第75話 王子様系TS少女は今度こそ完全無欠のメインヒロインを攻略にかかる その3
「とうちゃーくっ!」
四番街の大通り。王都そのもののメインストリートとでも言うべき場所だ。
「さすがに人が多いね。はぐれたら大変だ」
わざとらしく言って、ぎゅうっと組んだ腕にさらに力を籠める。
「……それで、これから何をなさるおつもりなんですか?」
「それじゃあ、まずはちょっとその辺の店でも冷やかそうか」
「冷やかす? それってどういう―――」
「おっ、あの雑貨屋さんなんて良さそうだね。行こうっ」
「あっ、ちょっと、またっ」
有無を言わさず再び引きずっていく。
中高生のデートの定番の一つ、いわゆるウィンドウショッピングと言うやつだが、考えてみるとエリカとはしたことはない。まあたいして買う気もなく商品を見て回るなど、彼女の性格なら無駄の極みだろう。
扉を開けるとカランコロンと軽快な鐘の音が鳴り響き、店員達が“いらっしゃいませ”と愛想良く頭を下げる。それきりで寄って来て過剰に接客することもなく、視線を向けると微笑みが返って来る。
「うん、距離感が心地いい、良いお店だね。それじゃあ、端っこから見てこうか」
前世で言うところのセレクトショップと言うやつだろう。毛色の違う、されどある種の共通したセンスを見て取れる商品が並べられている。
ローズ達がまず行き着いたのは、眼鏡―――この世界には錬金魔法で生成されたレンズが普及している―――の陳列されたコーナーだ。
「エリカって目は特に悪くはないんだっけ?」
「ええ、良くもありませんが、眼鏡をするほどでは。……ああでも、実際に掛けてみると遠くのものが少し見えやすくなりますね」
実用品と言うことでエリカの抵抗も少ない。目に付いた眼鏡を互いに掛け合うという、ど定番のやり取りを楽しむ。
「うん、こっちも良いね。その蔑んだような目で見られると、ゾクゾクしちゃう」
「何を気持ちの悪いことを言っているんですか。ローズさんの方は、……ふふっ」
「ひどいな、笑うことないじゃない」
エリカは卵型のフレームでおしとやかな優等生のスタイルも、逆三角形のフレームでSっ気のある女教師のスタイルも良く似合った。一方でつり目がちのローズはいまいち眼鏡が似合わない。チャラさを強調するような色眼鏡がかろうじて様になるくらいだ。
ひとしきり楽しむとお隣、帽子が陳列された一角へ。
「どうかな、エリカ?」
「……まあ、似合ってなくはないですね」
「あんまりかい? それじゃあこっちは?」
「……まあ、悪くは無いんじゃないですか」
「これもお気に召さない? じゃあこれっ」
黒髪美少女のエリカには麦わら帽子も似合うし、意外やハンチング帽子も活動的なお嬢さんと言う感じで様になる。ローズはハットから鹿撃ち帽―――某有名探偵が被るあれだ―――まで、男性用帽子を一通り着用した。我ながら悪くないと思うし、周囲の他の女性客の視線も集めた。しかしエリカからはいまいち良い反応はもらえなかった。
「…………」
リボンやシュシュのコーナーは二人して素通りして―――エリカを着飾らせたい気持ちはあるが、代償に自分までフリフリに包まれるのはぞっとしない―――、次は大小様々なぬいぐるみが並べられた一角。
犬や猫、ウサギと言った普通の動物から、ペガサスやドラゴンと言った幻想生物まで。いや、この世界にはそれらも存在しているのだが。魔物をぬいぐるみにするのはどうなのか、と言う疑問も湧いてくるが、考えてみると元の世界でも熊やら虎やらと言った危険な動物も定番のモチーフであった。
「おっ、エリカ、これなんてどうだい?」
「何ですか、それは」
「見たら分かるだろう、クマのぬいぐるみだよ。“こんにちは、エリカちゃんっ”」
クマちゃんの手をパタパタと振りながら、声色を変えて言う。
「まあ、それはもちろん分かりますけど。“どうだい?”、と言うのはどう意味です?」
「殺風景な君の部屋に一つどうかと思ってさ。ほらほら、見て見て、僕の髪と同じ色。“わー、ボクとローズくん、おそろいっ”」
クマちゃんを顔の横に持って来て、毛むくじゃらの身体と自身の茶色がかった金髪を並べて見せる。
「はぁ、何をやってるんだか」
「まあまあ。君の部屋、いくら何でも殺伐とし過ぎてるよ。本当なら僕が常駐して花を添えたいところだけど、さすがにそういうわけにもいかないしさ」
「殺風景だの殺伐だのと、失礼なおっしゃいようですね」
「ごめんごめん。でもどう、僕の代わりに? “ボク、エリカちゃんのお部屋で暮らした~いっ”」
「…………はぁ。こちらが折れねば、その馬鹿げたお芝居をやめてくれそうにないですね」
「それじゃあ?」
「まあ、あの部屋にも一つくらい、そんなものがあっても良いんじゃないですか」
エリカはローズとクマの顔を交互に見比べてから、他人事のように言う。
「そうだろっ。よし、プレゼントするよ。―――すいませーん、これくださいっ。はい、はい、これでお願いします。リボンですか? う~ん、じゃあ赤で」
この機を逃すまいとすかさず店員を呼び、話をまとめる。
「ちょっと、ローズさん。プレゼントなんて貰う理由が」
「まあまあ、初めてのデートなんだし、ここは僕に格好付けさせてよ」
「……プレゼントと言っても、ローズさん働いているわけじゃないですし、親のお金でしょう? もっと言えばボーモン伯爵領の領民の血税ですよね? それで格好を付けられても」
「うっ。い、いやいや、学生の本分は勉強。入学以来次席を維持している僕は十分に務めを果たしていると言えるし、次期領主として民の期待にも答えていると言える、はず。違うかい、エリカ?」
「はいはい。そんなに必死にならなくても、受け取ってあげますよ。ここで騒いでも店の迷惑になりますしね」
エリカは渋々というていで肩を竦めると、折よく戻ってきた店員さんから値札を外され、購入の証しとして赤いリボンを首に巻かれたクマちゃんを受け取った。そして存外大事そうに両腕で抱え込む。
―――うんうん、良い感じじゃないか。
今日の計画は教科書通りのデートで、友人から一歩仲を進めること。まずは順調と言って良いだろう。
もっとも前世は貴族は貴族でも独身貴族であったローズの“教科書”は、まほ恋をはじめとするギャルゲーと言うことになるのだが。




