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第45話 王子様系TS少女は男装隠しヒロインを攻略にかかる その6

「ローズちゃん、いらっしゃい」


 執務机の向こうでこの国最強の魔女が微笑んだ。

 原作主人公アンリになくてローズにあるもの。飾らずに言ってしまえばそれは“コネ”であり、その中で最大のものが女王だ。突破口を開くなら、これしかない。


「珍しく大勢引き連れて来たのね。ヴィクトリアにエリカ・ステュアート、テレーズ・シルヴァーに、アンリエッタ・マルタンか。―――あら、一人多い? ああ、男の子なのね」


 ローズが扉越しに女王の存在を感じ取ったように、女王の側もローズ達の魔力に気付かないはずがない。人数分より一つ少ない、五人分の魔力を。


「とりあえず座って」


 女王に促され、遠慮なくソファーに腰掛ける。

 他の皆はローズが座るのを見てから躊躇いがちに。特にジャンヌは恐縮しきりで、トリアに手を引かれてようやく腰を落ち着けた。


「何か私に用があるみたいだけど、その前に。―――アンリエッタ・マルタン」


「はっ、はいっ」


 せっかく腰を下ろしたばかりのソファーからアンリが勢い良く立ち上がる。


「ふふっ、そんなに固くならず、楽にしてちょうだい。こうしてお話しするのは二度目だったわね、アンリエッタ」


「はいっ」


「学園にはもう慣れたかしら?」


「はい、陛下。色々戸惑うこともありましたが、ローズさん達のお陰で」


「そう、ローズちゃんに頼んで正解だったわね。その様子だと、クラスの皆とも上手くやれているみたいね?」


 女王はエリカとテレーズにちょっと目をやって言う。


「はいっ、皆さんには良くして頂いています」


「ヴィクトリアともお友達なのかしら?」


「はい、とても仲良くさせて頂いています」


「そうっ、それは良かったわっ」


 女王は上機嫌に声を弾ませ、優しい笑みを浮かべる。


「何か困ったことがあったらローズちゃんに相談するか、……そうね、私に直接言いに来なさい。貴方は特別な生徒だもの、ある程度の便宜は図りましょう」


「ありがとうございます」


 なかなか際どい台詞だが、特別と言っても他の皆には“女装男子学生”ではなく“学園始まって以来の転入生”の意味に聞こえただろう。

 それにしても学園長、いやさ女王の“便宜を図る”という発言は重い。先日トリアも口にしていたが、女王は確かにアンリをずいぶんと気に掛けている。

 ゲームでトリアとアンリの恋仲に徹底的に反対し続けた女王を知るだけに、やはり意外な気がした。いや、二人を近付けたくないなら、そもそもアンリの世話係をローズに頼むはずもない。いったい女王の思惑は―――


「それで? お友達みんな揃って、今日は何の用事なのかしら、ローズちゃん?」


「はい、実は―――」


 疑念は浮かぶも、今はジャンヌのことだ。ローズは率直に切り出した。

 性別詐称による不法就労に言及した時には、ぴくっと女王の眉間にしわが寄るも、遮られることなく全てを語り終える。


「―――と言うわけで、彼女に魔法を使わせてあげたいんですが、僕達だけでは少々手詰まりでして。ここはぜひ学園長先生のお知恵をお借り出来ないかと」


「……話は分かりました。まずは貴方、ジャンヌさんだったわね?」


「はっ、はいっ!」


「この国の女王として、一言謝罪しておくわ」


「はいっ! ……はい? しゃ、謝罪ですか?」


「ええ。貴方のような低魔力の女性の存在は把握していたけれど、数が少ないからと対策を怠っていたわ。ごめんなさいね」


「へ、陛下っ、頭をお上げくださいっ。私なんかにそんなっ」


 さすがに今はそんな空気ではないので、とりあえず罰ゲーム一回分を心の中でカウントしておく。


「ローズちゃんも、こんな形で政治批判だなんて意地悪なことするわね。私の政策の被害者の実例なんて連れ込んで」


「いえ、別にそんな意図は」


「どうだか」


 完全に誤解。買い被りが過ぎると言うものだが、何やらトリアとアンリがほへーと感心した様子だからそれ以上は否定しないことにした。むしろ意味ありげに口元に笑みなど浮かべておく。


