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第33話 王子様系TS少女は攻略(され)状況を確認する

「それでは、はじめましょうか」


 城外の荒地に着くと、いくつかの集団に分かれて距離を取った。

 普段は同じクラスの三、四人で班を組むことが多いが、今回は移動を共にした八人―――ローズ、アンリ、エリカ、テレーズ、トリア、C組の三人―――となかなかの大所帯となった。

 当然のようにエリカが仕切り役に回る。


「まずは誰からやりますか?」


「そ、それじゃあ、私からっ」


 引っ込み思案な印象の平民の少女が手を挙げた。


「その、A組の皆さんの後だと、やり難いですし」


 それは確かにと、トリア以外のC組の二人が頷き合う。


「それではよろしくお願いします」


「はい」


 他の班員達からいくらか距離を取ると、少女は詠唱を開始した。


「――――。―――。―――――。“火焔砲”」


 巨大な炎の塊が上空へと撃ち出される。


「ど、どうでしたか?」


 少女がほっとした顔でこちらへ戻って来ると、ローズ達に尋ねる。


「僕らの後だとやり難いだなんて謙遜してたけど、すごいじゃないか。呪文は正確で発音も明瞭。思わず聞き入っちゃったくらいだよ」


「そうですね、詠唱も十分短縮出来ていましたし、炎もしっかり制御出来ていました」


「まあ、悪くはないってところなの」


 学年の上位三名として講評した。


「あ、ありがとうございますっ」


 少女はにっこり微笑んで頭を下げる。

 ちなみにテレーズの歯に衣着せぬ物言いはいつものことと知れ渡っているので、“悪くはない”もそれなりに高評価の部類と理解したはずだ。


「それでは次はわたくしが」


「いえ、私が先に」


 続いて、令嬢二人が先を争うように魔法を披露した。

 侯爵令嬢は水の中級魔法を、男爵令嬢は風の中級魔法を成功させる。


「では次は―――、ローズさん、いかがですか?」


「あっ、ちょっとエリカっ。流れ的に次はあたしでしょ」


「いえいえ、トリアさんにはぜひ最後にお出ましいただければと」


「そうだね、それが良い。主役は最後にバーンと登場してもらわないと」


「ん、んもー、仕方ないわねっ」


 ローズもエリカに加勢すると、トリアは上機嫌で丸め込まれてくれた。

 暴発の可能性を考えて、とりあえず先に全員の課題を済ませておきたい、と言うのがエリカの本音だろう。最近のトリアならそれほど致命的な失敗はしないとは思うが。


「ではお願い出来ますか、ローズさん?」


「ああ」


 首肯し、皆からかなり大きく距離を取る。

 ある意味ではここからが授業の本番だ。

 今回の野外演習の目的は大規模破壊魔法の練習である。学園内では使用を制限されている上級魔法を使ってこそ、わざわざ郊外まで足を運んだ意義があると言うものだ。


「――――。―――。――――。“燎原”」


 ローズを中心として炎が地面にまとわりつき、焼き尽くしていく。


「わぁ」


 誰からともなく感嘆の声が漏れ、少女たちは目を輝かせる。

 赤く萌ゆる大地は、破壊的でありながらどこか幻想的な美しい光景でもある。


「ふぅ。……どうかな?」


 やがて、炎が静まる。

 全魔力の三分の一ほどをごそっと消費し、虚脱感を覚えながらも皆を振り返った。


「ローズ、すごいのっ」


「三小節とは、また詠唱を短縮しましたね、ローズさん」


「むむむ、お母様の得意魔法」


 テレーズ達が寄って来て言った。

 かつて女王に焼き殺され掛けた火の上級範囲魔法である。

 魔法にはイメージも大切だ。同じ術式を組むのでも、完成品をはっきり思い描けているかどうかで早さも出来も変わってくる。

 この国一番の魔法使いの“燎原”をこれ以上ないほど間近で感じることが出来たお陰もあって、今ではローズの得意魔法の一つだ。もちろん、あんな目に合うのは二度とは御免だが。


