50.夏休みの始まり
夏休み初日、昨日の夜に魔法兵団へ帰ってきたキアラは早速団長に呼び出されていた。
「いつも任務ご苦労。早速だが、この先の任務内容の確認だ」
「……」
わざわざキアラが返事をしなくても、団長の話はどんどん進む。
「まず、夏休み中はルーレスト殿下の護衛任務には就かなくて良い。学園の人数自体が減るため、近衛騎士団からの警備を出すことになる。
その代わり、レンツァー魔導師は魔境の討伐任務に専念するように」
まあ、キアラの予想の範疇だ。
そうなるだろうな、とも言う。
「だが、魔境任務にあたってひとつ注意だ。
兵団員の魔境への滞在時間は一度に最大3時間、その後5日以上開けるように、と定められている。
以前に副官のアズーラ中尉をそれ以上に渡って滞在させたそうだが、帰還後吐いていたぞ。
そうならんように、規定以上魔境へ行く場合は一人で行くように」
「……はぃ」
以前、アシェの魔石を取りに行った時の事だ。
キアラが調子に乗って狩りまくって、後ろでアズーラ中尉が真っ青な顔色になっていた。
その後で執務室へ帰ると中尉が居たので、忘れる前に謝っておく。
「……ぁの、すみません。魔境に居すぎて、体調が悪くなった、って」
「いえ、お気になさらず。
レンツァー師の任務に、同行するのが副官の務めですから」
「それでも、ごめんなさい」
「普通は学園の授業か、最初の遠征で嫌という程習うものですが、レンツァー師は出来てしまうがゆえに、放置されてしまった結果だと思います。
悪いのは兵団であって、レンツァー師ではありませんよ」
アズーラ中尉はそう言ってくれるが、だからといって無理をさせても良いとはならない。
「……ぁの、これからは、行ける範囲で、一緒に行ってくれますか」
「ええ、もちろん。
そして、勉強は一緒にしますから、安心してください。自分も夏期講習に追われていたのが懐かしいくらいですよ」
「……そうなんです。宿題も、結構あるし……」
各科目の教師たちは、夏休み中も生徒が遊び呆けることのないよう、しこたま課題を出していた。
「はい、頑張りましょうね」
でも、アズーラ中尉が助けてくれたら、どうにかなるかな、と思うキアラだった。
錬金塔に戻って調薬をするが、前期の間だけでもかなり作業が早くなったと実感する。
今まではかなり適当に、そしてのんびりゆったり作っていたが、それでは授業時間中に完成させられないからだ。
間に合わせるように、と授業で頑張った甲斐あって、器具の操作がかなり上達した。
なので、今までの作業量は瞬殺で終わった。ついでに師匠の納品ノルマ分まで作っても、まだ時間は充分にある。
キアラは、久しぶりに暇な時間を持てて、大変満足していた。
何せ、学園に通い出してからというもの、トラブル続きで疲れている。
「よし、点滴の改良でもしようかな」
暇なら調薬しよう、というのもどうかとは思うが、キアラはその辺の淑女とはあまりにも違う。
手慰みに刺繍をするくらいなら、もっと有益なことがしたい質なのだ。
それに、日々魔力量は増え続けている実感がある。
まだ、魔力操作が上達したことでコントロール出来ているが、そう遠くなく、扱いきれなくなる。
もしそうなったら、また人と関わるのを恐れ続ける生活に逆戻りしてしまうが、キアラはそれは嫌だった。
だから、魔力を抑え込むための点滴を改良したい。だが、未知の薬を作成するのは、ひどく地道な仕事だ。
一つ一つの素材を試して作り、ひとつずつ自分の身体で検証する。
気の遠くなるような作業だが、時間はあるのでゆっくりと進める。
勉強と討伐の仕事をしつつも、一週間の苦労の甲斐あって濃縮には成功した。
キアラ的には、とても早く成功して嬉しい限り。下手をしたら夏休み全部使っても出来ないかも、と思っていたのに。
(これも、ちゃんと勉強したからかな)
器具の扱いだけでなく、それぞれの素材の特性や手技を学んだからこそ、錬金術が上達した。
だから、キアラはまだまだ頑張ろうと思う。
出来れば、効果増強をしたいから、アズーラ中尉が非番で勉強を見てくれない時にでも、資料室で自分で勉強してみようと思った。




