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-Re:ika-警視庁 恩寵刑事部 特殊捜査課 通称 「零課」  作者: 灯火 由夢葉
第一幕 第一章 夫丈高校一学期
10/74

9 徒陰殲滅作戦

 このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。

 夢は警視総監室へ早足で向かっていた。扉をノックして入ると、そこには五十嵐が座っていた。

 「五十嵐総監!」

 夢に存在に気づいた五十嵐は、夢を見つめた。

 「やあ、憾咲君。君も聞いたか。ニュースを」

 「はい。この件については、本当に申し訳ございませんでした。まさか、情報が洩れ、映像までも撮られていたとは思っていませんでした」

 夢がそう言うと、頭を深々と下げた。

 「君に非はないよ。それに犯人が警官だと見抜けなかった私の責任だ」

 五十嵐はそう言うと、大きな声で笑った。

 「ですが、このままでは、警視総監を辞職しなければいけなくなります!」

 「そのことなら君が心配することじゃない。まあ、そうだな……。只の不祥事だったら辞任で済むんだがな。殺人を犯しているとなると、最悪殺されるかもな!ガッハッハッハ!」

 「五十嵐総監」

 そのとき、五十嵐の元に一人の男がやって来た。縮れ毛に細目で細身の男だった。

 「國崎(こくさき)慶喜(よしのぶ)警視監……!」

 五十嵐が慶喜を睨み付けた。彼は現内閣総理大臣の國崎敏正の曾孫であり、『國崎の懐刀』である國崎義正の兄でもある。

 「まあまあ、そんな怖い顔しないで下さいよ。そう言えば、今回の事件で辞職するようですねえ。そして次の警視総監は……。少し早いですが、今までお疲れ様でしたあ」

 「……!」

 夢は思わず懐の拳銃を触りかける。

 「止めろ。手を出すな、憾咲君」

 五十嵐は夢を手で制止した。

 「しかし……!」

 「憾咲君。奴の前で能力行使は無意味だと思え」

 「はい……」

 夢の手は、力なく垂れ下がった。

 「それでは」

 慶喜は憎たらしく敬礼をして去っていった。

 「どうなってしまうんでしょうか。今後の警察は……」

 「もう去る身だが、一つだけお願いを頼む」

 五十嵐はそう言うって、夢に耳打ちした。

 

 次の日。連続女子高生強姦殺人事件は各局で報道され、警察に多くの避難の声があがった。その際の謝罪会見で五十嵐警視総監は辞任を表明した。それに合わして警視監の一人で、警官ランキング二位である國崎慶喜が警視総監になった。この事件がきっかけで職業体験会は中止になり、中間考査に含まれていた職業体験会での実技試験も中止となった。夢は花のことで頭が一杯で、筆記テストが手につかなかった。

 手がつかないのには、他の理由もあった。それは、『徒陰』を殲滅するという命令が警視総監から下されたからである。


 夢は何気なくテレビをつけると、そこには年季の入った男性ニュースキャスターと若い女性キャスターがいた。

 『速報です。新たに警視総監に就任した國崎警視総監が反政府組織である『徒陰』に宣戦布告を行いました』

 この発言は、前代未聞であり、そもそも存在すら幻とされていた『徒陰』への宣戦布告は、世間を震わせた。テレビは続けて、記者会見の内容が報道された。

 『(わたくし)、國崎慶喜は兼ねてより計画していた“徒陰殲滅作戦”を実行することが決定しました。敵の本拠地とされるこの東京都の全交番と連携を取り、必ずや『徒陰』を殲滅させましょう!更に徒陰対策課を強化し、徹底的に『徒陰』を潰します!』

 夢は眩いシャッターを遮るかのようにテレビを消して、ベッドに寝転んだ。そのとき、携帯が鳴った。画面には警視総監の名前があった。夢は、ベッドから起き上がり、警視庁へと向かった。