「それでは次は―――」


「ローズの次は私なのっ」


「ではテレーズさん、よろしくお願いします」


「ん。―――――。―――――。“飛翔”」


 テレーズは歩かず空を飛ぶことで距離を取った。そして詠唱を開始する。


「――――。――――――。」


「あっ、やばっ、皆、耳をっ」


「―――――。“飛廉ひれん”」


 巨大な空気の塊が大気を穿ち、けたたましい音響を上げながら遠ざかっていく。


「……い、今の魔法は?」


 アンリが言う。

 動揺はしているが、ローズの指示に機敏に反応して耳の方は無事のようだ。運動神経も抜群の主人公だ。


「飛廉。風の上級魔法だね。上級魔法の中では比較的簡単な部類だけど、飛翔魔法と同時発動出来るのは学園でもテレーズくらいだね。ううん、もしかしたら国中を探してもテレーズだけかも」


「す、すごいんですね、テレーズ“先輩”」


「んふー」


 テレーズが降りて来て、ふくらみかけの胸を張る。

 うん、可愛い。偉ぶって見せる小さい子は良いものだ。


「すごい音でしたけど、あれは?」


「あれはただの風切り音さ。飛廉の砲弾は巨大な怪物の大顎みたいな形状をしていてね、そこへ空気が流れ込むことであの獣の雄叫びみたいな轟音がなるのさ。飛廉―――風の神獣の名前で呼ばれる由縁だね」


「どうしてそんな複雑な形に?」


「うん、その疑問はもっともだね。ただ単に圧縮空気弾を撃ち出すだけなら初級魔法なわけだしね。その答えは、―――あちらを見れば一目瞭然だ」


 ローズが指さしたのは、目を白黒させるトリア達C組の四人だ。

 彼女達もローズの警告で耳を塞ごうとしたが間に合わず、鳴き始めの轟音をもろに食らってしまっていた。


「大きすぎる音は神経をかき乱すからね。あの咆哮をまともに聞いてしまうと、熟練した魔法使いでも術式を練り続けるのは難しい」


「な、なるほど」


「加えて、あの音はあくまで物理的に生まれた風切り音です。魔法による障壁の類を素通りし、対象の耳に届けることが出来ます。防ぐには、こちらも物理的に耳を塞ぐ必要があるわけです」


 エリカがしれっとした顔で解説に参加してくる。

 当然ながら、彼女はローズが警告を発するより早く耳に手を当てていた。


「~~~~っ、テっ、テレーズっ、あんたねぇっ、そういう魔法を使うなら先に言いなさいよねっ」


 かぶりをぶんぶん振って気を取り直すと、トリアがテレーズに食って掛かる。他の三人はまだ眉をしかめて辛そうだ。


「呪文から何の魔法が使われるか予測して対処するのも練習のうちなの。ぼうっと聞いている方が悪いの」


「一理ありますね」


「ううぅ~~」


 乱暴なやり方と物言いだが、言っていること自体はまあ間違ってはいない。学年首席のエリカにまで賛同され、トリアは不満げに唸りつつも引き下がる。


「ローズ、ありがとぉ。忠告してくれなかったら、もっとひどいことになってたわ」


「いや、もう少し早く警告出来ると良かったんだけど。みんなもごめんね」


「むうっ、ローズは甘すぎるの」


「ははっ、それが僕だからね。これが仮に実戦だとしてもこんなに素敵な彼女達を見捨てることなんて僕には出来っこない。だから練習と言うならそれこそ彼女達を助けることまで含めて、僕はしっかり練習しておかないといけないのさ。―――今回は失敗しちゃったけど、次はきっと間に合わせるよ」


「も、もうっ、ローズったらかっこつけ過ぎ」


 トリアが照れ顔、いやさデレ顔で言う。

 少女達もはにかんだ様子だ。三者三様、タイプが異なるだけに一石三鳥の眼福だ。


「まったく、ローズさんは。それでは次は、―――私が行かせてもらいましょうか」


 エリカはため息交じりにこちらを睨んだ後、足を進める。


「―――――――。――――。―――。―――――。――――――。“雷霆らいてい”」


 常になく長い詠唱の後、突き出した白魚の手からバチバチバチっと幾筋も稲妻が走った。

 稲妻は不規則かつ無軌道にのたくり、エリカの前方一帯を打ち払っていく。効果は恐ろしく広範囲で、ほとんど見渡せる限りだ。荒地にところどころ自生した灌木には雷が集中し、瞬時に爆ぜ倒れる。人が立てば一瞬で黒焦げだろう。


「―――っ、こ、これは確か―――」


「雷霆、雷の上級魔法だね」


 先回りして答える。

 編入試験を優秀な成績で合格したアンリも、さすがに数多ある魔法全てを覚え切れてはいない。というより、そこは学園に入学させてから学ばせることだから当然と言えば当然か。


