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お焚き上げ便~貴方の思い出燃やします~  作者: 渡辺河童


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2/10

2-最初のお焚き上げ

 「燃えるってことは、消えるってことだと思った」


そう言ったのは、恵子がまだ大学生の頃、付き合っていた男だった。

彼は失恋するたび、相手からもらったものをベランダで燃やしたらしい。

手紙も、ぬいぐるみも、写真も――。


「灰になったら、気持ちもさっぱりするんだよ。…ま、俺だけかもな」


あのときは子供っぽいと笑った。

だが今は、少しだけその意味がわかる気がする。


    *


恵子は、帰宅後、湯を沸かしながら、机の上に「お焚き上げ便」の封筒を置いた。

中には和紙の案内と返信用の大きな封筒が入っている。

住所の記載は「焚上村たきあげむら」。聞いたことのない地名だ。


「宗教……じゃないよね?」


わからない。だが奇妙に丁寧で、悪意のようなものは感じない。

それに――このタイミングで届いたのは、まるで運命みたいだった。


引き出しから、あの箱を取り出す。

別れた男との思い出が詰まった、小さな紙箱。


・手紙。誕生日に書いてくれたもの

・2人で撮ったプリクラ

・あの人が使っていた高級ペン

・そして、彼からもらったクマのぬいぐるみ。


指先が一瞬、ためらった。


けれど、これを捨てられずにいたことで、恵子は立ち止まり続けていたのかもしれない。

そう思い、すべてを封筒に詰めた。


宛先は既に印刷されており、切手すら不要だった。

まるで、誰かが“これを出す時期”を最初から決めていたかのように。


夜のコンビニへ歩き、ポストに投函する。

封筒が滑り落ちる音が、やけに重く響いた。


――カチャン、と中で金属がぶつかる音がした。

……あれ? そんなもの、入れたっけ?


    *


 翌朝。


ポストに、一通の手紙が届いていた。

封筒には「お焚き上げ便」と、再びあの金の箔押し。


信じられないことに、昨日送った封筒は、もう“焚き上げ済み”だという報告が来ていた。


中には、焚き火の写真が一枚同封されていた。

夕闇の中で、赤く燃える火。その中に、確かにぬいぐるみの黒焦げた耳が見える。


「……早すぎない?」


まるで、最初から火の中にあったみたいだ。

だが、確かに恵子の心は軽くなっていた。

長く胸に刺さっていた針が、まるで無くなったように。


    *


けれど、最初の異変はその夜だった。


部屋の隅――、テレビと壁のわずかな間から、焦げたような匂いがした。

香ばしさではない。

古い電気コードが焼けたような、不快な、金属混じりの臭気。


「どこかショートした? ……いや、焦げ跡なんて……」


壁紙に、ほんの小さな“黒い指先の跡”のようなものがついていた。


恵子は、ぞっとした。


掃除したばかりの場所。誰かが触れたわけもない。


翌朝、それは消えていた。


でも、鏡に映る自分の顔が――ほんの一瞬だけ、目だけが動かなかった。

鏡の中の自分が、遅れてついてきた。


何かが、部屋に棲みつき始めている。

焚き上げたはずの“思い出の燃えかす”が、この部屋に残っているような気がした。


そして、封筒を出してから三日後。

恵子の夢の中に、黒焦げのクマのぬいぐるみが現れた。


脚のないその体で、カサ……カサ……と床を這いながら、こう呟いた。


「たすけて

 あの人が、まだ、こっちにいる」


恵子は、叫んで目を覚ました。


胸元に、(すす)で汚れた高級ペンが握られていた。


それは、確かに燃やしたはずの――あの人の、ものだった。

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