真の力
リンとの一件があった後、ジル達は何事もなく毎日を過ごしていた。
ジルは冒険者ギルドに通い、依頼を受ける。
その中で己の精霊術師としての力を少しずつ磨き、ルカの力を最大限引き出せるように親和性を高めてきた。
しかし――――打ち止めが訪れた。
ジルは各属性における高い素質を持つほかに、それらを扱う技量をも持ち合わせていた。
その類稀なる才能をいかんなく発揮し、どんどん技術を磨き、ついにはルカの力の底まで追いついてきた。
「思いのほか早く身に着けられたな」
「ま、そうなるわよね。私のコアが不足したまんまだと、私依存で力を発揮するあんたも今の私と同等の力しか奮えない」
「ま、これだけの力が使えれば普通に生きていくうえではそんなに困らないし、焦ることないって」
「悪いわね。そう言ってもらえると助かるわ」
現状、ジルの成長上限をルカが止めていることになるわけで、それに関して本当に悪いと思っているのか、ルカも申し訳なさそうにしている。
だがジルの言う通り困ることはない。
ジルが精霊術師としての力をいつでも発揮でき、臨機応変に様々な依頼に対応できるようになったため、お金に困ることは無くなった。
それだけでもジルは十分ルカに助けられていると感じているが、肝心の相方はやや不満そうにしている。
やはり、己の力――――コアストーンの不足がもたらす不利益をよく思っていないのだろう。
「あんた……今の私の力なら完全に制御できてるのよね」
「ん? そうだと思うが……ルカのコア次第でどうにでも転ぶと思うし何とも言えないな」
「いえ、何度も同じこと言わせて悪いけど、それが確実なら……やってみる価値はあるかしら?」
「何をやってみるって?」
「コアストーンの真の力を引き出すのよ。そうと決まれば……さっさと行くわよ! 出かける準備をしなさい」
「おい、ちょっとくらい説明を……ったく、仕方ないな」
まったくもって状況を飲み込めないジルは詳しい説明を求めるも、ルカの耳には届かなかった。
どこに行くのか分からないまま、とりあえず彼女についていかないといけないことだけを理解したジルは、急いで支度をしてルカを追いかけた。
「こんな所まで来て何をするつもりなんだ?」
「いつもと一緒よ。魔物討伐ね」
「ルカの方から俺を魔物討伐に連れ出すなんて珍しいな……」
「言ったでしょ。ちょっとやってみたいことがあるのよ」
元々今日はオフで、自由に過ごす予定だったが、ジルは急遽駆り出されることになった。
その行く先が魔物討伐ともなると驚きも大きい。
しかし、まだすべてを説明されたわけではないジルは「言ったでしょ」とすべてを分かった湯に言われても釈然としない。
それでも、何かをする――――もとい、何かをさせられることだけは理解したジルは諦めて彼女の説明を待つ。
「それで……? ただ魔物討伐すればいいわけじゃないんだろ? 何を企んでるんだ?」
「あんたにはこれからここらへんで見かけた魔物を片っ端から倒していってもらうわ。でも……私と契約して得た力を使うのは禁止よ」
「は? じゃあどうすればいいんだよ? 前みたいにそこらの微精霊達との仮契約でもして戦えばいいのか?」
ルカがジルに出した条件。
それはジルが首を傾げるには十分すぎる、意味の分からないものだった。
ルカという闇精霊。
彼女を契約を結んで得た力。
それらすべてを封じて戦うというルカのオーダー。
まったくもって分からないとジルは怪訝そうにルカを見つめている。
「はあ、早とちりしすぎ。あんたが使うのはこれよ」
「うおっ、急に投げるなよ」
そう言ってルカはジルに向かって何かを投げつけた。
ジルは驚きながらもなんとか反応して、淡く輝くそれを掴み取る。
手の平に収まったそれは、ルカが大切にしているもの。
「これ……ルカのコアじゃないか。これでどうするんだ?」
「あんたと契約した時に渡した腕輪……着けてるわね」
「ああ、これだろ?」
ジルは自分の左腕に目を落とす。
そこにはルカと契約を交わすときに渡された、何やら不思議な形状をした腕輪がしっかりとはめられている。
「その腕輪のくぼみにコアを嵌めてみなさい。そうすれば……コアの本当の力を見ることができるかもしれない」
「かもしれないって……?」
「本当の力を引き出して、しっかり制御できるかはあんた次第ってことね」
「へぇ……でも何で今になってこれを? 最初から使わせてくれればよかったじゃないか」
