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元素の魔神VSリリー&ラスティ

 魔神がこちらに顔を向けた。

 ルドーさんはそれでもなお、動く気配を見せない。


 しかし、魔神の興味を逸らすことには成功したようだ。


「今のって死霊術? 結構癖のある魔術なのに使いこなしてんねー」


 魔神は面白いものを見つけたといった表情でこちらを見つめている。

 その様子は戦意など感じられないが、私の額からは汗が滴った。


 ……少しでも気を抜けば()られる。


 ルドーさんを助けるためには魔神の気を確実にこちらに逸らさなくてはいけない。


 私は横目でラスティとアイコンタクトを取ると、次の一手を打った。


「"死体の行進(カダヴェル・パレード)”」


 私が杖で地面を突くと、周囲の瓦礫から死者が立ち上がる。

 これは、魔神やルドーさんの魔術で死していった人たちの死体だ。


 心は痛むが、失われたものは二度と戻らない。

 私の魔術で完全に操作できているということは、それはつまりすでに失われた者たちということなのだ。

 ならば、せめてこれ以上何かが失われることだけは、防がなくてはいけない。


 お願い、力を貸して。


「ふーん……」


 魔神は急に現れた死者たちを品定めするかのように一瞥する。


「ま、だりーけど、ここはあーしが火葬してやっか」


 私は死者たちを一斉に魔神の元に向かわせた。

 死者の大群が魔神へと押し寄せる。


 その隙に私は一体の死者を使ってルドーさんを戦場から遠ざけた。


 これで、戦いに集中できる。


「"燃焼(アル・ディエット)”」


 魔神はこれまでの戦いを考えれば飛んで逃げられるはずだが、そうしないで杖を振った。

 その瞬間、最前線の死者たちが炎に包まれる。


「死霊術が操れるのはあくまで生物だけっしょ? すぐ炭にしてあげっから」


 本来、生物は水分を多量に含んでいるので、毛などを除けば直接燃えるということはない。

 しかし、魔神の放った炎は死者たちを燃やし続けていた。

 きっと、炎元素術を応用した特殊な炎なのだろう。


 肉の焼ける嫌な臭いが戦場を包む。


 それでも、私はとにかく死者を前に進め続けた。


「ん……?」


 魔神がようやく異変に気づいたようだ。

 そう、死者たちの歩みは止まらない。

 止まらせない。


 私はファルヴァさんを助けたときに、死した肉体を操作する(すべ)を知った。

 心の中で“死癒術(しゆじゅつ)”と名付けたその死霊術は、死体を元の状態へと治し続けることができる。


 魔神の攻撃によって燃えている死者たちだが、その肉体は私の死癒術によって常に治り続けているんだ。


 魔神の火力が強いか、それとも私の死癒術が強いか。

 これはそういう戦いなんだ。


「よくわかんないけど、ただ死体を操っているだけじゃないってわけね。なら、あーしも元素術の真髄を見せてあげる」


 魔神の打った次の一手は、さらなる炎……ではなく、風であった。


 魔神を中心にして渦を巻きつつも外側に広がるように旋風が巻き起こったのだ。


 その風を受けて、死者たちを燃やしている炎はさらに火力を増した。

 それだけではない。

 炎は風によって前線の死者たちから燃え広がり、一瞬にして業火と言っても良いほどの規模へと膨れ上がっていた。


 これはもう、ただの風じゃない。

 炎の竜巻だ!


 熱が私の肌を焼く。

 まだ平気だが、このままではすぐに私すらも燃やされてしまう!


「ラスティ、下がって!」


 私はとっさに自分の周囲に霊魂の壁を作ることで熱風が来ないようにしたが、すでに死者を操り続けていることもありラスティを守れるほどの余裕はなかった。


 ラスティはなんとか持ち前の身体強化で範囲外に逃れたようである。


「火葬ってこんな感じ?」


 風が止み、その中心から一歩も動いていない魔神が姿を現した。

 そちらに目をやれば、先程まで操っていたはずの死者はもう居ない。


 ただ、黒く焼け焦げ、灰を被った大地が佇むのみである。


 私に力を貸してくれていた死者たちは、すべて燃やし尽くされてしまった……

 ごめんなさい。


 魔神の力は、私の死癒術を上回っていた……


「火は風で強くなる。知ってんしょ?」


 二つ以上の元素の組み合わせは、言うのは簡単だが誰にでもできる技術ではない。

 一つの魔術を維持したままもう一つの魔術を精密に動かすということは、それはすなわち魔力も技術も高水準でなくてはならないということを意味する。

 さっき魔神がやったことを生半可な元素術師が真似すれば、風のコントロールを誤って自らが燃えることになってもおかしくはないだろう。


「これで分かったっしょ? あーしの方が実力は上。とはいえ、あーしとしても戦うのは面倒だから通してくれると嬉しいんだけど」

「あなたがこれ以上の破壊をしないと誓わない限り、私は退かない」


 魔神は私の言葉を聞いて、鼻で笑った。


「人と話したのは久しぶりだけどさ……ほんと、人って勝手だよね」

「……?」

「もうあーしらのことを覚えている人なんて居ない。あーしらはずっと戦い続けているっていうのにさ」


 魔神の話す内容は私にとって意味不明だった。

 魔神の声色から感じられたのは拒絶と疲弊。

 しかし、その真意を読み取ることはできない。


「ま、どうでもいいよ。やっぱ殺し続けるしかないよね」


 魔神が杖をくるりと回して掲げると、周囲に生み出されたのは”剣”であった。

 魔神の周囲を浮かぶその剣は、すべて切っ先がこちらを向いている。

 数はニ十本ほどであろうか。


 私はすぐに迎撃体勢を整えた。


「そんじゃね」


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