コアの行方
あの後ルカに引きずられたまま宿に戻ったジルは、約二時間ほど正座をさせられて説教されていた。
ルカを必要以上にからかった事、リンという発育の暴力をいやらしい目つきで舐めまわしていた事、その他それらとはまったく関係ない純粋な罵倒。
そんな説教をあくびをしながら(ぷりぷり怒るルカ、かわいいな)なんてふざけたことを考えながら聞き流す。
ジルの反省の姿勢をまるで感じない態度にルカはぴきぴきと怒りをあらわにする。
その仕置きは今のジルに尤も効果のある一撃。
「うりうり」
「ちょっ、やめろっ! マジで痺れてるんだって! つつくなっ! あぁ、足が……足がぁ……」
「自業自得よ。反省しなさい」
言葉がどれだけ響いてなかろうと、正座を強要されているという事実は無くならない。
長時間の正座によって痺れた足をルカは執拗につついた。
無慈悲につんつんした。
「はぁ……死ぬー。お前な、ちょっとは加減しろよな。途中から面白くなってただろ」
「ええ、あんたの反応はとても面白かったわ」
「そーかよ。…………なあ、あんな簡単に光のコアを渡しちゃってよかったのか?」
「よくないわよ。でもあの場面はああするのが一番だった」
お仕置きが終わったところでジルはずっと聞きたかったことを尋ねる。
ルカがリンの交渉に応じたことについて。
それによって闇のコアストーンを一つ手に入れる代わりに光のコアストーンを一つ失ったことをどう考えているのか。
「いい? リンの目的は自分の……つまりは光のコア。つまりあれさえ渡しておけばあいつ視点では私達に手出しする理由はなくなる。これで敵が一人減るわ」
「そうなのか?」
「ああ、そういえば私達がどんなふうに混ぜられて何個コアを持たされたか話してなかったわね。まずはそこからよ」
ルカが腕を上に振り上げると色とりどりのコアストーンを取り出す。
そして、人工精霊誕生における大事な話をし始めた。
「元々私達はコアストーン10個持って生み出された。それを一つずつ他の属性のコアと入れ替えたってことは、どうなったか分かるかしら?」
「えっと……元のコア6個に他のコアが1個ずつ……だよな」
「そう、だから私の持つ光のコアも1個……だから、それさえ渡してしまえばリンが私と敵対する理由は無くなる。少なくともリンの方からはね」
「なるほど……。敵も減らしたうえで闇のコアを回収できたと考えればお得なのか……? いや、でもそれで光のコアを全部失って光属性を使えなくなったらマイナスじゃないのか?」
「だったら光属性が使えなくなっているか試してみればいいじゃない」
「は?」
ルカは何か含みのある言い方でジルに「やってみなさいよ」と指示をする。
そんなことするまでもない。
一つしかなかった光のコアストーンはもうルカの手元にないのだから、それに伴い光属性の力は失われているはず。
ジルはそう思いながら軽く光属性の術を発動させてみようと指を立てた。
するとその指にはこれまでと同じように光が灯された。
「……普通に使えるぞ。何でだ?」
「まだ分からないの? まったく……鈍いわね。こういうことよ」
呆れたようにルカが手をかざす。
黄色の輝きと共に何かが飛び出す。
ジルの足元に光のコア|ストーンが《・》2つ転がった。
「ルカ、これは……?」
「あんたが光の精霊術を使えるってことは私の光属性は失われていない。私の光属性が健在ってことは……コアを持ってるってことでしょ?」
「でも他のコアは1個ずつじゃなかったのか?」
「元々はね。私は封印される時に何とか光のコアを奪ってこれたけど、知らないうちに闇のコアを失ってる。他の奴らの持ってるコアがどうなっているかは分からないけど、コアの所有は動いてるかもしれない……」
「なるほどな。それで光のコアを一つ失っても光属性の力は無くならないって分かってたから、リンの話に乗ったんだな」
ジルもようやく話が飲めてきた。
ルカにとっては光属性の力を失わずに闇のコアを取り返せた
戦わずして自分のコアを取り返し、なおかつ失う物も少ない。
万々歳な結果なのだろう。
「あれ? でも向こうはルカが弱ってること見抜いてただろ? もしコアを渡して力をつけられて、襲われてたらどうするつもりだったんだ?
「ちょっと考えれば分かる事よ。さっきまでリンのコアを私は3個持ってたってことは、当然リンの持つコアは少なくなってる。結局あいつはあの場で戦わなかったんじゃなくて戦えなかったのよ」
「ルカも弱くなってるが、リンも……か」
言葉を交わす中で分かった。
コアストーンの所持数変動をルカのみが知っていた。
リンの力が削がれていることを、削いだ張本人だからこそ知っていたのだ。
「でもそれじゃ完全に敵じゃなくなったわけじゃないよな?」
「一応ね。それでも私は一つ返している訳だし、次は他の奴を狙うでしょ」
ルカは既に光のコアストーンを1個手放している。
何事もなければルカが持つ光のコアストーンは0個となるはずだから、持ってるかどうか分からないルカをつけ回すより、確実に持ってそうな他の精霊を標的にするのが道理。
とはいえまだ油断はできないが、闇のコアストーンを一つ手に入れたルカの機嫌はとてもいい。
「でも、リンが私に有利な取引をしてくれたおかげで私も闇のコアを一つ取り戻せて気分がいいわ。まだ完全には程遠いけど、力が満ちるわ」
「ちなみに今ルカはどれだけのコアを抱えているんだ?」
「……闇が4、火、水、風が1、光が2ね。持ってる個数によってあんたの扱う力も強さが変わってくるだろうから覚えておいて損はないわ」
「闇が4……リンからもらったの合わせてそれって……結構少ないな」
「そうよ。だから封印が解けたときは本当に驚いたわ。私は無くなった分は全部あんたが持ってるものだと思っていたんだから」
ルカの反応の真意。
失くしたコアストーンの行方。
ジルはようやく腑に落ちたようで、彼女との出会いを思い出し、一人納得した。
「ま、光のコアを多めに持ってたから取引に応じて闇のコアを手にれられたんだし結果オーライだな。……ちなみに、もしあそこにいたのがリンじゃなかったらどうするつもりだったんだ?」
「そんなの決まってるでしょ? 奇襲して何個かコア奪って、潰せそうだったら潰す。ダメそうなら離脱よ。何のためにあんたがいると思ってんのよ?」
「それ、俺の役割結構でかい……?」
「私のコア不足による火力不足はあんたが補うのよ」
そう言ってルカは取り出して転がしていたコアストーンをすべて拾い上げ、上に投げる。
部屋の天井すれすれまで上昇し、やがて重力に逆らえず落下してくるそれらは、ルカの身体に吸い込まれていった。
コアを取り込むときのルカの気持ちよさそうな表情や、僅かに漏れる嬌声。
それをまじまじと見て「うわ、えっろ」と呟いたジル。
直後、顔を真っ赤に染めたルカに容赦なく殴られて頭にたんこぶを作ったのは言うまでもない。




