニーラ大先生は、柏木が何をしたいのか察したようで、
『ふぁーだ。もしかして、敵のビームをレグノスのディルフィルドゲートで受け止めようとしているの?』
「ご名答ですニーラ教授。で、それで敵の攻撃をディルフィルドゲートでそらして、どっかの時空間へ放出って次第です」
『無茶しますね、ふぁーだ! でも……あの時空間歪曲現象と、ビームがジャンプアウトする時間的なタイミングを考えれば、レグノスのおっそい機動力でも対応はできますが……でも一体何があんな攻撃を誘導……って、あ!! やっぱりあいつが!?』
「そう、多分あのとっつかまえたヂラールコロニーこと、マスターヂラールでしょうな……連中はどうも我々の知らない方法で、コミュニケーションをとっているようですし」
すると、サージャル大公が、
『なんと。それがわかっているのならば、即あのマスターヂラールを破壊したほうが良いのではないか? カシワギ殿』
「いえ、まだあの個体から収集できるデータは今後の事を考えた場合、まだまだ貴重なものです。それに、最初から必殺の一撃を加えられなかった訳ですから、やはりハイ端子の拘束は相当効いているのでしょう」
敵はかつてのサルカス戦で、あの謎の文明『惑星イルナット文明』の、人工ワームホール技術を取り込み、活用できるぐらいのポテンシャルを持っている奴である。なので柏木は、あのマスターヂラールは、ハイ端子のない素の状態ならば、あのビームをもっと一撃必殺レベルで誘導させることができたはずだと推測していた。なのでまだこちらのほうが状況は有利であると考え、レグノスを盾にするような策を講じたわけである。だが柏木は、もっと効果的で、超がつくほど確実な方法があると考えているわけで……
柏木は別の彼の部下。サムゼイラ人のデルン部下を呼ぶと、
「君、ダル提督がいつこの空間に到着すると聞いているかな?」
『ハ、もう数十フン後かと』
「わかった。ありがとう……(ダル提督なら、必ずあの船を持ってきているはず。あの船を使うことが出来れば、ガッチリやり返せる……ダル提督ぅ、頼んますよう……)」
目がどこかを視て、唇で呟くような状態になる柏木大臣。ダルの装備に一縷の願いを託すような感じである。
『カシワギ閣下』
ファール首相が、心配そうな目でカシワギに尋ねるは、
『もし閣下達の予測が正しいのであれば、他の植民惑星に逃げ延びている同胞にも同様の危険があるのでは?』
「いや、その心配はないでしょう。あいえ、完全に無いとは言い切れませんが、今のニーラ教授らのお話を聞いていると、多分その点は安心してよろしいかと」
『その理由をお聞かせいただけますか?』
「先程の話にも通じますが、我々が鹵獲したあのマスターヂラールが、何らかの方法で砲撃観測員の役を担っているというのであれば、その『恒星ベイルラ』でしたか? そこに巣食ったヂラールも、鹵獲したアレと単純に連携しているだけの話になります。ですので、狙う目標がわからなければぶっ放しようがないでしょうし、鹵獲した方は、こちらが相当な戦力をもってアレをふん縛った訳ですから、その事を何らかの方法でベイルラのマスターヂラールに情報を送っているのでしょうし、まあそういう状況を考えれば、貴方の懸念する状況にはならないと思われます」
ファールは柏木の説得力のある理由を聞いて、とりあえず安心したようである。確かにそれはそうだ。今ここが狙われるのは、目標がわかっているから狙われるのであって、彼奴も目標が不明な場所に、あの兵器を無駄撃ちするということはないだろう。
……と、そんな話をしていると、パウルの顔が映ったVMCモニターが会議室にドンと展開する。
『ファーダ! 第二射来るわよ!』
その言葉と同時に、外の風景がのっそりと、だがこの要塞の巨体にしてはかなり俊敏に移動を開始する。
「いけますか、パウルさん!」
『やるしかないっしょ。ゲート開口部以外のシールドは最大にしてるけど、あの威力のビーム食らったら、このレグノスもただじゃすまないから覚悟してね!』
頷く柏木。だが今はこの方法しかない。
「(フェル……)」
指をクイクイと愛妻に耳を貸せと呼ぶ柏木。
『(なんデスか?)』
「(姫と暁君は?)」
『(ア、ええ、今はレグノス県区画で、ケラー・タガワと、シエと一緒ですヨ)』
「(レグノス県区画か。ちょうど真裏だな……なら大丈夫か)」
このレグノス要塞には、よくよく考えたら今現在、二人の児童もいるわけで、その点も気にする柏木長官……
* *
『パウル提督! 時空間歪曲率、ディルフィルドゲート展開率として現在八九パーセント! 急速に開口中!』
『軸線に乗ってる? 確認してっ!』
『九六パーセントの確率です!』
パウルはせめて九八パーセントぐらいの数値が欲しかった。その二パーセント差の微妙さが気に入らなかったが、仕方ない。まあ九割確保しているなら問題ないだろうと。
『九八、九九……ディルフィルドゲート開口します!』
『高エネルギー体反応あり! 顕現しますっ!』
唇噛むパウル。つまり、レグノスの射線に、あの超出力のビームが飛んでくるという訳である。
現在のコースは、計算上、惑星サージャル大公領直撃は免れるものの、大気層を引き裂いて飛んでいく可能性が高いコースだ。
あんな巨大なエネルギーが、惑星の薄い大気層を引き裂いていくだけでも惑星にとって大ダメージである。
『巨大出力ビーム、来ます!!』
ブリッジクルーが叫ぶ。
刹那、空間が大きく歪み収縮したかと思うと、巨大な転移空間振動、つまり重力振反応を伴って巨大かつ、極太の閃光が、レグノス要塞を直撃する!
