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第29話 王子様系TS少女はツンデレど根性ヒロインとの過去に思いを馳せる その14

「ところでトリア、陛下からお聞きしたんだけどさ」


 自身の水魔法に再び飲まれたトリアを助け起こしながら問う。


「女王になるつもりが無いって本当かい? 僕はてっきり陛下みたいな立派な魔女になって陛下の後を継ぐために、熱心に魔法の練習に取り組んでいるんだと思ってたんだけど」


「ふんっ、あたしはお母様みたいな魔女になんて、絶対ならないんだからっ」


 やっぱりいつものツンデレ、―――じゃない。

 普段ならすぐに続けるデレがなかった。

 デレの勝ち過ぎたトリアの言動はおおよそ二パターン。ツン即デレか、デレ即ツンだ。

 ちょっとツンツンして見せたかと思えば、すぐさま隠し切れないデレをのぞかせる。あるいは初めっから露骨にデレ、後から照れ隠しにツンを付け加える。

 ところが今のトリアは憎まれ口を叩いたきり、ツーンとそっぽを向いてしまっている。


「ふんっ、“ならない”ではなく、貴方には“なれない”の間違いでしょう」


 すかさず女王も憎まれ口を返す。


「くうっ。……ふっ、ふんだっ、なれたってならないわよっ、お母様みたいな性悪魔女っ!」


「……しょ、性悪」


 女王は絶句すると、“ほら見なさい”と言う顔でローズを睨みつけてくる。


 ―――いや、でもこれはこれで。


 普段がデレ過多なだけに必要以上にツンツンして見えるが、これこそが正統派のツンデレじゃあるまいか。

 何せ、口ではツンとしながらも、トリアはちらちらと女王に横目を向けたりしているのだ。

 しかし友人(ローズ)や伯母に対してはいつも通りの甘々なのに、どうして母親の女王にだけこうもツンが勝つのか。


「―――あっ」


 はたと一つの可能性に行き着いた。

 同い年といっても精神的には前世分が加算されるローズには縁遠い話であり失念していたが、トリアは現役中等部の学生だ。それが母親に対してのみデレが引っ込むとなると―――


「トリア、君もしかして反抗期かい?」


「……反抗期?」


 聞き返したのはトリアではなく女王だ。


「はい。僕らぐらいの年だと、むやみやたらに親に逆らってみたくなるものですよ」


「ふ、ふんっ、そんなんじゃないわよっ」


 トリアが頬を真っ赤に染めて言う。図星を突かれたと言う顔だ。

 ツンデレ比1:9のツンデレデレデレデレデレデレデレデレデレ少女も、反抗期で母親が相手ともなれば1:1の正統派ツンデレ少女くらいにはなるか。

 そして対するは、一切の妥協を許さないそのツンっぷりからノンデレ女王という異名を与えられた母親。その実、過保護なくらいに娘を溺愛する隠れツンデレ。


 ―――うーわ、めんどくさっ。


 親も子もツンデレだとこうやってこじれていくのか。


「……な、なるほど、反抗期。そういうこと」


 ほっと肩の力を抜いた女王に、今度はこちらから“ほら見ろ”と言う視線を投げてやると、不快げに眉をしかめられた。

 普段ならそれだけでビビるところだが、今は女王が溺愛するトリアが隣にいる。目を逸らさずじっと見つめていると、女王はうざったそうに口を開いた。


「だからと言って“アレ”が人を幸せにしないのは事実です。私の考えは変わりませんよ」


 やはり親子、トリアそっくりな仕草でふんと鼻を鳴らして女王は顔をそむけた。

 その無防備に晒された横っ面に―――


「ロ、ローズ、お母様に何をっ」


 ぺちんと平手打ちをした。


「あ、ああっ、謝りなさいっ、ローズっ、早くっ。お、お母様っ、ローズに悪気はないのよっ。そ、そうだっ、お母様の頬に蚊が止まっていたからっ」


「少し落ち着きなさい、ヴィクトリア」


「で、ででで、でもっ」


「貴方が初めてお家に招いたお友達を、ひどいようにはしないわよ」


「ほっ、よかったぁ。あっ、でもっ、別にローズがあたしの一番のお友達ってわけじゃないんだからねっ」


 びしっとこちらに指を突き付け、トリアは形ばかりのツンを示す。


「ふうっ、……ローズ・ド・ボーモン、やってくれたわね」


「約束は覚えていますよね、陛下?」


「さて、何の話だったかしら?」


「陛下、そりゃあずるい」


「……一考すると言っただけで、考えを改めるとは言っていません」


 女王は悪徳政治家や詐欺師みたいなことを言い出した。


「そうですか、そちらがその気なら。……ねえ、トリア、知ってるかい? 陛下は実は―――、むぐっ」


「なっ、何を言うつもりです、あなたはっ」


「なあに? お母様とローズ、いつの間にそんなに仲良くなっちゃったわけ? ……あたしを除け者にしてさ」


 トリアがシュンと拗ねたようでも甘えたようでもある口調で呟く。

 この子は本当にツンデレヒロインの自覚が足りない。胸焼けするくらいにデレッデレだ。いや、そんなメタな自覚を持たれても困るが。

 とまれ、ローズは娘のデレっぷりに見惚れる女王の隙を突いて、その手から逃れた。


「陛下、確かにそこには重責と苦しみがあるかもしれません。だけど、トリアなら乗り越えられる、そうは思えませんか? メアリー殿下を受け止めたトリアなら」


「むっ」


 女王が言葉を飲む。


「陛下はトリアなら他人の幸せを祝福出来ると仰いましたが、それだけじゃありません。憎しみを呑み込む度量だってトリアにはありますよ。お言葉ですが、トリアの度量は陛下よりもずっと上です。まさに王の器ってやつですね」


