第94話 王子様系TS少女は婚前お泊りハーレム旅行に繰り出す その5
「お風呂頂いてきました」
「おかえり、さっ、入って入って」
アンリを自室へと招き入れる。
風呂上りで上気した顔。ゴールデンブロンドはしっとりと湿り気を帯び、いつもとは違った陰影を見せる。
身にまとっているのは実に典型的と言って良い寝巻である。
水色のゆったりとした上衣は大きめのボタンで前合わせ。ズボンも同じく水色で、全体として男女兼用と言うか、女性が着てもおかしくない男性用と言う感じがいかにもアンリらしい選択だ。―――男用を無理に着ている感じが、逆にエロく可愛く見えると言う発想がないところも含め。
「うん、三者三様、十人十色。良い感じだね」
改めてローズは室内を見渡した。
先に風呂を上がった四人も揃っていて、いわゆるパジャマパーティの様相を呈している。
「ローズ、何をぼうっとしてるの?」
「テレーズは、……うん、いつも通り可愛いね」
「んふふー」
すりすりと身を寄せてきたテレーズを撫でる。
もはや見慣れたうさ耳フード付きのパジャマだ。白地に黒のブチは初めて見たから、このお泊り会のためのおニューだろう。相も変わらず非の打ちどころなく百点満点に可愛い。
「ジャンヌは僕とお揃いだね」
「えへへ、そうですね、お揃いです。―――あっ、ごめんなさい、私なんかとお揃いで。罰ゲームっ」
わざとらしく言い直すと、ジャンヌはむぎゅうっと爆乳をローズの二の腕に押し付けた。
そんな彼女はと言うと、下はゆったりとしたズボンに、―――上はダボダボのYシャツだ。確かにYシャツにズボンと言う組み合わせはローズと同じだ。組み合わせ自体は。
爆乳を包み込み、なおも袖余りのサイズ感。本人曰く“これくらい余裕がないと寝苦しい”らしいが、あざとさを感じずにはいられない選択である。そして当然のノーブラ。
ズボンこそ履いているが、これはもう裸Yシャツの亜流と言えよう。
「トリアのそれは、……どういうことなの?」
「な、何よ。ローズは東方の文化が好きみたいだから、てっきりパジャマもそうだと思ったわけじゃないんだからねっ! べ、べべべっ、別に、ローズとお揃いにしようなんて思ってないんだからっ!」
ガウン状の薄手の単衣を胸の前で合わせ、腰に巻いた帯で固定している。トリアが着用しているのはまごうことなく浴衣であった。
「それって東方の寝巻なんですか? 素敵ですねっ」
「東の島国からの輸入品ですか。けっこうな価値のある物なんじゃありません?」
「ま、まあねっ」
ジャンヌとエリカが別路線から褒める。いや、エリカのは誉め言葉ではなく王女の無駄遣いに対する皮肉か。トリアは気付いていない様子で胸を逸らしているが。
そしてその胸が無いから、ご多分に漏れず和服が似合っている。といっても頭が金髪ドリルツインテールであるから楚々とした和服美人と言う感じでは当然なく、お祭りの日のギャルと言った様相だが。あるいは温泉街にやって来た日本びいきの外国人か。
「で、エリカは。うん、ちょっぴり意外な感じだね。まさかそう来るとは思わなかった」
「な、なんです、その感想は?」
もこもことした厚手の布地で上衣は前合わせのボタン付き、下はズボン。アンリと似た典型的な寝巻と言う感じだが、大きな相違点は頭。裾がフリル状になったシルクの帽子で途端に乙女チックな印象を生んでいる。
「その頭のやつ、ナイトキャップって言うんだっけ? なんかエリカらしくない気がするけど、それって何のためにしてるわけ? おしゃれ?」
トリアが聞き難いことをズケズケと口にする。さすがである。
「こうして髪をまとめておかないと、翌日に櫛の通りが悪くなってしまいますから」
「はえー、なるほどねぇ、髪が長いと大変なのね。……あら、でもエリカ、だったらどうして髪を伸ばしてるわけ? あなただったらお手入れの時間が無駄、とか言って思いっきり短くしちゃいそうなものだけど」
「…………」
「えっ、なになに? 聞こえない」
「―――っ、おしゃれですよっ。悪いですかっ」
図らずも急所をえぐられたらしく、真っ赤な顔のエリカの叫びでパジャマパーティは幕を開けた。