『環境シールド、遮光モード!』
その閃光、VMCモニターを通しているとはいえ、流石に裸眼で直視するのは避けたほうが良い光度である。レグノス要塞ブリッジを遮光モードで覆うと、その閃光の、刹那の射線軸を確認するパウル。
ドンピシャの位置に移動できたのが幸いしたようで、レグノス要塞の巨大な四角いゲートへ閃光が吸い込まれていった。
『敵転移ビーム、ゲート通過!』『亜空間回廊壁を突き破ったようです!』
つまり、何処かわからぬ空間へビームは放出されたという事である。亜空間回廊ではエネルギー兵器の威力は急激に衰退するのだが、それでもこの威力だ。元の火力がどれだけのものかという事になる。
パウルの計算で、かなり暫定ではあるが、何処かのボイド空間の周辺にビームが出現するようにゲートを調整したようだ。見ず知らずの誰かに出会い頭であのビームが直撃するような事は、まずないだろう。
『ふぃ~……』と冷や汗拭うパウル。彼女だけではない、会議室でその様子をモニターしていた柏木達に、他、各々の場所で待機している特危隊員にティ連兵士、そしてサージャル大公にファール首相……
『パウルさん、よくやってくれました。素晴らしい操艦指揮です』
VMCモニターの柏木が彼女を労う。
『大丈夫大丈夫、あの程度ならまだなんとか。でもこれが定期的に来るとなると手強いわよ。あのふん捕まえたコロニーのあやつをなんとかしないと。今のは正直カスってたわ』
『ええ、そうですね……で、ダル提督は?』
と問うていると、ブリッジで『本部艦隊が到着しました!』と報告が入る。それを聞くモニターの向こうの柏木。
* *
「来たか! パウルさん、すぐにダル提督に繋いでください!」
了解と、パウルはすぐにダルの乗艦する旗艦、曲線美が美しいダストール製の戦艦であり、旗艦『ドルステル』に繋ぐ。
……ちなみにこの『戦艦ドルステル』は、全長三〇〇〇メートル級の艦である。名前の由来は、ダストールの著名な軍人の名前から……
通信をドルステルに繋ぐと、挨拶も省略してダルがいきなり、
『カシワギ長官、イ、イマノハナンナノダ!?』
ちょっと大艦隊なので、此度は火星経由で艦隊ごと一気に通常ジャンプでやってきたダル提督艦隊。
サージャル大公領から約八〇〇万キロメートルあたりにディルフィルドアウトした途端に、妙な光の閃光が、レグノスを串刺しにする瞬間を垣間見てしまって、慌てて速度を上げてきたと、そんなところ。
「詳しい話はあとですダル提督。えっと提督の艦隊は……」
と、船外モニターに切り替えて、ダル艦隊を肉眼で確認すると……
「あった! ナイスですダル提督。あの三色団子、じゃなかった。グムヌィル級を持ってきてくれていましたか!」
『アア。アノ船ハ、我ガダストール編成艦隊ノ象徴ダカラナ。デ、ソレガドウシタ、長官』
「すみません提督、すぐにあのグムヌィルのワープ妨害装置、あ、いえ、時空間強制修復装置をこの宙域一帯に最大パワーで可動させてください!」
『エ、ア、イヤ、ソンナコトヲスレバ、コノ宙域デハディルフィルドジャンプガデキナクナルゾ。ソレニ、ゼスタールノ艦モイルヨウダ。次元溝ヘノ潜行モ……』
「そのあたりは後で説明しますから、即お願いします!」
『ア、アア、了解ダ。ナニガナンダカヨクワカランガ……』
ダルは、かつて『カグヤの帰還』作戦時に大活躍したダストール船籍の特殊作戦を担う船である『戦術空間ジャミング艦・グムヌィル級』の時空間強制修復装置、別名『空間ジャミング』装置を作動させた。
この装置の威力は言わずもがな。かつてのガーグデーラ@ゼスタール陣営の悩みのタネであった兵器の一つである。
時空間の歪曲を強制的に修復する重力波動を、空間歪曲反応が感知され次第即座に多方向へ発信照射する兵器で、その効果範囲は半径五〇〇万キロメートルにも及ぶ。
この艦があれば、ディルフィルドアウトしようとしてくる空間歪曲反応を片っ端から潰すことが出来る、即ち、あの超巨大な転移攻撃を防ぐことができるのである。
しかもダルはこの船を今回の艦隊で、なんと一〇隻も引き連れてきてくれている。最悪の事態を想定しても、この一〇隻が総力を上げて空間ジャミングしてくれれば完璧な防御態勢が出来上がるという次第だ。
『ナルホド、ソウイウ理由がガアッタノカ』
「はい。ダル提督がこの宙域に到着した時間とちょうど同じタイミングでした」
『フム、ドウリデ到着早々、騒々シイ雰囲気ダトハ思ッテイタ』
ダルは、このサージャル大公領宙域へ到着してすぐに、異常なエネルギーの数値と、妙な空間転移反応を観測して、可怪しいと思っていたそうだ。だが、その反応が瞬間的なもので、すぐに通常値に戻ったということなので、そんなに重要視はしていなかったと。
だが、柏木達の話を聞き、状況を納得。とりあえず柏木の言うがままに配置させたグムヌィル級を再度チェック入れるダル提督。
『カシワギ長官、再度配置ヲ検討シ、確認サセタ。トリアエズ現状デアレバ、アノ惑星……ナントカ大公領カラ、各方角半径五〇〇万きろめーとるハ、カバーデキル』
「ありがとうございます。これで、あの攻撃をなんとか防ぐことができますよ」
『フーム、シカシ長官。アレダケノエネルギー量ヲ観測デキル攻撃ダ。グムヌィルノ時空間キャンセラーノ効果範囲外カラ狙撃サレレバ意味ナイノデハナイカ?』
「いや、それはそれで問題ありません。仮にそんな攻撃をしてきたとしても、その時は、エネルギー波動の到達に相応の時間を有するでしょうから、レグノスを動かすのにも余裕ができます。完璧に守ってみせますよ」
