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第38話 金の瞳と白銀の髪

 柔らかな絨毯の上で、下半身に婆さんのストールを巻いたまま、半裸で転がっていた我は、やっと体を起こせるぐらいに回復した。


 早速、己の状態を確認するために下を見れば、子供にしては引き締まった体が見えた。恐らく、元のフェンリルの体が引き締まっているからだろう。長い毛で分かりづらいが、ティアと出会う前まで獣を狩って生活していた我は、案外筋肉質なのだ。


「レオン殿、大丈夫ですか?お飲み物でも如何でしょうか?」


「ゔぁ、あ、あー。う、う……」


 人型の我の喉はカラカラで、言葉を出すのも一苦労だった。声に出せず何度も頷く我に、爺さんが水の入ったコップを渡そうとするが、我はコップで飲み物を飲んだ事が無いからな……腕を上げるが、上手く手の平を開けない。フェンリルの体では、手を意識して開く必要が無いからかもな?


「ティア、手伝えるかい?」


「はい、お祖父様」


 そう言うと、爺さんからコップを受け取ったティアが、コップを我の口に近づけ、下唇に当てた。顎を支えられ、コップの水が入ると同時に少し上を向き、飲み込んだ。ほぉ、こうやって飲むのだな?後は手が思う様に物を掴める様になれば問題無いだろう。


「ティア、ありがとうな」


 ティアを見て礼を言うと、いつもより間があってから「うんっ」と返事をしたティアが、やっと笑顔になった。まだ顔を鏡で見ていないからな……ティアの苦手な容姿で無ければ良いが。


「ティアは風邪を引いたジョバンニを一生懸命介護していましたからな。その時に、服を着させたり脱がせたり……世話を焼くのが上手くなったのですよ」


 爺さんが微笑みながら教えてくれた。これからティアが我の世話を焼いてくれると言う事なのか?今は人型だが、恐らくフェンリルに戻るのは容易(たやす)いと思うのだが。


「歩行が困難だった場合は、慣れるまでは元の姿に戻って生活するから大丈夫だぞ。我が人型になっては、そなた達に迷惑を……」


「レオン、大丈夫だよ!早く慣れて、一緒に狩りに行こうよ!」


 ティアにとっては友達の様な感覚なのだろうか?兎にも角にも自分の姿を鏡で確認したいな。我は目の前に用意されたボタンがついていないシャツを1枚指に引っ掛けて取り、モゾモゾ動きながら何とか着る事が出来た。次にズボンを取ろうとした我に、ラウラが下着を寄越した。ああ、人間は下着をつけるのだったか。


 下着をつけようと顔を起こすと、爺さん夫婦に双子、ティアにセバスまで我を凝視しているぞ。さすがに少し恥ずかしいのだが?固まった我に気がついたラウラが、「お茶をしながら待ちましょう」と言ってくれたので、我は皆の視線が外れた瞬間に慌てて着替えたぞ。慣れないが、必要に駆られた我の動きは俊敏であった。


「ふぅ。ティア、立つのを手伝ってくれるか?」


 ズボンはもちろん、靴まで履いてホッとした我は鏡を探して辺りを見渡す。部屋の奥に姿見(すがたみ)があるな。鏡まで少し距離があるから歩いてみようと、ティアに声をかけた。ティアは薄桃色の瞳を輝かせて、「うんっ!」と大きく頷いた。ティアは3歳ではあるが外で走り回っていたからか、体幹がしっかりしていて安定感があるから我ぐらいのサイズであれば支えられるだろう。


「レオン、腕を肩に回して……そうそう。膝を立てれる?あー、そっちだけで大丈夫だと思うよ。じゃあ、いくよー?せーの!」


 フンッ!とティアの肩を借りて立ち上がった我は、ティアより頭2つ分ぐらい大きいだろうか。そう言えば、ティアは3歳にしては平均より少し小さいのだと爺さんが言っていたな。我が着ている服はズボンの丈もピッタリだ。という事は、婆さんとセバスの会話から8歳から9歳ぐらいの大きさで正解なのだろう。ふむ、見た目も子供なのか気になるな?早く自分の姿を見てみたい。取り敢えず立つには立てたから、ゆっくり歩いてみるか。