 「お呼びでしょうか。警視総監」

 そこには警視総監の他にも、私以外の『國崎の懐刀』のメンバーである國崎義正がいた。彼は頭が良く、私も慶喜も彼を一目置いている。

 「やあ、夢。君も呼ばれたのか」

 彼の癖である眼鏡を上げる動作を見ながら私は

 「まあね」

 とだけ言った。夢が慶喜に近づくと、慶喜は立ち上がった。そして、二人の肩を軽く触った。

 「早速本題に入ろう。私の記者会見見たかい?」

 「はい」

 義正は頷いた。夢は喋り始めた。

 「私の考えでは……、國崎警視総監、“恩寵”を使いましたね?」

 夢がそう言うと、慶喜は微笑みながら頷いた。

 「憾咲君。すまないね。極力邪魔されたくないんだ」

 「夢。兄さんの前では能力行使は無意味だ。兄さんの能力は……」

 「知っているわよ。そこまで馬鹿になってないわ」

 義正はぎこちなく眼鏡を直した。

 「ところで憾咲君。潜入捜査は順調かい?」

 夢は静かに頷いた。慶喜は一度スマホを見たが、直ぐに元の視線に戻した。

 「そうか。ならば引き続き頼むよ。それでだ。君らにはこの私の計画の指揮を任せたい」

 「あの、一哉や悟空は?」

 夢は慶喜に問い掛ける。

 「今回の作戦では冷静且つ状況を把握出来る君らの方が適役だ。國咲君はまだ病み上がりで十分な活動ができないから今回は除外だ。それじゃあ、任せたよ」

 そう言われると、二人は警視総監室を後にした。慶喜はスマホを手にした。

 「先程はすいませんでした。お取り込み中でして……。貴方は祖父から聞いています。例の件、詳細は後日。確証が持てたら、改めてご連絡します……」

 そう言うと慶喜は不気味に笑った。

 

 しかし、その四ヶ月後。

 『徒陰』は徒陰殲滅作戦以後、『徒陰』は東京から姿を消した。

 六月上旬。警視総監室に現内閣総理大臣の國崎敏正がやって来た。敏正は入って来て早々に慶喜を怒鳴りつけ、杖で慶喜を殴りつけた。

 「どうなっている!?慶喜!」

 慶喜は、何度も頭を下げる。

 「す、すいません。まさか『徒陰』が、姿を消すなんて……」

 「君がテレビで宣戦布告なんかして煽るからだ!そんな誘い、政宗(まさむね)が乗るはずが無いんだよ!」

 「……すいませんでした」

 慶喜はただただ謝っている。

 「これからは私がお前に命令する!お前が恩寵を完封出来る恩寵だから、警視総監にしてやったんだぞ!分かっているのか!」

 「私にもう少し時間を下さい!今度こそは必ず!」

 慶喜は深々と頭を下げる。

 「お前に拒否権は無い!」

 敏正は慶喜に再び杖で叩いた。慶喜の頬が赤く染まる。

 「もう良い。お前はもう何もするな。私が紹介した“先生”の連絡先は消しておけ」

 そう言って、敏正は警視総監室を後にした。

 「クソッ、老害が……」

 慶喜は口を切ったときの血を拭った。


 六月中旬。夫丈高校の会議室にて、全教師が緊急に会議室に召集された。

 「全員揃ったかな?」

 校長である白龍院が周りを見回した。そこには、14名の教師が座っている。

 「六月上旬から当校で起きている不審な人が生徒たちを襲っている事件についてだが、何か進展はあるかな?」

 白龍院がそう言うと、資料を見ている3-Dの担任である臥龍岡(ながおか)(きく)()が口を開いた。

 「一日に数名、短時間で生徒は監禁され、その日の内に解放される……か。との報告があった。生徒に事情を聞こうとしても記憶がない。堀田先生によると、電気によって記憶が一部消されているらしい。不気味で他ならないな……」

