【第六章・ティ連日本国】 第三五話 『多国籍宇宙軍』
二〇二云年。
地球社会において、ある画期的な出来事が起ころうとしていた。
米国が開発した航宙艦艇……航宙巡洋艦『USSC-003ニール・アームストロング級 ニール・アームストロング』
ハワイ、真珠湾『ダニエル・K・イノウエ空港』に設置された特別就航式……所謂お披露目式においてその全容を現した日本国以外の地球国家で造船された……それまでのモノとは明らかに違うタイプの、異星からもたらされたオーバーテクノロジーを大きく使用した宇宙艦艇である。
しかも、それまでのエンタープライズシリーズのような実験や試験的な意味合いを持つサマルカ経由のティ連技術で造られたものでははない。いや勿論サマルカ技術は元よりティ連が正式に『貸与』という形で、『使用目的監視付き』の貸出しを解禁した指定技術は当然ながら使われているのは当たり前として、更にはゼスタールが公開した技術に、今後ゼスタールの安全保障体制への協力に準じて提供される更なる高度テクノロジーなど。
地球世界各国はここにきて日本の所有する異星文明技術ほどではないにしろ、やっとのことで異星文明の持つ高度テクノロジーの恩恵を得られるようになってきたわけである。
ただ、そういった状況になった背景には極めて深刻な理由があるわけであって……
地球世界でも数年前にその存在が知られるようになった、謎の生体兵器『ヂラール』
日本では厚生労働省が『特殊宇宙生物災害甲種』と名付けた、そのとおりの宇宙規模の生物災害であり、悪夢の化物。即ちコレの存在を憂慮したティ連や、その恐怖と脅威を直に体験してきたゼスタールが今、この地球世界のすぐ側までやってきたヂラールへの対抗策として、地球世界の安全保障能力を格上げするために、ゼスタールは技術の開示。ティ連は技術の貸与を行う事と相成ったわけである。
貴重な発達過程文明社会の防衛と、ティ連にとって絶対に守らなければならない、創造主と共にある『聖地』日本の防衛。ティ連が地球社会へ技術貸与を決断した理由がこれであり、ゼルタールにとっては、広義における『知的生命体をあらゆる手段を用いて守る事』という彼らの『存在』としての『使命』のため……
この二つの大きな宇宙の意志が、今地球世界の技術に大変革をもたらそうとしているのであった。
とま、そうはいえティ連にとっては日本が地球社会の中心という視線があり、ゼスタールも今やティ連加盟国である。なのでやはり色々と技術格差の是正には各国も外交的努力は惜しまないところであって、此度の地球における科学革命のきっかけになるかもしれないティ連の方針や、ティ連に加盟する前の段階での『ゼスタール外交』で地球各国が得たモノなどを研究する機関を各国は各々立ち上げたわけであるが、日本の場合はもうその名を知らぬものはいない恐れを知らぬ火遊び集DA……日本の最高の頭脳を集めた『防衛省・防衛装備庁ヤルバーン・ティエルクマスカ技術・ 装備応用研究所』所謂、我らの『ヤル研』が有名であるが、今回この『ニール・アームストロング』型航宙巡洋艦を開発したのは、かの米国戦略軍宇宙戦術コマンド(USSTC)内部に組織されたとある米国版ヤル研を彷彿とさせる“スカンク・ワークス”組織なのであった。
しかもここの頭脳には、なんともかの『インベスター』の幹部『エドウィン・スタインベック』率いる国際企業『パイドパイパー株式会社』傘下の大手航空機製造企業を始めとする数々のハイテク企業が、すべてコストはパイドパイパー社持ちのボランティア開発陣として参画しているわけで……
ある意味、確かにヤル研とは違ったカオス臭を匂わせるテクノロジーの結晶が、このニール・アームストロング型航宙巡洋艦なのであったりする。
* *
さて、そのハワイ真珠湾。イノウエ空港で現在進行中のお披露目式。
スチュアート大統領の、この艦に対するベタボメ紹介も終わったところで、USSTC技術責任者が性能紹介に入る。
此度は色々と演出も考えられているようで、その責任者の言葉に合わせて、アームストロングのデモンストレーションを可能な限り行ってくれるようだ。
「あら、なかなかサービスがいいじゃないの」
この式に一般招待者として見学している連合外務局部長兼総諜対スタッフの瀬戸智子。
『マアでも、これまでの“えんたーぷらいず型”の宇宙艦艇と違うところを見せつけたいなら、丁寧なデモンストレーションはやってもらわなきゃネ』
どこで買ってきたのか、いつの間にかポテチの袋をあけてポリポリやりながら見学しているティ連防衛総省情報部兼総諜対スタッフのメイラ・バウルーサ・ヴェマ少佐……横から智子もポテチに手を出して一緒にポリポリやってたり。
さて、そういうわけでUSSTC技術責任者の説明に併せて、ニール・アームストロングにも動きがでてきた訳だが……
……ということで、その責任者がアームストロングをバックに、大きな日本製空中投影型モニターを、映画館のスクリーンぐらいの大きさで展開し、そこに映るデモ映像とともに解説を行う。
先の通り、まずは本艦の諸元からだ。
全長は三一五メートル。この大きさだけで言えば、なんと日本の『ふそう』や、改修前の『やましろ』よりデカいサイズとなる。立派なものである。
