第101話 不穏な動きと、騒々しい朝 ★ウィリアム side
彼らとの話し合い……親子喧嘩?が終わり、クリスとレオンには先にモーリス公爵家へ帰ってもらうことにした。レオンは何やら言いたそうではあったが、僕はこのあともクビになった男が関与しなかったかどうかを調べる必要があったのだ。
まだドミニクの今後がはっきりしていない現状を、レオンならそのまま放っておくはずがない。その予想は当たり、すべての調査がやっと終わった頃……夜中、皆が寝静まった時間にレオンは僕の寝室に現れた。静かにカーテンが開き、レオンは月明かりを背にして立っていた。
「やっぱり来たんだね」
「分かったのか?」
レオンは僕の質問には答えず、ドミニクの結果を早く教えろと言いたげだ。彼の中心はクリスなのだから仕方ないか。
「アボットとの関係は……“あった”と言えばあったのだけど、アボットの愚痴を自分に都合の良いところだけ記憶していただけだったよ」
「そうか。それで、どうなった?」
「伯爵が勘当だとおっしゃったから、最終的には平民落ちで終わるんじゃないかな。今は城の石牢に入れてあるけど、平手打ち程度の暴力と不敬罪だからね」
レオンは短く息を吐き、眉間に皺を寄せる。
「軽い罰ではあるな。本人にとっては致命的だろうが」
「そうだね。アボットと関係があるわけでもないし、ただ勘違いして暴走しただけだから、可哀想ではあるけどね」
「人の話をきちんと聞いていれば将来は公爵だったのだ。転落劇が凄いな。これでクリスに恨みを抱いたりしなければ良いが」
「地位もお金もなくなるからね。恐らく大丈夫だろうと……でも、そうだね、当分の間はマークさせておこう。僕の婚約者になってしまえば狙えなくなるだろうから、それまでは、ね」
「まあ、そうなのだろうが……。そなたは公務が忙しくなるのだろう?これまでの倍の量を押し付けられたと聞いたが」
「あはは。これまでの量が少なかっただけだよ。本来であれば十五歳から手伝うのだけど、僕の我が儘を聞いてもらうためには多少の犠牲が必要になるだろう? その犠牲に、僕の“時間”を差し出すことにしたのさ」
「なるほどな。すべては“ティア”と結婚するためか」
「そういうこと。僕はやるべきことをやる。まあ、そのせいで、夏休みは後半にしか合流できなくなりそうなんだけどね」
「口説けなければ本末転倒だろうに」
「ああ、分かってる。だが、何事にも準備が必要だからね。それは国のためにもなり、僕のためにもなる。ティアのために動いた副産物が凄いだろう? ふふっ」
「まあ、そうなのだが。ウィルがそれでいいと言うのであれば、俺は何も言わんが。その前に、イーサンだったか? バケツのイタズラをした男が噂を流しているみたいだぞ?」
「どんな内容かは分かってる?」
「アボットやドミニクが言ってたのと変わらん。平民だの、裏口入学だのだな。あとは、魔道具を持ち込んでいるとか」
「それは……入口で没収されるだろうに?」
「裏口入学できたのだから、それぐらいは可能だろうと言っていたな」
「はあ……どこまで頭が悪いんだ。ドミニクの噂は知らないのか? 自分から平民になりたいのか? クロウ!」
「はっ!」
音も立てず僕の隣に現れたのは黒ずくめの男だ。昔、魔物の森に飛ばされた頃は子どもだったのだけど、僕を守れなかったことや自分が死にそうになったことから、必死に訓練し直したらしい。その甲斐もあって護衛から“影”に昇格したのだ。この年齢で“影”になれる者はかなり少ないというか、ほぼいない。
「悪いが、イーサンの噂の広がり具合と伯爵家の考えを調べておいてくれ。毎朝通学しているときの人気具合からも、そこまでクリスに悪意がある人間が多いとは思えないからな」
「そう言われれば、そうだな。確かにクリスは人気がある」
「ふふっ、クリスとレオンはセットで人気があるんだよ」
「なんだって? 俺もか? 俺はクリス一筋だと言ったぞ」
「彼女たちには、それが良いらしいんだ。だから、セットで人気なんだろうね」
「そういうものなのか? 女子の考えることは分からん。人間の考えだけでも複雑なのにな」
「あはは、そうだね。レオン、報告をありがとう。しっかり確認して、害がありそうなら対応するよ」
「ああ、頼む。俺は寝る」
「おやすみ。また明日ね」
「ああ、また明日」
★★★
翌朝、馬車でいつものように学園へ向かった。僕とレオンが馬車を降りた後、馬が急に暴れ出した。この馬車は二頭の馬で引いているのだけど、その二頭の馬が違う方向へと走ることで、馬車が大きく揺れて倒れそうになる。
「クリス!」
「ウィル、ボクは大丈夫だから、お馬さんがケガしないようにしてあげて!」
「分かった! レオン!」
「任せろ」
レオンは僕から遠い方の馬に飛び乗り、首を叩いて落ち着かせようとする。僕も暴れる馬の背に飛び乗り、優しく馬の首を叩く。しかし一向に馬たちは落ち着かない。ん? この馬もレオンの馬も、後ろ脚を高く上げようとしているね?
「レオン! 後ろ脚に何か無いか、確認してくれ!」
「おう!」
僕も馬にしがみつきながら後ろ脚を確認する。すると、太腿に細い竹串のような物が刺さっている。
「レオン、こっちはあったよ! 竹串のような物が刺さってる!」
「こっちもあったぞ! 痛かっただろう、もう大丈夫だ」
レオンも刺さった竹串を引き抜く。次第に馬は落着きを取り戻していた。
「良かった。二人とも、ありがとう!」
クリスが馬車から降りてきて、僕とレオンに感謝している。
「クリス! 大丈夫だったかい?」
「うん。ボクは結界を張って中で座り込んでいたから大丈夫。下手に動くと、馬車を壊しちゃいそうで……動くに動けなかったんだ」
「くくっ、なるほどな。良い判断だったぞ、クリス」
「えへへ」
レオンが褒めると、クリスは照れながらも嬉しそうに笑う。それを見た女子たちは、毎日飽きもせずに「キャーキャー」と黄色い声を響かせている。
「ウィル、治してあげても良いかなぁ? ここだと目立つ?」
「確かに目立つけれど、このままにするわけにもいかないね。どうしたものか」
「私が治療するよ」
「ルシ兄様!」
「三人とも、素晴らしい判断だったね。よく頑張った。後は私とラウルに任せて、先に教室に向かうといい」
「では、任せよう。ルシアン、頼んだ」
「はい、殿下」
ルシアンに任せておけば、報告まで抜かりなくやってくれるだろうから安心なんだよね。頼りになる仲間がいることに感謝だ。
「さあ、馬はルシアンに任せておけば大丈夫だろうから、僕たちは教室へ向かおう。これ以上、人集りを作っても仕方ないからね」
レオンとクリスは大きく頷き、校舎に向かって歩き出す。皇太子である僕が堂々と歩くものだから、人集りはキレイに二つに別れ道ができるから面白い。
レオンとクリスは、僕の後ろからゆっくりとついてくる。レオンなんて何も考えていないような顔をしているが、全神経がクリス……いや、僕とクリスに注がれているのが分かる。
教室に入るまでの間、たくさんの視線に晒されて、レオンもクリスも大変だね。僕は慣れてるから何とも感じないけどね。まあ、今後のことを考えるなら、僕とクリスは全国民から注目を集める練習だと言えるのかもしれない……と、少し照れながら思ったよ。
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