第19話 双子の行方とこれから
ティアには爺さんと大事な話をするからと伝え、我々は上の応接室で話を詰めることにした。ティアのことはアトラ達に任せ、昼食後にお昼寝させるようにお願いしておいた。ティアのことが大好きな精霊たちは、喜んでティアの世話をするだろう。
「それで、本来であればティアが暴走し、皇都の三割が焦土と化したというのですか?だから神様が時間を巻き戻し、レオン殿が介入することで未来を変えてきたと……私にはまだ、信じられないですな」
要点だけをまとめて、サラッと流す程度に説明したのだが、流石に臨場感などは伝わらず、爺さんはどうしても信じられないという顔をしている。
『まぁ、そうだろうな。だが、少ししか話せていないが説明したように、ここでのティアの扱いは見ていられない程、酷かったのだ。また後で詳しく説明するが……あのとき、母親の生存を知らせられる者がいなければ、ティアの心が折れていても仕方ないと我には思えたからな』
「それは確かにそうですな。その頃は二歳だったのですから。ティアにとっては双子と母親が全てだったはずです。母親は大怪我、双子がいなくなったと言われ、酷い扱いを受け続けたのであれば、暴走する可能性があるのも分かりますな」
『神が言う“一年”を過ぎたのであれば、それらを回避したことになるのだが、まだ安心するには早い気もするのだ。後一年もすれば、完全に回避したと言っても良いだろうがな?』
「かしこまりました。私の方でも気にかけておきましょう。それで、そちらの件ですが…………」
必要な話ばかりとはいえ、ティアに起こったことを一年分、説明しなければならないからな。簡潔に説明してはいるが、これではいくら時間があっても足りない。出来れば今後のことも話したかったのだが、これからどうすべきか……
『うーむ、このままでは終わりが見えないな。そうだなぁ。あの男がいない時間を見計らって、我らが爺さんの家へ転移するのはどうだ? もう少し深く話し合わないと、実行するまでには至らないだろう?』
「まだ説明も序盤でしょうからな。そうですな……こちらにいらしていただけるのであれば、それが一番手っ取り早くはありますが、すぐには難しいでしょう。現時点で、何か気になることはありますか?」
我らはいつでも問題無いのだがな。爺さん側の準備があるのだろうか? まぁ、折角聞いてくれたのだし、今は何よりも気になることを聞いておかなければ。
『一番気になっているのは、双子のことだな。あの男が、母親もティアのせいで亡くなったから言うことを聞けと、何度も腹を蹴るのだ。最初の頃の文言は「母様が大怪我をして、双子が亡くなったのはお前のせいだ!」と言っていたんだがな。その数日後には、母親のことも亡き者ということにしやがったのだぞ。そして、それもティアのせいだと言って、トコトンまで追い詰め、苦しめたのだ。母親が生きていることは、確認した次の日には伝えたから、夜に思い出して泣くことも、その頃より少しは減ったと思うが……』
「な、なんと……あいつはティアにお前のせいだと言ったのですか? あの事故はオリバーが悪いのであって、ティアは何一つ悪くないではないか!」
爺さんは顔を赤くして怒っている。全てを人のせいにして生きてきたのであろう公爵と、国のために責任感を持って仕事に取り組んできた諜報員では覚悟も違うだろうからな。助けを求めた人間が、爺さんのような話の分かる人間で良かったと心から思った。
『そうなのだが……話せば長くなるが、思い切り端折ると、先読みの能力で馬車が事故ることを知ったティアは、父親に乗るなと言ったが、母親と双子を乗せて出かけることになった。それを母親と双子に危ないから乗るなと伝えに行ったらしい』
「ああ、なるほど。父親の言う通りに乗らざるを得なかったことを、その後で知ったのでしょうな。双子達を怖がらせてしまったことと、父親に言わなければよかったと後悔しているのでしょうか……」
『あぁ、恐らくな。それとな、ティアは〝神の御遣い〟として、神聖力がそれなりに強いんだ。自分も馬車に乗っていれば、皆を助けられたかも知れないと思っているのだろう。その頃は、まだ使いこなせなかったというのに……』
「ティアらしいと言いますか…………ティアは今も変わらず優しい子のままなのですな。真っ直ぐに育ててくださったレオン殿に、私は全てを委ねます。頼みがあれば、仰ってくだされば、何でもご用意いたしましょう」