形状は、サマルカ意匠の円形宇宙艦本体に、長方形型の船体を埋め込みくっつけた感じ。上から見たら、運動会のトラックのような形状が本艦の本体である。この部分のみで言えば、全長は二五〇メートル程である。
米国がサマルカから供与された磁力式空間振動波エンジンのエンジンドームも船体にあり、後部の半円状部から、ティ連艦艇特有のドーム型エンジンが配置されている。
その船体中央から大きなパイロンに吊り下げられるように、円筒状にぶら下げられるは、サマルカから貸与を受けたシールド発生装置と、ディフレクター発生装置のようである。後方に噴進型エンジンも付いているようだ。ティ連艦艇では緊急推進用で使用される。
で、その円筒状物体からではなく、船体の側面から左右下方に伸びる翼のような支柱部先端に配置されている部分。某ファイナル・フロンティアなSF作品では、ワープナセルになる部分には、ワープナセルではなく、なんと、機動兵器格納庫が大きく左右に配置されていた。
「え? へー、あれって機動兵器格納庫だったんだ……じゃあ巡洋艦って言ってるけど、母艦機能も持っていると」
智子がPVMCGでフォトを撮りつつ、なるほどなと。
『かっちー達も結構大掛かりなものを作ったのネ~』
メイラが下段のVIP席で、責任者の説明を頷きながら満足げな表情で聞いているセルカッツを眺める。
どんな機動兵器が搭載されているのか、そこも興味が尽きないが、それは後ほど説明してくれるらしい。
さて、アームストロング級の説明は続く……
開発責任者や、スチュアート大統領は『巡洋艦』としていたが、これで実質は『航空巡洋艦』か、巡洋艦並みの戦闘能力を持った『強襲揚陸艦』といった色合いが強い船だと理解できた諸氏。実際その武装も相当のものが積まれているようである。
ただ、件のティ連による技術貸与方針の中でも例外とされているのが『武器武装の貸与』である。この武器武装関連の技術は貸与から除外されている。なので此度のアームストロング級には地球人、即ち米国人が現状のテクノロジーで考えた、地球基準でのそれまでにない火器類を装備させていたりする。
その一つが、『転送砲』と総括して呼称される兵器群。
ティ連から貸与された『転送装置』のシステムを流用して、最大射程距離約一〇〇〇キロメートルの通常火砲の砲弾を転送させて、相対速度関係なく相手の至近距離で食らわせるという兵器が積まれている。
「そんな兵器が!」と驚く智子。
だが、発想自体は、かの人型機動艦艇『フリンゼ・サーミッサ級』の必殺『ディルフィルド転送一斉掃射』でもやっているので、初めての兵器やら用兵方法ではないが、あの兵器の理屈を各々各個別火器でやらかしたところがスゴイという次第。
『すごい発想ネ。なるほど確かにそんな兵器ならフェイザーやブラスター兵器に匹敵するものになるかもしんない』とメイラも驚く。
ただ、弱点がその射程距離『一〇〇〇キロメートル』という距離。つまり一般転送装置の転送限界距離一〇〇〇キロメートルが転送砲射程の限界というワケである。その後ワープから飛び出た砲弾弾丸は宇宙空間なら惰性で飛んでいくしか無い。
で、地球上であれば一〇〇〇キロメートルなんてのはものすごい射程距離だが、宇宙空間で一〇〇〇キロメートルなんて距離は、『至近距離』のレベルである。なので、船に近接してきた敵には効果大ではあるが、遠距離の敵には効果が薄いという弱点も持っている。
まあそれでも砲弾には貸与のゼルリアクターを使用できるので、砲弾枯渇の心配はいらないのではあるが。
他、米国独自開発のレーザー兵器に三門の粒子ビーム兵器。ミサイル兵器にレールガン兵器。
そして『徹甲貫通型の核兵器』を必殺決戦兵器として搭載しているという次第。
なるほどと思う智子。即ち核兵器は普通、宇宙空間で使用しても全然威力のないただの高熱を発する線香花火みたいな兵器なのだが、何らかの大気や構造物、液体などを内包する敵の『内部』に貫徹させて核爆発を起こすような兵器として使用できると、宇宙空間での広域破壊性は期待できないものの、個別の敵であれば、内部から文字通り一撃必殺で葬れる力を持つナントカ神拳みたいな威力も期待できるわけで、まあ即ちそういう使い方をする兵器を搭載しているという話。これも先の転送砲機能を利用して打ち込むことも可能だそうである。
確かに『ふそう』や『やましろ』に『カグヤ』と比較すれば、発達過程文明的といった兵装だが、それでも恐らく、ヂラールの生物兵器群とやり合うには十分すぎる火力ではあった……地球人も手持ちの武器で、考える時は考えるのである。
なんか実はスゴイんではと思う智子とメイラ。当のイゼイラ人であるメイラから観ても、『使えるものは使う』という精神で物を作れば、ここまでのものが作れるものかと関心する次第であった……下の席を見ると、かっちーが手をパチパチ叩いて責任者の説明を聞いていたり。
さて、お次はお待ちかねの機動兵器格納区画に搭載する機動兵器の話である。
責任者の解説に合わせたタイミングで高空を飛行する航空機らしきもの。三機編隊で高い高度からアームストロング級の滞空する高度へ急降下し、観客にその勇姿を誇るかのようにロールをしながらスッ飛んでいく。
一瞬の残滓に観客は首を素早く左右に振り、その機体のデザインを把握しようと視線を追尾させる。
皆、その一瞬で把握したのは、その機体の異様なデザインであった!
