闇精霊とデート
水精霊レイとの一件以来ルカはジルの単独行動についての考えを改め、なるべく別行動は取らなくなった。
ルカ曰く、自分の預かり知らぬところで事が起こるのはとても腹立たしいようで、やはり戦力は揃えておいた方がいいとの考えだ。。
ジルの冒険者としての活動がなければしばらく何とかなってもいつかは資金が尽きてしまう。
活動休止にすることができない以上、ルカがジルに合わせることになるのだが、これまでは気まぐれだった冒険者活動の同行も文句ひとつ言わず来てくれるようになり、戦力的にも大助かりなジルだった。
その代わり、頑張る日と休む日のメリハリをしっかりとつけ、休むと決めた日はなるべくルカのやりたいことに合わせて動くようにしている。
そして今日は休日。
どこに行って何をするかを決めるのはルカだ。
「ルカ、今日はどこに行くんだ?」
「今日はね! これを回るって決めてたのよ!」
ジルは本日の予定を尋ねる。
いつものクールな印象が若干崩壊しかけていて、テンション声のトーンが高い。
要はご機嫌だ。
ルカの中では今日の予定は決まっているようで、興奮した様子で肩にかけてあるおしゃれな鞄から何やら本を取り出した。
ぺらぺらとページを捲ってジルに見せ付ける。
そこには耳にしたことのある飲食店や菓子店などの店名がいくつか綴られていた。
「えっと……デートスポット特集……?」
「えっと……そう、これはたまたまよ。偶然その本に書かれてる店が気になっただけで、本当は一人で行ってもよかったけど、別行動しないって決めたばかりだからあんたと一緒に行くってだけで……」
あくまでも他意は無い旨を必死に訴えるルカの顔は若干赤らんでいる。
ジルはそれに気付かないふりをして、このような本も読んでいることに意外性を感じる。
「……ルカでもこういうの読むんだな」
「ちょっと、私でもってどういう意味よ!」
「いや……なんか似合わない」
「ぶっ飛ばすわよ」
「いて。殴ってから言うな」
二人でどこかに行くのは決してこれが初めてではない。
しかし、デートと言う単語を意識し始めると途端に何か違う物のように感じてしまう。
いつもと同じはずなのにいつもとは違う特別感。
「早く……行きましょ」
上目づかいでジルの服の袖を引っ張るルカ。
そんな彼女がいつも以上にかわいく見えてしまったジル。
不覚にもドキッとしてしまったジルは顔に出さないように必死になっていた。
ルカに手を引かれてやってきたのは、本でも特におすすめされていたパスタの店だ。
デートスポット特集に挙げられているだけあって、雰囲気もよく料理も上手い。
「中々やるわね。この私の舌を唸らせるなんて……褒めてあげるわ」
「すげー上からだな」
ルカは食べるのが好きだ。
人間とは違う身体で食事自体必要なわけではないが、食事を取ること自体に意味というか楽しみを見出している。
このような言い方をしているが実際はかなり気に入ったのだろう。
ルカ特有のひねくれた言い回しにもある程度精通してきているジルは、そんな彼女を微笑ましく思う。
「でもほんとうまそうに食うよな。一緒に飯を食ってて楽しくなる」
「そ、そう? 別に普通にしてるつもりだけど」
普段はクールは振る舞いをしているが、食事の際は心なしか無邪気さが見え隠れする。
ころころと変わる表情豊かな様子は、共に食事をするジルにも楽しさを与えていた。。
「あんたが頼んだ奴もおいしそうね。一口寄こしなさいよ」
「別にいいけど、ほれ」
ルカとジルとは違う物を頼んでいる。
互いに別々の物を頼んでシェアするというカップルらしい行為をナチュラルに要求するルカにジルは息を呑むも、動揺しては負けだという謎の意地でさも何ともないかのように自分の皿をるの方に寄せる。
それが気に食わなかったのかルカは分かりやすく不満そうに頬を膨らませている。
「それだけ?」
「……あー、こうすりゃいいのか?」
「は? 別に私はそんなこと一言も言ってないけど? でも、あんたがどうしてもしたいって言うならあーんさせてやってもいいわ!」
「うん、したいしたい。俺がしたい。だから、ほれ?」
「……そっ、そう? なら仕方ないわね」
ルカはジルが差し出したフォークにゆっくりと顔を近づける。
柔らかそうな唇が緊張で震えているのがよく分かる。
そんな彼女の緊張に当てられて、自分の手まで震えそうになるのをジルは堪える。
