63 天叢雲剣
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
神楽炎司は、2019年に死亡したとされている。いや、正確には全世界の記憶から抹消されている。
炎司が刻の神との協力により、江戸時代中期以降にタイムリープした。詳しい話は、遠くない頃に再び語られるであろう。
炎司は、まるで何十年も何百年も生きてきたかのように、顔はやつれ、身体は傷だらけであった。しかし、無精髭以外は、高校時代の炎司そのものの容姿であった。顔の左半分に大きな火傷を負った顔は、見る度にあのときの惨劇が蘇るようだった。
しかし、炎司にとってそれは過去にすぎない。それよりも、もっと悲惨なことを危惧するかのような表情は、人々が見ている遥か先を見据えているようである。腰には、二刀の日本刀を携えていた。白と黒の鞘に収まった刀は、只ならぬ殺気を放ち、見るもの全てを威圧していた。刀の名は、「大高吉」と「無幻一刀」。炎司はそれを大事そうにそれを差している。
炎司は飛行機で、島根県の出雲に向かった。
出雲の周辺は、未だに百目鬼の被害が残っており、折れた木々や抉られた山々が当時の惨劇を物語っている。
飛行機と電車を活用した炎司は比較的疲れることなく、出雲大社に着くことができた。出雲大社までの長い道のりを炎司はゆっくりと歩く。警官は炎司の日本刀を見ると、すぐさま炎司に近寄ろうとする。しかし、途轍もない威圧に警官は近寄ることができない。炎司はその様子に構うことなく、歩みを進めた。
炎司は一度大社を参拝した後、獣道に足を踏み入れた。炎司は人気がなくなると、意識を集中させた。暫く歩いていると、炎司は歩みを止めた。炎司の眼前に子どもぐらいの岩があった。その岩には、ほつれかけた注連縄と、破れた札が貼ってあった。
(やっぱり……。百目鬼の影響か、はたまた……)
そのとき、炎司は地面が大きく揺れるのに気づいた。炎司は思わず、白い日本刀を手に掛けた。炎司は気配を感じ、空を見上げた。炎司は気温が急激に下がっていることにも気づいた。
「やっぱりね。あなた何者?」
空からの声は入江氷菓のものだった。炎司は無言を貫いた。
「沈黙ね。良いわ、別に答えなくても。私自身はそこにはいないし」
「それなら、俺の質問に答えろ。入江、お前の本当の目的はなんだ」
炎司がそう聞くと、氷菓は白々しく答えた。
「本当の目的?私はただ兄を助けたいだけよ?」
「“Z”」
炎司の発言に、氷菓が動揺したことを炎司は見逃さなかった。
「やっぱり、“奴ら”が関わっているのは明白か」
「五月蠅い!」
氷菓がベストロン越しにそう叫ぶと、ベストロンは雄叫びを上げた。空から複数のベストロンが現れた。
「私の下僕が、ここに来た理由は、貴様を止めるためよ!……ここはある化け物の怨念が巣食う場所でもあるのよ。この氷鬼は、その怨念を取り込み、模倣することができる」
ベストロンは背中から、太いコードを現した。そして、炎司の傍にあった岩に張り付いた。ベストロンがそれを吸収し始めると、ベストロンが他のベストロンを吸収し始めた。ベストロンの首が8つに増え、蛇のような見た目に変化していく。空に暗雲が垂れ込んだ。
「ベストロン改め、八岐大蛇よ!!!」
八岐大蛇は、途轍もなく大きな咆哮をした。地面は揺れ、辺りの木々が大きくなびいた。
「さあ!せいぜい私の下僕の餌にでもなってなさい!!」
氷菓がそう言うと、それ以降通信は聞こえなかった。炎司は刀に手を触れた。
(先ずは、奴の出方を窺って……)
そのとき、炎司に大きな首の一つが襲い掛かった。炎司は難なく避けるが、凡人には見えない速さであった。
(速いが、“先生”の武道に比べれば、遅すぎるし、単調だな)
その後、炎司に首が幾つも襲い掛かるが、炎司は避けている。そして、炎司は漸く左手で刀を握った。その瞬間、八岐大蛇の7つの首が、ノコギリのように荒々しく切り落とされた。
「“焔ノ型 畜生道”」
炎司は、刀から左手を離すと、爆破寸前の八岐大蛇に近づいた。
「まだ、ベストロンとしての性能は残っているか定かではないが……」
炎司が近づいたときだった。八岐大蛇の切り落とされた首は再生した。不意の攻撃に意識を集中していなかった炎司は、コンマ数秒の出来事に脳が処理できず、左腕を食い千切られてしまった。炎司は瞬時に距離を置くと、先程まで瀕死だとは思えない様子で、八岐大蛇は佇んでいた。
「本当にただの機械なのか……?」
(困っているようだな!)