 土木は机に足を掛け書類を机に叩いた。

 「生徒たちが事件に巻き込まれているのは明白だ。警備を強化するなりなんなりすればええやろ。わざわざこんな大袈裟な会議開かんくても……!」

 「土木先生。例え警備を強化したとしても、生徒の安全が保障できるとは限らない」

 白龍院がそう言うと、土木は不満そうに椅子に着いた。

 「記憶がいじられる恩寵持ちなんて、ただの愉快犯な訳ないでしょうな」

 隻眼の教頭、豪炎寺(ごうえんじ)が言った。

 「これ程攫われているのに、犯人の特徴もないんですか?」

 水田寺が資料を見ながら言うと、カウガールの格好をした3-Aの担任である(そう)(えん)が答えた。

 「目撃されても、黒スーツに帽子を深くかぶっているという情報しかないのよ。ここまで用意周到だと、こちら側も本気を出さないとね」

 「(つよ)()さんの恩寵があれば何とかなりそうですけどね。ほら生徒を服従させて、あえて捕まるとか」

 若めの教師である2-Bの担任である鳴上(なるかみ)が強木に言うと、強木は机に向かって鞭を(はた)いた。

 「私の恩寵は生徒にもう“二度”と使いたくないのよぉ!」

 そう言って強木はそっぽを向いてしまった。鳴上は頭を掻きながら戸惑っていた。

 「気になることがあるのですが、襲われた生徒は全員一年生。これは何か関係があるのでしょうか。それに警察が『徒陰』に宣戦布告してから起きてますよ。やっぱり警察は彼らを……」

 そう言う真田を、白龍院は止めた。

 「これ以上、推測が独り歩きするのは恐い。今は生徒の安全を考えよう」

 「取り敢えず、警備の強化として教師二人体制での見回りを行うということで良いですか?」

 豪炎寺がそう言うと、会議は終了した。

 

 しかし、六月下旬、夫丈高校の教師が見回りを始めようとしたときには、不審者が現れることはなかった。

 夢と慶喜は慶喜に呼ばれて、警視庁へ向かった。

 「やあ憾咲君。遂に見つけたよ。中々、生徒たちが口を割らなかったからね。いや、知らないというのが普通かな。……大変だったよ」

 「……誰を拷問したんですか?」

 夢は慶喜を問い詰めた。慶喜は一度夢を見て微笑んだ。

 「拷問はしてないさ。提供してもらったってだけさ。名前はたしか……、そうだ。草木茂とか言う子だったかな。彼、正義感なのか、自分から白状したらしいぞ。どうして『徒陰』を知っているのかは知らないけどな。君たちには至急情報の場所へ向かってもらう。頼んだよ」

 そう言われ夢は、内心草木茂がそんなことを言うはずもないと思いつつ、防弾チョッキに拳銃、警察手帳を持ち、特殊な警察車両に乗り込んだ。

 (どう考えても罠よ。明らかに誘導されてる。でも、罠でも逆手に取れば……。生憎、数ならこっちが格段に上よ)

 夢らは一時間掛け、とある森の奥にある廃坑に向かった。そこは昔、鉱山としてこの日本を支えてきたが、事故をきっかけにそこは使われなくなった。

 「彼の情報によると、この廃坑に火柱、風柱、水柱、それに大黒柱がいるとのことだ。対象者の拘束、もしくは殺しても構わん」

 慶喜は車両内で説明をする。構成員は憾咲夢に國崎義正、國崎慶喜に加え、警官20名、更に拘束に長けた恩寵を持つ零課の人員である捕間(とるま)みか、捕間(とるま)おりの計25名で現場に向かった。

 「憾咲副司令官、総司令が招集をしています」

 警官の一人が声を掛けてきた。

 「分かったわ」

 そう言うと、警官たちは一斉に敬礼をして所定の位置へ向かった。小さなテントの中には、総司令官である慶喜と副指令官の義正が廃坑の見取り図を見ていた。

 「来たか。それじゃあ最終確認を」

 慶喜がそう言うと、夢を手招きした。

 「先程も説明したので把握はしていると思うが、この廃坑はこの出入口一つしかない。ここから入れば確実に袋叩きだ。ただ、あちらの恩寵の詳細が把握しきれていない。油断はしないように」