「バカね。大きな力にはそれなりの危険が伴うのよ。あんたが最低限力を扱える器かどうかの確認もできてないのにほいほい使わせるわけないでしょ。私だってコアを吐き出してるし、これであんたが何もできないようだったらデメリットしかないじゃない」
ルカの言い方からジルは今までより強大な力を使うことができるのだと察知して、そのような力があるのなら「もっと早く教えてくれればいいのに」とぼやくが、ルカはその反応を見越していたのか呆れたように言い捨てた。
ルカが懸念していたことは二つ。
一つはジルがきちんと力を制御できるかどうか。
そして、もう一つはコアストーンを貸し出すことによるルカ自身の弱体化。
自身の力の源であるコアストーンを使うからには、それなりの信頼や確信が欲しい。
ルカがこれまでコアストーンとジルに渡した腕輪の関係を黙っていた理由の一つは、ジルがその力を扱うのにふさわしいか見定めるためだったのだ。
そして、ジルはルカの期待に応えてみせた。
だからこそルカは、やってみる価値があるかもしれないと思い、己のコアを使わせる気になったのだ。
「言っておくけどあんたがそこそこマシになってきたから試してみるだけで、無理そうだったらもうやらせないわよ」
「ま、そうだろうな」
「分かったらさっさとやりなさい。あんたがコアの本当の力を扱える器なのか……見させてもらうわ」
「おう」
ジルはルカのひねくれた言い方を自分なりに読み取りこう解釈した。
「あんたならやれる」と。
実際にどのような真意があったのか分からないが、ジルはその期待に応えるためにやる気を滾らせる。
結局何が起こるのかも、どうすればいいのかも教えてもらってないが、その勢いに乗せられてジルは闇のコアストーンを腕輪の窪みに嵌めた。
契約した時に放たれたような紫色の光が灯り、腕輪を通してジルに闇のエネルギーが満たされていく。
「うおっ……これは、確かにちゃんと制御できないとまずいな……!」
身体中を駆け巡る膨大な闇の波動を感じて、ジルはルカの言葉の意味を初めて知った。
この力を制御できなければ、壊れるのは自分なのだと。
だが、ジルには確信があった。
「いけるな」
その闇の力を飼いならす自信。
そして、漠然とだがどうやって力を放出すればいいのか頭に浮かぶ。
そのイメージに従って、ジルは腕輪を嵌めた左腕を前に突き出して叫んだ。
「こいっ!」
紫色の光が迸り、ジルは飲み込まれる。
その光景を少し離れたところで見ていたルカは目を細めた。
やがてジルを覆い隠す闇が晴れ、姿を露わにする。
濃い闇のオーラをしっかりと制御し身に纏うジル。
そして、その左手には死神を想起させる漆黒の鎌が握られていた。
「その様子だとしっかり制御できてるようね」
「おう。それにしてもこれ、かっこいいな。でも俺、鎌なんて使ったことないぞ」
「そんなのテキトーに振り回せばいいでしょ。……………それで? どう、気分は?」
「ああ、最高だ。この闇の感じ……なんだかルカに包まれてるみたいだな」
「はあっ? 何気持ち悪い事言ってるのよこの変態っ!」
「おい、ちょっと待てって……うおっ、痛っ」
ジルは素直な感想を口にする。
だが、その言葉選びがよくなかったからか、ルカは顔を真っ赤に染めジルに攻撃をする。
闇の魔力弾で鎌を弾き飛ばしてそのまま腕輪のある腕を捻り上げると、はめられた闇のコアを没収する。
その途端ジルが纏う闇の力は失われ、黒い鎌と共に紫色の光となって消えた。
「なあ、それ取られたらどうやって魔物討伐すればいいんだ?」
「……フン、好きにすれば」
せっかく引き出せた闇の力を存分に奮って魔物討伐で色々と試してみたかったジルだったが、ルカの気は削がれてしまったようで、自身のコアストーンを使わせる気はないらしい。
そっぽを向いて闇以外のコアストーンをジルに投げつけて、暗に闇の力は貸し出さないという強い意志を示した。
「えっと……闇のコアは?」
「知らない」
投げつけられたコアストーンに目を通し、一つ色が足りないことに気付いたジルは恐る恐るルカに尋ねる。
しかし、それをルカは冷たくあしらった。
さっきの続きとして一番使いたい力をお預けにされたジルはどこか残念そうにしている。
この時、今後しばらくの間、闇のコアストーンを使わせてもらえないことになることを、ジルは知る由もなかった。