「ティア、肩を借りたまま歩いて良いか?」


「うん!良いよ。ゆっくり歩こうね」


 そう言ったティアは、我の脇の下に腕を回して支えながら、我に合わせてゆっくりと1歩ずつ確認しながら歩いてくれた。


「案外、歩ける気がするな?」


「レオン殿は、元々筋肉はついてますからな。普段使わない筋肉で支えている状態かも知れませんが、すぐに歩ける様になるのではないでしょうか」


 爺さんがしっかり我の状態を確認してくれているようだ。人間の体に詳しい爺さんが言うのだからそうなのだろう。


「そうか。早く慣れるためにも、こちらにいる間は人型で過ごそうと思うが、問題あるだろうか?」


「いえ、人型の方が問題ありませんので…………」


「あぁ……少し前に、フェンリルの姿の我を見た行商人が、屋敷の近くを魔物が歩いているから怖くて近づけないと苦情が来たのだったか。迷惑をかけて悪かったな」


「い、いえ!どちらの姿も神々しくて、私は好きですよ。人型であれば、気兼ねなく街になどにも出かけられると思いましてな。さすがに子供が2人では危ない……おかしいので、護衛はつけますが」


 そうだな、我とティアが2人で歩いていても、危なくは無いな。


「瞳の色が少し目立ちますな……髪も白銀で目立ちますが、ティアの銀髪と色が似通っているので、そこまでは浮かないと思いますが……やはり、護衛は必要でしょうな。双子の手が空いてる時は、双子に頼みますが……」


 ハラリと目の前に垂れてくる髪は、確かに白っぽい銀髪だな。フェンリルの毛色が現れているのだろう。目の色も同じなら……確かに、人間にはあまり無い色なのかもな?


「ええ、そうねぇ。こんなに可愛らしい子供が2人で居たら、(さら)おうとする者が出て来るでしょうねぇ」


 婆さんに可愛らしいと言われてしまったな。少し照れるぞ。我を褒める者は「凛々しい」とか「格好良い」と言ってくれる者が多かったからな。実際に顔を見ていない我にはお世辞か本音か分からないが。


「我は顔が見えておらんのでな?ティア、鏡のところまで歩くぞ」


「あ、うん。手を貸すだけで歩けそうだよね?ずっと立ってられるみたいだし?」


「ああ、そうだな。そうしてくれるか」


 ティアは男がエスコートする様に、手の平を上に向けて我の手を取った。周りはほのぼのとした空気が漂っていたが、我は必死にゆっくりと鏡に向かって歩き出した。


「なんと……」


 姿見に映る我は、何処からどう見ても神の子だ。ああ、言い方に語弊があるな。我に神託を下した、あの神の姿にそっくりなのだ。瞳の色も、神と同じ黄金色だしな。違いがあるとすれば、髪の色ぐらいだろうか。神の髪は純白だからな。透き通る白とでも言えば伝わるだろうか?それにしても、ここまで似ているとは。何とも不思議だな。


「レオン、どう?イメージと違った?」


 我が、固まって鏡を凝視していたからか、心配になったらしいティアが恐る恐る話しかけて来た。


「あー、いや、普通に人間の男の子の姿だよな?おかしく無いか?尻尾も耳も無いよな?」


「うん、尻尾も獣耳も無いよ!ジョン兄様より少し大きいよね?お顔も、とってもハンサムだと思うよ!」


「お、おう。そうか、そうか。ティアが気に入ってくれるのであれば良かったぞ。ハンサムなら他の男を牽制(けんせい)出来て良いしな?」


 我がニヤリと笑うと、双子と爺さんもニヤリと笑った。人型を取れるのであれば、ティアの近くで護衛として居られるからな。ティアと同じ時間の感覚……人間の子供と同じ速度で我が成長するならば、ではあるが……


「レオン殿、ティアと少し散歩して来たら如何でしょうか?体を思う様に動かせる様にならないと、作法などを教えても動作出来ないでしょうから……」


 ああ、そうか。ティアの側に居るのであれば、作法なども貴族並みに……いや、公爵令嬢であるティアの近くに居るのであれば、作法は完璧で無ければなるまい。爺さんはそう言いたいのだろう。


「そうだな。先ずはティアと森を走り回れるレベルにならねばなるまい?くくっ」


 楽しそうな我とは裏腹に、爺さんは何となく不安げな顔をしているな?我は何千年も生きる神獣ぞ?今は子供の姿だから頼りないかも知れないが、神の遣いなのだからな?そう心の中で強がるも、服などの生活用品や家庭教師などは爺さんたちに頼るしか無いのだよな。仕方ない……それなりに振る舞える様になるまでは、少し大人しくしていようと、眉尻を下げる我であった。

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