第14話 王子様系TS少女は本命少女(♂)ともっとお近づきになる
「転入生っ、よくもローズを―――」
「テレーズ、落ち着いてっ」
片手で鼻をつまみながら、もう一方の腕で小さな体を後ろから抱き上げ揺する。
「“もうっ”、“ローズっ”、“邪魔しないでっ”」
予想通り、バンバンバンっと大地を叩く音が鳴り響いた。射出された圧縮空気だ。
抱っこで狙いが逸れていなければ、アンリに直撃していたかもしれない。
「僕なら大丈夫だからっ。ほらほらっ、ぴんぴんしてる」
テレーズを抱きかかえたままその場でくるくるとターンなど決めて、健在をアピールする。
「……もうっ、子ども扱いしないで欲しいの」
魔法の暴発が落ち着いたのを確認すると、テレーズを地面に降ろした。
「ふう、…………転入生、今度は私と勝負なの」
改めてテレーズはアンリに魔法戦を申し込んだ。
「えっと」
アンリはちらっとローズに視線を向ける。勝手にペアを変更して良いのか気にしているのだろう。律義者のアンリらしい。
「そうだね、ならチーム戦と行かないかい? ちょうどエリカも来たことだし」
「―――テレーズさん、勝負の最中に勝手にいなくなられては困ります。私の不戦勝ですからね。……それで、何のお話です、ローズさん?」
さらっと都合の良い結論を押し付けつつ、エリカが問う。
「テレーズがアンリエッタと勝負したいと言うのでね。それなら二対二のチーム戦はどうかと思ってさ」
「チーム戦。…………良いですね、それなら転入したばかりのアンリエッタさんも安心でしょうし、良い考えだと思います」
エリカはちょっと考えてから答えた。
チーム戦なら仮に負けるようなことがあっても言い逃れが出来るし、新入りのお手並みを拝見するにはちょうど良い機会だ、などと考えているのだろう。
「よし。それじゃあ僕とアンリエッタ対エリカとテレーズってことで良いかな?」
「ちょっと待つのっ。チーム戦なら私とローズが組むのっ」
「おや、テレーズは僕が相手じゃ不足かい? 確かに最近負けが込んでいるけど、一応僕もまだ君のライバルの一人ではあるつもりだったんだけどね」
「ううっ、それは」
わざとらしく肩を落とすと、テレーズが口ごもった。ちょっと卑怯な手だが、効果は抜群だ。
「はいはい、では時間が余ったらペアを変えてもう一戦と言うことで、まずはローズさんのおっしゃったチーム編成でやりましょう。アンリエッタさんも、いきなり私やテレーズさんと組まされても困ってしまうでしょうし」
エリカがぱんぱんと手を叩いて話をまとめた。
「うー、分かったの。なら速攻で倒して、チーム替えなのっ」
「ははっ、お手柔らかにね。アンリエッタ、頑張ろうね」
「はいっ」
―――原作通りの展開になったな。
ゲームでもこの魔法のペア戦の件は存在している。
もっとも、あくまで世界観を説明するチュートリアル的なイベントでヒロインの登場はない。テレーズは原作ではすでに高等部三年生だし、エリカは高嶺の花的存在だった。
代わって登場するのが後に親友ポジションとなるローズであり、その取り巻きの女の子二人だ。
例によってローズがアンリエッタにちょっかいをかけたことによる嫉妬が事の発端で、そして最後にはアンリの人柄に触れた取り巻き二人は彼を認めることとなる。以来、顔の無いモブキャラながらもアンリエッタの友人として度々登場することになる名脇役である。
ニシシとローズは内心ほくそ笑んだ。
この展開は、うまくするとエリカとテレーズをアンリエッタの友人ポジション(モブ)に押し込む好機と言うことだ。
「アンリエッタ。作戦会議だ、耳を」
「は、はい」
さらにこれ幸いと顔を寄せ合い、ひそひそ話をする。
テレーズとエリカはこちらを静観するばかりで特に会話もない。
すでに互いの能力、戦法は勝手知ったるところだろうし、ぶっちゃけこの組み合わせなら負けはないとも思っているだろう。何せ学年の、と言うよりもすでにして学園のツートップだ。
「それじゃあ、そういう感じで」
「はい」
頷き合い、少々、いやかなり名残惜しいが顔を離す。
男なのに走り回って汗ばんだ身体から良い匂いがするのはどうしたわけだろう。
「―――作戦会議は終わりましたか。それでは」
「始めっ、なのっ」
テレーズの号令と同時に、ローズとアンリはぱっと左右に別れ、走る。
「“石弓”、“石弓”、“石弓”、“石弓”」
「――――。―――。―――――。“飛翔”」
エリカが右掌と左掌から交互に石塊を飛ばしてローズとアンリを牽制し、テレーズは例によって空を駆ける。向かう先は、―――予想通りアンリだ。
「“ローズのっ”、“かたき討ちっ”、“なのっ”」
「わわっ、きゃっ」
アンリは小さく悲鳴を漏らしながらも、襲い来る圧縮空気弾を置き去りにして走る。やはり男の子。鍛えに鍛えているローズに劣らず速い。
「“土よ”、“石弓”、“石弓”」
「“気砲”、“気砲”」
自然とローズの方はエリカとの撃ち合いになった。
エリカは開始地点付近をあまり動かず、土魔法で障壁を作りながら応戦する。土魔法が得意な術者が陣地を築くと言うのは、チーム戦では王道の戦略の一つだ。
まだ得手も不得手も分からない相手には定跡通りに攻める。実にエリカらしい考えだ。
ローズは一定の距離を保ちつつ走り、応戦する。それはつまりエリカを中心に円を描いて駆けると言うことだ。
そしてローズがちょうど半円を描いたところで―――
「アンリエッタっ」
「ローズさんっ」
―――同じく半円を描いて駆けて来たアンリと、その後を追うテレーズと正面から行き合った。
「“風よ”」
「“風よ”」
味方同士、風をぶつけ合う。全力疾走していた二人はそれで勢いを殺して急停止した。
テレーズとエリカの魔法が明後日の方向へ飛んでいく。
「“気砲”、“気砲”、“気砲”」
「“気砲”、“気砲”、“気砲”」
そしてアンリはくるりと背後に向き直り、ローズも標的をエリカからテレーズへと変更する。圧縮空気弾の連発だ。
二体一の手数で、まずはテレーズを落としにかかる。
「“甘い”、“のっ”」
対するテレーズはライフル弾。―――それも二連発。
「わあっ」
「きゃっ」
押し負けたのはローズとアンリだった。
二発目のライフル弾が二人の間の地面を打ち、舞い上がる竜巻が如く余波に揉みくちゃにされたところで―――
「“終わりなのっ”」
「“石弓”」
強風がアンリを押し倒し、ローズの足元には石塊が撃ち込まれた。外れた、のではなくあえて外したエリカの一撃である。
わあっと歓声が上がった。
いつの間にか周りの生徒達は戦闘の手を休め、このチーム戦を観戦していた。