「あれは! ……まさか飛行型の人型機動兵器? って、いえ違うわね」
『トモコ、バッチリフォトに収めたわヨ。これ見て』
「どれどれ……うわ、なにこれ……」
と、そんな写真を見ずともアメさんはちゃんと解説してくれるそうなので、ソッチを見ればいいのではないかという話なのだが……
で、今のスッ飛んできた機動兵器。正確に言えば、特危の擁するF-2HMと同種の『高機動戦闘攻撃機』という兵器に属するのだろう。その名も『ユナイテッド・ギャラクシーFAHM-50“サラマンダー”』というのだそうな。
「サラマンダーね。なんかすごい名前じゃない」
『さらまんだー? なにそれトモコ』
「えっとね、サルバト星の『ジャスコール』知ってるでしょ?」
『ええモチロン』
「あれとツァーレを足して二で割って、口から火炎放射を吐き出す地球の神話世界の猛獣の名前よ、ウフフ」
『ヒャぁ〜! そりゃ物騒な動物の名前ネ!』
確かに大層なネーミングではあるが、米国史上最強の戦闘機を自負するものに仕上がったと自慢げに語る責任者。その概要は……
容姿は、前から見ると、上部が扁平気味のX型。そう、見てくれはステルス戦闘機の下部真ん中より少し前方あたりに小さな胴と腰部のようなパーツが付いて、そこから主翼と同等の長さを持つ脚部のような翼を持つ機体デザインであった。
本体翼の下にはパイロンに吊り下げられたマニピュレータ型の兵装システム(収納可能)が両翼下に配置されている。
そう、なんと奇しくも偶然ではあるが、その用兵思想が、グロウム帝国の主力機動兵器『シェイザー』に似ているような機体であったのだ。
この機体の特徴は、搭載エンジンと、主翼及び脚部型の翼から発生するそれまでの航空兵器では考えられないような機動性である。
大気圏内では、その翼が高度なAIで運用されるフライバイワイヤーで制御され、絶対的な揚力を生み出しての超高機動航空戦闘が可能である。と、この言葉、どこかで聞いたことある台詞だが、そう、この機体は、かの特危自衛隊に配備されているFー2HMの機動性能を研究して造られている。
更には、当然ではあるが、アームストロング級に搭載される機動兵器であるからして、宇宙空間の戦闘にも対応しており、この時各翼は、スタビライザーの役割を果たして稼働し、宇宙空間での機動性能に威力を発揮する。
搭載エンジンは、主機関としてゼスタール技術を転用したプラズマ噴進式エンジン。これは対艦ドーラに使用されている宇宙空間推進用機関である。
あと、空間機動用として、斥力発生機関を補助機関として備えている。離着陸時にはこの機関を使用してVTOL離着陸が可能。
兵装は、基本マルチロール機なので、空対空ミサイルから各種爆弾まで色々搭載可能で、エンジン出力が小型ではあるが、かなりの高出力なので、比較的高い兵装搭載量を誇る。もちろんマニピュレータ型兵装も、機関砲から光学・エネルギー兵器にレールガンまで換装することができ、そのエンジン能力をフル活用して、戦闘ヘリのようなホバリング能力を利用した対地機動戦闘にも対応している。
「……」『……』
その説明を黙して聞く智子とメイラ。確かに“サラマンダー”の名称も伊達ではなさそうだと。
「ふ~む。私は専門外だから柏木長官みたくはわかんないんだけど……確かに今までの米国、いえ、地球製の航空兵器とはワケが違うみたいね」
『マア、ヴァズラーや、キョッコウに、マージェン・ツァーレに比べればマダマダだけど……』
「さて、それはどうかしら? メイラ」
『え? どういうこと?』
「わからない? んじゃクイズです。あのサラマンダーに多川将補が乗ったらどうなるでしょーか?」
『あ!』
「でしょ?」
そう、彼女らも総諜対の一員であるからして、かつてダストールで多川がやらかした『F-15VSヴァズラー』の戦闘結果も知っている。つまり、パイロットの技量も機体性能のウチであるということだ。
地球世界でも、『パイロットの技量次第で、戦闘機の性能は一世代分を補える』という有名な言葉がある。即ちこのサラマンダーを多川に与えてヴァズラーか旭龍あたりと戦わせたらどういう結果になるか?
ポワワワ~ンと想像する二人。結果、こりゃバカにできないぞと相成る。なぜなら米軍にもその気になれば多川クラスのパイロットなんざゴロゴロといるからである。ってか、多川に演習で煮え湯を飲まされて、いつか意趣返しするのを楽しみにしている米軍将官なんざそこらじゅうにいるわけで……
* *
さてその後、就航式を終えたニール・アームストロング級は、ハワイ真珠湾を離れて、日本国・特危自衛隊双基地へ進路を取る。
……ちなみに智子とメイラは、現地で二日休暇とって、ハワイ観光を楽しんだとか……仕事せーよと。まあ仕事とはいえハワイくんだりまで来てそのまま直帰というのも酷な話である……
で、ハワイからはセルカッツがオブザーバーとしてニール・アームストロングに同乗することとなる。ゼスタール技術はもとよりサマルカ技術もふんだんに利用しているこの船。色々と米軍が独自に開発した、セルカッツから見ても『画期的』と思う技術も積んであるので、サマルカ技術との機能融和性も含めてオブザーバーとして同乗していた。
そして双葉基地に向かう理由は、特危自衛隊海上宙間科の隊員を乗せるためである。勿論今回の本艦試験航海における諸々打ち合わせも含めてではあるが、海上宙間科の隊員に同乗してもらうには色々と理由があった。
なんとこのニール・アームストロング級は、双葉基地で諸々の人員を載せた後、その後月軌道を超えたあたりで、空間跳躍航行試験、即ち端的に言えば『ワープ航行試験』を行うという話なのであった!
そう、ティ連技術を完全に取得している日本を除けば、世界初の偉業で快挙に挑戦する任務を背負っているのも、この艦である。
だが、空間跳躍するのであれば、ティ連のディルフィルド機関を貸与してもらえればそんなに難しい話ではない。実際、此度のティ連技術貸与項目には、ディルフィルド機関の貸与事項も入っている。
その技術を使えば別段難しい話ではないのだが……
今回のニール・アームストロング級に搭載されているのは、これまたなんと、件のあの日にサマルカから供与してもらった、『磁力式空間振動波機関』を、米国版ヤル研である『USSTC“スカンクワークス”』の連中が喜々として、ある意味ヤル研よりもマッド度がえげつない科学者連中が、アメさん独特の斜め上の理論を駆使して改良し、これまたなんと! ティ連でも実用化したことのない『磁力空間振動波空間跳躍エンジン』即ち、ワープ航行を実験しようという腹なのであったのだ!
