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第72話 王子様系TS少女は完全無欠のメインヒロインとの過去に思いを馳せる その13

「この固くて厚い壁は君の頑なな心そのものだね、エリカ」


「……なんで二回言ったんです?」


「だってエリカ、無視するんだもん」


 別にメタい理由があるわけではなく、反応が無いから繰り返しただけだ。


「ふんっ、それならこうしてべったりまとわりついている今の貴方は、まさにいつものローズ様そのものですね」


「ははっ、照れるなぁ」


「何を照れることがありますかっ」


「だってそれって、いつも君の心の一番近くに寄り添っているのは僕ってことだろう?」


「本当にっ、ああ言えばこう言う方ですねっ」


「ツーと言えばカーと言う、お互い通じ合った仲だってことだねっ」


「ああっ、もうっ!」


 エリカは苛立たし気に叫び、黙り込む。揚げ足を取られるのはもう沢山、と言ったところだろうか。


「…………」


「…………」


 再びの沈黙。そして膠着。


 ―――手数で勝負だ。


 エリカの残弾数は五か、それ以下か。十以上と言うことはあるまい。一方でローズにはまだ余裕がある。撃ち合い、エリカの魔力をからにしてしまえば勝ちだ。

 問題はこの距離。ほんの一瞬でもエリカに後れを取ればもう魔法を避けようがない。だからと言って速さにかまけて魔力の練りこみを怠れば一方的に魔法を打ち消されることになる。先日エリカから指摘されたローズの弱点だ。


