96 義父様は何を考えているのでしょう
敵輜重部隊の所在地発見。
その報が入ったのは、私が到着してから半月が経った後の事だった。
小競り合いは相変わらず続いている。
が、河を挟んでの戦争なので、双方決定打に欠ける戦ばかりだった。
「で、その場所は?」
会議の席で、義父様がそう問うと、
「ナビル盆地、との事です」
との返事が返ってきた。
「そうか・・・・」
義父様が腕を組んで、双眸を閉じる。
辺境伯側の武将の間にも、沈黙が走った。
応援で来ている諸侯の間から、
「その、ナビル盆地とは?」
との疑問が出てくる。
それに対して、辺境伯側の将が、その場所についての説明をした。
曰く。
位置的に敵陣の後方ど真ん中にあり、前線の敵陣を突破しない限り、急襲は難しいとの事。
曰く。
魔物の蔓延る地帯だから、相応の守備兵を残していると予想されるとの事。
曰く。
そもそも、地形的に襲い掛かるのが難しい場所である事。
「敵も、しっかりと、こちらの情報を掴んでいる、という事、か」
誰かが、そう漏らした。
そりゃ、そうだろ。
私は内心でそう思った。
シンフォース王国とアンザス王国の間に刻まれた溝は深いと聞く。時に同盟を結んでいた時代はあるが、歴史上では、基本的に対立関係にある。
そんな相手が、こちらの情報を仕入れずに、軍を差し向ける筈があるまい。
さて。
こちらは、どう出る?
私が義父様に視線を向けると同時に、
「決めた」
と言って、義父様は目を開けた。
「アンザスと教国は、正面から叩く」
おいおい。
方針変更かよ。
私に、急襲をかけると言っていた義父様とも思えない言葉だった。
「無論、敵輜重部隊には沈んでもらう」
どうやって?
「アイリ」
「はい」
「名前を借りるぞ」
「どういう事でしょう?」
「そこは、追って沙汰をする。後で私の所に来なさい」
と、義父様は言って、
「全軍は正面から渡河して相手を叩く準備をするように」
その場の全員に、その様に指示を出した。
※
「本当に、これだけで良いんでしょうか」
私に預けられたフェンデルトン隊の指揮官が、私に問うてきた。
「どうなんでしょうね」
私はそう言いながら馬を進める。
軍が対峙している渡河地点から北に半日ほどかけた、少数部隊でなら渡河できる地点に向けて。
一応、急襲部隊という名目になってはいるが。
百人程度の少数部隊で、相手方の魔物出現を前提とした守備部隊を混乱させ、焼き討ちが出来るとは思えない。
しかも。
義父様が指定してきた進軍ルートは、ナビル盆地を北から迂回し、更に西方面を横切るというものだった。
何を考えているのだか。
輜重部隊に打撃を与える必要も無い。
とも言われている。
本当に、進軍するだけ、というのが、義父様からの指示だった。
むしろ、接敵するなと言われているくらいだ。
そして、念話が来たら、指示に従って行動するように、と。
私は念話を受信する担当の魔術師を見た。
「ご安心を。閣下からのご指示は、一言一句、間違いなくお伝えいたします」
魔術師はそう言って、私に笑みを浮かべて見せる。
まぁ、良いだろう。
私に策がある訳でもなし。
義父様に踊らされよう。
「では、急ぎましょうか」
私はそう、部隊に進むよう指示を出した。
※
渡河地点に着いた。
私の部隊が走れば数時間で到着するところを、馬を早足で歩かせて半日かけて。
義父様の指示では、ここで一夜を明かせ、という事になっている。
意図が分からない。
が。
渡河を待てというのなら、待つしか無いのだろう。
「兵は拙速を以って尊しとなす、だったと思うのですが」
誰かの兵法書に、そう書かれていたように記憶しているのだが。
考えたところで、答えが返ってくる訳でもなし。
「下手な考え、休むに似たり、ですかね」
私はそう呟いて、ホムンクルスたちの待つ幕舎へと足を向けた。
そこには、
「あ、アイリしゃまぁ」
ベロベロに酔っぱらったメイニー・プルが居て、
「酒は一杯だけ振舞われるはずでしたよね」
介抱するメイジ・プルにそう聞くと、
「我々は酒が初めてでして、試しにメイニー・プルが飲んだのですが、一杯だけで、このようになりました」
との答えが返ってきた。
ホムンクルスたちは、ここまで酒に弱かったのか。
とりあえず、
「他の皆は、酒は飲まないように」
と、釘を刺して、私は用意されていた酒を一気に煽った。
本当に、何なのだろうか。
ここは、戦場だぞ。
目の前に敵は居なくても。
襲われる可能性はあるのではないだろうか。
義父様は、本当に、何を考えておられるのか。
いや。
私はすぐに思考を切り替えた。
飛び立つ前の特別攻撃隊の方たちと同じだと思えば、どうだ。
一杯の酒は、別れの酒だと思えば、どうだ。
そう考えたら、振舞われた酒にも納得がいく。
それならば。
「メアリー・プル」
「はい」
「明日は激戦になるかもしれません。しっかりと眠って、準備を怠らないように」
「畏まりました」
しっかりと寝て、明日に備えなければなるまい。
「今夜、哨戒に立った者は、明日の朝一で本陣に返しなさい」
「はっ」
明日。
明日だ。
河を渡り、作戦を開始したら、何かが起こる。
そんな予感と共に。
「寝る」
私は眠りに就いた。
お読みいただきありがとうございます
さて
多数のPVや評価を頂いているお礼と致しまして
SSを書かせていただきたいと考えております
余所で頂いたご意見なのですが
「アイリの淑女教育」
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その他、幾つかSSのネタもございますので
日頃の感謝と致しまして
書かせて頂こうと思っております
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