6話 予想外.
気を取り直して、最後はリュリュを探そう。
ぬいレイの視界を次々切り替え、屋敷中をスキャンしていく。
いたるところにいるぬいレイの視界をキッチン、廊下、庭、リュリュの部屋と切り替えて見回すが――どこにもいない。
(まさか家出?……いや、怖がりのリュリュが外に出るわけないか)
さっきのセリスの一件がまだ尾を引いて、手が少し震える。
(あれは本気で怖かった……弓、トラウマ級……)
そんな時、ある映像が僕の目に飛び込んできた。
……ん?
映し出されたのは――僕の秘密基地。
そして、その画面の中で……僕自身が映っていた
つまり、もしかして……。
僕は恐る恐る後ろを振り返る。
すると、いた。
リュリュが、床の上で体育座りをしながら、
丸くなって、ぶるぶると震えていた。
「セリスさん……怖い……あれは夢……? 怖い……」
涙でぐちゃぐちゃになった顔。
膝を抱きしめ、まるで子猫のように震える姿。
その情けなさに、思わず緊張が吹き飛んだ。
(……なにやってんのこの駄メイド)
普通ならこういう状況は警戒をあげて武器を構える状況だけど、リュリュの残念な姿に
完全に警戒心が抜けて、僕はそっと近づき、つついた。
「ひゃーっ!」
リュリュが飛び上がる。
僕を見ると、顔を真っ赤にして胸を押さえた。
「ユ、ユラちゃん!? もう……びっくりしたぁ!」
「...びっくりしたのはこっちのほう。なんでここにいるの?」
リュリュはしばらく“ぽかん”とした後、
部屋を見回し、目を輝かせた。
「ここ……秘密基地? すごい!かわいいぬいぐるみいっぱい!」
「質問に答えて」
「え? あ、うん。ユラちゃんが見当たらなかったから探してたの。そしたら壁が消えて――入っちゃった!」
「壁が消えた?」
僕は思わず頭を抱えた。この秘密基地が簡単にばれないように厳重に魔法などで対策した。
しかし、魔法で隠した入口が、知能でなく“直感”に負けたらしい。
ある意味、天才。いや、バグ。
リア姉にはいつかはバレると思っていたけどまさか、一番ドジで、この場所は絶対に見つけられないだろうと思っていたリュリュに、一番最初に見つかるなんて…
僕としたことが。少しショック。
「……ふう。もういいや」
別に最悪というわけじゃないし。
リュリュはぬいぐるみを手に取り、笑顔を取り戻す。
「これ、リュリュのぬいぐるみ? かわいすぎる~!」
「それは僕のだよ。あげないからね」
「えー。仕方ないな。それじゃあこっちのリアちゃんのぬいぐるみください !」
……いや、ここのぬいぐるみはどれも渡すつもりないけど
僕は深く息をついた。
秘密基地をリュリュに知られるのは誤算だったけど――
まあ、リュリュならどうにでもなりそうだから、いいか。不幸中の幸いだ。
それに、少し考えが浮かぶ。
(もしかして……リュリュの“陰”の称号。これが原因?)
いつも何気に神出鬼没だし、なぜか僕が作った秘密の部屋も見つけるし、気配を消すのも何気にすごい。ドジなメイドという肩書きからは想像もつかない能力だ。もしかして、リュリュは前世で忍者か何かだったのだろうか? とてもじゃないけど、ドジには向いてないけど。
……でもこの駄メイド、本気で何か“異質な力”を持ってるのかも。
そういえば、いつからいたんだろう? 震えている様子から察するに、最低でも、セリスが弓を放ったところは見たんだろうけど。
「ねぇリュリュ。いつからここにいたの?」
「えっとね……エリス様たちが話してるとこから……」
ほぼ最初からいたんだね。ということは長時間僕に気が付かれないようにしてたということ。.....存在感薄すぎ。でも、もし僕がアールに憑依していた時なら絶対にけが付けただろう。
「じゃあセリスの時も……」
「ううぅっ! 思い出させないでぇ!」
再び丸くなって震える。涙目。
その様子を見て、僕は思わず笑ってしまった。
(……なんだろう。さっきまでセリスのことで怖かったのに、今は少しだけ安心する)
秘密基地の中で、震えるメイドと小さな主。
妙に静かで、妙にあたたかい時間が流れていた。
まあ、でもリュリュに秘密基地がバレてしまったものは仕方ない。
バレたのは隠し事のほんの一端とはいえ隠し通すよりも、利用した方が得――僕はそう判断した。
どうせリュリュだし。
話したところで、世界に広まることは……たぶん、ない。
(いや、“たぶん”なのが怖いんだけどね。)
僕はため息をついて、腕を組んだ。
「リュリュ。静かに聞いて。特別に、僕の秘密を教えてあげる」
「え? ひ、秘密……? な、なんですか? まさか恋の話とか……っ!」
「ちがう」
「えへへ、ですよね〜」
緊張ということを知らないのか、リュリュは頬を染めて笑っている。
その呑気さに、少しだけ力が抜けた。
「僕のスキル、《ぬいぬい》のことだよ」
「……すきる?」
リュリュはきょとんとした表情を浮かべたあと、数秒遅れて目を見開いた。
「――えええっ!? スキル持ち!? ユラちゃん、スキル持ってるの!?!?」
勢いあまって僕の肩を揺さぶる。
(驚くとは思ってたけど、物理的に揺らさないでほしい)