『ワカッタ。ダガ、火星ノ艦隊ヤ、我ガ艦隊ガココマデヤッテ来タ理由ヲマチガエテハイカン。我々ハ、ソノ、「ぐろうむ帝国」本星宙域へ、進撃スルタメニココマデヤッテキタノダカラナ』
「わかっています提督……ということで、提督はこちらへはいらっしゃるのですか?」
『イヤ、ソウ思ッタガ戦況ハ思ッタヨリ緊迫シテイルヨウダナ。ファーダ長官ドノニハ失礼スルガ、イツデモ対応デキルヨウ、私ガコチラデ張ッテイタホウガ良イヨウダ』
「すみません提督。久々に一杯といきたかったところですが」
『ハハハ、マ、作戦ノ後デモオソクハアルマイ』
と、そんな話をしていると、ファール首相と、サージャル大公がダル提督を紹介してくれと柏木に話す。このあたりは毎度の事である。今後のレグノス要塞以外の、艦隊運用責任者は彼であることを柏木は説明した。そのあたりも含めて、現在集結しているグロウム艦隊各責任者と、サージャル大公に、今やいつの間にかサージャルの参謀となってしまったネリナ・マレード大佐らとゼル会議で後ほど作戦会議を行う事としたようだ。
何にせよ、あのヂラールによる「転送攻撃」によって、「早急」という状況で各艦隊、各部隊の準備を行わなくてはならなく成った…更にそこへグロウム帝国宙域に巣食うヂラールコロニー、即ちマスターヂラールを打ち倒し、なおかつグロウム帝国本星突撃奪還作戦も同時にやらなきゃいかんわけであるからして……状況は少しばかり好転すれど、やはりちょっと無茶し過ぎではないかと感じる柏木であった……
* *
さて、ここは惑星サージャル大公領軌道上に展開するグロウム帝国本星中央艦隊。グロウム帝国皇帝、ランドラ一四世御座乗御召艦『ファヌマガウド』
全長一五〇〇メートルを誇る、グロウム帝国で最も巨大な戦艦といわれている。
そんなグロウム基準で巨艦の中にある、とある……恐らく艦内の福利厚生を担う自然環境施設の、特別仕様の部屋。
そこに入室する二人の女性……褐色肌で白い頭髪、化粧のような白い模様を体に刻むは、ゼスタール人のシビアにネメアであった。
『ランドラ生体、気分はどうか』
そう問うはシビア。この特別な部屋には今、グロウム帝国の若き皇帝『ランドラ一四世』が、ティ連製の医療カプセルに横たわり休んでいた。
柏木達が初めてランドラを見た時のような、瀕死の状態で、液体漬けにされたような『保存されている』といってもいい状態で生命維持されていた時とは打って変わって、ティ連の提供した医療設備に清潔な環境のおかげで、今現在では隔離状態も解かれ、所謂一般病室で治療を続けていた。
シビアの問いに、大きく頷いて返す、ランドラ一四世。
ネメアは医療カプセルのモニター数値を見て、彼のバイタルを調べているようだ。
『……我々の開発した抗ヂラールウィルス薬に、その効能を補佐するティエルクマスカ連合主権で使用されている医療用ナノマシンの治療効果は絶大である。ここまでの特効性のある薬品を我々は見たことがない』
ネメアは今回ランドラに投薬した二つの薬品の驚くべき効能に驚きを隠さない。ゼスタール人が表情変えて驚くぐらいなので、そりゃ相当な効果である。
シビアもその言葉に同意して、
『我々の開発した抗ウイルス薬が、体内での拡散を押さえ込み、拡散してしまったウイルスは、ナノマシンが物理的に排除する……この作用を利用すれば、生体がかかるウイルス性疾患のほとんどは即座に治療可能だ。これは極めて評価できる結果である』
確かにその通りだ。ウイルスというものは、言ってみれば病気の遺伝情報を詰め込んだ爆弾のようなものである。ウイルス単体では、本来増殖はできない。ウイルスは取り付いた生物の細胞を乗っ取って、その細胞の増殖能力を利用して、自らのウイルスを量産して拡散する仕組みを持っている。
地球で使用されるインフルエンザウイルス用の、抗ウイルス薬などの仕組みは、ウイルスが細胞に取り付く事を阻害させる物質を服用することでウイルスの増殖を防ぎ、体の抗体が、ウイルスを迎撃しやすくする状態を作り出してやるのが主な効能なのであるが、そこにティ連のナノマシン、即ち体への異物とみなしたものを片っ端から無害化するナノロボットを連携させれば、体の抗体の力と、ナノマシンの力で、想像以上の治療効果を発揮できる。
そりゃティ連人はいつもこのナノマシンを体に飼っているわけで、酒のんでもアルコールを即座に中和して酔わないし、フグの肝を間違えて食べても平気な顔してるしで、こんな治療方法があれば、インド人、あ、いや、ゼスタール人さんもビックリだ。
……でも、シビアにネメア。まあゼスタール人だから仕方ないとはいえ、皇帝陛下様相手にこの物言いもないだろうとは思うが、まあそこんところは仕方がない。
現状ランドラはまだ全回復したわけではなので、軽い酸素マスクのようなものを付けている。いかんせんかなり長期に渡って、その体を『保存』されていたような状態に置かれていたわけなので、まだ会話ができないようである。だがランドラは、黙々と作業をするシビアの手を取る。
作業を中断させられたシビアは『?』となり、ランドラの方へ顔を向ける。
『ランドラ生体、気分が悪いのか?』
とシビアが問うと、ランドラは首を振って、更にもう一方の手をシビアの手に添える。即ち感謝の意である。
その行為にネメアもシビアの横に付くと、ランドラはネメアの手も取った。
二人は少し微笑んだような表情で頷くと、
『シビア・カルバレータ。もうこの若き皇帝は、問題ないようだ』