これはティ連としても注目するべき技術で、成功するかしないかはわからないが、米国が独自改良した小型高出力のこのエンジンでワープして木星までとりあえず飛ぼうという計画を達成しようという試みをもっている船であったのである。
実のところこの行為の意味はとてつもなく大きい。
サマルカから供与され、同国にも少々手は借りたものの、まず本来不可能と言われた磁力式エンジンでワープ機関を、まあ言ってみれば『米国独自の理論』で開発し、造ってその試験を行うということ。
更にティ連でもそこまで熱心には行われなかった磁力式エンジンの可能性を米国が追求したという事。
……この試験航海が成功すれば、それまで日本限定だった特殊な世界観が、ついに地球レベルまで達して波及したわけであり、この世界の地球社会もついに『超光速時代』の幕開けを迎えようとしているわけである。
地球世界はもとより、宇宙基準として見ても大体そうなのだが、その知的生命体社会が高度な星間国家文明に達する基準を考えた時、どの高度文明もまず『超光速技術を持っていること』を第一義に考える。
即ちこの技術を持てば、少なくともグロウム帝国並みの国家として、宇宙は地球を見てくれるという次第なのである……これは重要なことだ。
なので米国はこの試験航海を是が非でも成功させたいところ。
ま、そういうこともあって、万が一の時のアドバイザーとして、特危の海上宙間科の隊員が同乗しているわけでもある。
* *
「艦長、いよいよですね」
USSTC兵士にこのニール・アームストロング級艦内を案内され、ブリッジに入ってくるは特危自衛隊海上宙間科一等特佐である『香坂裕』であった。
ご存知彼は、航宙重護衛艦『ふそう』艦長であり、もとより現在もそうである。
ではその艦長が、なぜに他国の航宙巡洋艦なんぞに同乗しているかといえば、勿論USSTCへのアドバイザーとして、という事である。
あの時より十年経った現在においても、日本ではこの航宙艦艇搭乗員という存在は貴重である。
いかんせん特危自衛隊は、現在でも相変わらずの慢性的な高級将官不足なわけであるからして、香坂のような優秀な人材は、護衛艦の艦長ばっかりやってられないという話もあって、これ結構忙しいからたまらん話であったりする。
勿論此度はこのニール・アームストロング級の超光速試験を補佐するためにやってきているわけであるので援護艦、すなわち、何か危ない状況に陥ったときの救援やらなんやらのために、特危自衛隊の誇る航宙重護衛艦『ふそう』も随伴しているという次第。現在は臨時で副長が艦長代理やって、ふそうのトーラルシステムが副長代理をやっている。
まあこう見ると、流石『ふそう』ということもあて、アームストロング級とは、やはり随分違う技術格差がある船ではありますが……という話にはなるが、まあそれはおいといて、
「カーネル・コウサカ。ワープ航法というものに入るとき、どんな感覚なのかわかりますか?」
と香坂に問うは、ニール・アームストロング艦長『ジェフリー・マーカスUSSTC大佐』階級的には香坂と同階級である。
「まあそんなに肩肘はらなければならないようなものではありませんから、ご心配なく。どっかのアニメみたいに、服が透けて下着見えたりなんてのはありませんから」
そう香坂が答えると、どうもこの言い回しのネタをマーカス艦長は知っていたようで、妙にツボにはまったらしく、大笑いしていた。
「……ははは! そうですか。ではどちらかというと我が国が誇る、アッチのSFドラマの方ですか」
「まあそうですね。ただ、“飛ぶ”瞬間は、何か体の中身がここに置いていかれるような感覚が一瞬ありますが、すぐに慣れます……とはいえ我々が使っている空間跳躍用の機関は、ティ連譲りの重力子を用いたものですので、磁力式で空間跳躍となると、どうなるのか……そこは未知数ですな」
そう、こればかりは科学の使徒であるティ連人、いや、米国と外交関係にあるサマルカ人でも未知数なのである。
しかもゼスタールが公開した技術もある。ある意味、現在のこのアームストロング級に使われている技術は、チャンポンでハイブリッドである。よくよく考えたらその点もすごかったりするのだが……
さて、ということでこの艦、現在月軌道から少し離れた場所で待機中。
空間跳躍。即ちワープ準備の最中、失敗は許されないわけで、最終チェックにも余念がない。
アームストロング級から少し離れた場所にはゼスタールの機動母艦が待機し、アームストロング級とふそうを見守っている。
「艦長、準備整ったようです」
アームストロング級の副長がマーカス艦長に声を掛ける。
「わかった……香坂艦長、これまでの状況で何かご意見は?」
「いえ、特に。よく訓練されているクルーだと思います」
「ありがとうございます……よし、ではワープカウントダウン開始だ」
「了解! ワープカウントダウン開始!」「カウントダウン開始、アイ!」
地球初、いやティ連でも初となる磁力式空間振動波機関での、初ディルフィルドジャンプである。ちなみに米国では『ディルフィルド航法』という用語は使わず、地球での慣用語『ワープ』という言葉を使っている。そこは初めての言葉を使うよりも、使い慣れた慣用句という事と、地球用語という点であろうか。
日本はティ連なので、『ディルフィルド航法』という言葉のほうが慣用句となってしまっている。
意味は全くおなじなのだが。
「三六〇・三五九・三五八……」
カウントダウンが続く艦内。全員着席してシートベルト締めて、という体勢。これが重力子機関型の船でのジャンプなら、香坂もお気楽なものなのだが、いかんせん今回はどうなるかというところも少なからずある。
今回の米国が開発した磁力式のエンジンは、米国が独自に……とはいっても勿論ゼスタール技術等々を使っての話ではあるが、パワーを向上させ、かつ小型化に成功したエンジンを、何十も使用して時空間歪曲を行う『クラスター方式』という仕組みとなっている。考えれば単純な話なのだが、そこにはいろんな問題もあって……例えば、レシプロエンジンをたくさん付ければ、強力なジェットエンジン一基の出力に勝てるのか? という理屈と同じで、そうそう簡単な話ではない。
地球の宇宙開発史でも、かつてソビエト連邦が製造した『N-1』型ロケットは、三〇基もの小型のロケットエンジンを束ねて打ち上げるというクラスターロケット方式という手法を考え出したが、結局一度も成功することなく計画は破棄されているという実例からもわかるように、小さいものをたくさん束ねれば、大きいものに勝てるという、そう単純なものでないのが、こういった技術の世界なのだ。
(だが、まあ此度は入念にゼルシミュレーションもしていると言う話だし、サマルカの技術だしな。セルカッツさんも太鼓判押してるし、大丈夫だろうとは思うが……)
香坂もこの数年で、ティ連宇宙航行技術を身に着けた身である。まあそういうティ連視点での心配もしてしまったりするが、そこは米国のフロンティアスピリットに敬意を評し、かつ、米国初のティ連技術やゼスタール技術転用の独自開発技術の成果が試される時である。同じ地球人として応援したいところもあるという次第。
「一〇・九・八・七・六・五・四・三・二・一・〇! エンゲージ!」
「ワープ開始! アイ!」
ニール・アームストロング級のエンジンが唸りを上げる。
複数の磁力式空間振動波エンジンが連動し、前方空間を歪曲させ、艦隊をシールドが覆う
刹那、その歪曲空間に引き込まれるように、眩い光とともに、アームストロング級は消えた!
