第90話 剣術の実技試験
訓練場の木陰で、魔法の試験が終わるのを待つこと40分。生徒が30人もいるのだから早かった方だと思うが、最初に試験を受けたクリスとウィルは待ち草臥れていた。
「お待たせしました。次は剣術の試験となります。あくまでも順位をつけるだけですので、大きな怪我をしないように。必要以上に追いかけて攻撃したり、降参しているのに攻撃を止めなかった場合など、こちらが過剰攻撃だと判断した場合、停学の可能性があることも忘れないように」
ほぉ、ちゃんとしたルールがあるのだな。さっきのラウル達の会話を聞いていたら、少し心配だったのだ。まぁ、未成年の貴族が通う学園なのだから当然か。
「試験を受ける人は、こちらに並んでください。並び順は先ほどと同じでお願いします。受けない人が抜けるだけですね」
我々はアリシア嬢まで同じ順番だな。
「女性はアリシア嬢1人、男性は全員が受けるみたいだね」
「これは誰と当たるのだ?」
「今回は18人受けるみたいだからキレイに割れるね。ちょうど半分の10人目を頭にして2列になって、隣に並んだ人間と戦うんだよ」
「なるほどな。今後は試験の結果が重要になりそうだな」
「そうだね。次の試験からは、剣術は剣術の順位で並ぶことになるからね。実力が真ん中ぐらいの人は1番強い人間と当たるから、ボコボコにされやすいんだよね」
「それは可哀想だな?」
「相手が同じぐらいの強さだと、お互い成長しないからね。弱い人間は強い人間と戦うことで技術を学び、強い人間は加減を覚えると言われているんだ」
「ふむ。だがそれでは、いつまで経ってもお互いが強くなれないと言うか、弱いまま変わらない気がするな」
俺の言葉に苦笑いしたラウルは、少し口籠りながら答えた。
「実際、剣術は走り込んだり手合わせするだけなんだよ。将来騎士になることを希望しているのであれば、各家庭で訓練しているはずだから、わざわざ学校でやる必要もないんだよね。だからこの授業は、最低限の体力があることを証明するだけと言うか……」
「騎士になりたい人間が、騎士団の試験を受ける為の切符を手に入れるために必要な授業ってところかな」
ルシアンがサクッとまとめてくれたな。分かりやすくて助かるぞ。
「では、騎士になる気がなければ、受けなくても問題無いのか?」
「まぁ、そうなんだけどね。一応ちゃんとした資格ではあるから、男なら取り敢えず取っておこうよ、ってイメージだね」
「なるほどな。では、打ち込まずに躱すだけでも良いのか?」
「問題無いよ。積極性が無いという理由で順位は下がるから、騎士団からの推薦などは貰えなくなるけどね。授業を最後まで受けるだけで貰える資格だから、出席さえ足りていれば大丈夫だよ」
「なら、ただの戯れで良いんだな」
「そうだね。多少の走り込みはあるけれど、クリスと殿下が打ち合って遊んでいるのと同じ事をやっていれば、それだけで資格を貰えるからね」
「なるほどな。男子が全員受ける意味が分かったぞ」
「女性は元々体力が無いからね。アリーの様に、動くのが好きな人間に限られるんだよ」
なるほどと頷いていると、アボットの助手がウィルと10番目の男に声をかけた。
「お2人で剣を合わせてもらいます。剣を落とすか、降参したら負けとなります。よろしいですか?」
2人が頷いたのを確認して、助手のカールが「始め!」と声を上げた。その瞬間……
「カンカンカンカンカン、カ――――――ン!」
「やめっ!」
ウィルがサクッと終わらせたな。圧倒的なスピードに慌てた相手の隙をついて剣を巻き上げて振り落としたのだ。
「さすがウィル!カッコ良かったよ!」
「あ、そ、そう、かな?ふふっ、ありがとうクリス。次はクリスだから頑張って」
「うんっ!」
カッコ良いと褒められて照れるウィルに、楽しそうだとはしゃぐクリス。この2人はいつでも一緒に訓練して来たからな。スピードはクリスの方が上なのだが、それを知っているのは辺境伯の人間ぐらいだろう。余裕そうな相手と、「手加減してやれよ!」というヤジが聞こえるのは仕方のない事だな。相手が怪我をしなければ良いが。