『肯定。あとはグロウム政体の医師達に任せても問題ないだろう。ネメア・カルバレータには、この医療行為の成果を、グロウム政体の医師達に通達し、他、同様の症状の患者にも適用するよう指導せよ』
『了解した』
* *
それからまたしばし後、そこへ入室してくる人物がこれまた三人程。
『ケラー・シビア。ケラー・ネメア。お疲れ様でございまスね……ほら、ヒメチャンとアカツキクンもご挨拶は?』
フェルさん大臣が、姫迦と暁を伴って入室してきた。姫迦は、大きなお花を抱え、暁は大きな花瓶を抱えてたり。
姫迦と暁は、とりあえず花と花瓶を傍らに置いて、『こんにちわ』とご挨拶すると、よっこらしょとベッドの傍らにあるミニテーブルに花瓶を置いて、花を刺す。まあ子供のやる事なので、花瓶をドンと置いて、花をブスっと刺す程度のもので、生花の如き華麗なものではない。
そもそも姫迦と暁がなんでこんなことやってるかというと、フェルママに付いてランドラ皇帝陛下をお見舞いに行こうという話になった時、姫迦と暁は、皇帝陛下に「お花を持っていこう」という話になって、こんなことをやっているということ。誠に出来たお子さん達である。
フェルはそんな二人を微笑ましく見ると、ランドラ皇帝に最上級敬礼をする。
『お加減は如何でございますスか? エルバイラサマ』
とフェルは問う……言葉は通じているようで、ランドラも少し笑みを浮かべて頷いて返す。
現状に至るまでの経緯も、ランドラは自分の侍従や、シビアにネメアから聞かされているようで、現状は把握しているようではあった。
とはいえ、年の頃は地球人基準で言えば、一三〜一四歳。中学生ぐらいの年頃である。そこまで正確に政治的状況を把握している達観した皇帝陛下というわけにはいかない。言って見れば現在は、日本国の天皇と同じく『国家の象徴』的な意味合いの強い御方なのであろう。なのでサージャルが国家摂政をやっているわけであるからして。
だが幸いなのは、子供だからという事もあるのだろうか、彼が意識を取り戻した時、彼らから見てフェル達異星人を見ても、そんなに驚いた様子はなかったという。
フェルはランドラに現在の状況を話すと、ランドラはウンウンと頷いて理解していたようだ。そりゃ自分がこんなトンデモな病気にかかってしまった訳であり、本星で国民総力戦で死闘をやってきたわけであるから、幼き皇帝とはいえ、そのあたりは立派に把握しているようである。
『ケラー・シビア、ケラー・ネメア、ちょっと……』
フェルは二人を呼ぶと、ランドラに深々と礼をして部屋を出る。シビアとネメアもフェルを真似て礼をするが、どことなくぎこちない。そもそも彼女達にはそういう習慣が今はないので仕方がない。
フェルは二人を病室の外へ連れ出すと、
『お二人とも、ゴクロウサマでしたね。エルバイラ・ランドラサマのお具合は如何程デスか?』
と尋ねると、シビアが、
『回答。我々ゼスタールの生体医療データと、ティエルクマスカ主権体の医療データが効果的に働き、患者は極めて良好な回復を見せている。この結果は、ヂラール敵性体に対する大きなアドバンテージとなる』
『そうですか。それは良かったデス』
ネメアもシビアに同意して、
『既にニーラ生体を通じて、グロウム艦隊に収容されていた、他の患者にも同様の処置を施すよう、惑星の医療関係者に指示をした。ハイクァーン造成装置の取扱方法と並行して惑星上のトッキ医療部隊が処置を行うという連絡があった。今後の事はそちらに任せれば問題はないだろう』
フェルは頷くと、状況に納得したようで、二人に柏木からの次の指示を伝える。
『では、ここでの後のことは、エルバイラサマ達お付きの侍従サン達や、医師団の方々にお任せしても大丈夫と思いまスので、お二人には次の作戦に参加してもらいまスですヨ』
『了解した』と二人はハモるように返事をすると、冷静に次の指示を求める。ま、そこはフェルが二人に話す事ではないので、シビアにネメアは、まああの口調でランドラに挨拶して、柏木のいる会議室へと向かった。
病室に残るはフェルとチビさん二人。
『おうさま、もう大丈夫?』
『りんごむいてやろうか?』
地球人から見て、長寿種族特有の成長過程……見た目や精神年齢は五才児ぐらいだが、知識知的年齢は充分一〇歳時以上の物を持つ。なのでこんなチビさんでもランドラがどんな状態なのかは普通に理解している。ま、だが『皇帝』を『王様』と言ってしまうのは子供ならではといったところ。
ランドラもそんな姫迦や暁を見てニコニコしている。それを見てフェルも笑顔。二人共良い子である。
暁が地球産のりんごを剥こうとすると、侍従が手伝ってくれてたりする……
* *
『カシワギ生体。フェルフェリア生体から話は聞いた。次の命令を発行せよ』
ネメアは会議室に入るなり、挨拶もなしにいきなりのそんな言葉。ま、ゼスさんらしい効率である。作戦というからには、シビアの合議体よりは、ネメアの戦闘合議体が代表して受けるべきだろうと、そんなところ。
「やあ、お待ちしておりましたよ。ランドラ皇帝のお話は聞きました、お二人ともご苦労様です。流石ですね」
『有効かつ、予想できる効果や条件が確定的で揃っていた。言うなれば確実に予想できた結果である』
極めて冷静なシビアさん。
「はは、そうですか。心強いお言葉です……さて、お二人をお呼びしたのは他でもなく、次の作戦についてですが……」
『我々ネメア戦闘合議体は、その作戦内容を把握している。特に説明はいらない。可能な限り即座に次の指示を命令せよ』