「それにしてもローズのお母様、思ってた感じとだいぶ違うのね」
いつも一緒のメンバーであるから、会話は新しいネタ―――初対面での、また晩餐の席でのローズの家族のことになった。父は良くも悪くも毒の無い人間だから、自然と話題は母のことに集中する。
「そうかい? 自分の母親のことをこんな風に言うのもなんだけど、割と典型的な封建貴族って感じの女性だと思うけど。いったいどんなのを想像してたんだい?」
「そりゃあもうローズの母親なんだから、周囲には使用人の女の子を何人も侍らして、こう、ワイングラスかなんかを片手にして」
「分かります。膝には雌猫なんか乗せてたりして。あとは例えば使用人の子が何か良いことをしたら、ご褒美に手ずからワインを飲ませてあげたり、果実を食べさせてあげたりですとか」
「でも逆に悪いことをしたら、お尻丸出しで鞭打ちしそうなのっ」
「いったいどういうイメージだい、それは?」
王子様の母親だから、女帝的なものに淫靡さを足した感じなのだろうか。
「まあ、お母様はおかしなところなんて何もない、極めて一般的かつ常識的な封建領主様だよ。普段は王都に暮らしていらっしゃるけど、領地のことも決して疎かにはしない実に立派な方さ」
「尊敬していらっしゃるんですね」
アンリは実にストレートに言う。
「まあ、そうだね。母のような振る舞いは僕には真似が出来ないところでもあるし。……うん、尊敬してると言えなくもないのかな」
「なんだか煮え切らない言い方ねぇ」
「いやぁ、だって家族のことを尊敬してますだなんて、何て言うかちょっと照れ臭いじゃない」
「あらそう? あたしは伯母様とマーガレットお姉様のこと、尊敬しているわよ。お母様も、まあ魔法の腕前だけは尊敬に値するわね」
「私も、ママのこと尊敬してるのっ」
「私も父と母のことは尊敬していますよ」
「まあ、そうだね。みんなはもうそういうのは乗り越えた後だもんね」
伯母の暗躍をローズに雑に暴かれ、それでも不仲になることがなかったトリア。女王とも原作よりは幾分良い関係を築けている。
試験管ベイビーと言う生まれ故にギクシャクしていたテレーズの母子関係も、すでにローズが強引に解決済みだ。
両親を尊敬するが故に必要以上に優等生であろうとしたエリカのコンプレックスも、本人も知らないうちにローズの影響によって解消されていた。
「私も両親のことは尊敬しています。間違いなく育て難い娘であった私を、深い愛情をもってここまで育ててくれました」
ジャンヌの家族にはまだ会ったことがないし、原作にも未登場だ。
しかし魔法を使えない娘と、それを生んだ両親に向けられる周囲の同情と嘲りは想像に難くない。その上、当の娘は大き過ぎる魔法愛ゆえに結構な無茶を平気で仕出かしもする。ジャンヌが心根優しく真っ当に育ったのは親の愛の賜物と言うことなのだろう。
「僕、の場合は院長先生でしょうか。もちろん尊敬していますよ。赤ちゃんだった血も繋がらない僕を、そして弟や妹達を育ててくれた大切な方です」
アンリが真っ直ぐに言う。
「うーん、みんな何と言うか、強いね」
それぞれに深刻な問題を抱えつつ、ローズの協力があったりなかったりしながら円満な家族関係を築いてきた少女達だ。ローズに反論の余地を残してくれない。
「うーん、僕とお母様は、その、何て言うのかな、……ちょっと合わなくてね。あっ、もちろん尊敬してるって言ったのは本当だよ。でも考え方やら生き方がいちいちぶつかるって言うのかな。そばにいるとどうにも喧嘩になっちゃってね」
「へーえ、何と言うか、意外。ローズは女なら小っちゃい子からおば様まで何でもござれだと思ってたのに、まさか一番身近な実の母親と上手く行かないだなんて」
「いえ、でも考えてみるとそれも当然では? あのローズさんの女性に対する節操無い接しぶりは、実の母親には効かないでしょう」
「あっ、そりゃあそうか、母親相手に口説き文句ならべるようなもんだもんね。むしろ怒られちゃうか」
エリカが鋭いことを言い、トリアが的を得たまとめをする。
そう、母リリアーヌ・ド・ボーモンは少女もマダムを手玉に取ってきたローズの唯一無二の天敵のような存在なのであった。




