95 義父様には考えがあるようです
「アイリ!!無事!?」
私が本陣前のフェンデルトン軍に部隊を預けようと戻ってきたら、リーズディシア嬢が急いでやって来て、私の怪我が無いか、身体をべたべたと触ってきた。
いきなり現れて、前線で戦っていた訳だし。
心配させちゃったかな。
「問題ありません」
私はそう言って、リーズディシア嬢の手を取る。
『私は無事ですよ』
「そう、それなら良かった」
ホッとした様子を見せ、リーズディシア嬢は私の手を握り返してきた。
そして、
「あの男は、危険よ」
と、そう言う。
まぁ、レベル900超えの剣士だ。
言いたい事は分からないでもない。
「貴女は、どう見た?」
「まぁ、危険な相手だという事は認めます」
なにせ、殺されると分かった時点で、相討ちを仕掛けて来るような相手だ。今回は避ける事が出来たが、私じゃなかったら、獲られていただろう。
「ここで倒しておきたい相手でしたね」
王国に、単身で偵察に来るような相手だし。
胆力もあるし。
教国内で力を付ける前に、倒しておきたい相手ではあった。
「あの男、カンターレっていうんだけど、この先、数年後には教国の主要な武将になるの。その時になったら、倒すのが面倒になってしまうから」
「でしょうね」
今でさえ、あの男に忠誠を誓って、命を投げうつような信者も居る訳だ。
恐らく。
あの男は、教国内で力を付けてくるのだろう。
「まぁ、こちらとしても、貴方を喪う訳にはいかないから、今回の件については仕方ないといった所なのだけどね」
「私をそこまでの重要人物として見て頂けているのは、ありがたい事です」
色々と。
私を買ってくれる人が増えたな。
「国王陛下にも、伯を名乗れと言われましたから」
「あら、それはおめでとう」
「ありがとうございます」
「これで、貴女も一軍の将になれるわね」
学生の身で一軍の将になど、滅多に命じられるような事ではないと、リーズディシア嬢は言った。
「なら、義父様に言えば、部隊を手配して頂けますかね」
「可能じゃない?」
そうか。
なら、義父様に頼んでみるか。
鑑定を使えば、私に合った騎士様の部隊が作れるかもしれない。
まぁ、この戦争が終わったら、の話になるのだが。
部隊を王都に連れて行けるか、という問題もある。
「その辺は、問題無いんじゃないかしら」
「何故?」
「アイリは、国王陛下から、ストーン家から独立するよう言われた訳じゃないのよね。それなら、ストーン邸に辺境伯家の騎士が五十人と、貴女の部下五十人を駐屯させておくことも可能だと思うの」
リーズディシア嬢はそこで一息ついて、
「それに、貴女はお爺様から兵を借りてきたのよね。大体、百人位の騎士様かしら?国王陛下がそれを認めたという事は、貴女が王都で兵を持つ事に異を唱える事は無いという事よ」
私に向かって、そう断言した。
なるほど?
一応、理屈としては、通るのか。
「まぁ、国王陛下にお伺いを立てる必要はあるでしょうけれどね」
やはり、そこは必須か。
私は肩をすくめ、
「確認しておきます」
と、それだけを言った。
※
「早速、活躍したそうじゃないか」
前線から本陣に向かった私を出迎えてくれたのは、義父様と義母様の心地よい笑顔だった。
それに対して私は、
「あの男、かなりの強者なのですが、討ち取る目処は立てられますか?」
と、義父様に訊ねる。
「アイリーンでは、太刀打ちが出来ない程かね?」
「義母様が、二人は要ります」
「そうか」
そこで義父様は、顎に手を当て、
「策が必要、か」
と呟いた。
そして、わずかに考えるそぶりを見せて、一人の武将に、
「敵後方に放った間諜は、帰ってきたか?」
と聞く。
「輜重部隊の位置確認は、まだ出来ておりません」
「そうか」
それは戦争の鉄則だろうけど。
だろうけど。
「義父様」
「なんだ、アイリ」
「輜重部隊を叩き、後方の支援を絶つ事は、あの男を窮鼠にしかねません」
そこが心配な点だ。
だが、義父様は、
「それで良いんだよ」
と言って、私の意見を撥ね退ける。
敵を追い詰めすぎる危険性は、義父様のよく知るところだろうに。補給線を絶つという方針は、確かによく使われる手法だが、追い詰めすぎるのも、危険と隣り合わせになる。何か、考えあっての方針なのか?
私には理解できない戦略だった。
「アイリ。相手は宗教を大義として攻め込んでいるんだ。この意味は分かるかい?」
十字軍だ。
そこは分かっている。
「宗教というのは、ある意味厄介でね。己の正義をまかり通すために、絶対に負けることが許されないんだ。だから、輜重部隊を叩かれても、こちらに仕掛けた戦争を簡単に止める訳にはいかない。正義は、負ける事を許されないからね。そして、窮鼠は撤退の折にしか、猫を噛む事は無いんだよ」
「そういうものなのでしょうか」
「まぁ、見ていなさい。輜重部隊の居所が判ったら急襲をしかけるから。そうしたら、私が言っていた事が分かる」
「はぁ」
そんなものなのだろうか。
まぁ、言うだけの事は言った。
それを踏まえた上での、義父様の戦略だ。
大人しく従うとしよう。
なんせ。
智のロイドと言われているくらいだ。
西の守りを任されているくらいだ。
多分、義父様は正しいのだろう。
「宗教が、相手の強みでもあり、泣きどころでもあるんだよ」
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