88 曾祖父様との会話です
甘い爺さんだとは言ったけど。
そこはそれ。
さすがは王族に繋がる系譜をお持ちの爺様だ。
「国王陛下に繋ぎを取るまでは責任を持つが、説得は自力で何とかせよ」
という言葉の通り、全てを取り仕切ってくれるほど甘くはないようだ。
この辺は、あれだな。
リーズディシア嬢や義母様が、貴族として一人前の教育を受けている所以でもあるのだろう。
「家名に傷を付けぬよう、気を付けるのだぞ」
釘を刺されたし。
家名に傷を付けるようであれば、放逐も止むなし、とでも言いたいのだろうか。
勝手なやり口だとは思う。
が。
これが貴族のやり方だし、私が、その勝手な貴族の名を使ってのし上がったのも事実だ。手っ取り早く、リーズディシア嬢と肩を並べる位置に立つために利用したのも、これもまた、事実だ。
私も、汚い貴族の世界に、どっぷりと首まで浸かっているのだ。
「爺様」
「なんだ」
「使い物にならないようであれば、切り捨ててくださいな」
「儂にはもう、その様な権限はないよ」
すっ惚けるのも上手いね。
そんな権限を持つような人物だろうに。
曾祖父さまが居るからこそ、国王陛下の椅子にさえ、口出しが出来るんだろうが。だからこそ、フェンデルトン家は爪を研いでいたのだろうが。
よく言うよ。
「爺様」
「なんだ」
「とんだ狸ですね」
「なんだ、解るのか」
曾爺様は、にやりと笑って、私の頭を撫でた。
「奴の作品だから、産まれたばかりだから対応できんかと思うておったが、意外にも貴族社会に対応してくるか」
「爺様は、私を作った魔術師の事をご存知なのですか?」
「おう。儂らと同年代の、神に愛されし天才という奴じゃな」
曾祖父様は、そう言って、私の頭から手を離した。
「同時に、狂っておったがの」
「狂って、いたのですか」
「でなければ、人間を作ろうなどと言う、およそ人類の権限を逸脱した行為には走るまいて」
悲しそうに語る爺様の声色には、私を作った魔術師との親交があった事を物語っていた。だから、フェンデルトン家に近しい、辺境の、ストーン領に居を構えさせたのか。
ある程度の繋がりは、見えた。
何故、私が作られたのかまでは、理由を知らないようだったが。
ただ、
「神のお告げ、と言っていたような気がするのだが」
曾祖父様は、そう言って、顎鬚を撫でる。
神の、お告げ、か。
あいつが、魔術師に命じて作らせて、魔術師が作り上げて、あいつに祈りを捧げて、私の魂を入れる、か。
なんか、マッチポンプになっているような気がするが、という事は、あの神が、私を作り出したという事か。
何のために。
という所まで思考が走ったところで、曾祖父様が足を止めて、私に注意を促した。
「無駄話をしとる場合ではなくなったぞ。お前に恨みを持つ、貴族の一人がやってきおった」
誰?
「外交省のトップで、フィリップ・フォン・アザリ・カルロイ。カルロイ伯爵家の当主だ」
カルロイと言えば、フィリップ君の家と同じ名前だが。
「そうだな、お前と同じ、騎士課程に同級生の息子が居る」
あぁ、やっぱり、フィリップ君の親だったか。
近付いてきたその顔は、たれ目な所が、親子そろって似ていた。
「御大がご出馬とは、珍しい事もあるものですね」
フィリップ卿から、まずそう切り出してくる。
「曾孫の願いを叶えるために、ちょっと、な」
「曾孫?」
フィリップ卿は私の顔をじろりと見て、
「あぁ・・・・・・外交省の働きを、全て無にしてしまったという娘は、この娘の事でしたか」
そう吐き捨てた。
「まぁ、そう言うでないよ、フィリップ卿。この娘のおかげで、喪わずに済んだ命もあるのだから」
「そうは仰せですがね、ティンギルス帝国に完勝しなければ、聖王国も出兵に踏み切る事は無かった。東で失わなかった命が、西で失われるだけの事ではありませんかな」
なるほど。
このおっさんは、私が東で活躍した事を、無駄な事だと、要らない完勝だと言いたいのか。
ちょっと、かちんと来るな。
そもそも、人の命を何だと思っているんだ。
政治家の考え方としては正しいのかもしれないが、この考え方は、私は好きになれない。
だから、
「西でも完勝すれば良いだけの事ではありませんか」
私は二人の間に入って、思わずそう言っていた。
「それが出来れば、苦労はせんわ、小娘」
「何故、出来ないのですか」
「聖王国の騎士団が前面に出てくるという事は、アンザス王国の兵が、ソリティア教の神兵になるという事だ。神の教えに導かれた兵は、強い」
フィリップ卿は、尚も自説を続けた。
「我々外交省が、針の穴に糸を通すように神経を尖らせて、ソリティア教国が出てこないようにやって来た外交を、お前は、お前が、全てを台無しにしたのだぞ。分かっているのか?」
まぁ、わからないでもない。
この人も人の子だ。
ティンギルス帝国との戦いで、命を落とす騎士や兵士が居る事は百も承知で、あえて計算をしてきているのだろう。
外交のバランスを取ってきたのだろう。
だが。
「救える命があれば、救いたいと思うのも、人としての心情ではないでしょうか」
私にも、私の考えがある。
と、
「無論だ」
フィリップ卿は、私の言葉に同意しながらも、
「だからこそ、東での戦は完勝では駄目だったのだ。ティンギルスに兵力を残したまま、聖王国に警戒心を与えてしまった」
と、そう言った。
「東に目を残しながらの、西での戦いは、かなり厳しいものとなる」
「であれば」
「なんだ、小娘」
「私が働きます」
「お前ごときに、何ができる」
「西に赴き、聖王国の将を討ちとり、返す剣で、王都に戻り東に備えます」
「言うたな、小娘」
「出来なければ、処罰は覚悟の上で申し上げております」
「では、国王陛下を説得して見せろ。西に赴き、働け。外交など力でねじ伏せよ」
言葉を残して去っていくフィリップ卿を眺めながら、私は曾祖父様にこう聞いた。
「言い過ぎましたかね?」
「なに、結果を残せば、誰も何も言わんよ」
結果を残せば、か。
これで後戻りできなくなったな。
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