『それは助かる。ティアは最近、魔道具を作るのが楽しいみたいでな。エルフが得意だといって、ティアに教えていたのだ。外に出られないからだろうが、いい暇つぶしになるみたいでな。ここでは目立たぬようにやる必要があったから、小さくて簡単な物しか作っていないが。爺さんの持ってる魔道具を見る限り、それの作者である爺さんも、かなりのスキルを持っているよな? よかったら、ティアに教えてやって欲しい』
「さすがですな。これを私が作ったと見破ったのは、レオン殿が初めてですぞ」
爺さんの腰に掛けている飾りが魔道具であることは、魔力を感じられる神獣には簡単に分かるのだ。そして、その性能も、ある程度は見ただけで分かる。
『あぁ、我ら神獣は個々の魔力の色が見えるからな。魔道具には製作者の魔力が入り込むから、パッと見ですぐに分かるだけだぞ』
「そうでしたか。ティアを近々、私の屋敷に連れて来るのは難しいでしょうか?」
あぁ、爺さんはティアの準備に時間が掛かると思っているのか。さっきもすぐには難しいと言っていたが、実際にはそこまで時間は掛からないのだ。
『ティアは神聖力を操ることには長けてるからな。神聖力を纏う練習を少しするだけで、恐らく大丈夫だろう』
「ここを人が出るには神聖力を纏う必要があると?」
『あぁ、そうだ。出られたとしても、入れなければ困るからな。我もティアも、完全に外で生活するにはまだ早いと思っているのだ。それに、ティアの場合は防御膜として纏えるから、攻撃が飛んで来たとしても、自己防衛ができるから便利だよな』
「そこまで……神聖力を扱うのは難しいと聞きますが、ティアには才能があると言うことでしょうな」
『ティアは努力家だしな。後は〝神の御遣い〟なのが大きいのだろう』
「そうでしたな……どうしても信じられないのです。確かに、双子はティアを守ろうと必死でしたが……」
『ほぉ? 双子は理解していたのか。それはすごいな。子供は純粋に力が分かるのだろうか。それとも、双子も穏やかで優しい子達だったのかもな』
「ん? だった……? あぁ、そうでした! まだ言っておりませんでしたな。実は、双子は生きているのです。『瀕死』になったら私の元へ転送する魔道具を二人に持たせておりました。当然、二人は事故で瀕死となり、血だらけで私の元に転送されてきましたから、すぐに治療し、何とか事なきを得ました」
『な、何だと?! それは本当か?!』
「ええ、本当です。ですから、ティアに来てもらって、嘘じゃないと確認させたいのです。そうすれば、怯えて夜泣きすることも減るでしょう」
あぁ、よかった! 本当によかった……。これでティアが責められることなんてひとつもないじゃないか! そうだな、爺さんの言う通り、双子に会わせなければ信じられないだろうし、できれば早くに爺さんの屋敷に行きたいな。
『爺さんが来てから色んなことが一気に解決したな。この調子で、進めて行こうではないか。本当は今すぐにでも向かいたいところだが……』
「私が屋敷に戻る日ですな? 予定では明後日の早朝に出発し、三日後の夕方には到着予定です。予定を早めては不自然ですからな。バーバラと離れ難いのも本当ですが、ギリギリまで一緒に居たいと思うのが普通でしょうからな」
『確かにな。下手にずらすよりは予定通りがいいだろう。ティアには明日一日で魔法を覚えてもらって、明後日の早朝に我が馬車ごと伯爵領へ転移してやろう』
「な、なんと……ですが、伯爵領の場所はご存知で?」
『あぁ、ラターナ地域だろう? 昔は魔物の被害が酷くて、その土地を治めていた領主が逃げたっていう。あのラターナじゃないのか?』
「その通りですが……よくご存知で。さすがですな」
『この情報は、エルフが教えてくれたのだ。ティアもよく懐いている、賢いエルフだぞ』
「そ、そうですか……私の頭は情報量が多過ぎてパンクしそうです。今日は一旦バーバラの元へ戻り、情報を整理したいと思います。明後日には伯爵領へ向かうのですから、それから詳しく考えても遅くはないでしょうからな」
我は大きく頷いて、ひっそりと屋敷に戻る爺さんを見送った。なぜ起こしてくれなかったんだとティアには怒られそうだが、明後日のことを話せば早く練習したいと言い出すだろう。我も早く双子に会わせてやりたい。ティアの喜ぶ顔を想像して、つい緩んでしまう頬をキリッと引き締め、地下牢にいるティアの元へ戻るのであった。