「んっ……! そっちもいけるわね!」
目を瞑り意を決してといった感じでルカはパスタを口に含んだ。
おそるおそる口をもきゅもきゅと動かした後、ぱあっと目を輝かせた。
羞恥にパスタの美味が勝った瞬間だ。
色気より食い気な精霊少女にジルは苦笑いを浮かべる。
「はは、だったらもう一口食うか?」
「あー、うー、んー……いえ、いいわ。あんたが食べる分がなくなっちゃったら困るでしょ」
ジルの申し出にルカはかなり言い淀んだ。
しかし、今回は美味しいものをただたくさん食べるというよりは、共に食事を楽しむというのが目的。
いくら下を唸らせるほどの絶品だからと言って、相方の料理を奪ってしまうのは悪いと思ったのか渋々といったようで引き下がった。
「そうだ! お礼に私のも一口上げるわ!」
その代わり、名案を思い付いたみたいにいそいそとルカ自身が注文して先程まで頬張っていたパスタを新しくフォークで巻きとる。
焦っているためか全然巻けておらずぐっちゃぐちゃだ。
それをジルに差し出すルカはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。
大方自分が味わった恥と同じものをかかせてやろうという魂胆なのだろう。
(意識してしまうと若干気恥ずかしい気持ちはあるが、このくらいならどうってことないな。ルカのもメニューを見てるときに気になったやつだし、くれるというのならありがたくいただこう)
「あ、あー! あんた何普通に食べてるのよ!」
「何って……くれるんじゃなかったのか?」
「そ、そうだけど……うぐぐ……なんか違う」
ルカは欲しい反応を引き出せなかったからか、どこか悔しそうに唸っている。
危うく墓穴を掘りそうになって、あたふたと挙動がおかしなことになっているルカを見てジルは笑う。
(クールを捨ててポンコツ全開なルカ…………かわいい)
「笑うな! 笑うなって言ってるのよ!」
「ああ、悪い。ルカの方も美味いな」
「そ、そうでしょ! 中々やるでしょ!」
少し話を逸らしてやると、誇らしげに胸を張るルカ。
美味しいを共有できて嬉しかったのだろう。
「……それでね、次はここに行きたいんだけど……」
「ああ。行こう」
「即答……まあ、いいわ。食べ終わったらすぐ行くわよ」
特集を取り出してあるページを指さすルカ。
ジルはそのページに目をやることなく即答した。
今日はルカのデートプランでとことん楽しもうと、心躍らせるジルだった。
「あー、疲れたー!!」
「この程度で情けないわね」
ルカは呆れた顔で言う。
もう日も暮れ始めて空も赤く染まってきている。
丸一日ルカに連れ回され、彼女と過ごす時間はとても楽しいものであっという間だった。
「行きたいところは行けたのか?」
「まだまだね。もっと行きたいところがあったけど、半分も行けてないわ。だから……今度また一緒に行くわよ!」
「おう、またデートだな」
「デートじゃない!」
「デートじゃないのか?」
「ち! が! う!」
「そうか。ルカとのデートだと思って楽しんでたのは俺だけだったのか……」
「ううう……私も楽しかったわよ! それに……あんたがどうしてもって言うなら仕方ないから次もデートしてやってもいいわ!」
(ちょろい。ちょろすぎてちょっと心配かも)
ジルがそんなことを内心思っていると顔を赤くしているルカの雰囲気が変わる。
楽しそうな様子が一転して、不機嫌になる。
そして忌々しげに大きな舌打ちをしてため息をつく。
「ちっ……虫がうるさいわね。ほんとムカつくわ」
「虫? そんなに気になるほどいるか? 俺は全然気づかなかったけど」
「ジル、これを使いなさい」
ルカは珍しくジルの名前をちゃんと呼んで、一つのコアストーンを彼に向かって放り上げる。
突然のことに驚きながらも、ジルは緑色の輝きに手を伸ばす。
風のコアストーンを渡されたジルは、それを反射的に腕輪にはめる。
「じゃ、とりあえず町はずれまでよろしく。あっ、重いとか言ったらぶち殺すから」
「は? えっ?」
「早く! ちゃんと支えて!」
その直後、ルカはジルに抱き着いた。
肩から背中に腕を回され、早くと催促するようにぺしぺしと叩くルカをお姫様抱っこで持ち上げて、何が何だか分からないまま言われた通りにするのだった。
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