87 待つのも辛いんです
とはいえ。
王都で一人待つことになったとはいえ。
果報を寝て待てるほどの忍耐力を持っている訳でもない私は。
「ふっ・・・・ふっ・・・・」
ストーン邸の訓練場で、筋トレに勤しんでいたりする。
筋力と敏捷値に極振りしているから、ストーン邸にある機材を総動員しても、大した効果は無いのだが、それでもやらないよりはマシ、という事で、トレーニングをしているという訳なのだ。
学徒も含んだ王国軍が出発して、もう二週間になる。
そろそろ、ストーン辺境伯領に着いていてもおかしくない頃合いだ。
戦闘が始まっていてもおかしくない。
今回の出征にも、王太子殿下を筆頭に、リーズディシア嬢、エルフィン嬢に、ロスティやミリーネ嬢も参加している。
その他、仲良くなった騎士課程の生徒もチラホラと。
パワーレベリングをした時の回復術師の女生徒も、ほぼ動員されている。
全員が無事であれば良いのだが。
戦争だ。
そう、こちらの都合の良いようにはいくまい。出征前に、出来る限りのレベリングは行ったが、全員が全員、無事であるとは思わない方が良いだろう。
いや。
本当に。
待つだけの身となるのも、辛いものがあるな。
結局のところ、私は現場人間なのだろう。
結局のところ、私は自分が現場に出ないと、何事も上手くいかないと思っているのだ。
傲慢なことだ。
私が出征すれば、誰も死なせることなく帰って来させる事が出来る、などという根拠のない思考を、頭の片隅に持っていたりするのだ。
そんな事など、出来る筈がないのに。
と、ここで。
ピコンと、耳に馴染んだ音が聞こえた。
私は思わず、
「レベルアップ、するんだ」
筋トレを止めて、声に出してそう言った。
機材を降ろし、ステータスの確認をする。
さて。
レベルアップをした人たちは、軒並み自動的にステータスが上がっていたので、私もそれに倣って自動的にステータスが上がっていると思われるのだが。
どのように、上がっているか、だ。
確認すると、敏捷が3と、力が2、上がっている。
なるほど。
何がなるほどなのか分からないが、私はとりあえずそう思った。とりあえず、私が望む方向でステータスが上がっていると分かって、なるほどと、そう思った。
「アイリ様、どうかなさいましたか?」
訓練場の入り口に立っていたメイジ・プルが、そう声をかけてくる。
それに私は手を挙げて心配いらないとゼスチャーをし、
「心配はいりません」
そう声に出してメイジ・プルを宥めた。
「レベルが上がっただけですよ」
「レベルが上がるという事は、あの、我々が言うところの、一皮むける現象の事でしょうか?」
「そうだね」
「久しぶりに、あの感覚を思い出しましたが」
「でしょうね」
君等はよく、レベルアップの事を、一皮むけると表現するね。
まぁ、たしかにその通りなんだけどさ。
「と、いう事は、また一段と強くなられたという事なのでしょうか?」
「いえ」
一回のレベルアップで得られるポイントは変動が無いから、レベルも900台になってしまうと、強さの割合的には、微々たる上昇でしかない。
強くはなったんだけど、レベルが200や300位だった頃に比べると、体感的な実感は、感じないに等しい。
しかも、私は完全な力特化型の物理職だ。
魔術師のように、知識の上昇に伴って魔術の威力が上がったりだとか、敏捷と器用の値が上がって弓の腕が上がったりだとか、そんな、目に見える変化も無い。
だから、
「強くはなったのでしょうが、目に見えて判るほどではありませんよ」
「そうですか」
そんな顔をしなくても大丈夫ですって。
確実に、強くはなっていますから。
レベルアップなんて、そんなものですって。
「まぁ、ちょっとだけ力が強くなったくらいです」
ほんのちょっと、強くなっただけだ。
「積み重ねですよ。貴女たちも、最初は強くなる実感があったでしょうが、時が過ぎて戦闘に慣れてきたら、自分がどの程度強いのか、どの程度強くなっているのか、確実に判別を付ける事は出来なくなっていったはずです。それと同じ事です」
「なるほど」
「まぁ、私のレベルアップなんて、些細な事です」
それよりも、私の周りにいる人材のレベルアップをさせておいた方が、この世界では生き残る確率は各段に上がるはずだ。
メイジ・プルのレベルを確認すると、600台の後半にさしかかっている。
義母様が800台で、この国にこの人ありと言われている事を考えると、ホムンクルスたちは結構な強さの将に匹敵するだろう。彼女たちの成長は、今後の戦争にもかなり大きな影響を与える事になる。彼女たちの言動を考えるに、私の傍を離れないと言いそうだが、それはそれで、やりようがある。私が周りを見渡すだけの時間を稼ぐだけの手になってくれる事になる。
将としては、ありがたい部下だ。
装備も整えた。
あとは、戦場に行くのみ。
なのだが。
さて。
国王陛下は、いつ、私に戦場に赴くよう下知されるのか。
「待つばかりというのも、気分的に良いものではありませんね」
「御意」
「メイジ・プル」
「はっ」
「東側の動向、皆と探ってきてください」
「承知いたしました」
その結果次第では、国王陛下に直訴する。
今回に限って言えば、王妃様の頭を超える不敬も、あえてする。
「あと、執事長を呼んでください。引退されている、前フェンデルトン家当主にご出馬願おうと思っている、と、手紙を書きます」
「はっ」
さて。
血縁は無いが、私は前フェンデルトン家の当主にしてみれば、曾孫にあたる。言葉を聞いてくれると良いのだが。
リーズディシア嬢や義母様には甘いと聞いているが。
こればっかりは、血統の問題もあるしなぁ。
話を聞いてくれるのなら、国王陛下の伯父にあたる方だし、心強いんだが。
出たとこ勝負だな。
「執事長、急いでくださいね」
※
とは言ったものの。
心の準備はすべきだった。
その日のうちに面会の準備は整い。
老齢になってなのかは知らないが、レベルは大して高くないのに、めっちゃ迫力のある巨大な爺さんが、フェンデルトン家の客室で私の前に座った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しかも、言葉も発さない。
じっと私を見て、目を離さないし。
何を考えているのか、全く分からない。
仕方がないので、私から話しかける事にした。
「あの・・・・・・」
「アイリ、といったな」
しかし、その出だしから言葉を遮られる。
「はい」
「何故、だ?」
「何故、とは?」
私は老人の質問の意図を理解できず、鸚鵡返しに言葉を発した。
すぐに理解してしまうのだが。
「何故、王都に来て、すぐに儂を訪ねなんだ」
この爺さん、養女だろうが何だろうが、曾孫にもとことん甘いのだと。
お読みいただきありがとうございます
随分と更新を遅らせてしまいました
誠に申し訳ありません
というのも私
現在禁煙中でして
物語を書く寝る前や起きてすぐの時間帯に
タバコを吸いたくなるので寝てしまっていました
よって、書く時間が少なくなってしまって
更新時期がずれ込んでしまったという訳です
こちらの都合で誠に申し訳ありません
あー・・・・タバコ吸いたい