「雷と言うと、水と風の応用魔法ですよね?」


「ああ。エリカの本来の得意属性は土なんだけど、雷魔法も得意なんだ。応用魔法は基本属性の魔法よりもぐっと難易度が上がるから、雷霆は最高難度の魔法の一つと言って良いかも」


 当然、学生が扱えるような魔法ではない。


「むー、エリカ、また小難しい魔法を覚えたの」


「ふふっ、難しさの種類が違うけど、さっきのテレーズの飛翔と飛廉の同時発動だってすごさじゃ負けてないけどね」


 風魔法に関しては前人未到の域に到達しつつあるテレーズと、複数属性を達人級の練度で修めたエリカ。どちらがすごいと言う話ではなく、どちらもすごいとしか言いようがない。


「……さて、それじゃあここで主役にご登場頂きましょうか」


 雷が収まるとエリカはすまし顔で戻り、“別に特別なことは何もしていませんが”とでも言いたげにさっさと次へ進める。内心では鼻高々と言うやつだろうが。


「ええっ!? ちょっ、ちょっと、あんなの見せられた後だなんてっ―――」


「―――それではアンリエッタさん、よろしくお願いしますね」


「あ、ああ、そっか。まだアンリエッタが終わってなかったか。ん、ちょっと待って、主役はあたしって話じゃ―――」


「まあまあ、まずはアンリエッタの魔法に注目しようじゃないか。なんせ初参加だ」


「む、そ、そうだったわね。アンリエッタ、頑張って」


「ではアンリエッタさん、お願いします」


「は、はい」


 緊張した面持ちで、アンリがみんなから距離を取る。


 ―――さて、何が出るか?


 ローズはローズで、実はアンリに負けず劣らず緊張していた。

 今回も含め、ゲームでは野外演習のシーンは複数回描写される。

 それ自体は恋愛事情とは関係ない日常イベントの類なのだが、実は攻略の重要なヒントが提示されることが有志の検討によって判明している。

 つまりアンリはその時点で最も親密度の高いヒロインの得意属性の魔法を発動させる。エリカなら土魔法を、トリアなら火魔法を、テレーズなら風魔法を、という具合に。


「――――――。―――――――――。――――」


「おっ、この呪文は」


「――――――。――――。“燎原”」


 アンリを中心に赤々とした大地が生じた。先刻のローズと同じ燎原だ。


「火魔法、か。どっちだ?」


 ローズの得意属性であり、トリアの得意属性でもある。


「ふうっ。…………ど、どうでしたか?」


「お見事だね、アンリエッタ」


「ローズの真似っことは小癪なの。でもセンスは褒めてあげるの」


「初めてにしては上出来、いえ、出来過ぎなくらいですね」


「や、やるわね。ぐぬぬ、ア、アンリエッタまでお母様の得意魔法を」


 称賛が飛んだ。


「その、先ほど見たローズさんの魔法がお綺麗だったから。ローズさんみたいに詠唱は省けませんでしたけど」


「ふへっ、そ、そうかいっ、それは光栄だねっ」


 動揺を抑え―――切れず、声が少々裏返った。


 ―――これはもう間違いない。


 現状、アンリの親密度第一位はこのローズ・ド・ボーモンだ。うん、間違いない。


「何を気持ちの悪い笑みを浮かべているのです、ローズさん。―――それじゃあ、集合場所へ戻りましょうか」


 エリカはローズへ冷たく突っ込むと、撤収を指示する。


「―――ちょっとちょっと、あたしまだやってないんだけどっ」


「あら、そう言えばそうでしたね」


「もうっ、忘れないでよねっ。主役よ、主役。料理で言うとケーキよ」


「それは主役メインディッシュじゃなくデザート。ああいや、主役の後の最後に出てくるって意味では的確か」


「もうっ、ローズっ、あなたがあたしが主役だって―――」


「“火砲”」


「―――きゃあっ」


 巨大な影が大地に落ちるのを、ローズは見逃さなかった。トリアとC組の女の子達の頭上すれすれに火球を放つ。


「ちょ、ちょっとローズ、いきなり、何を―――」


「―――――ッッ!? ――――ッ!!」


 戸惑うトリアの声をかき消したのは、甲高い咆哮とばっさばっさとけたたましい羽音。


「ワ、ワイバーンっ!?」


 獲物にかぶりつくその瞬間、口内を焼かれた飛竜ワイバーンは鳴きながら上空へと舞い上がって行った。


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