1 女の子として生まれ変わりました
「あー・・・・・・」
女の子になっているか確認するために、起きてまずやったのは発声だった。
やっぱり。
甲高い声になっている。
あー。
やっぱり、あれは神様だったんだな。こっちの都合なんて、全く考えてないや。仕方ないと思ってしまえるほど楽観的な私にも問題はあるが。
しかし。
女の子、かぁ。
半身を起こすと、長い銀髪がサラリと肩口から顔の前へと垂れてきた。
アイリも銀髪だった。
やはり、アイリを模した身体に入ったんだろうか。
鏡を見たい。
周囲を見渡すと、随分と大きなベッドがまず目に入る。天蓋付きの、立派な奴だ。幕が下がっているから外は見えないが、このベッドを置く事を考えると、部屋の大きさも想像ができる。
この身体を作った魔術師とやらは、かなりの金持ちだったんだろう。
まぁ、命を代償にしたとか言っていたからもう生きてはいないんだろうから、その魔術師に思いを馳せる必要も無いのだろうが。
とりあえず、顔を見たい。
私は羽毛布団を除けて、ベッドの外へ出ようと身体を動かした。
と、そこに、
「起きられましたか、マスター」
声をかけられる。
日本語ではないが、理解のできる言葉だった。
「ああ」
そう応えると、
「ご気分はいかがですか?」
幕が開けられ、二十歳前後と思わしき金髪の女性が姿を現す。
メイド服を着た、随分と綺麗で、無表情な娘だった。
おっさんの目で見ると、随分と可愛らしい。
というか、普通にかなりの美人だ。
害意は、多分無い。
と、思う。
「君は?」
「メアリー・プル、と申します。マスターの前に造物主に作られた、ホムンクルスでございます。今後、マスターのお世話をさせていただきますので、どうぞ、よろしくお願いいたします」
まぁ、ご丁寧に挨拶をしてくれる。
鎖骨の中心の下あたりにくっ付いている宝石を見せてくるという事は、ホムンクルスの証という事で良いのだろうか。
どうやら、彼女は私の使用人という立場にあるようだ。男やもめの一人暮らしだった私に言わせると贅沢だが、こういう世界なんだろう。
慣れ、も必要だ。
「私の名前は?」
「ご自分でお決めになられると、造物主は仰っておられました」
「じゃぁ、アイリと呼んでください」
「かしこまりました」
メアリー・プルと名乗った女性が、深く頭を下げた。
まだ、慣れないな。
置いておくか。
とりあえずは現状把握だ。
「あの」
「何でしょうか、アイリ様?」
「全身を見れる鏡って、ありますか?」
「ございます」
「じゃぁ、そこまで連れて行ってください」
「畏まりました」
私は幕を開けてベッドから降りた。
少し寒い。
薄い寝間着のままでは、少し寒い。
すかさず、私と同じくらい背の高いメアリー・プルが上着をかけてくれた。履物は、日本と同じ様にスリッパのような物があるので、それを履く。
「こちらです」
メアリー・プルに案内されて、部屋の隅に行く。
そこに、全身が見れる鏡が置いてあった。
覗くと、歳の頃十七、八の銀髪ロングのくっきりブルーアイ美少女が、こちらを見返している。私の理想を体現した美少女が、こちらを見返している。
嗚呼。
と、思った。
やっぱり、私の作った、アイリそのままの見た目をしていた。あの神様の言う事は、間違いが無かった。
「どうか、なさいました?」
「なんでもないです」
「もしかして、見惚れていたとか?」
「そんな事ないです」
見慣れているからね。
自分で作ったアバターと同じだからね。
逆に、膝から崩れ落ちそうになるのを必死に我慢しているんだよ。
「左様ですか」
あの神様・・・・いや、様なんて付ける必要は無いか、あの神は、本当に私をアイリの身体に入れてしまったようだ。
息を吸う。
吐く。
三度繰り返す。
よし。
気持ちを切り替えた。
現状を把握しよう。
「いくつか質問があるのですが、お答えいただけますか?」
「はい」
「ここは、どこですか?」
そこから始まって、
「うん、分った」
そこで締めるまで、幾つか聞きたい事を聞けた。
この世界には、特に名前は無いらしい。