 慶喜はそう言い残し、ひとりでに行ってしまった。

 「夢。本当に心当たりはないのか?」

 義正は夢に問い掛けた。

 「貴方にだから言うけど、彼らの恩寵は」

 夢がそう言い掛けたときだった。

 「思ったよりも人がいるなー」

 廃坑の入り口からペストマスクを着けた男が現れる。それは間違いなく風柱だった。

 「僕が仕掛けた罠にはまるというか、招待に快諾してくれるとはね」

 風柱の隣には水柱がいた。

 「のこのこやって来たな……!」

 慶喜は言葉が詰まる。

 「紹介が遅れました。僕は『徒陰』の水柱と申します。以後宜しく」

 「奴が水柱。……構え!」

 慶喜の一声で、全警官が拳銃を構えた。水柱はわざとらしく両手を上げた。

 「僕は非力だからお二人さん頼むよ」

 廃坑の入り口から、紫色の炎が現れる。その炎は煙幕の効果を発揮し、柱たちを見えなくさせた。気配を感じていた夢は、煙の中の気配を狙う。

 「さっさと投降しろ!」

 慶喜が叫ぶと四方八方に拳銃を発砲した。その狂気的な発砲に複数の警官が巻き込まれる。しかし、慶喜は構っていなかった。夢たちは岩陰に隠れた。

 「まるで腹を空かせた獣ね」

 炎に紛れた風柱が慶喜に乗りかかった。四肢を固定された慶喜は成す術がなかった。

 「残念だけど、俺は拳銃で倒せないよ。もっと速いの用意しなきゃ」

 そのとき、風柱の体に麻ひもが巻き付いた。

 「なにこれ!」

 更に、麻ひもを伝い、電気が流れる。風柱は声を殺しながら堪えている。それはマスク越しでも分かるほどだった。

 「なあ、火柱!明らかにこれは!!」

 火柱の炎の刃が風柱を解放させたが、風柱はまだ痺れていた。麻ひもはある一人の男の元へ戻っていく。そこには、全身黒スーツで黒い帽子を深々と被った男が二人いた。

 「紐に電気系……。人間はある“一定の人物たち”を除いて恩寵は一つだけ。なのになんであいつ恩寵を二つも持っているんだ!」

 水柱は興奮気味に実況している。

 「しかもあの見た目、完全に奴ら夫丈高校の生徒を誘拐した奴らだな」

 痺れが和らいでいた風柱は、マスクを整え言い放った。

 「助かったぞ、一号。良いか?これは命令だ。俺以外全員殺せ!」

 慶喜がそう命令すると、黒スーツの男たちは、柱たち目掛けて走り出す。一人の男は手から麻ひもを出し、もう一方の男は、長い舌を出した。

 「動けるか?風柱」

 「もちのろん!」

 二人は火柱の合図で二手に分かれる。

 「一人で大丈夫か!」

 火柱は水柱に問い掛ける。

 「大丈夫だ!地図なら“頭”に入ってる!」

 そう言って、水柱は廃坑へ入っていく。

 「火柱!大変だぁ!羽が使えない!!絶対さっき触られたわ!」

 どうやら風柱は慶喜の恩寵により、羽が使えないらしい。

 「プラン変更だ!」

 火柱は炎を使い方向を素早く変える。しかし、左手が動かない。黒スーツの男の長舌が巻き付いていた。解こうにも粘液によって解けなかった。そのまま、火柱は木々に叩きつけられた。

 「なんて力だよ……。まだなんか隠し持ってるか?」

 火柱がそう言うと、全身を燃やし、粘液を溶かした。炎の勢いで火柱は足蹴りをかましたが、男は微動だにしなかった。足を掴まれた火柱は、何度も地面に叩きつけられた。その度に、血が溢れる。骨が折れる気持ち悪い音が響く。風柱は麻ひもできつく締められ、吐血をした。