「へ?」
『我々シビア合議体も、ネメア合議体に同意である』
なんとも二人はランドラを治療しながら他の会議に出席していたゼスタール合議体。つまりあのヂラールコロニーに突っ込んだドリル戦艦を指揮していた合議体の聞いていた会議の内容をすべて共有していたわけで、会議内容と作戦内容はすべて把握していたという次第。流石ゼスさんといおうかなんといおうか……『効率』に関しては、やっぱりこの種族に敵うのはいないんではないかと。
* *
……さて、そういう経緯もあっての話で、惑星サージャル大公領に設定された、聖ファヌマ・グロウム星間帝国臨時政府は、同じ理性ある知的生命体の同胞となった、ティエルクマスカ銀河星間共和連合・日本国、ヤルバーン州軍と、ティ連防衛総省本部派遣艦隊らとの連携で、グロウム星間帝国本星、惑星グロウムと、その恒星系であるベイルラの奪還作戦を開始するに至る。
作戦要項は……
1:帝国本星グロウムの奪還。
現在、敵ヂラールコロニーの着床により、熱核攻撃でヂラールコロニーの破壊を成功させはしたが、これまでの状況や、惑星イルナットでの現象を参考にして考えるに、恐らく現在、帝国本星は高濃度の放射能に、汚染された状況下で、かの植物型ヂラールが繁殖し、破壊したヂラールコロニー内で生存していたヂラールに、ヂラールコロニー取り巻きのヂラールが惑星内に生存し、活動しているだろうと十分に考えられる。更には、可能な限り惑星住民を収容して脱出したグロウム帝国艦隊ではあったが、やはり全ての住民とはいかなかったようで、少なからず取り残された住民もいたと考えられ、それら住民の発見と救出も重要な任務となる。
2:最後のヂラールコロニーの破壊
グロウム帝国の生命線であり、地球の太陽に当たる『恒星ベイルラ』軌道上恒星エネルギーシステム(所謂ダイソン・スフィアシステム)中核施設に取り付いた、最後のヂラールコロニーを破壊する。
ここでの注意事項は、可能な限りダイソン・スフィアシステムの中核部を損傷させずにヂラールコロニーを破壊する事が望ましいが……現在の状況を分析するに、まずそれは無理だろうという結論に達しているので、ダイソン・スフィア中核システムの代替えシステムは早急にティ連から持ってくるという前提で、作戦を遂行する。
……と、このような二面作戦を展開する内容となっている。
実際、この二面作戦を展開できる規模の部隊に艦隊がやってきており、この『グロウム本星奪還作戦』には、ティ連惑星海兵隊に、その中の最精鋭部隊、シャルリ大佐の古巣でもある『機兵化空挺戦闘団』も今回の作戦に参加している。
勿論、我らが特危自衛隊特殊部隊、大見の信任厚い、リアッサ一佐の旦那様、樫本二佐率いる特危自衛隊陸上科特殊部隊『八千矛隊』に、ヤルバーン州惑星軍特殊部隊、シャルリ大佐率いる『メルヴェン隊』に、リアッサ一佐のY特危コマンドトルーパー大隊が直協に入る。
米軍USSTC部隊も、勿論この作戦へ参加。先の作戦のついでといっては何だが、ナヨもUSSTCに『マム』として加わっている。ということで、米兵を従えているナヨさんといったところ。
此度はメルフェリア団長旗下の騎士団も、USSTCと連携するという事。
IHDのクロード達であるが、彼らは彼らの本来の仕事である『補給・拠点防衛』のビジネスで貢献といった次第だ。
これらを指揮統括するは特危陸上科司令の大見である。
で、此度のヂラールコロニー鹵獲作戦の大功労者、情報省総諜対から特危に出向中のプリ子に月丘は、どうするかといえば、八千矛隊として参戦。
またあの銀ピカアーマー姿になってという話になるのだろうし、プリちゃんも、かの『むせる兵器』を駆って、H型コマンドローダー隊と共に、八千矛の直協として参加する。
その他ヴァズラー、シルヴェル、旭光Ⅱ、旭龍、フォーラ・ベルク、ソウセイ、そしてグロウムの機動兵器であるシェイザー型等の機動兵器が大量に投入され、更にかの人型機動攻撃艦サーミッサ級二番艦『サクラ』も投入。かの植物型ヂラールである『モンスターフラワー』への機動的対応に使用される。
もうこれは、かのロンゲスト・デイの映画の如く、ものすごい降下作戦となる。即ち、柏木長官閣下は、ここまで準備できる権限を持っているという事でもあって、やっぱりトンデモな職についている御仁であったりするわけである……
そして、もう一方の作戦。ダイソン・スフィア中核システムに巣食ったジラールコロニーの破壊作戦には、大規模艦隊決戦を仕掛ける事になっており……
ダル・フィード・マウザー中将旗下の『連合防衛総省軍グロウム帝国即時派遣任務艦隊』を中核に、現在多川が司令を務める件の『威力偵察艦隊』もダルの艦隊に編入され、『機動重護衛戦闘母艦やましろ』を旗艦とした『第一機動先遣打撃部隊』として再編成される。で、この部隊の司令は多川だが、此度は多川も機動兵器部隊の要員として嫁さんのシエと愛機旭龍F型で参加する気マンマンなので、艦の方はニヨッタ艦長に任せて、事実上多川司令は最前線で指揮する形となってしまうようである。
で、今回の作戦には『ネリナ・マレード』旗下の、かのグロウム艦隊も参戦する。というか、此度彼女はこれまでの功績をサージャルに買われて、なんと! 少将に昇進した。これで名目共にネリナ提督の誕生である。その辞令を受けたときのネリナはハタから見てて噴きそうになるぐらいのガチガチな張り切りようで、もう命捧げます状態なその表情に、流石のサージャルも、『まあこれでも飲んで落ち着け』と、特危隊からもらった缶ビールでも渡して一緒に開けて飲んでたりと、そんな事もあったり……
