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第81話 父との再会

 双子の帰還パーティーが終わり、前公爵であるオリバーは断罪される事になった。ジョバンニが成人するまでの間、ラウルが仮の公爵として義母を支えて行く様だ。慌ただしかったパーティーの翌日である今日。辺境伯では、皆が心配そうにソワソワしている。クリスが、父親に会って話がしたいと言い出したのだ。


「クリス、本当に父親と会うのか?」


 ひと晩寝て、多少落ち着いたとはいえ、クリスの目には少し赤みが残っていた。過保護だとは分かっているが、やはり()()傷付けられるのでは無いかと心配になる。


「ううん。驚かせちゃうかも知れないけど……これでもう会えないのであれば、ボクも最後の挨拶をするためにも会おうかなって」


 クリスには『ティアが亡くなった事にしてある』事を伝えていなかった。しかし、賢いクリスは、自分が公爵家の地下牢に居なくても問題無い理由を、以前から何となく理解している様だった。


「クリス……あの男にまでそんな慈悲を与える必要は無いと思うんだけどな。私たち双子だけでは無く、クリスは勿論、公爵家の使用人も迷惑をかけられて来たのだからね?」


 ラウルがクリスに必死に訴えかけている。我もそう思うのだが、クリスは違うらしい。


「うん……それは、そうなんだろうね?ただ、ボクは……父様は、誰も信用していないから()()()仕方ないのかもって、前から思っていたんだ」


 ん?それは仕方ない?父親が迷惑をかける事が、か?


「え?クリス、どういう事だい?」


「あ、うん。例えばね?()()()誰かを裏切って傷付けたとするでしょう?そしたら今度は()()()()()()傷付けるかもって怯える事になると思うんだ」


「あぁ、なるほど。やったからやられるかもって、疑心暗鬼(ぎしんあんき)になるんだね」


「うん、そう。だからね、きっと父様は何十年もの間、誰も信じられなかった。家族すら信じられない可哀そうな人なんだろうなって思ったんだ。だからと言って、周りの人を……()()()()傷付けて良いとは、今は思わないけど……」


 そうか、暴力を受ける自分よりも、父親の方が可哀そうだと思っていたのか。何とも慈悲深い……だからこれまで耐えて来れたのかも知れないな。流石は〝神の御遣い〟だ。それにしても、何が理由であれ、()()()()()()()()を良しとしない考えになってくれて良かった。俺は、それが1番嬉しいぞ。


「そうかそうか。随分と心が強くなったな、()()()。あの男に沢山傷付けられて来た、そなたが話をしたいのであれば、そうするが良い。恐らく、もう二度と会えないだろうからな。最後に決別する意味で話がしたいのであれば、それは必要な事だろう」


「ありがとう、レオン。アトラ、コトラ、チュン、ピッピ……それにレオンも。父様に会う時、一緒に居てくれる?」


 精霊たちを撫でながら微笑むクリスには、少し余裕があった。恐らく、昨晩沢山泣いた事で、踏ん切りがついたのだろう。


「ああ、共に居よう」


「いつも一緒だよ!主様!」


「うにゃーん!」


「チチチッ!」


「ピピピピッ!」


「ふふっ、ありがとう。皆が居てくれるだけで、安心するよ」


 双子もスッと目を細め、我を見て頷いた。恐らく、双子も一緒に来てくれるつもりなのだろう。


「いつ、会いに行くんだい?」


「これから行きたい。もう、会わないつもりだから…………」


「今日は、母様たちに会いに行かないのか?」


()()、会うべきじゃ無い気がするんだよね。先ずは、父様との事を、先に解決したいと言うか……気持ちが、落ち着かないんだと思う……」


「そうか。そなたがそう言うなら、連れて行ってやるぞ。行きたい者を、全員転移してやろう」


 そう言うと、ウィルが俺の服の裾を軽く引いた。視線を合わせると、一緒に行きたい気持ちが伺えたから、頷いておいたぞ。結局はここに居る全員で行く事になるらしい。


「そうだな……双子()()人間は、見えない様に隠密魔法をかけておこうな。そうすれば、見えてるのは俺とアトラだが、クリスはそれで良いか?」


「うん。沢山で行ったら迷惑だろうしね。それでお願い」


「迷惑って…………」


 あの父親を最後まで気遣うクリスに、双子もウィルも苦笑いしている様だな。


「では、行くぞ」


 ★★★


 転移して来たのは、北の塔9階だ。奥が部屋になっており、手前には鉄格子があり、更にその手前に扉がある。トイレと簡単な洗い場、ベットと机があるだけの部屋だ。


「だ、だっ、誰だっ!」


 元公爵のオリバーは、慌ててベットから飛び起きた。鉄格子の向こうに見えるクリスと俺を確認すると、「何だ、子供か」と呟いて落ち着いていた。恐らく、追って沙汰を待てと皇帝に言われていたから、罪状が決まり、処罰されるかもと怯えていたのだろう。


「父様…………」


「あぁ?お前の父様じゃ無………………お、お前、ティアか!?」


 オリバーはティアから1番遠い壁際まで下がり、死んだはずの娘にビビっている。ほぉ……クリスの姿をしているティアに、この男が気が付くとは思わなかったのだがな。腐っても父親か……