「そ、そうかしら?」


 “怒らせるか?”とも思ったが、女王はむしろ気を良くした様子だ。

 トリアには失礼な想像になるが、たぶんお世辞以外で娘を褒められたことがほとんどなかったのだろう。そして女王にお世辞を使う者の口から、陛下より上という言葉が出て来るはずもない。


「それに煉獄を一発で呑み込んでしまったさっきの水魔法を見たでしょう。トリアの魔法は威力だけなら陛下より上かもしれませんよ。うん、母親譲りの天才ってやつですね。いくら耐魔法の術式があると言っても、これから先も安全とは限りません。トリアには先生が必要です」


 ここぞとばかりに畳み掛ける。女王にとって耳ざわりが良いだろう言葉を並び立てるのも忘れずに。


「それでもなお、トリアのことを信じられませんか?」


「ずるい言い方をする子ね。……分かりました。一考、いえ、再考してみましょう」


「っし」


 女王の御前だが思わず拳を握りガッツポーズ。

 怖い怖い女王も、今やだたの友達の母親だ。


「もー、二人ともさっきから何なのよぅ?」


「陛下が僕を正式にトリアの先生として認めてくれるってさ」


「ちょっと、そこまでは言って―――」


「―――本当? ありがとぉ、お母様っ!」


「ぐっ。…………王族として恥ずかしくない程度にはなれるよう、せいぜい励みなさい、ヴィクトリア」


 娘の心からの感謝の言葉に母は否定の言葉を呑み込み、それはそれとしてツンで返した。




「そう言えば、今さらながら聞きますけど、学園長先生はトリアが魔術言語を間違って覚えていることに、いつ頃気付いたんですか?」


 学園長室で紅茶とマカロンを頂きながら問う。

 報告は終わり、今はのんびりお茶の時間だ。

 トリアの個人教師(チューター)を務めて四年、すでに女王の前でもまったりリラックス出来るローズだった。


「そうね、あの子が初等部に上がってすぐだったかしら。王宮ではお姉様が色々と邪魔をしてくれたから、学園の発表会で気付いたのよね。あの子ったら馬鹿みたいに大きな炎を出して、ちょっと前髪を焦がしたりして」


「あー、それなら覚えがありますよ。そうか、あれはトリアだったのか。いや、他にあんな炎を出せる子なんているはずないし、そりゃあそうか。……確かあの時、トリアは壇上で」


「そうそう、泣き出しちゃったのよ。それで私は、うちの娘は女王には向いてないなって」


「いやぁ、そんなことがあったら泣くでしょ、初等部一年生ですよ?」


「私やお姉様なら泣かなかったわよ」


「そうやって自分の感情を取り繕ってばかりだから、変にこじれるんじゃないんですか?」


「ぬぐっ。い、言うわね、ローズちゃん」


「それにしても、初等部の頃のトリアかぁ。可愛かったんだろうな」


「そりゃあそうよ。天使も小悪魔も裸足で逃げ出す超絶美幼女だったんだから。あの可愛さと言ったら、―――そう、それこそ今のヴィクトリアにも勝るとも劣らないほどよっ」


 女王はトリアの可愛さを表現するためにトリアで喩えると言う、斜め上の親馬鹿っぷりを披露する。

 これが女王の素で、その素を出せるのはすでに露見済みのローズの前でだけだ。お陰で延々親馬鹿トークに付き合わされ、こうしてすっかり打ち解けたわけだ。


「さて、そろそろ僕はお暇を、―――っと、そうだ。そういえばトリアのこと以外にも用があると言っていませんでしたか?」


「ああ、いけないいけない、ヴィクトリアの話に夢中ですっかり忘れるところだったわ。―――転入生のことよ」


「転入生と言うと、アンリエッタの?」


「ええ、そのアンリエッタ・マルタン」


 他に該当者などいるはずもないが、予想外の台詞に思わず確認する。

 いや、アンリの転入は学園長である女王の意向によるものだろうから、考えてみれば何の不思議もないのか。


「色々と慣れないことも多いでしょうし、ローズちゃんが面倒を見てあげて欲しいの」


「それはもちろん。というより、言われるまでもありません」


「まあ、貴方ならそうよね」


「でもどうして僕に?」


「あら、そんなの決まっているじゃない。貴方、自分が何者か忘れちゃったの?」


「―――っ」


 ドキリと心臓がはねた。

 まさかTS転生した元男として女装男子にアドバイスを、とでも言うつもりか。


「えっと、な、何のことでしょうか?」


「あら、本当に忘れちゃったの? あなた、二年A組のクラス委員じゃないの。ちゃんと自覚を持ってもらわないと困るわよ」


「あ、あー、そういうことですか」


 ローズはほっと胸を撫で下ろした。

 そうか、そんなシーンは描写されなかったが、原作でもローズの代わりにエリカが似たようなことを頼まれていたわけか。その割に物語序盤ではあまりエリカは主人公(アンリ)に絡んで来なかった気もするが。


「わかりました、お任せください」


 何にせよ、学園長直々のお墨付きが頂けるとなればローズに否やはあり得なかった。


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[一言] なんだ反抗期か さすがの陛下でもローズがTS転生したとは気づかないか
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