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第4話 聖魔法と辛い思い出

 ティアと初めて話をした翌日。我はもっとティアを知らなければならない、先ずは知る事からだなどと、思考を巡らせていた。これからの事を決めるためにも、沢山話しをしなければならないだろう。


「う――――んっ!ふぅ。お、ティア、おはよう」


 大きく背伸びをした我は、ティアに朝の挨拶をしてから毛繕(けずくろ)いを始めた。毛繕いは我の日課(にっか)だからな。神獣たるもの、身だしなみも大事なのだ。


「おはよう、レオン。1日で大きくなったんだね?」


「ん?」


 我は己の姿を確認して驚いた。仔フェンリルの姿のまま寝たはずなのに、成獣のサイズに戻っていたのだ。我に限って、そんなヘマはしないと思っていたのだが……まぁ、ティアが怖がらなくて良かったか。大きくなった言い訳を考えた方が良いだろうか?


「えーと、ティア。我は精霊だからな、大きさは自由に変えられるのだ。昨日は、ここが狭いから1番小さな姿になっていたんだぞ。大きくても邪魔でなければ、たまに大きくなっても良いだろうか?」


 とても苦しい言い訳だ。なんせここは、半地下とはいえ、そこそこの広さがある。この小さな家の上はいくつかの部屋に分かれていたが、半地下は支えるための柱はあるものの1つの大きな部屋になっているからな。違和感を払拭(ふっしょく)するために、大きな姿でいたい事に話しを向けたが、わざとらしかっただろうか?……んん?ティアは目をキラキラとさせているな?我の言い訳がましい話しを半分くらい聴いて無いか?


「うん、大っきくなっていいよ!ねぇレオン、もふもふしたい!なでなでしてもいい?」


「あ、ああ。優しく撫でてくれよ?」


「うんっ!」


 ティアは動物が好きなんだろう。我の大きさは、ティアの倍……お(すわ)りした状態で、ティアの頭は我の首より少し下、胸辺りなのだが、この大きさでも怖く無いらしい。我の胸に顔を(うず)め、前脚の後ろ辺りを撫で撫でしてくれる。おっ?なかなか上手いじゃないか。


「ふむ。……ティア、我は横になるから、存分に撫でるが良い」


「ほんとに?!ありがと――!」


 ティアが喜んでいるうちに、言わねばならぬ事を先に伝えておこう。ズルい言い方になるが、今はまだ本当の事を話せないからな。それでも、ちゃんと言っておかねばなるまい。


「あぁ、気持ちが良いな。うむ、うむ、ティアは撫でるのが上手いな。…………こほん…………あのな、ティア。我は弱い精霊だから、ティアを父親から守ってやることが出来ないんだ。……すまぬな」


「うん?わたしは大丈夫だよ。レオンまで叩かれたりしたらイヤだから、とうさまが来たら隠れていてね?」


 ティアの優しさに、少し声が震えそうになる。こんなに幼い子供に守られる神獣が居てもいいのだろうか?物理的には助けてやれないが、我に出来る事は全てやってやりたいと思った。


「あぁ、ありがとうな、ティア」


 横になった我の首辺りから腹にかけて、「良い子、良い子」と言いながら、何度も優しく丁寧に撫でてくれる。ほぉ……やはり、とても気持ちが良いな。ん?ティアの手がほんのり光って無いか?なんと……人間で言うところの、癒し魔法である『聖魔法』の使い手か。これは……面倒な事にならなければ良いが。


「ティア、よく聞くんだ」


「うん、どうしたの?レオン」


「ティアは今、自分の手が光ってるのは分かるか?」


「ん?あれ、ほんとだー!なんでだろう?」


 不思議そうに自分の手を見つめながら首を傾げているティアに、思い切りため息を吐きたくなるが我慢する。やはり無意識のうちに使っていたのか。まぁ、出逢ってすぐの頃、遠くからでも神聖力が感じられたからな。そうだろうとは思っていたが……


「ティア、『聖魔法』って知ってるか?」


「うん、少しなら知ってる。怪我をした時に、痛いところをなくす魔法だよね?うち(公爵家)ではトム爺が使えるよ」


 トム爺か。確か、ティアの母親の怪我を見ていた爺さんだったと記憶しているから、それで合ってるだろう。まだ幼いのに、良く知ってるな。ティアは、我の知る幼子(おさなご)とは違っていて関心してしまう。本来なら人間の子供は、3歳に行われる教会での洗礼式まで、個人の能力は分からないものだしな。


「おぉ、良く知っているな?ティアはとっても賢いんだな」


「えへへっ。にいさまも、かあさまも、ものしりなんだよ!何でも教えてくれるの。ティアが分からないって聞くとね、何でも分かるまで教えてくれ……た、の……」


 嬉々(きき)として話していたティアが、声を小さくして急に下を向いてしまった。涙を(こら)えているのか、少し肩が震えている。


「お、おい、どうした?どこか痛いのか?大丈夫か?」


 心配しながら尻尾をパタパタする我を見て、少し落ち着いたらしいティアは、大きな薄桃色の瞳に涙を浮かべたまま(つら)そうに話し出す。


「あのね、わたしのせいで……わたしが悪い子だから、にいさま達はお空にかえってしまったんだって……とうさまに言われたの」


 何となくだが、言わんとしている事は推測(すいそく)出来た。恐らく使用人達の話しに出て来る、双子の事だろう。確か、大怪我をした母親と同じ馬車に乗ってたんだよな?事故が起きたのはティアのせいでは無いだろう。あの男は何故ティアのせいだと言うのだ?


「事故が起こったのはティアのせいじゃないだろう?それに、ティアはとても良い子じゃないか」


 フルフルと頭を左右に振るティアは眉を下げ、とても苦しげな表情をしている。薄桃色の瞳からは、頭を振った拍子に大粒の涙がホロリとこぼれ落ちた。


「ううん。あのね、わたしが、とうさまに、馬車に乗っちゃだめって言ったから……」


 詳しく聞くと、父親も乗るはずだったその馬車は、途中で事故に遭い、家族4人とも血だらけになる未来が()えたらしい。ティアはそれを父親に伝えたのに、父親は自分だけ馬車には乗らず、妻子を乗せて走らせたらしい。そして、当然ながら大事故に遭った。母親は自力で歩けないほどの大怪我を()い、双子は崖から落ちてしまったのか、亡骸(なきがら)すら見つかっていないらしい。


「ティア、それはティアのせいじゃない。父様が馬車を走らせたのが悪いのであって、それを教えたティアは何も悪くないからな。おいで、ティア。よしよし、大丈夫だ。ティアは何ひとつとして、悪い事はしていないからな」


 我は子供をあやした事すら無かったが、この時はティアを抱きしめなければと思った。小さな体を潰さない様に、でもしっかりと抱きしめる。まるでティアの悲しみが、我に流れ込んでくる様だったが、気持ちを分け合っている様で暖かくも感じた。ティアが落ち着くまで、我は前脚で優しく抱きしめ続けたのだった。

 

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