で、現在位置は大陸と呼ばれる大地の中央部付近にあるシンフォース王国という国にある、迷いの森という所という事だ。魔術師は、誰も近付かない森の中に邸宅を作り、メアリー・プルを含む五人のホムンクルスと研究を続けてきたそうだ。
造物主と呼ばれる魔術師は、森の賢者と呼ばれ、森の外にあるアゾニ村という村と細々と付き合っていた。
それは今も続いている。
森の中のような所で暮らしていたら、魔物などに対する対処は必要ないのか、という質問には、ホムンクルスが生きる為に必要とする魔石を取る為に魔物を狩っているので逆に立地としては都合が良いのだとか。
近隣の村の為にも貢献している。
生きるための魔石にならないゴブリンなどの小物は、結界を張って入って来られないようにしている。村の為にも、間引きをしている。
のだそうだ。
という事は、メアリー・プルはある程度のレベルに居る筈で、鑑定してみるとレベルは514と、そこそこ強いことが判明した。
まぁ、彼女達にはレベルという概念は無いらしいのだが。
大体で、強さを見ている。
その目で見ると、私はかなり偏っているそうだ。
そりゃそうだ。
力と敏捷にしかステを振ってないからな。
と、いう事で。
私の装備を出してくれと頼むと、
「そのような物はございません」
という答えが返ってきた。
あれ?
神は用意しているって言ってたけど。
あれ?
あれ?
あ。
そう言えば。
アイテムボックスを付けるって言ってたな。
もしかして、その中か?
出でよ、アイテムボックス。
そう念じると、私の前に空間の歪みが現れる。手を突っ込んで自分の装備を頭に浮かべると、手が馴染みある感触にぶつかった。
掴んで取り出すと、手、脚、腰、身体、頭、首飾り、ベルト、指輪四つ、槍とショートソードと、ドサッと床に落ちる。
ふむ。
見た目は、私の装備だな。
「メアリー・プル」
「はい」
「ベースになるような服は用意できますか?」
「可能です」
「では、それをお願いします」
準備をしてもらうまでは鑑定かな。
鑑定、と念じると、装備の詳細が頭の中に浮かんでくる。
手は。
漆黒竜の皮の手袋、と。ベースがUR装備で、器用比率がレベルの四分の一がプラスされる、物理職の手の最終装備と言われるものだ。他にダメージ二十パーセント。それに、器用比率二分の一のエンチャントが三つ、しっかりと付いている。
脚は。
シビリアンショートブーツ。ベースはSSRだが、運比率がレベルの二分の一プラスされるという脚の定番装備となっているもの。当然のように、運比率二分の一のエンチャントが二つと敏捷比率二分の一のエンチャントが一つ付いている。
鎧も。
ガルガータの皮鎧。レイドボスが時々落とすレアアイテムで、物理の最終装備と言われる全属性抵抗65%の付いた一品だ。範囲のブレスなどの攻撃は、殆ど防ぐ事の出来る逸品だ。健康比率四分の一と力比率四分の一とHP97%アップと、バランスを取ったエンチャントも付いている。
その他の装備も私がゲーム内で使っていた装備と同じ物だった。
ちなみにデザインは、アバターに合わせて統一されているので、軽い革鎧のような見た目になっている。
ただ指は、状態異常のエンチャントが付いているものだったから、対人戦を意識した一式となっている。
まぁ、これはこれで、実際に生きていく事を考えると、こっちの方が良かったのかもしれない。
全部を鑑定し終わる頃に、メアリー・プルがベースの服を運んできてくれた。
上質のシャツとホットパンツを着て、その上から装備を付ける。
サブのオリハルコン製MRショートソードダメージプラス193パーセントを腰に履き。
最後に私愛用の、槍物理の最終装備である神獣の槍ダメージプラス197パーセントを持って。
その姿をメアリー・プルに見せると、
「それで完成なのですね」
と表情無く感嘆して、とても敵いそうにないと、私に言った。
「この辺の魔物は、狩れそう?」
「全く問題ないかと」
「そうですか」
それなら。
とりあえずは、この邸宅の近隣で狩りをしながら、スローライフを堪能させてもらうとするか。
あの神は、何をやっても構わないと言っていたし。
うん。
そうしよう。
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