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あれから数日。ちゃっかり復興の一員に加わった恵は、今日も小梅と湖に散歩へやって来た。するとそこには、すでに先客がいた。エルティオとクーリだ。
恵たちに気づいたクーリが近づいてくる。いつの間にか小梅はクーリと仲良くなったらしい。近づいてくるクーリに威嚇することなく、小梅の方から鼻挨拶をしていた。そんな二匹を放って、恵はエルティオに近づいた。
「上手くいってるようだな」
恵がエルティオの隣に立つと同時にエルティオが話しかけてきた。
「うん。なんか、みんなすごいんだー」
連れ去られた民が帰ってきた喜びもあるだろうが、今の集落は前と全く違っていた。活気があるのだ。王直轄だからという面もあるだろう。でもそれ以上に、誰が来ても憩いの場となるような場所を造りたいと皆が願っている。そしてそれを実現しようと一丸となって取り組んでいた。
「そうか」
優しく頷くエルティオに恵も笑顔で応える。そのままエルティオは黙ったまま恵を見つめる。春の陽だまりのような暖かな眼差しに、恵の鼓動は早くなる。顔が徐々に熱くなっていくことを自覚しながら、それを隠すように恵はエルティオに話しかけた。
「そ、そうだ、王様ありがとう。七十五年前に小梅がしたことを黙ってくれて」
「あれは、俺がやったことではない」
「それでもだよ。王様が本当のことを伝えたって良かったんだもの」
前々から言おうと思っていたことが、やっと言えた。どんな人に聞いても仔神のことを悪く言う人はいない。それが恵には嬉しかった。本当は真実を国民に告げた方が良いのだろう。エルティオだって真実を国民に告げたかったはずだ。それなのに、黙っていてくれた。そんなエルティオの器の大きさに胸が熱くなる。
「エルティオだ」
「えっ?」
「俺の名前を特別に呼んでもいい。許可してやる」
突然言い出した言葉の意味を、恵は理解できなかった。
「なんで?」
「これから、仔神の乳母となるのだろう? 異例中の異例だが既に仔神が受け入れている。誰も反論はしないだろう」
ぶっきらぼうに告げるエルティオの顔は、どこか照れくさそうだった。
「だからって、どうして王様を名前で呼んでいいの?」
「仔神は王と同等だ。いや歴代の王は仔神を上と見ていた。だが、俺は上には見ない。仔神と一緒に力を合わせてこの国を守っていくと決めた」
小梅のことを認めてくれた。それと同時に恵は不安にもなる。あの時は、たまたま小梅が上手く力を制御できたから成功した。それが毎回続くとは限らない。それでも小梅と一緒に力を合わせてくれるだろうか。
「いいの? 小梅のこと」
「ああ。クーリと俺にはできない大きな事を、この間やってのけただろう。あれで充分だ」
エルティオは少し離れた場所にいるクーリと小梅の方を向いてから、微かに口角を上げて恵を見た。
「今度、もし小梅の力が暴走したときは俺とクーリが必ず止めてみせる」
その言葉を恵は聞きたかったのかもしれない。力強いエルティオの言葉に、恵の懸念は綺麗に払拭された気がした。
「私も。私も小梅が立派な仔神になれるよう頑張る」
エルティオが小梅の名前を呼んだ嬉しさ。そして、思い悩んでいたものが解消された喜び。それらが恵のやる気をみなぎらせた。
遊びつかれたのか、伏せをしている小梅に聞こえるように恵は大きな声を出した。
「ねっ、小梅頑張ろうね」
「オフ」
恵の声に小梅が、嬉しそうに駆けて来る。瞳をキラキラさせて向かって来る小梅の姿に愛しさが募る。恵は両手を広げて大好きな小梅を待った。
【終】
これにて終了です。
こんな拙い物語を、最後まで読んでくださりありがとうございました。
高木一