柏木とパウルの座乗するレグノス要塞は、この二つの作戦の司令部として、惑星グロウムを周回する『月』ほどの大きさの衛星よりも数万キロ離れた位置で待機。もし仮に件のダイソン・スフィア中核システムに陣取ったヂラールコロニーが、例の兵装をぶっ放してきたとしても、この位置にレグノスが待機していれば何とかなる。更に現在のレグノスは、惑星サージャル大公領で鹵獲したヂラールコロニーも引き連れている。コレも今作戦に使用する為である。
コイツの管理は、現在ニーラ教授大先生に一任されている。流石にコレ相手にはオツムの良い方のほうが良いという次第。
で、レグノス要塞に乗っていたフェルはというと、彼女は連合日本政府から派遣された交渉係の代表でもあるので、彼女は姫迦と暁とともにサージャル大公領に残った次第。
勿論グロウム側も、ファール首相とサージャル大公、そしてランドラ皇帝も大公領に残った。今、サージャルに請われて姫迦と暁も、率先してランドラ皇帝のお世話をしている。といっても話の相手になったり、コップを置いたりとその程度の作業だが、どうもランドラがこの二人を気に入ったようで、フェルに頼んだといったトコロ。
さて最後にシビアとネメア“達”であるが、あれからこの『グロウム戦役』とでも名付けられるこの戦いを把握したゼスタール統制合議体、アルド・レムラーは、更にシビアとネメアの合議体編成の為の艦隊を、この宙域に派遣してきたわけで、当初の威力偵察艦隊時の隻数とは打って変わって、立派な『ゼスタール艦隊』になっていた……この艦隊を合議体が管理するとはいえ、見た目たった二人のゼスタール女性が運用するというのだから、他のティ連やグロウムの諸氏は驚きを隠さなかった。
で、その隠さない驚きの中には……これまた妙なゼスタール艦艇が一隻混ざっているようで……
一体何を参考にしたのか、あ、いや多分参考にしたのは『サーミッサ級』であるのはもう間違いないの確定子さんのようなイメージの、『人型機動艦艇』であった!
……んで、そのゼスタールがパク……いや、インスパイアした人型艦艇はどのようなものかと言いいますと……
その艦体、というか、全身は、漆黒の如き黒。だが磨き上げられた装甲は輝きを放ち、更にゼスタール艦艇特有の、赤い閃光が機体にキラキラと走る。
ティ連人型艦艇基準で言うところの、『頭部ブリッジ』の形状は、ゼスタールの人型機動兵器である『ギムス・カルバレータ兵器』同様に、後頭部が異常に長く、その後頭部後方もブリッジ的な意匠となり、頭部全体で総合ブリッジ区画を形成しているようにも見える。
ただ、ゼスタールは機動兵器を直接操縦する際、コアである『カウサ』を機体に融合させるので、そもそもブリッジという概念が必要なのか? という事なのだが、後で聞くところでは、有機生命体用の指揮操縦区画も設けているそうで、今後のゼスタール安全保障体制に協力してくれる種族へ供与する意味も含めて、そんなブリッジシステムにしているそうである。
で、他には……背面には大きな機関部を備え、まるで魔神の如き蝙蝠状の羽にも見える推進システムを背負い、翼下にはドーラポッドをパイロンから沢山吊るしている、
腕はまるで六本あるかのようにも見え、そのなかの上腕部と下腕部は、サーミッサ級でいうところのフレキシブルアーム砲塔部になっており、有機的な形状の二連装砲塔が、アーム先端に計四基装備されている。
で、中腕部がマニピュレーターになっているが、その指先は、サイコなんちゃらの如く五連装☓二基の副砲も兼ねているという次第。
で、やはりサーミッサ級をインスパイアしているのか、こんなどう見てもどこかの完全生命体みたいなデザインの人型艦艇なのに、なぜか女性を模して作られており、妙にナイスなプロポーションをしている。
全高はサーミッサ級よりも大きく二三〇メートルもある。
『ふむ』と、その人型艦艇を見て、普通に納得しているシビアさん。
『うむ』と、同じく何か得意げでもあるネメアさん。
『いやーすごいデザインね、アレ。サーミッサもかなり斜め上の船だけど、あれもなんというか、かんというか……』と細い目で漆黒の人型機動艦艇を見るパウル提督。
シビアとネメアは、レグノスのブリッジでゼスタール月工廠から送られてきた、まだとりあえず『試作』ではあるその人型機動艦艇を見て、合議体同士で何やら話し合っているようであった。
シビアとネメア二人はお互い掌を合わせて瞑目している。多分そういうトコロなのだろう。
すると、ブリッジに入ってくる柏木長官様。会議室での仕事に一区切りついたのだろう、最終確認のために、ブリッジへ上がってきた。
それに気づいて、瞑想のような行為を解き、柏木に視線を向けるシビアにネメア。
「いや~すごい増援ですねゼスタールさんも。ありがたい話です」
『評価には及ばない。敵がヂラール統制型であれば、それと対峙するのは我々の使命である』
「素晴らしいです、シビアさん」
コクと頷くシビアにネメア。
「だけどぉ~、まさかサーミッサ級をパク……あ、いや、インスパイアなさるとは。結構な速さで建艦しなさったんですなぁ」
『我々には元々大型の生物型機動兵器を製造する技術の蓄積がある、それを流用した』
そりゃ星系規模の大きさの、常時シールド展開できる超巨大な宇宙コロニーともいえる『ナーシャ・エンデ』を作ってしまうような工業力があるのがゼスタールだ。この程度の巨大ロボット型兵器の製造など、造作のないものとネメアは仰る。