 夢たちは岩陰に隠れ続けている。夢は恐怖で足が動かなかった。義正は拳銃を持つ手が震えていた。

 「彼らは君たちじゃ倒せないだろうなあ。彼らは“ホワイトキラー”。改造人間だ。複数の恩寵を持っている」

 ホワイトキラーたちは帽子を外した。夢はその顔を見て固まった。顔は白く定かではないが、新米警官の麻田と職業体験会の出目金だった。

 「どういうことよ!國崎!」

 夢は思わず岩から飛び出した。

 「こんなこと人権侵害だわ!何より、そんなこと」

 「そんなことできるわけないと言おうとしたか?できるのだよ……!それより君、考えもなしに出て来ちゃ駄目だろ。恩寵発動できないのかな?」

 確かに夢は恩寵が使えなかった。それは先程慶喜に触られていたからである。慶喜が拳銃を夢に向けた。

 「これは機密事項だ。私以外知らなくていい!そこにいるんだろ、義正。先にこいつを殺しておく。お前はその次だ」

 慶喜は引き金を引こうとする。思わず夢は目を閉じた。

 「隣の隣町で銃声が聞こえたから駆けつけてみれば、惨事だなこりゃ」

 夢は聞き覚えのある声に目を見開いた。そこには元警視庁総監の五十嵐がいた。夢が思わず叫ぶ。

 「五十嵐さん!!」

 五十嵐はラフな格好に葉巻を咥えた出で立ちで立っていた。腰には木刀を二本携えていた。五十嵐は瞬く間にホワイトキラーを自身の血で拘束した。

 「五十嵐“元”警視総監じゃないですか!何をしに来たんですか?」

 慶喜が嫌味たらしくそう言うと、五十嵐は二本の指を慶喜へ向けた。すると慶喜は急に目を押さえだした。

 「お前の目を充血させた。お前は邪魔だから暫くそうしてな」

 五十嵐は葉巻を持ち、口から煙を吐き出した。

 「『徒陰』。お前らと俺の目的は同じだ。だから今だけ手を貸す」

 五十嵐は懐から木刀を二刀抜き出した。

 「ああ。……分かった」

 火柱は血を吐き捨て口元に付いた血を拭う。五十嵐は自身の手の甲に噛みつくと木刀に血の渦を纏わせた。ホワイトキラーたちは血の拘束を力尽くで解いた。一体は無数の麻紐を飛ばし、火柱たちに襲い掛かる。

 「“炎舞神(アメノウズメ)”」

 火柱が手を火打石のように叩くと、全身が燃え上がる。火柱は麻紐をはたき落とす。一方で、五十嵐は人間離れした動きでかわしていく。

 (血流を無理やり早く流して身体能力を上げているのね!)

 夢は岩陰から見ながら五十嵐を分析していた。五十嵐は鬼の形相で、木刀をホワイトキラーに叩きつけた。ホワイトキラーは地面でバウンドし、その浮いたホワイトキラーを木にめがけて叩きつけた。

 「単純攻撃なのにお強いこと……」

 火柱がそう言うと、五十嵐は答える。

 「良いか火柱。恩寵は身体能力の延長線上にあると思え。使うという認識を捨てて、身体の一部として扱え」

 五十嵐は腕から大量の血液を放出させた。更にそれを掴み、ホワイトキラー目掛けて叩きつけた。

 「つ、“掴んだ”……?」

 「お前もいつかできる!頑張れ!……しかし、硬すぎるぞ!こいつら!恩寵の影響か!?」

 「良いか、五十嵐。こいつらは恩寵を三つもっている。共通して持っているのは、“強固”だ。普通の打撃じゃ倒れないぞ!」

 慶喜は血涙を流しながら高らかに言った。

 「わざわざ説明ありがとう!不死身じゃないだけまだマシだ!」

 五十嵐は空を飛んだ。

 「空も飛べるんですか!?」

 火柱は上を見上げ言った。

 「人間はな、死ぬ気で鍛えれば空だって液体だって掴めるんだ!」

 五十嵐は車輪のように回転した。そのままホワイトキラーの頭上に降りて来た。ホワイトキラーの脳天を叩き切った五十嵐は、華麗に着地し地面に降り立ったときには、ホワイトキラーは微動だにせずに倒れていた。 

 火柱がよそ見をしていて、襲われそうになるが風柱の足蹴りによって助かった。

 「珍しいな、火柱。戦闘中によそ見って」

 「いや、何か掴めそうなんだが……」

 (液体を掴む?空を飛ぶ?この二つの共通点って……?)

