3 一か月が経ちました
こちらの世界に来て、一か月が経ちました。
地球の天国にいるお父さん、お母さん。
私は元気に生きています。
違う世界で。
魔物狩りにも慣れました。
生き物の命を奪う事も抵抗なく出来るようになりました。畜産と一緒ですね。一部人型の魔物も居ますが、基本的には動物を殺すのと大差ありません。
見た目も変わってしまいましたが、私は元気です。
お二人から頂いた肉体はそちらに残してきましたが、魂は元気です。
という事で。
今日も今日とて狩りに勤しんでいる訳ですが。
地球の天国にいるお父さん、お母さん。
私の従者は、思いの外、有能です。
朝にゴブリンを間引きして、たまに食材やホムンクルスが必要とする魔石の確保に役立つオークを狩り、早く帰ってきて食事の準備をする。常に私の傍に一人控えていて、私の世話をやってくれる。
そんな有能な娘達です。
私がこの一か月でやった事といえば、彼女達では手に余ると思われた、オークの集落に出くわした時に、オークが進化したオークキングをサクッと狩った位でしょう。
それも、数年間一度もこんな集落は見た事が無いと言っていましたので、私の仕事はほとんど無いと言ってもいい状態です。
よって。
「これは良くないですね」
一念発起して、彼女達の為に何かしてやろうと立ち上がった。
「メアリー・プル」
「はい」
「皆を集めてください」
まずは彼女達が何をしてもらったら喜ぶか、だ。
すぐ、間を置く事なく皆が集まった。どうやら、彼女達は念話と呼ばれる手段を使って連絡を取れるらしいのだ。
一列に整列した彼女達に向かって、
「私が、貴女達の為にしてあげられる事って、何がありますか?」
正直に聞いてみる事にする。
すると、
「取り立てて必要な物はありませんが、強いて言うならば、強い魔物の魔石を頂けるとありがたいです」
メアリー・プルが皆を代表してそう言った。
「オークの魔石だと、ダメなの?」
「生きる分には問題無いのですが、切り札になる魔石を持っておきたいのです」
聞くに、彼女達の強さは魔石に依存しているらしい。強い魔物の魔石だと、それ相応の魔力が含有されているので、力が出るのだとか。
で、その強い魔物とやらを狩る事が出来ないので、私に倒して欲しいという訳だ。
「どんな魔物を狩れば良い訳なんですか?」
「この辺りで居る魔物と言えば、ブルーオーガやコカトリス、ワイバーンなどになるのですが」
と全員の視線が私に集まった。
さて。
ブルーオーガにコカトリスにワイバーンか。
ゲームだとボス扱いだったから狩るのは多少苦労するとは思うけど、相手のレベル次第になるな。皆が相応というからには、それなりのレベルの魔物なのだろうが、どれ位になるんだろうか。
レベルが600位なら、簡単なのだが。
如何せん、レベルというものに依存しない世界みたいだしな。
気を付けて狩ろう。
「どこに居るんですか?」
「森の奥の方に」
ワイバーンなどは、森を超えた山の方に居るらしい。人里にはめったに降りてこない、というか、降りてくるとかなりの騒ぎになるとの事だ。
ぶっちゃけると、軍隊が必要になる。
と、聞いて。
私はかなり規格外の力を持っていると解った。
「普通に、人外の力をお持ちですよ」
メイニー・プルに、何でもない事の様に、そう指摘された。
一般の騎士や冒険者よりも遥かにホムンクルスの方が強く、ホムンクルスは束になっても私の足元にも及ばないらしい。
なるほど。
「じゃぁ、狩りに行きますか」
私のその一言に、ホムンクルス達は無表情に喜びをあらわにした。
「ありがとうございます、アイリ様」
「良いって。いつもお世話になってるんだから、それ位のお返しはさせてください」
「お世話をするのは、我々の役目です」
そんな、当然の事のように言われても困るな。
元は男やもめの一人暮らしだったんだ。お世話をされているというだけでも心苦しいというのに、何も返さないというのは人としての道を外しているように思えるのだ。
「とりあえず、手近な相手は?」
「ブルーオーガ、になりますね」
じゃぁ、善は急げ、って事で、準備をしますか。
「全部を狩って、魔石を確保するのに、何日くらいかかります?」
「そうですね・・・・・・」
まず二日走った森の中でブルーオーガを狩り、コカトリスの縄張りまで四日。ワイバーンの巣まで五日といった所らしい。
戻って来るまで十三日。
という事は、だ。
相応の時間がかかる。
二人邸宅に残して、案内役を三人、位が適正か?
邸宅を維持するのに二人位は必要だろう。
とりあえず、斥候役で弓使いのメルト・プルは必要として、
「メルト・プル」
あと二人。
狩りをするのは私だから、物理系で大剣使いのメイニー・プルと攻撃魔術を得意とするメアリー・プルを置いて行くか。
むしろ必要なのは、
「メイジ・プル」
回復系、バフ役。
「メルニー・プル」
デバフ役の魔術師。
その三人を連れて行くとしよう。
その通達をすると、全員が頷いた。
異論は無いようだ。
あとは。
十三日分の食料と装備になるな。
この世界での旅の食料といえば干し肉とパンらしいのだが、アイテムボックスがあるのでハムとパンとチーズを用意してもらって、あとはテントも入るからテント、そして毛布。物品としてはロープも当然必要だな。
あと必要な物は、タオル、やかん、お茶の葉、コップ、薪。
それくらいか。
他は、
「他に、何がある?」
皆に必要な物を聞いてみると、
「魔力ポーションと体力回復剤、予備の矢、位でしょうか」
私の思い付かなかった必需品が出てきた。
矢は思いつかなかったな。
ゲームの世界では、無限の矢筒というアイテムがあったから。
「そういうアイテムもありますが、家が買えるレベルで値が張りますから、私は持っていませんね」
あ。
あるにはあるんだ。
私の資産は手持ちで26億3000万ゴルド位だから、買えるだろうか。
「そんなにあるのですか?」
聞くに、1ゴルドは金貨一枚に当たり、金貨一枚で普通の家族が一か月暮らしていける位の価値になるとの事。
という事は、だ。
「金貨でそれだけあれば、国家の年間予算位はありますから、普通に買えますよ」
そんなに価値があったのか。
一気に使うとインフレを起こすな。
それは国に目を付けられそうだから困るので、一気に使わない事にするとして。
だけど。
少しくらい、家を買う程度なら使っても問題あるまい。
という事で、
「魔物狩りが終わったら、街まで行って、貴女達の装備を整えましょうか」
「一応、エンチャント付きの装備を持っていますが」
「それで最終装備なの?」
「かなり良い品を与えられています」
そうなんだ。
ホムンクルス達の装備を鑑定したら、レアメタルを使った装備にエンチャが一つ程度だから、まだ良い品があると思うんだけど。
この世界は、ゲームの世界より、かなり装備面では劣っているようだ。
「アイリ様並みの装備を身に付けようと思うなら、王宮の宝物庫にでも行かないと、見つからないのではないでしょうか」
「それでも見つからない可能性もありますが」
そうか。
それなら仕方ない。
現状の装備で行くしかないな。
とりあえず。
現状の装備で魔物を狩って、彼女達の切り札集めに勤しみますか。
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