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ルドーさんの敗北

 魔神の言っていたことは虚勢でもなんでもなかったのだ。

 岩だけに的確に対処する魔術を使い、必要最低限の魔力でルドーさんの魔術を打ち消した。


 私は魔術機関で軽く習った死霊術以外の魔術に関する知識を必死で思い出す。


 ……元素術の基本的な考え方は魔術機関が確立している。

 火、水、風、土の四つの元素を適切に組み合わせることで、より効果的で効率的な魔術を模索するというのはかなり昔から取り組まれていたこと。


 魔神の力を持って元素術を使ったのであれば、元素の組み合わせによってルドーさんの魔術を消すというのも信じられない話ではなかった。


 確かにルドーさんの持つ実力は類を見ないものではあったが、それはあくまで土元素術に限った話だろう。

 本来であれば、圧倒的な力ですべての敵を飲み込めるはずだっただろう。


 しかし……相手が元素の魔神であれば、それこそが致命的な弱点となってしまっていると言わざるを得なかった。


「……終わったわけではありません」


 ルドーさんは驚愕に飲まれつつも気を取り直し、岩の(つぶて)を地面から大量に作り上げて魔神へと発射していく。

 単調な攻撃ではあるが、岩が高速で飛来する威力は筆舌に尽くしがたい。


 ……しかし、魔神はやはり上を行っていた。


「それに、土元素は岩だけが能じゃないじゃん?」


 土煙が晴れると、魔神の前には一枚の金属の板が形成されていた。

 その金属の板によって岩はすべて阻まれてしまっている。


 岩と金属……ぶつかりあえばどちらが砕けてしまうかなど、分かりきったことだ。


「大地に含まれる鉱石。金属もまた土元素から創り上げることができる……岩は大地を媒介にできるから魔力効率はいいけど、本当に魔力があるんなら金属のほうが強度は高いわけ」


 魔神はあえてルドーさんの得意な土元素術で差を示した。


 ……ルドーさんの完全敗北だった。


 ルドーさんの土元素術は間違いなく個人の魔術師として見れば最高峰の実力であったろう。

 しかし、魔神というものが規格外過ぎた。

 純粋な力だけでなく、その力を使いこなす知能も魔神は持ち合わせている。


 力の魔神が討伐できたのは本当に万に一つを掴むような奇跡だったのだ。


 それでも、ルドーさんは最後の気力を奮い立たせて杖を振るっていた。


「ならば、これなら……! 山すらも削り取る女神の怒りをその身に受けろ! "女神なる大地・終章(クィアヌ・フィニス)”」


 魔神の魔術によって朽ち果てた大地からルドーさんが呼び出したのは、大地の怒りを表した巨大な獣の顔だ。

 その大きさは、本当に山すらも喰らえてしまいそうなほどである。

 きっと、あの形が不自然な山は、この魔術によって……!


「危ない、リリー!」


 気づけば、ラスティが戻ってきていた。

 その手にはセレスちゃんは当然居ない。

 きっと、ラスティたちはギリギリのところで壁の外に逃げられていたのだろう。

 そして、岩の壁が消えたのを見て、ラスティは戻ってきてくれたのだ。


 ラスティがとっさに私を抱えてその範囲外に逃がしてくれる。

 もしもラスティが来ていなかったら、私もその魔術に飲み込まれていたかもしれない。

 それほどまでに巨大で、強大な魔術だった。


「ラスティ、セレスちゃんは?」

「大丈夫、デイルさんと合流できたよ」


 良かった。

 デイルさんとセレスちゃんは助けることが出来た。


 だが、安堵している暇などない、目の前で怒れる神が動いているかのようなその光景に、私たちはただそれを見ていることしかできなかった。


「死ね、魔神……!」


 怒り狂う岩の獣は魔神めがけて、その(あぎと)を繰り出した。

 何者ですらも耐えられない自然の怒りの権化。

 街一つを飲み込めてもおかしくないその破壊の塊は、ルドーさんの手によって完全にコントロールされている。


 ルドーさんの使える魔術で、おそらくは最も強力で絶対的な一撃……



 ――しかし、魔神はただため息をついて、だるそうに杖を振っただけだった。



「"風化(ディ・ケイ)”」


 ルドーさんの最大の魔術であってもそれを形成しているのは岩だ。

 元素の魔神は必要最低限の力で大地の怒りを御した。


 魔神から放たれた魔術は岩の獣を飲み込み、獣はその怒りを霧散させるかのように崩れ去っていった。

 あとに残るのはただの砂だけ。


 神を模した一撃ですら、魔神に通用することは、なかった。


「私の最大の魔術が……たったの一撃で……」


 ルドーさんは地に片膝をつき、ただ俯いていた。

 その背中からはもはや戦意は感じられない……


 魔神は浮遊しながら、ゆっくりとルドーさんの近くに寄ってきている。


 私とラスティは、それを離れた位置から見ていた。


「もー、ほんと、馬鹿みたいな規模の土元素術で困んだよね。いくらあーしが対処できると言っても、あれだけの魔術を消すとなればそこそこの魔力は使っちゃうわけだしさ……」


 魔神が風を纏うのやめてルドーさんの前に降り立った。


 そして、手の先に炎の球を作り出す。

 その炎は魔神の魔術にしては小さいが、それでも人に当てれば燃やし殺すのは容易いだろう。


「じゃあね~」


 魔神はただ、それが日常の動作であるかのように……人が邪魔な羽虫を叩き潰すような自然さで、炎をルドーさんに向かって放った。


 炎はルドーさんに向かって飛んでいるが、ルドーさんはすでに諦めてしまったのか、炎の方を向こうともしない。


 ルドーさんと私は決して相容れない。

 私は、ルドーさんのしたことを決して許さないだろう。

 彼のせいで、多くの命が失われたんだ……!


 しかし、私はその光景を見て、とっさに死霊術を発動していた。


「"魂の開放(アニマ・リリース)”!」


 地面から解き放たれた霊魂たちがルドーさんと炎の間に割り込む。


 私はそれが誰であろうと、失わせない。

 それが私の魔神と戦う意味だから。

 私がここに立つ最大の理由だから。


「まさか、生きてる人が居たんだ」


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