「おお、やったか!?」
ふそうで見守る特危隊員達。ブリッジクルーみなしてその様子をモニターで見守る。
「おいおい、我々も後を追うぞ! 総員普通空間跳躍用意! システム、対象の空間航路形成に問題は!?」
ふそう副長が艦長席に座って指揮を執る。副長は先の通り、ふそうシステムが肩代わり。
『センサーによる走査では、順調に航路形成を行っていたようです。特に問題となる点は感知できませんでした』
「わかった」
「副長! ディルフィルドジャンプ準備完了!」
「よし、すぐに後を追うぞ! ジャンプ開始! 目標は……」
* *
地球、米国のとある場所にある『米国戦略軍宇宙戦術コマンド』ご存知USSTC本部。
大きな空中投影型モニターに太陽系の配置がCGで描かれ、更には地球各国の軍事状況やらがチラチラとシステム文字で表示され、スタッフが忙しく行き交っている。
今回は特別にNASAのスタッフも入って、軍民共同作業といったところだ。
現在、この場所での最も重要な任務は、ニール・アームストロングの追跡である。
先程、特危自衛隊の『ふそう』から、当該艦艇がワープしたと連絡が入り、追跡する旨の連絡が入った。
固唾をのんで見守るスタッフ達。
予定では、それこそ数秒で、当初の目的地である場所……そう、宇宙でとりあえず何か実験といえば、この場所、『木星圏』へ到達する予定であるが、ワープに入って数分。まだ連絡が入らない。
やきもきする司令部……だが……
『こちら……ニール・アームストロング・アルファ。本部応答せよ……』
この音声に、司令部スタッフ全員総立ちになり、システム画像しか写っていないモニターを凝視する。
『東部標準時、一六時三五分。本艦は木星圏へ到達。現在クルー全員に木星見学の時間を与えている。こりゃすごいもんだ。映像送信システムが準備でき次第、映像を送る』
この通信と同時に、司令部が大歓声に湧き、書類が宙を舞う。
スタッフ同士が抱き合って、口笛鳴らし、『とりあえず』ではあるが、日本という奇跡を除いた、地球世界初の、超光速航行に成功したという次第になった。
もちろん、このニール・アームストロングは米国だけの船ではない。LNIF陣営が共同で総力を結集した船であるからして、欧州に豪州、カナダにインド、中東と、関係各国の宇宙機関も同じくモニターしている。該当各国も当然同じような雰囲気だろう。
勿論、特危本部の双葉基地に、筑波のJAXAもモニターしていた。こちらは、大喜びというか、どっちかというと『やれやれ』と言った感じで汗を拭ってたり。
なんせティ連でもやったことのないことをやってるわけであるからして、そうもなる。
だが奇しくもLNIFとティ連―ヤルバーン州に日本が、なんだかんだ共同で『磁力空間振動波機関』の可能性を結果的に発見してしまったわけであるからして、発達過程文明との接触ここにありといったところでもあったりする。
これで連合と地球世界との関わり方も、また変わっていくきっかけとなるかもしれない。
そして、この実験成功がまたCJSCA陣営の何らかの動きを加速させることは間違いない。
実際、彼らは彼らで、ゼスタール系技術を持って、何らかの動きがあるということはLNIF各国の情報機関も察してはいたが、それはまた別の機会ということになるのだろう……
* *
……さて、そんなこんなで木星圏に到着したニール・アームストロング。
後追いで『ふそう』も到着し……なんと、なんだかんだで心配になったゼスタールも、ガーグデーラ母艦を一隻派遣してくれたわけで、全長二キロメートルの巨体も含めて航宙艦が三隻並んで木星見していたり。
「お疲れ様です、マーカス艦長。試験成功おめでとうございます」
「ありがとうコウサカ大佐。まぁとりあえずといったところですか、ははは」
「そうですね。って、あれを見てくださいよ。ゼスさんもなんだかんだで付いてきてくれたみたいで」
「ですなぁ」
両艦長、握手してまずは試験成功を喜び合う。
ガーグデーラ母艦からも、ゼスタールの合議体さんが、無事の確認を求める通信を入れてきてくれたようだ。ま、とりあえず、ふそうだけでもサポートは問題ないが、彼らのあの巨艦が一隻いれば、なんだかんだで色々と助かることもあるだろう。
で、各部署から色々とデータにて報告が上がってくる……それを一瞥するマーカス艦長。
この船にはトーラル系のシステムは使われていない。制御系は、ゼスタール技術を転用したAI型システムである。音声入出力には対応していないので、もっぱらタブレット型端末で、各部署の報告を読むことになる。
するとマーカス艦長は、少々渋い顔になる。
「どうしましたか?」
「あ、いえ……本来は機密事項なのですが、大佐ならまあいいでしょう。これなんですが……」
すると、香坂もその報告を読む。で、なるほどと頷く。
その内容。磁力式の空間振動波システムモジュールに一部破損がでているという話。
この船、先の通り、小型の磁力式システムを、実は三〇器ほど環状に並列させてコイルのように運用しているのだが、その内の二器ほどに破損が見られると言う事。
マーカスが言うには、
「とりあえず予想されていた事ですので想定の範囲内ですが、すべての機関が同じように可動するには、まだ改良が必要なようですね」
「ですがマーカス艦長。此度は連合からハイクァーン装置の貸与を受けているのでしょう? であれば、その破損も即修理して……」
「そうなのですが、機関の耐久度も見てみたかったので、現在エンジンに関するハイクァーン保守機能は切っています。ま、予備のモジュールは積んでいますので大丈夫ですよ」
頷く香坂。なるほどなと。
まあこのモジュールの品質も、今後色々と改良を重ねて良くはなっていくのであろうが、やはり重力子エンジン単体の信頼性と比較すればという話にもなるのだろう。
だが、モジュールを交換して云々という回避策もあるわけなので、今後このシステムがどれだけ改良されて品質が向上していくか、これは見ものではある。
実のところこういうのは日本の十八番分野なのだが、此度はLNIF諸国にお株を奪われた形になったというところ。
さて、木星圏ではそんなところで、それまでの『日本だけ』ではなく、LNIF陣営と言う形ではあるが、まずは『地球人』が、超光速技術を入手したという歴史的な日となった。
文明の高度基準の一つが『超光速技術の取得』という事が一つの課題であるとするならば、地球世界はティ連で喩えられるところの『発達過程文明』から、『超発達過程文明』となった感じになるわけである。まあそんな基準があるわけではないのだが。