 ―――なるほど、結局はそこに話が戻るのか。


 つまりはエリカのアドバイスを活かし、真に彼女と切磋琢磨し得る存在であることを証明するしかないわけだ。


「…………」


 覚悟を決めるとローズはゆっくりと身を起こした。城壁の凹部から中を伺うと、


「―――っ」


 ばっちりとエリカと目が合った。やはり親友、息ぴったりだ。

 もはやローズに動揺も迷いもない。最速で完璧な連撃を―――


「“雷鞭”」


「“気砲”、“気ほ―――、あっ、あががががガガっ」


 ローズの放った圧縮空気弾をすり抜け、稲光が走った。―――風と雷は互いに干渉しない。

 雷魔法。ここに来てまさかの隠し玉。まさかの応用魔法の無詠唱。というか先日のアドバイスとか何も関係ない。


「あギ、いっ、つつつつっっううぅうっっ」


 雷に打たれ、喉から悲鳴が漏れる。痛みそのものと言うよりも、電気刺激に我知らず勝手に喉がふるえた。

 エリカの右掌からは雷が迸り続ける。同じ初級魔法の気砲や石弓が砲弾なら、雷鞭はレーザービームだ。術者が構成を維持し、魔力を送り続ける限り雷は走り続ける。


「ふっ」


 “勝った”と、エリカが鼻から息を抜いた。その鼻の頭がわずかに赤い。

 ローズが雷に打たれているのと同様に、エリカもまた圧縮空気弾が直撃したためだろう。

 肉を切らせて骨を断つ。完全無欠の優等生のまさかの捨て身戦法だった。


「ひっ、ぐあアアアああっ」


 雷に打たれるローズは術式を編めるような状況ではない。仮に編めたところで発動式が発音出来ない。エリカが勝利を確信するのも当然だ。―――が、身体は動いた。

 城壁の凹から身を乗り出し、内部へ腕を突っ込む。


「えっ?」


「づ、づーがまーえダっっ」


 雷を放つエリカの右腕を掴み取る。


「―――あぐっ、いぎぎぎいぃいぃぃ~~~っっっ、あがガガがッッ」


 エリカもローズと同じく情けなく喉をふるわせた。


「―――っ、はあっ、はあっ」


「はあっ、はあっ」


 ややあって雷鞭の魔法が消失し、身の内を流れる電流が収まった。意図的にと言うより、エリカの精神の集中が乱れた結果だろう。

 とはいえ電撃の余波か、全身がびくびくと引きつる。互いに満身創痍、精も根も尽きたと言うやつだ。ローズにはまだ魔力が残っているが、構成を編む集中力が湧いてこない。


「……これは、引き分けだね、エリカ」


 言葉を絞り出せたのはかなり時間が経ってからだ。


「…………」


「ひ、き、わ、け、だよね、エリカ?」


「……ふんっ、ローズ様の健闘は認めましょう」


「ローズ“様”? あれぇ、おかしいな。電撃で耳がやられちゃったかなぁ? 引き分けってことは、これで君と並び立ったはずなのになぁ」


「ちっ」


「あれあれ、優等生な誰かさんの舌打ちまで聞こえたぞ。これは本格的に耳がおかしくなったかなぁ」


「ローズさんっっ! これでよろしいですかっ。まったく、底意地の悪い」


「えー、そういうことエリカが言っちゃう? ずっと様付けされて、友達じゃないって拒否され続けて、意地悪されてたの僕の方だと思うんだけど」


「“さん”だろうが“様”だろうが、どちらでも変わりないでしょうに、しつこい方ですね」


「おっきな違いさ。それで君と僕の関係が変わるんだからね」


 言いながら、掴み続けていたエリカの腕を離し、城壁から乗り出していた上体を降ろす。


「別に“さん”でも“様”でも、“友達”でも“それ以外”でも、今さら私とローズさんの関係が―――、……ちょっと、ローズさん? 聞いています?」


「…………」


「ローズさん? どうされたのです? 尻もちなんてついて。お顔も真っ青ですよ」


「……足がね、痛いの。と言うか、なんかぷらぷらしてるし」


 壁に預けていた体重を落とした瞬間、左足首に再び激痛が走った。

 同時に嫌な違和感。喩えるなら“折れて、しかし本来の位置のままで上手くかみ合ってくれていた骨が何かの拍子でずれた”ような。いや、喩えと言うよりもそのまんまか。


「ロ、ローズさんっ!?」


 エリカが城から飛び出してくる。同級生たちもこちらへ駆け寄ってきた。

 ローズがはっきり記憶しているのはこの辺りまでだ。

 痛みと不安と吐き気に耐えている間に事態は進み、気付けば学園の保健室で養護教諭の回復魔法を受けていた。そして傷が癒えほっと一息つく間もなく、担任教師から大目玉を食うのだった。エリカと二人で。

 ともあれ、こうして五年間も続いたエリカとの冷戦は解消されたのだった。




「…………」


 演習場の真ん中に立ったエリカが、通路に立つローズへちらっと視線を向けた。何やら意味ありげな目付きだ。

 ローズの背後にはがやがやと高等部三年E組の生徒たちも集まり始めている。二学年首席エリカの自由課題のお披露目が終われば、次は三年生の出番である。


「――――――――。――――――――。―――――」


 エリカが詠唱を開始する。聞き覚えの無い呪文だ。よほどマイナーな魔法か、あるいは珍しいことにエリカの独自魔法オリジナルか。幼馴染で親友のローズをして、エリカの独自魔法は記憶にない。

 とはいえ何をしたところで、国民待望のアンリの光魔法と玄人受け抜群のジャンヌの余剰魔力を必要としない魔法の後では厳しいものがあるだろう。火魔法最高峰の“煉獄”ですらそこそこの歓声に終わっている。


「――――――。――――。――――――。“雷獄”」


 長い詠唱が終わり、発動式が紡がれるとバチバチっと演習場に幾本も稲妻が走った。

 エリカが緩やかに腕を振ると、呼応して雷は大地を舐め、輪を描き、その輪を絞ったり広げたりする。さっと素早く腕を振り下ろすと、今度はピシャッと大地に稲妻を落とす。

 要するにこの魔法は―――


「……雷の煉獄」


「雷の煉獄? えっ、そんな魔法、あったかしら?」


「えっ、もしかしてそれって独自魔法オリジナルってこと?」


 ローズがポツリと呟いたのを聞き留めた三年生が騒ぎ始める。

 観覧席もローズ同様に誰かが気付いたのだろう、がやがやと喧騒が上がる。

 火の最高難度魔法を模した雷魔法。雷は応用魔法であるからそれだけで一段難度が上がる上に、これは独自魔法である。一見して完成度にも問題なく、完璧に制御されている。


「―――――――っ! ―――――っ!!」


 ややあって聴衆にその凄さが広まると、演習場は歓声に包まれた。アンリの光魔法にもそう劣るものではない大喝采だ。

 見物客の魔法使いにとって光魔法は伝説であり、ゆえに正体不明の存在だ。一方でエリカの見せた雷獄は慣れ親しんだ魔法の延長だ。学生の身でこの難度、この完成度の独自魔法を完成させるなどあり得ないが、提示されたもの自体は理解出来る。

 百メートル自由形で水面を走って見せたのがアンリなら、クロールで世界新を大幅に更新して優勝したのがエリカとでも言えば良いだろうか。

 拍手喝采に見送られ、エリカが通路へ引き返してくる。


「お疲れ様、エリカ」


「なかなかいい振りでしたよ、ローズさん」


「振りって。ああ、あの視線そういう意味」


 何やらもの言いたげな目付きをしていると思えば“貴方が煉獄をやってくれたお陰で、私の魔法のすごさが伝わりやすくなりました”と言う感謝と嫌みが籠っていたわけだ。


「しかし、切り札に雷魔法とは君らしいね」


「そうですか?」


「そうだよ。例えば去年の学園祭でテレーズを負かした時とか。それに、ほらっ、僕とさ」


「―――ああ、ローズさんと仲直りした時にも、最後は雷魔法でしたっけ」


「そうそう、僕と仲直、……り」


「どうかされましたか、ローズさん?」


「そ、そうだよね、僕たちってあの時仲直りしただけだよね。マイナスだったのが戻っただけだよね」


「何の話です?」


「……つかぬことを聞くけど。エリカってさ、もしかしてまだ僕に攻略されてない?」


「はい? 攻略? 本当に、さっきから何の話をしているのですか?」


 エリカは訳が分からず眉をひそめる。完全無欠の美貌を誇るエリカには、そんな表情も見惚れるほどに似合う。が、今はそんな場合ではない。


 ―――うわっ、僕まだエリカを攻略完了出来てないじゃんっ!


 ローズは衝撃の事実に思い至るのだった。


と言う訳でエリカ編、なんと現代パートに続きます。

来週からはまた週二回更新の予定です、一応、たぶん。

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[一言] ローズ、友人ルートでもええやんけ
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