 火柱は、何もない空間を掴むかのように手をかざした。

 「もう掴んだのか……、天才め!」

 五十嵐が不敵に笑う。

 「液体も空気もどちらも手か足で捉えれば良いんだ。自分の手から放出するんじゃなくて、辺り一面を自分の身体の延長線上だと考えれば……」

 ホワイトキラーは自分の周りの異変に気付く。身体が熱いことに。

 「いくら頑丈でも中は流石に脆いはず……」

 火柱は右手を拳銃のように構えて、狙いを定めた。火柱が銃を撃つような動きをすると、ホワイトキラーの体内で爆発を起こし、煙を吐きながら気絶した。

 「素晴らしいな。対象者の周りを熱し、その熱風を操り一点に集中させた熱風を放ったのか。初めてにしては完璧じゃないか!」


 慶喜は身の危険を感じて拳銃を向けるが、目がまだ見えずどこに向けて良いか分かっていなかった。そのとき、首元に殺気を感じたのか拳銃を落として両手を挙げた。

 「どうやら、ゲームオーバーのようですね」

 慶喜は膝から崩れ落ち、床に座り込んだ。

 五十嵐は慶喜の目の充血を治め、慶喜に問い掛けた。

 「なあ、國崎。これは一体誰が裏で糸を引いてる?」

 「ん?知らないのか?」

 火柱たちは五十嵐を不思議そうに見つめた。

 「何?お前ら知っているのか?」

 火柱は続けた。

 「……現内閣総理大臣の國崎敏正だよ」

 火柱がそう言うと、五十嵐は俯き深く考え込んだ。暫くして五十嵐は口を開いた。

 「確かにお前の言う通りかもしれないな。色々辻褄が合うな……。取り敢えずこいつを署に連行しよう。話はそれからだ」

 そのとき、慶喜は拳銃を下顎につけていた。

「おい!早まるな!」

五十嵐がそう言うと、慶喜は不敵に微笑んだ。

 「……どうせ、助かったとしてもあの敏正(クソじじい)が寄越した殺し屋に殺されるのが目に見えている」

 「止めろ!」

 五十嵐は血で拘束しようとしたが、恩寵が使えなかった。

 「無理だよ。さっき“触れた”からね。ついでに火柱(きみ)も。二人とも恩寵は使えないよ。……儚い夢だった。私は結局あのクソジジイの犬だった……。火柱君、五十嵐さん。貴方たちなら國崎敏正の凶行を止められるかもしれない。……私はただの正義のヒーローとして警察官になりたかった。いつからこんなことになってしまったんだろうね」

 慶喜は苦笑いしながら話している。

「私と奴の会話や今までやってきたことは、警視総監の鍵付きのデスクに諸々入ってます。公表するならして下さい。……お願いしますよ」

 最期は静かに笑っていた。静かな廃坑に発砲音が鳴り響いた。

 

 その後、ニュースで國崎慶喜について報道された。しかし、その内容に國崎敏正の名前は無く全て國崎慶喜の単独での犯行とされた。そして、次の警視総監は再び五十嵐が担当するという異例の事例となった。これも上層部や民衆の圧倒的な支持があったからであるとされる。

その夜。記者会見の後で疲れている五十嵐は、警視総監室の椅子に座った。

 「いるんだろ?バレバレだ」

 誰もいないはずの部屋で五十嵐がそう言うと、開いた窓から火柱が現れた。

 「……凄いですね。それも特殊能力ですか?」

 「要件は何だ?監視カメラを見た警官が来るぞ」

 五十嵐は監視カメラを指さした。

 「監視カメラは水柱がハッキングして数分間は大丈夫なんで。要件は報道の内容です」

 「俺が内容を見たときには、國崎敏正の関する情報は無くなっていたか捏造(ねつぞう)されていた」

 「なるほど……。それが聞けて良かったです」

 そう言って、火柱は窓から去ろうとした。

 「待て。お前の動き、中々良かった。だがまだ動きが荒い。暇なときに俺のところに来い。鍛えてやる」

 「どういう風の吹き回しですか?」

 火柱は、首を傾け五十嵐に問い掛けた。

 「以前、お前に似ている人に会ってな。お前に可能性を感じた。慶喜と一緒だよ」

 「……分かりました。時間があれば寄ります。『徒陰』には時間がありませんが」

 そう言って炎司は窓から飛び降りた。

 「……『徒陰』か、大道寺先生。やっぱり先生だったのか。……良い生徒を持ちましたね」

 炎司の飛び降りた窓を五十嵐は、静かに閉じた。

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