と、そんなところで、成功の余韻に浸っている間もないわけで、彼らは軍人である。従って即座にプログラムされた予定の訓練に入る。
艦体左右の発艦口から『FAHM-50“サラマンダー”』が射出され、運用訓練に入る。
彼らもゼルシミュレーターでのVR訓練は受けているので、今回は初の実地訓練といったところだ。
主翼が二対あるようなデザインのこの機体。ステルス戦闘機に翼状の足が生えたようなデザインのそれが、Xの字が射出されるように、発艦口から打ち出される。
これで彼らUSSTCもLNIF連合軍の先駆けとして機動部隊を構成していくだろう。
恐らく連合日本も、同盟の関係上、彼らと関わっていかなくてはならない。更には彼らがティ連に求めている要望。その関係もあるわけなのだが、その要望とは……
* *
「ルイス大統領。ニール・アームストロング型航宙巡洋艦の件、超光速航行実験成功おめでとうございます。」
『ありがとうイサオ。これで我々合衆国、そしてLNIFもサマルカ国の協力と、ゼスタール技術のおかげでニホンと同じ土俵に立つことができた……ま、一〇年かかったがね』
日本国、首相官邸。
内閣総理大臣・春日功は、米国大統領ルイス・スチューアートと、VMCモニターで通信会談を行っていた。
米国も現在はサマルカとの交流も相当活発になっており、量子通信機器の供与許可もティ連を通じてサマルカに出したらしく、こんな感じで米国の主要政府機関では、もう今や普通に使われていたりする。
春日の下にもニール・アームストロングの超光速航行試験成功の報は伝わってきており、祝意を伝えるために、スチュアートへ通信会談を申し入れたという次第。無論スチュアートの方も予定を変更して春日との会談を設定した。
「一〇年ですか……あの時は、我々日本政府も時のガーグ組織暗躍の中、世界との付き合い方を改めて模索しなければならなくなった時でしたからね。逆に言えば大統領の言う『一〇年』も、『あの時』がなければ、『今』もないわけですから、そういう因果なのではないでしょうか? はは、ティ連人風に言えばですが」
スチュアートの皮肉の意味も込めた『一〇年かかった』という言葉に、そんな返答をする春日。まあでも米国だって『ロズウェル事件』がなければ、サマルカとの交流もないわけだし、そうなると、今木星にいるニール・アームストロングだって無いわけだから、そこんところはその『因果』に感謝してほしいと思う春日。
『はは、まあそうもいえますか。だが、昨今のニホン以外の世界に対するティ連や当初のゼスタールの対応ですが、結局はあのヂラール・モンスターの存在を我々地球人が知ってこその、というところもあります……従って今後はティ連にも更なる柔軟な対応をお願いしたいところですな。連合日本からティ連中央へそうお伝えいただきたい』
「わかりましたルイス……で、今後の事ですが、あのお話にあった件、実行なさるので?」
『イエス。できれば早いほうがいいと思っています。その点を“連合日本”の権限で、なんとか対応していただきたい』
この春日とスチュアートが話す『例の件』という話。これが先の『ティ連に求めている要望』というものである。それは……
『……我がUSSTCは、何年か前の、あの「サルカス事件」でかの部隊を初投入して以降、火星域での訓練にサルカスでのヂラール研究。そして今回のエンパイア・グロウムの件での投入と、順調に空間戦闘に対する習熟を積んでいる。で、現在は陸戦のみだが、宇宙での機動部隊運用の習熟も兼ねての協力、ということで参戦を許可してほしいのですが……』
なんと、スチュアートはかのニール・アームストロングをグロウム帝国での作戦に参加させてほしいと言ってきたのであった!
「ですが、我が国、いや、我が連合の特危自衛隊でも、現行のレベルに達するには、正味一〇年の歳月を必要としました。今グロウムに展開するUSSTC部隊の練度は確かなのでしょうが……」
『トッキにも最初はあったでしょうイサオ。我々も今がその『最初』というだけの話です。いや大丈夫、無茶はしません。一応任務としては、我がUSSTC部隊の回収ということで命令を出す予定です。それにかのヂラールの事も考えれば、ゼスタールの指導者が言っていたようにこの地球という単位で考えれば、多少厳しい状況になっても、やれる事はやっておきませんとな』
春日は少し上目でスチュアートの話を聞くと、目を閉じて頷く。
今後の地球世界の安全保障を考えてみても、この星を地球世界の総力を挙げて防衛できる体制を作っておかないといけないのは、確かにそのとおりではある。そういう点はスチュアートの言に一理ある。
最近は、彼のつぶやきSNSの投稿にも、一時期のマスコミ批判や、某国貿易赤字への批判や追求といったものは少なくなり、もっぱらティ連やサマルカ、そしてゼスタールに関する投稿が多くなった。
彼もそういう点、日本に次ぐ『宇宙を見た』者達がいる国家の指導者である。流石に此度のグロウム帝国の一件は只事ではないと判断したのであろう。
ただ、春日が心配する事、そして二藤部も柏木も心配する事、それは中国やロシアといった国家の考え方というヤツである。
ロシアはまだいいとしても、自国主義的な判断で、かの一〇年前のクリミアのようなことをまた勝手にやらかせば、話はややこしくなるし、中国は今現在も相変わらずである。一番まずいのが、その覇権主義的な思考が何も世界征服を企んでいるようなものではなく、結局のところ、自国国民の反乱が怖いために、自国国民を満足させるための人治国家的判断の覇権主義的行動なのであるから始末が悪い。
こういった物事の分別が、LNIF陣営国家や、ティ連の一般的な常識とかけ離れている国との共闘は、流石のティ連でも難しいものがある……
* *
場所は変わって、ヤルバーン州内にある、東京都ヤルバーン区の情報省本省。
ちょうど春日がスチュアートと会談を行っている頃、情報省大臣、二藤部は、新見からの報告を受けていた。
「なるほど……では此度のニール・アームストロングの超光速運行実験成功のタイミングで、動き出しましたか……」
二藤部と新見は互いに応接室のソファーにゆったり腰掛けて、打ち合わせといったところである。
二藤部はコーヒーをすすりながら、新見の報告を聞く。