「お久しぶりです、父様」


「お、お前、あ、足っ!あ、足…………あるな?生きているのか?」


「はい、今は()()()と言う名で生活しています」


「何だと!?お前が生きているなら、私は捕まる必要が無かったのではないか!?おい、お前!皇帝陛下に、ここから出す様に言って来い!」


「駄目だよ、父様…………父様は沢山の人を困らせ、傷付けて来たでしょう?」


「はぁ?!双子と母親の事故は、お前の所為だと言っただろうが!何度言えば分かる!」


 ビクッ!とクリスの肩が跳ねる。やはりまだ、大声で自分を否定されると怖いらしい。それでも、クリスの首元に頬を寄せてスリスリと慰めてくれるアトラや、足に体を擦り付けて慰めてくれているコトラをひと撫でして上を向いた。


「ううん。父様はわたしに嘘を吐いたよね。母様は生きてるし、兄様たちもわたしの所為で亡くなった訳では無かった。だって、兄様がわたしの所為じゃないって教えてくれたもの」


「お前はラウルを信じるのか!?お前を育ててやったのは、この父様だろうが!」


「父様……わたしを育ててくれたのは、母様と兄様たちだよ。父様より、侍女の方が積極的に面倒を見てくれていたよ」


「黙れ!口答えばかりしやがって!お前は私の言う事を聞いていれば良いんだ!父様に逆らうな!」


 少しビクッとしたが、手の平をギュッと握り締め、しっかりとオリバーの目を見てクリスは口を開く。


「逆らう…………そうだね。わたしはもう、父様の言いなりにはならないよ。わたしが父様の先を読んでいた所為で、リリィやセバスが酷い目に遭ったんでしょう?もう2度と、父様の先は読まない」


「ま、まさか…………お前、その事を人に言って無いだろうな!?」


「言ったよ。兄様たちも、お祖父様たちも知ってる。もちろん、皇帝陛下も。母様には会ったら伝える予定だよ」


「やめろ!その力は私の物だ!お前は、私の物なのだ!さっさと私の先を読め!」


 オリバーは、鉄格子までバタバタと近づき、ガシャンと手をついた。そしてクリスを睨むと、クリスはまた少し震えた。


「最後に読んで()()()()良いけど、未来はもう変えられないよ。この塔に居る限り、絶対に逃げられない事は、父様も理解しているでしょう?恐らく、最後に視る……父様から視える未来は…………どんな刑を執行されたか、だろうね」


「な、な、なっ…………!」


「あまり視たく無いというか……出来れば視たく無い未来だけど、どうしても教えて欲しいなら、最後に視てあげる」


「お、お前はっ!父様に感謝の気持ちとかあるだろう!?そ、そうだ!お前の願いは何だ?父様が叶えてやろう!」


 何とも諦めの悪い男だな。クリスに取引を持ちかけるとは……あぁ、周りに居た者たちは、この甘言(かんげん)(そそのか)されたのだろうな。


「わたしの願いは…………あの地下牢にいた頃に、父様に愛して欲しかったかな……とても、寂しかったから…………」


「いくらでも愛してやる!愛してやるから、父様をここから出すんだ!お前になら出来るだろう!?」


「そうだね、出来ると思う。でもね、やらないよ。もう、父様から愛してもらえるとは思って無いから……未だに『お前』と怒鳴りつける父様が、わたしを愛してくれるとは思えない」


「そ、そんな事は無いぞ!寂しいのだろう?私がお前を愛し、母様と一緒にピクニックでも行こう、な!」


「ううん。母様を部屋に閉じ込めて、外にも出さなかったんだよね?母様は父様の所為で、大怪我をしたのに。もういいよ。父様に期待するのは辞めたから。()()は今ね、信頼出来る親友も居て、気にかけてくれる仲間も、家族も……慰めてくれる人も、精霊も、沢山周りに居てくれるから、もう父様の愛情は要らない。さようなら、父様」


 クリスはオリバーに背を向け、扉を開いた。チラリと後ろを見ると、ガックリと肩を落としたオリバーが膝から崩れていた。視線を戻して扉から出ると、そこには爺さんや宰相、そして皇帝が居た。


「クリス、この後は母様に会いに行くのだろう?気を付けるのだよ」


「クリスの大好物を教えておいたからな!きっと、沢山用意してくれているじゃろう。楽しんでおいで」


「じーちゃん達も後で来るでしょう?」


「あぁ、勿論だとも。じーちゃんもジョセフも、何なら皇帝陛下も連れて行こうな」


「お、私もお呼ばれして良いのかい?クリス。楽しみにしているよ」


 我々と入れ替わる様にして、爺さん達はオリバーの部屋に入って行った。聞き耳を立てる事も出来るが、知ってしまうとクリス達に教えなければならないからな。出来ればクリスの心を煩わせたく無い俺は、クリスに視線を向ける。


「一旦、公爵家の門の前にでも飛ぶか?」


「公爵の森で良いんじゃ無い?もう『招待状』は要らないんでしょう?」


「あぁ、そうだな。森の入り口に飛ぶか。近くに屋敷の裏口があったよな?昨日の今日だから、客人が居るかも知れないしな。裏から入ろうか」


「そうして頂けると助かります。ルシー、緊張してるのか?隠密魔法を解除しなきゃだよ」


「あ、あぁ、そうだね。2年以上離れていたからね……とても緊張してしまうよ」


「壇上では、大勢の前で素晴らしいスピーチをしていたのにな?あれより緊張するのか?人間の心は複雑だな」


「ふふっ、そうだねレオンくん。ボクは、ウィルが親友になってくれたんだって、母様に報告したいから……早く母様の所へ行こう!」


 少し無理をしているクリスを、皆が心配そうに見つめている。複雑な想いは自分たちも同じであろう双子も、ぎこちない笑顔で頷いた。公爵家の子供達が前を向こうとする姿に、俺は見守るしか出来ない事を、焦れったく思うのであった。

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