今ではハイクァーンの供与を受けた事で、製造効率が更に向上していると言う話。
「はあ、なるほど……ではハイクァーン原器供与の意義は、とりあえず第一弾として具体的なモノになったのが、この人型艦艇だと」
『肯定』と同意する二人。
するとパウルが、
『でもでもでもぉ、私の大事なサーミッサちゃんを参考にするのはいいけどぉ、もうちょっとロマンのあるデザインでさー、ね、ネメアチャン』
『ん? パウル生体、何か誤解があるようだが』
『え? 誤解? どういうこと?』
『先程から、あの兵器の形状に我々が関与したという前提で、お前達は状況を推移させているが?』
『え、ええ。それがどうしたの? って、そなんでしょ、実際』
『否定。まず、あの艦をデザインしたのは我々ゼスタールではない』
そうネメアが言うと、パウルと柏木は訝しがる顔。
『え? じゃ、じゃぁ誰がアレをデザインしたの? なんかハルマのろくでもない映画のウチュー人を全部足したみたいなデザインだけど。あのセンスで作れるって……』
と何気に失礼な事をパウルは言うが、それでもネメアは否定。
『あのヒトガタ艦艇を設計、デザインしたのは、チキュウ、ニホン政体の学術型知的生命体だ』
「え? そうなんですか? って一体どこのどなた……え? もしかして……」
『ヤルケンという組織である。その組織構成員が、あの機動艦艇のデザインをした』
……その言葉を聞いた瞬間、orzになる柏木先生。パウルは『流石ヤル研!』と称賛してたり……相手がゼスさんとはいえ、とうとう人様の機動艦艇にSFホラーのデザインをしてしまうなんて、アイツらは何考えているんだ……と……
まあでも強力な兵器には変わりはないわけで、サーミッサ型にサクラ型と同じ用兵で使ってみようと。
で、今現在は名無し状態なので、
『お前達の習慣である固有名称を、この人型機動艦に命名せよ』
とネメアさんが仰られるので、ブリッジにいる皆して色々と考えてみる……が、これなかなか良いのが浮かばない。って、このゼスタール製の人型艦。どうみても悪役デザインなので、サクラやツバキとか、ティ連の女性の名称とか、そんな名前付けても似合わないじゃんとか、そんな話をしていると……
『……ヤシャが良い』
ポソっと仰るシビアさん。
「え? ヤシャですか?」と問い返す柏木。
『ヤシャ? なにそれ』とパウル。
柏木はまさかとは思うがとシビアに問うは、
「ヤシャって、あの鬼の形相の、日本の『夜叉』の事ですか?」
と聞くと、
『肯定。その意味も含まれる。調査によると、ニホン政体の宗教上神仏の一つとして、怒りをもって生体を食らう悪鬼や、守護神として表現されていると聞く』
「はあ、まあ確かにそうですが」
『かつての、我々ゼスタールの宗教にも同じ名称を持つ女性の神が存在した。それは親のいない幼生体をさらい、慈悲を持って育て、神の御使いとして教育するという趣旨の存在でヤーシャと言う』
ほー、となるほど顔で聞く柏木にパウル。
『ということは、その怒りと守護の創造主と、ゼスタールの確固たる意志と使命を表したという感じで、「ヤシャ級」と名付けたいわけね、シビアチャンは』
『肯定である』
ふむふむと納得。というか、ゼスタール人も機械的な挙動ばっかりかと思っていたが、これなかなかにセンスあるじゃないのとか、そう思う柏木。
「んじゃ、決定ですな」
『そうね、ヤシャ級とこれからあの人型機動攻撃艦を呼称するわ。副長、全軍に通達しておいて』
『了解です』
ま、ゼスさんの艦なのだから、ゼスさんが命名するのが一番良い。そんなところを互いに頷きあっているシビアとネメア。
ということで、今回このヤシャ級が送り込まれた理由として、前線でのシビアやネメアの『体』として使うためもあるという理由。取り敢えずはネメアのカウサに対する全長二三〇メートルの素体となって、前線指揮しつつ、ゼスタール艦隊を動かすという話。
「では、今回は月丘君達とは行動を共にしないというわけですか、シビアさんは」
『肯定。ツキオカ生体にはヤチホコ隊の兵員と、公私共のパートナーであるプリ子生体が付いているので、作戦遂行には特に問題ないと判断した……このヤシャ級をネメア合議体のみで可動させる事は若干効率性を欠くと思われるため、我々もネメア合議体へ協力し、ネメアと共同でヤシャを運用したほうが良いと判断したため、この艦は我々とネメアが運用する』
するとネメアも、
『シビア合議体の判断を全スール一致で可決した。その運用に賛成する』
どうも二人も納得しているようなので、
「わかりました。で、その事は月丘君や、樫本二佐は知っているのかな?」
『肯定』
「了解です……ではゼスタール艦隊の方も準備を整えて……」
『問題ない。既に作戦遂行準備は整っている。あとは我々がヤシャ級と融合するだけである』
あ……と言葉が出ない柏木長官とパウル提督。なんせ彼女達はやることなすことが早い。言うなれば並列思考の化身のようなものだ。今までこんな会話をしつつも、別ではしっかりとゼスタールの二〇〇〇メートル級のガーグデーラ母艦艦隊を操って、出航準備を済ませていたりするわけであるからして……
両手を横に上げて、「完璧ですな」というジェスチャーをする柏木。パウルもプププと噴いていたり……
* *
さて、十分な作戦会議も、機動兵器に艦艇、人員の調達も行い尽くした現在のティ連と日本国・ヤルバーン州にグロウム帝国艦隊。