「はい。三島先生の例の財団法人の、『財団法人三島・ティ連研究会』からの報告なのですが、ロシアが独自のパイプで、ゼスタールと交渉しているようで、どうもゼスタールと航宙艦の共同開発に関する約定を締結する方向で、話がまとまったようなのです」
『財団法人三島・ティ連研究会』とは、一時期まだゼスタールがティ連に加盟する前の話で、まだティ連と講話するしないの話をしていた頃の、地球におけるゼスタール人の身元保証組織であり、活動拠点であった組織である。
現在はもうゼスタールもティ連に加盟し、恙無いところではあるが、三島の好意もあって、この財団法人は、現在もゼスタール人の、地球世界各方面へのパイプとして利用させてもらっているという次第。
そこへロシアからゼスタールへそんな話があったと、ティ連研究会のゼスタール人から報告があったという話。
そこで二藤部が問うは、
「では、そこまでの交渉であれば、ロシアはあのゼスタールが提示した『技術公開条件』を呑んだという理解でいいわけですよね?」
「その通りのようですね」
「ふーむ……」
ゼスタールの『技術公開条件』とは、ゼスタールにとっても宿敵であるヂラールに侵略された彼らの母星『ゼスタール星』を奪還する作戦に協力する事を条件に、ゼスタールが国連で公開した第一弾のゼスタール技術より更に進んだゼスタール技術を公開、もしくは所々物品開発協力を取り付けることができる『ゼスタール安全保障条約』締結を条件とした案件である。
つまりこの条約を締結するということは、所謂『ガーグデーラ』クラスのゼスタール技術の取得が可能になるという事でもある。
だが、ゼスタールも現在はティ連に加盟した身であるので、独自外交権は勿論認められているものの、現行まだティ連で有効である日本との一極集中外交主義を考慮してやってほしいという要請はゼスタールも受けているので、それを勘案した外交をゼスタールも色々考えてやらなければならないわけであるからして。
「ま、そういうのもありますから、ゼスタールさんも色々制限にペナルティなども考えながら交渉しているようですが、ははは」
と新見。なかなかうまい具合に、あの話し口調でやっているらしいと。
「と、いうことはそのロシアとの交渉内容も逐次ゼスタールさんは、ティ連研究会へ報告……即ち、我々安保調査委員会へ報告を入れてくれているわけですね?」
「そういうことです二藤部大臣。ま、そういうところゼスタール人の方々は、本当に正直な方々ですので、ロシア側の機密も何もあったものじゃないでしょうね」
「はは、もし本当に機密を守ってほしいなら、彼ら相手だと、一つ一ついちいち『秘守義務契約』結ばなければならないような、そんな交渉になるかもしれないわけですから、ロシア側も大変でしょうね」
「はい。というか、そういうところも見越しているのでしょうね。もう我々日本やティ連側に漏れてもいいもの悪いものを絞って秘守義務項目を設定しているみたいですから……なので、こういう情報も、ゼスタール人さんから得ることもできまして……」
新見が机に広げるは……なんと、ロシア側がゼスタールに要望している、共同開発用のロシア側が設定した航宙艦艇の仕様書であった!
「ほう……これがロシアの……」
その図面。勿論コンセプト図であるからして、実際の設計開発は今後ロシア・ゼスタール間で話を進めていくと思われるが、この図面を見ればロシアがどういう宇宙艦艇を欲しがっているのか、かなりの部分まで理解できる。
……さて、その図面に描かれたロシアの考える航宙艦艇。
そのデザインは、まるで潜水艦を全長三〇〇メートルクラスにまでしたようなデザインであった。
ロシア原潜『タイフーン級』のような雰囲気の艦体に、上下左右同じようなデザインのブリッジが配置され、兵装はロシアが開発したミサイル系兵器と火砲に、ゼスタール系の光・粒子系兵器が数機配置されている。そんなイメージの航宙艦艇のコンセプト。独自開発の機動兵器は積んでいないが、ゼスタールから貸与される『ドーラポッド』『対艦ドーラ』の搭載が、いくらか可能という仕様になっている……
「なるほど、交渉が順調に進めば、こういう兵器をロシアが持つ事になるわけですか」
「そういうことですね大臣。建艦は月のゼスタール兵器工場施設で一気にできるそうですから、意外と早い期間での配備となるかもしれません」
「で、この船の名称は?」
「はいそれもこちらに……」
新見がゼスさんからコピーをもらった仕様書には、『ピョートル大帝級』と明記されていた。
二藤部は新見のもらってきた資料を一読すると、「フゥ」と一つ吐息を吐き、無言で頷きながら、書類を横においてったトレイの上に置く。
「で、新見さん。中国の動きはどうなのでしょう」
「は、中国は、正直彼らと交渉がうまく行っていないようでして……」
「と、いいますと?」
「どうもゼスタール人の方々が言うには、『チャイナ国は、言動と行動が一致せず、またその点を指摘しても状況に変更はないとその場では言うが、結果が伴っていない』という感じで、困惑しているという話です……まあわからないでもないですが」
そう言うと二藤部も不謹慎ながら笑ってしまう。そりゃそうだ。キッチリカッチリを地で行く徹底的種族のゼスタール人に、中国人の交渉のやり方はおそらく、全くと言っていいほど噛み合わないだろうと二人は思う。
中国人の交渉方法は、毎度のことながら『出来るできない、あるかないか』に関わらず、とにかく大きく出て、自分の利益だけは確保し、相手の要求は、できれば形だけでもなんとか調整してみる、というパターンで、結局できなかったら放置。放置なので終了ではないという理屈で、延々放置……で、相手が諦めるのを待つというのが毎度のパターンであるが、これをゼスタールさんに通用すると思ってやっちゃっているところがツボである。
ゼスタールは中国に対して、これ放置するわけにもいかないので『強制措置』を使ってでも、約定は守らせるという話。ただ、ティ連との関係もあるので慎重にということである。二藤部も小さくため息をつくと、
「なるほど、わかりました。はは……そういうことならば、こちらの外務省の、対中政策の腕っこきを見繕って、ゼスタールさんへアドバイザーとして派遣して差し上げてもよいのでは? 新見さん、古巣のコネでなんとかならないですか?」
「はい、というか、その方向で外務省へも協力を打診しています。大臣の仰る方向で進めていますので、ご心配なく」