「そう。ぬいぐるみを作ったり、動かしたり、中に入ったりするスキル」
「すごいっ! すごいすごいすごい! スキル持ちは百万人に一人って聞いたのにっ!」
リュリュはまるで子供のように跳ねた。
その姿に、僕は肩をすくめる。
(……うん、説明するまでもなく伝わったね)
それにしても、改めて考えるとこの家は本当におかしい。
スキル持ちは国に10人いるかいないか程度の数のはずなのに家には僕とリア姉、セリスがスキル持ち。
それにスキルがなくてもリア姉もセリスも、母も父も――みんな個人の能力は高い。リュリュに関しては何とも言えないけど
「じゃあ、ユラちゃん! ユラちゃんのお母様に教えてあげましょうよ! きっと喜――」
「リュリュ」
僕は低く、その名を呼んだ。
一瞬で、空気が変わる。
リュリュの背後――そこに黒い影がすっと伸びた。
リュリュぬいが、ゆっくりと立ち上がる。
光を吸い込むような瞳が、主の背に向かって無音で瞬いた。
「ひゃっ!? え、リュリュぬい!? なんで!? こっち向いてる!? 目が怖いーっ!というか何で動いてるんです!?」
「今の話、それとここのこと、誰にも言っちゃダメだよ」
声は穏やかに。
けれど、言葉の端に、氷のような重みを乗せた。
影がわずかに波打つ。
リュリュぬいが、ユラの言葉に呼応するように微かに身じろぐ。
部屋の温度が、ほんの少しだけ下がった気がした。
「言ったらどうなるか、わかるよね?」
僕は静かに言う。
……が、相手は頭の残念なリュリュだ。
「どうなるんですか?」
きょとんと首をかしげる。
(やっぱりわかってない。)
「……」
(リュリュ相手だと調子が狂う。なんかイラつくから――リュリュぬい、やっちゃって)
僕の思考を読んだように、リュリュぬいが動いた。
「ひゃあ!? リュリュぬいがリュリュを襲ってくる!? 痛い! でもちょっと楽しい!? どうしよう、ユラちゃーん!」
床を転げ回りながら、リュリュは情けない悲鳴を上げる。
抵抗してるようでしてない。というか――たぶん、楽しんでる。
(迫力ゼロの死闘。ぬいぐるみと残念メイドのじゃれ合いにしか見えない…)
僕はため息をついて、手を叩いた。
「ストップ、リュリュぬい。もういいよ」
リュリュぬいがピタリと動きを止め、影へと沈んでいく。
静けさが戻った部屋で、リュリュは髪をぐしゃぐしゃにしながら恨めしげに睨んできた。
(さて、これ以上引っ張るのも面倒だし――物で釣るしかないね)
「……リュリュ。ここで見たこと、全部秘密にしてくれたら――特別にこれ、あげる」
僕は棚の上から“究極ふわふわ枕”を取り出した。
セリス用に作った、あの極上モデル。触れるだけで幸せになる魔法加工付き。
リュリュの瞳が、一瞬で星空みたいに輝く。
「そ、それはっ……!! セリスさんが大事そうに抱えて寝てるやつ!? 伝説のふわふわ!?!?」
「そう、それ」
「ほ、欲しい……!」
「だったら、誰にも言わないって約束して」
「言いません!! 世界が滅んでも言いません!!!」
即答。早すぎる。
「……(世界規模で守る覚悟なんだ。というか最初からリュリュは物で釣ればよかった)」
僕は笑いをこらえながら、もう一枚の紙を取り出した。
「一応、形式上これも書いて」
「……契約書……ですか?」
「まあね。念のため」
「ひどい! 信用ないんですか!」
「あるよ。ただ、リュリュのドジは信用してないだけ」
「ぬぅ〜……」
ブツブツ言いながらも、リュリュは契約書にサインした。
瞬間、淡い光が立ち上り、リュリュの手の甲に小さな紋章が刻まれた。
「わぁ……きれい……。ちょっとくすぐったい……」
「気のせいだよ」
(実際は“僕の命令を拒否できない”軽度の魔契約だけどね)
「はい、これで完了。お疲れさま」
リュリュは枕を抱きしめ、満面の笑みを浮かべた。
「やったー!ふわふわ天国〜♪ ユラちゃんだいすきー!」
「はいはい」
ぴょんぴょん跳ねながら部屋を出ていくリュリュ。
去り際に、ふわふわに顔を埋めたまま壁に頭をぶつけた。
「いたっ」
「……最後までブレないね」
扉が閉まり、部屋が静けさを取り戻す。
僕は椅子にもたれ、ほっと息をついた。
アールを抱きしめると、ふわりとぬいぐるみの手が僕の指を包んだ気がした。
「……よし。予定外のことはあったけど、結果オーライ」
ぬいレイのスクリーンに視線を移す。
昼間の森が風に揺れ、木々が日差しを浴び輝いている。
まるで僕たちの小さな計画を祝福するように。
「仲間が一人、増えた。
ぬいトピア――第一期メンバー、結成だね」
アールの頭を撫でながら、僕は静かに微笑んだ。
「さあ、夜は長い。
ぬいトピア、第一夜――活動開始。」
ご報告
これから主人公であるユラのスキルの効果の一つである「セカぬい」という効果について。
後、「ぬいセカ」、「セカぬい」というワードが混在していることが予想されます。
2つの言葉は同じ意味です。
ちなみに復習
「セカぬい」とは、ユラに対しての信頼度が一定以上の者、ユラが倒した者に対して、作ることができるぬいぐるみであり、そのモデルにしたものの能力を完全再現したぬいぐるみを作ることができるスキル効果。