そのとき、炎司の脳内に誰かが語りかけて来た。
「誰だ……?」
炎司は思わず口に出して言った。
「まあ、簡単に言えば、神だな。それより、奴は強敵だろ?俺が対峙したときも、正面からいこうとは思わなかったな。貴様、中々根性あるな!!がっはっはっは!!!」
「脳内で大声で笑わないでくれ。兎に角、アンタは奴を倒す方法を知っているんだな?」
(まあな。人智を越えたものには、人智を越えたもので対抗するしかない。つまり、俺の力だな。貴様、利き腕を失って攻撃もままならないだろう?)
「左は利き腕じゃねえよ。兎に角、俺に力を貸してくれ」
(がっはっはっは!!!、貴様、神に向かって横暴だな!気に入った!特別に俺の力を貸してやる!ただ、人間が扱ったら死ぬかも知れんがな!俺の名前は素戔嗚。人間どもからは素戔嗚尊と呼ばれているな!)
素戔嗚はそう言うと、炎司に意識を宿した。途端、炎司は苦しみだした。左腕に激痛が走る。炎司が左腕を見ると、左腕が生えていた。何か不思議な模様がある以外は、普通の左腕であった。そのとき、炎司の左腕が勝手に外へ向いた。
「何をしている?」
「ん?呼んでる」
炎司の口から素戔嗚が話した。左腕の方向から何かが飛んできた。左腕がそれを掴むと、それは、両刃の剣だった。
「これは天叢雲剣。俺の剣さ」
左腕は剣を空高く掲げた。
「神楽炎司。貴様に神の力を見せてやるよ!!!」
左腕が剣を振り下ろすと、八岐大蛇は真っ二つに斬れた。
「“奈落割”!!!」
真っ二つになった八岐大蛇は、その場で爆発した。炎司が空を見ると、先程の暗雲が割れたようになっていた。その雲の間から強い日差しが覗かせていた。
「“やっぱり”神は滅茶苦茶だよ」
炎司は独り言のように呟いた。
「そりゃあ、神だからな。……その言いぶりだと、神と出会うのは、これが初めてではないのか?」
素戔嗚がそう言うと、炎司は溜め息交じりに左目の眼帯を外した。眼帯越しには「刻の神」の目が健在であった。
「……その目。まさか!?貴様、神皇を宿しているのか!?」
「神皇……?まあ、そんなこと言ってたっけな」
炎司は獣道から抜け出した。傍から見れば、炎司は一人で会話している状況だが、幸い周りに人はいない。
「通りで、貴様と妙に融合できているというか、何か近しいものを感じるんだよな……」
「それより、いつになったら、俺から離れるんだ?」
炎司がそう言うと、素戔嗚は驚いた様子であった。
「離れる?何言ってんだ?もう二度と離れられないぜ?神と一体になるということはそういうことだからな。それより、貴様。一体何年生きているんだ?」
「勝手に人の記憶を漁るな」
炎司はそう言うと、帰るために駅に向かった。その後も素戔嗚に幾つか質問をされたが、適当にあしらった。




