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それは、5年前の一目惚れでした

国試終わりに!

いや5年間描き続けてきた別のやつもちゃんとやります。

自分地理選択なんで、間違えてるところあれば優しく教えてくださいな。出来れば赤ちゃん言葉くらいに優しく。ばぶぅ。



始まりはあまりにもありふれたものだったのだと思う。


なんせ当の私が覚えていないのだから。


……いや、そうではない。


私がそのことを一瞬にして忘れ去ってしまったのは直後にそれを遥かに上回る衝撃を喰らったからだ。


今でもその光景は脳裏に焼き付いている。


彼の長い睫毛や、怜悧な細長の眼。その口は主君を助けるべく静かに必死さを滲ませて、引き絞られていて。さらにその時発せられた深くも穏やかな声。

写真(フィルム)のようにくっきり覚えている。




一目惚れだったのだと思う。



今も彼は、美しい。


目の前でハーブティーをカップに注ぐ彼の横顔から、目を離せない。


目線に気付いた彼は私を見返して、口元に緩やかなカーブを描く。

「何か考え事?」

彼が私に呼び掛ける。


「えぇ、少しあの日のことを思い出して」


有り難くストールを肩にかけてもらい、ハーブティーを受け取る。


今日であの人が死んでちょうど一年。


こうやって思い出さなければ、逆に言えば思い出す努力をしなければあの人のことが頭に浮かんで来ないぐらいにはあの人は遠くなった。


私はふうふうとお茶を冷ましながら思う、少しは呪いの効力が弱まったのだろうか、と。




私は、いや、私達二人はあの人に呪いをかけられたのだと思う。


どうしようもなく、憎くて、しかしあの人がいなければ彼に出会うこともなかったろう。


その事実自体があの人をさらに憎むに足る十分な理由だ。


あの人がもう、死んでいることも。


憎しみはどこにぶつけていいやら分からない。


私は5年前にあの人に会った時から嫌いだった。






◇ ◇ ◇


私が彼に出会った瞬間でもあったのだから悪くは言えない…と言いたいが、あの人との出会いは最悪の一言に尽きた。


重量を支える(シャフト)が折れ、馬車が擱座する瞬間に立ち会ってしまったのだ。

あの人はその衝撃で馬車から地面に投げ出され、村人たちが嘲笑う中を這って馬車の中へと戻ろうとしていた。


彼はそんな情けない状態にあるあの人の脇を抱え、馬車へと、嘲笑の及ばぬ空間に避難させようとしていたのだ。



ああ、今でもたまにだけど夢に見る。あの人の姿は完全に消え去っているけど。


そうだ、そのあとのことは鮮明に記憶している。



恋も知らない真正の乙女だった()()()は背筋に走った衝動を、胸の動悸を合理的行動に落とし込んだ。


「回復魔法は要りませんかっ?」

駆け寄りながら馬車から落ちただけでは到底つきようが無い負傷を負ったあの人の回復を買って出た。我ながらその咄嗟の判断は褒められてもいい。


アタシは、彼に近づくためにあの人をダシに使ったのだ。

回復魔法の使えない彼はアタシのボロで繕われた麻服に眉根を寄せていたけれど、主君の青白くひび割れた肌が真っ赤に染まり、何ともしれない液体が滲み出しているのと見比べてアタシの魔法を取った。


あの人を抱き上げた彼とは鼻先が触れ合おうかというほど至近距離まで近づいた。吐息が髪を撫でる。

回復(ヒール)

まだ熟練度が足りていなかったアタシはあの人の体液越しにあの人に触れざるを得ない。

否応なしに生理的嫌悪感を抱かせる姿を視界に収め、火の元(あの人)から漂ってくる臭いに心当たりがあった。



饐えた、それでいて甘さのあるそれは臭い血が腐る臭いと、肉が腐る臭い。



あの人は、生きながらにして身体が腐り続けていたのだ。


どれだけ生前に悪徳を積み重ねていればそんな姿に生まれるのか、全く想像がつかない。


掃き溜め(スラム)でも見かけない存在悪に顔を歪めないように苦心しながらも回復魔法を終え、彼に向き直った。


暗い鳶色の瞳。


それに見つめられただけなのに。


走っただけでは説明がつかないくらい顔がのぼせ上がっていくのが自分でもわかる。


手の置き所がなくてスカートの裾で手汗と体液とを拭い、ふとなんとなしに両耳に手を当ててみるとそこも熱を持っていることがわかった。

もしかしなくても両耳まで真っ赤になっていたに違いない。


どうしよう、どうしよう。


視線を彷徨わせたどり着くは馬車に描かれた白百合の紋章。それの表面が傷つけられていた。


気づいた時、アタシは震え上がると同時に胸中に納得のいかない感覚を感じていた。


恐ろしさは紋章が示唆することを理解して、不思議に感じたのは示唆と現在置かれている状況との乖離を見て。



紋章(フルール・ド・リス)は王家に連なる家系であることを証明する。つまり公爵、もしくは王族。


では、この国で1、2番目に高貴な家系の馬車が回復魔法、それも初級程度を常駐させていないということが考えられるだろうか?


回復魔法の使い手はそう多くないとは言え、常に暗殺の危険に晒される貴族にとっては生命線の一つだ。

神父様が過労になるのが最も好例だろう。


情報を勘案して、触らぬ神に祟りなし、と考えたのを彼の声が呼び戻す。


「持ち合わせがなくて、申し上げにくいのですがお代です」

その声が己に向けられている。アタシだけに。主人である腐った生物(ナマモノ)でなく。


それがアタシの胸を一層高鳴らせた。


財布を差し出そうとする彼を両手で止める。それが手切金のように思えたから。

同時に後悔も軽くしていた。その重みを感じてしまったから。


でも大丈夫。アタシにお礼をするために彼はきっと来る!


だってこんなに、こんなにイケメンなんだから!


すると彼は財布の中から銀貨を取り出し、アタシの手を取ってそこに握らせた。


「お使い立てして申し訳ないけど、もう一仕事頼まれてもらえないでしょうか」

やはり、という思いがあった。


あの人とその付き人だろう彼は論外としても、御者も不安そうに嘶く馬を落ち着かせている。


単純に手が足りないのだ。


回復魔法を使って主人を助けたアタシに白羽の矢を立て、

アタシのような貧困層の人間を使わないとならないくらいに。


となれば、馬車に乗っていたのは三人だけということになる。

最低でも公爵家である彼らとしてはあまりに不用心だ。


なんかきな臭い。


そんなものに関わる代償としては銀貨ではむしろ安いかもしれない。


だからアタシは値千金にもなるものを要求した。


「貴方様のお名前を教えてください!アタシはイヴァって言います!」


彼の僅かに息を飲む音。


アタシは王子様の尊顔と尊名を教えて頂いた。


アタシは口の中で反芻した。

イヴァ・ファルサス、イヴァ・ファルサスかあ。


彼の姓とアタシの名前を合わせて。

絶対に他の女には渡さない。王子様はアタシだけのものにするんだから。

非モテの僻み乙!(地雷型MAP兵器による自爆)


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