頷く二藤部。だがゼスタールという異星種族の中でも特殊中の特殊な方々相手に毎度の中国クオリティで対応するなんて、もうこれは中国四〇〇〇年の歴史で染み付いたエートスとしか言いようがないなと思う二藤部に新見。
やはりCJSCA相手の案件は、難航しそうである。だが相手がゼスタールでよかったと思うわけで、あの中華クオリティを相手にしても『困惑』の程度で済む感覚なのであるから、ゼスタールも相当『達観』している人々だなと思うわけで、これはガーグデーラなんて呼び方されていたけど、実際のところは尊敬すべき種族なのではないかと、そう思うわけである……
* *
さて、再度場所は変わり、地球から三〇〇〇〇光年離れたグロウム帝国。
ということで場所はグロウム帝国領、グロウム帝国臨時政府が置かれた惑星サージャル大公領である……
次の、恐らくグロウム人の視点では、恐らく『決戦』になろうかという状況。
諸氏、その準備に余念がない。
ここ、レグノス要塞会議室では、賢人ニーラ教授大先生が、現在の状況を報告していた。
『とりあえずぅ、鹵獲したヂラールコロニーの研究データサンプルは着々と採取できていますぅ。やっぱり親玉ふんづかまえたかいはありましたね。このヂラールっていう生体兵器の全容がつかめてきました』
ニーラは毎度の指付き指示棒をふりふりVMCモニターを起動して話す。グロウム側関係者は、その指付き指示棒が気になって仕方がない様子。
『ではニーラ教授。そのバルターに関するデータは我々にも提供していただけると?』
『勿論ですよ、シャーダ・サージャル。でも流石にあのブツを全部調べ尽くすには相応の期間が必要ですから、ご提供できるデータは、その都度ということになりますけド』
そりゃそうだろう。一応はあの大きさの『生き物』なのだ。あの大きさの建造物を調べるのとは訳が違う。
だが柏木長官が、少々意見。
「ですがニーラ先生。あれをいつまでもあのままにしておく訳にもいきませんし、次の作戦にも投入する方向で司令部も作戦を組んでいますから……確かに今はハイ端子で『拘束』している状態ですが、相手はまがりなりにも『生体』ですからね。長期のあの状態で、安全を確保できる保障なんてありませんし……」
『ハイハイ。ふぁーだのご懸念もごもっともですね。実際確かに長期の拘束は無理だと私達も判断しているですよ』
「と、いいますと?」
『はい、あのですね、やっぱりあれだけの生体ですから……懸念していたことなのですけど、どうもハイ端子に対する「抗体」のようなものが生成されているようでして、ハイ端子拘束に対抗できるような“性能”を備えているみたいなことがわかってきました~』
「本当ですか!」
あのゼスタール必殺のゼル端子・ハイ端子攻撃。この状況から脱する手段をヂラールは備えているという。やはりこの情報に会議室はざわつく。
だが、ニーラが言うには、そんな即効性の高いものではないようで、その点は生き物が病気にかかれば、抵抗力で病気を治すという、生物であればある種必然の現象であって、ニーラ自身はさほど驚いてはいないという話。
『デモ、ニーラチャン、生物は進化しますからネ。その点も踏まえてヂラールに対する対抗策も考えておかないト』
と語るはフェル。
『そうですね、フェルお姉サマ。普通の生き物であれば、免疫抑制剤のよーなお薬造って、ハイ端子の効果を永続させるような処置もできるのでしょうけど、あの大きさですからね~』
どうしようかいなと腕組むニーラ。指示棒をくりくり空中で回す……グロウム側は、その先端の指が気になって仕方がない。
そんな感じで会議を進める諸氏。すると部屋に柏木の部下であるユーン人が入室してくる。足が逆関節の、デミ・ヒューマン型異星人だ。
「ん? 何?」とユーン人からVMCボードを手渡されると、その内容を読む柏木……「あ、着いたんだ。わかった。あとでお会いしに行くと伝えてくれ」
そう言うと、敬礼して下がるユーン人。
『どうしたデスか? マサトサン』
「ああいや、火星からゼルドア提督の艦隊第一陣が到着したようだ。それとあと一時間ほどで、ティ連本国の艦隊も到着する。艦隊司令は懐かしい人だよ、はは」
『? どなたですカ?』
「あの時のダル艦長だよ。今は中将、提督閣下だ」
『アァアァ!』
フェルはポンと手をたたく。柏木は職務上、本部でしょっちゅう話をしているが、フェルはもう何年かぶりの再会になる懐かしい人物だ。
かつての『カグヤの帰還』作戦時に世話になり、火星テラフォーミング計画の発案者でもあるダストール人である。
現場主義で、昇進の話を幾度も蹴っていたのだが、火星テラフォーミング計画が軌道に乗ると、その業績もあって世間体もあるという事で、へストルに相当説得されて流石に断りきれずに提督職についたという話。しかもそれまでの昇進すっぽかし話も含めて、大佐からいきなり中将への二階級特進である。それを柏木から聞かされたダルは、えらい苦笑いをしていたという話。『選挙のときの意趣返しか?』とまで冗談を言われたとか。
『デモ、心強い方がきてくれるデスね!』
「ああ、此度は現場指揮できるということで、張り切ってもらっているよ、はは」
その話を聞くサージャル大公も、
『カシワギ殿、準備は着々というところですか』
「はい殿下。ただ、心配な点も一つあるのですが……」
と、その説明をしようとしたところ、先の柏木の部下であるユーン人が、ノックもなしに部屋に飛び込んできた!
『長官! 緊急事態です!』
「おいおいどうした騒がしいな。落ち着いて……」
瞬間、会議室に警報が鳴り響く! 会議室に鳴り響くということは、ここはレグノス要塞だ。要塞全体がこんな状態だろう。
わけがわからない会議室メンバーだが、その時!
「うお?? おおおっ!?」
会議室が地鳴りのようにゴゴゴと揺れ動く。
諸氏席から立ち上がり、側にあるものに捕まって、足を踏ん張る。
『コ、これは、転移振動!?』
流石のフェル。現在の状況をいち早く分析する。
ディルフィルド航法等で、大型の艦船が空間転移した際に生じる、空間振動だ。だが、
『お姉サマ、でも、ちょっと振動が大きいデス! システム! 外部モニターを!』
宙に大きく、VMC外部モニターが展開する。すると!
「な、なんだありゃ!」
……時空間転移してきたと思われる、巨大な粒子ビーム光。それはものすごいエネルギー量のソレが、惑星サージャル大公領をかすめて一直線に彼方へと光を引き、飛んでいく……
『まさか……転移兵器!?』
そう呟くニーラ教授……緊急事態である……