「次の2人、前へ。よろしいですか?始め!」
「カ、カ、カ、カ、カ、ガッ!コ――――――ン!」
「や、やめっ!」
あぁ、可哀想に。剣に当てられただけで打ち負けていたな。5発軽く連打しただけで隙が出来たから、剣を薙ぎ払って落としたぞ。落ちた剣が勢い良く跳ねて、良い音がしたな。
「ま、マジかよ、6歳だろう?」
「殿下のスピードより速いなんて……」
「おい、なのに息すら切れてないぞ……」
「まぁ、10秒も経たずに終わってたからな……」
集中し、息を呑んで見ていた為に静まっていた訓練場は、一瞬でザワザワと騒がしくなったな。
「ふむ。あれくらいはやっても大丈夫そうだな?」
俺の呟きをすかさず拾ったルシアンが、勢い良く振り向いて、恐ろしく美しい笑顔で話しかけて来たぞ。
「レオン、クリス達にお手本を見せてあげないとだよ?」
「あ、あぁ、そうだな?」
暗に目立つなと言われているな。少し暴れたかったが、帰ってクリスと訓練すれば良いのだし、今回は大人しくしておこうか。
「次の2人、準備良いですか?」
「ああ」
返事をする俺と、頷く相手の……ん?この男の魔力は知ってるぞ。あぁ、やはりこいつか。確か、名前は…………ブラウン侯爵家のヘンリーだったか。ゴードン伯爵家のイーサンは、魔力も感じないからSクラスでは無いらしい。ウィルの立太子パーティーで殺気を放ったイーサンは勉強不足だと感じたから当然なのだろう。あの時は性格がイマイチだと感じたヘンリーだが、やはり頭は良い様だな。
「では、始め!」
ん?変というか……妙な構え方だな?あぁ、なるほど。ヘンリーは頭は良いが、運動は駄目なタイプか。顔や肩に変な力が入っていて、緊張しているのかガチガチだな。仕方ない。可哀想だから、1撃で剣を飛ばしてやるか。痛いのは嫌だろうからな。俺は1歩大きく踏み込んだ。
「カ――――――ン!」
わざとらしいぐらいに大振りで振り払ったのだが、微動だにしないでくれたからキレイに木剣を飛ばせたな。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫……です」
俺が王族であると思い出したのか、敬語になったな。自分が弱いことがバレたと理解している顔をしている。
「貴方は普通の人間より強いですよね?申し訳ないのですが、貴方が強かったことにして貰ってもよろしいですか?」
ほぉ。やはり頭は良い様だ。他人……クラスメイトに弱みを見せたく無いのだろうな。
「くくっ。ああ、構わんぞ。剣術の授業では、相手をしてやろう。それでは強くなれんからな」
立ち姿がフラフラしているヘンリーに、イチから教えてやると遠回しに伝える。
「本当ですか?それは助かります。うちの親は、危ないからと剣を握らせてくれなかったのです。親は剣術なんて受けなくて良いと言いますが、『男なのに』と言ってくる人間はいるでしょうから、形だけでも出来る様になりたかったのです」
なるほどな。運動が苦手なのでは無くて、やった事が無いのだな。クリスは双子が手取り足取り教えていたが、俺も誰かに教えて見たかったのでちょうど良かったぞ。
「そうだったのか。まぁ、俺に任せろ」
ヘンリーに向かってニカッと笑顔を向けると同時に、後ろから気持ちの良い音がした。
「カ――――――ン!」
お、アリシア嬢まで終わったみたいだな。全員が始まって直ぐに木剣を飛ばして終わらせた様だ。次は昼飯で、その後に武術の試験だったか?双子が食堂へ移動するようにクリス達を促しているな。
「レオン、行くよ――――――!」
クリスに軽く手を振って見せ、ヘンリーに「またな」と肩を軽く叩いて、皆の下へゆっくりと歩いて向かったのだった。
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