「それにしてもいきなり私のところに話を持ってくるだなんて、ずいぶん無茶をしたわね、ローズちゃん」


「いやぁ、この国一番、というより世界で一番の魔法使いに相談するのが一番手っ取り早いと思いまして」


「まったく、貴方と言う子は。いったい女王を何だと思っているのかしら?」


「えっと、友達のお母さんですよね?」


「ふふっ、よくもこの私にそんな口を―――」


「―――お母様、あたしからもお願いっ」


「―――陛下、私からもお願いします。便宜をお図りいただけると、先程お言葉を頂戴しました」


 トリアとアンリが同時に口を挟んだ。

 ローズの受け答えが女王の逆鱗に触れると思ったのだろう。実際には“トリアのお母さん”扱いはむしろご機嫌取りの類ですらあるのだが。


「ふふっ、二人して仲の良いこと。そんなに心配しなくても、ローズちゃんにはヴィクトリアがお世話になっていることだし、不敬だとか僭越だとかは言わないわ」


 女王はまた上機嫌に笑った。


「でもね、せっかく来てもらって悪いのだけれど、私では貴方の問題を解決出来そうにないわ、ジャンヌさん」


「そっ、そうですか。……やっぱり、私なんかに魔法は」


 世界一の魔女の言葉にジャンヌががっくりと肩を落とす。―――それはそれとしてローズは心の中で罰ゲーム二回目をカウントしておく。


「人選ミスよ、ローズちゃん。うちの家系の人間は生まれつき魔力にだけはまったく不自由しないもの。魔力を増やす方法だなんて、考えたこともないわ」


「困ったな。学園長先生が頼りだったんですけど」


 その“まったく不自由しない魔力”と言うのが何らかの秘術の結果と言う可能性に期待したのだが、どうやら天然ものらしい。


「だから、人選ミスだと言ったでしょう、ローズちゃん」


「―――? それってもしかして」


「ええ、適任者は他にいるわ、それも貴方も良く知る人物がね。私がこの国一番の魔法使いと言うのは間違いじゃないけど、この国で一番魔法を深く探求した者は別にいるのよ」


 言って、女王は視線をテレーズに向ける。


「……もしかして、ママ?」


「ええ。そういうことはあの子に聞きなさい。私が最強の魔法使いなら、あの子は最高の魔法使いよ。魔法理論や魔法生物学に関しては、昔からあの子に並ぶ者はいなかったわ」


「おや、何やら親しげな言いようですね?」


「あら、話したことがなかったかしら? 学園生の頃は先輩後輩として仲良くしていたのよ。ちょうど今のあなた達みたいな感じで」


「へえっ、知りませんでした。学園祭なんかでルイーズ様と連れ立っている姿はよくお見掛けしていましたが、てっきり仕事上の付き合いだとばっかり。トリアは知っていたのかい?」


「ううん、初めて聞いたわ。テレーズは? ルイーズ様から何かお聞きしてる?」


「聞いたことないの」


「まあ、あまり娘に聞かせるような話ではないものね」


「なあに、お母様? そんな言い方されたら気になるじゃないっ」


「まあざっくり言うと、私がガキ大将であの子がその参謀役って感じで、色々やらかしたんだけど。んー、ルイーズに文句を言われそうだから、細かい話はやめておくわね」


「ええーっ」


「さあさ、せっかくだしルイーズ宛に紹介状を書いてあげるわ。それを持って研究所へ行きなさい。実はちょうどジャンヌさんの件に役立ちそうな研究をしてもらっているところなのよ」


 女王はそう言うと、さっさと愛娘達を部屋から追い出しにかかった。


「―――ま、まさか陛下にお会い出来るだなんてっ」


 重い扉がどしんと閉まると、ジャンヌが上気した顔で言う。

 この国の魔法使いの頂点に立つ女王は、魔法使いに憧れる少女にとってはすなわち憧れの頂点である。


「とってもおきれいでっ、それに気さくでお優しい方でしたねっ。もっとお厳しい方かと思っていましたっ」


「普段は全然あんな感じじゃないけどね。気さくなのはローズが一緒の時だけ。ほんっと、いつの間にか娘のあたしより仲良いんだから」


「でっ、ですよねっ? いや、あまりの変わりようにびっくりしてしまいましたっ。よくお会いしているとはお聞きしていましたが、陛下とずいぶん仲がよろしいんですね、ローズさん」


 エリカが珍しくテンション高めに言う。

 学園長室では大人しくしていたが、内心には衝撃が走りまくっていたようだ。


「さてと、それじゃあ―――」


「ママのところに行くのっ」


 テレーズの号令で、一同は学園を後にして研究所へと足を向けた。


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