惑星サージャル大公領に、それは惑星イゼイラ近海にもあったような都市化された宇宙空間のような、グロウム帝国の歴史上にも存在しなかった異常な宇宙空間の光景が展開されている。
その光景を地上で見るサージャルにファール、そしてフェル。
「地上から見てもこれ程のものとはな……」
と夜空を見上げてサージャルは感嘆する。
「まったくです。今のグロウム帝国に、その友好国は見る影もない状態ですが、チキュウのニホンや、ティエルクマスカの友人達と邂逅することができ、瀕死の状態であったこの文明圏にも大きな希望が見えてきました……不幸中の幸いという言葉は軽すぎてあまり使いたくはないですが、それでも今この時の状況が、バルターどもというファクターが必要なのであったとするならば、これもまたファヌマ神の与えた試練として、私達も耐え抜いて見せることができます」
その言葉にその通りだと頷いているサージャル。
『カミという創造主が、民に試練を与えるという考え方は、ワタクシ達ティ連の者にはよくわからない考え方デスガ、でもその試練の意味を考えるに、それは私達の死生観でいう「因果」の概念に近いモノなのでしょうネ、シャーダ・サージャル』
「因果ですか。ではその因果の行き着く先は……」
『ウフフ、それはラクショーの勝利デスよ。間違い無いでス』
フェルがフフン顔でそう話すと、大笑いするサージャルにファール。
そうあってほしいと願う彼ら。そしてその想いは、グロウムの民も同じなのであろう……
* *
……レグノス要塞ブリッジ……
「……このグロウム帝国で、ヂラールと会敵するこの事実には大きな意味があります。まず第一に、我らが母星の恒星系である太陽系に始めて、明確な危機というものが、たった三〇〇〇〇光年先の場所で我々地球人は遭遇してしまったということ。これが本事件において最も大きい点です。更にはゼスタールが連合日本や、ティ連全体へ警告したヂラールの脅威の具体化であり、映画の予告編の如き今の状況は、今後のティ連や、勿論地球の状況も大きく変える事になるでしょう。でもまぁ、どちらにしてもこの状況に勝利することがその次への大前提ですから、今はもうしのごの言いません。とにかくヂラールを知的生命体としての同胞、グロウム帝国から駆逐する。ただその一点のみに今は集中してください。以上です」
柏木長官閣下の訓示。かつてのネゴシエイター時代の技がキラリと光る……ネットではただの扇動屋とかボロクソ言う輩もいるが、それでも士気が高くなるのであれば、大いに結構な話である。
横でそれを見るパウル提督。パチパチと手を叩いてたり。ブリッジのクルーも同じようなところ。
ちょっと頭掻きつつ、シートに座ると、
「ではパウルさん、あとはお願いします」
『了解よ、ファーダ……よし! では全艦ディルフィルドジャンプ用意! ネリナ提督の艦隊は、任務艦隊が牽引してあげて! そっちの方が効率いいから! ダル提督、お願いできます?」
『リョウカイシタ。その点はマカセテオケ』
『よし! んじゃ最終確認ね! ジャンプアウト後、まずはジェルダー・タガワの「第一機動先遣打撃艦隊」が、威力偵察も兼ねて、まずは惑星グロウムに突入。他の地上展開部隊の橋頭堡を設定して、各強襲揚陸艦にデータを送る事!』
「了解」とパウルに打電する多川将軍。今作戦では副官にシエかーちゃんが側にいるので多川も一〇〇人力である。
『で、次に間髪入れずにジェルダー・ダルの主力艦隊は、だいそん・すふぃあの中核システムを攻撃。恐らく周囲にはマスターヂラール配下の敵艦隊に機動兵器型がウジャウジャいると思うから、覚悟してかかってね!』
ここはダル提督が「了解」と返す。
『よし、作戦の詳細を言えば色々あるけど、さっきもファーダ長官が言ったように、要は惑星グロウムを奪還して、敵最後のマスターヂラールをぶっ潰す。極めてシンプルよ!』
そう言うと、レグノス要塞のブリッジクルーも握りこぶし作って気勢を上げる。パウル提督腕組んで、お気に入の海軍略帽のつばをクイクイと整えると、
『んじゃ、ファーダ。よろしいかしら?』
「はいどうぞ、お任せします」
柏木の言葉の後にクルーの一人が、
『ジェルダー、グムヌィルの空間ジャミングが解除されました。ディルフィルドジャンプ可能です!』
『よし、では全艦隊、各個ジャンプ開始、目標は聖ファヌマ・グロウム星間帝国本星宙域。「生命の栄光、奪還作戦」開始せよ!』
「え?」と思う柏木。『生命の栄光、奪還作戦』という呼称だが、当初この作戦に特段固有の作戦名などはついていなかった。しいていえば『グロウム本星奪還作戦』と、『マスターヂラール破壊作戦』といった、至ってありきたりの呼称だったが、パウルが即興で、この二つの作戦を統合して、このような呼称で呼んだ。
パウルもわかっているらしく、柏木の方をチラリと見て、ニタリと笑う。
彼もOKサインを出して頷く……柏木の承認をもらったので、今此の時より本作戦は、『生命の栄光、奪還作戦』となった。
ティ連防衛総省任務艦隊、特危自衛隊ヤルバーン州軍合同艦隊、グロウム帝国残存艦隊、そしてゼスタール機動艦隊。これらが手を組んだ史上かつてない星間連合艦隊が今、最後の生体兵器群と、その親玉を退治するために、空間をまたいで飛んでいった。
この作戦が成功すれば、グロウム帝国の復興とともに、新たな日本にヤルバーン州、そしてゼスタールにティ連全体の友好国が、この大天の川銀河にできるだろう。
この戦い、完勝を期する……ただ勝つだけでは、ダメなのである……




