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5話  ぬいレイネットワーク

テストを兼ねて、母と父の会話を聞いてみよう


僕は、スクリーンに映し出された二人の姿に焦点を合わせ、音声もオンにする。


エリス「……あなた、本当に大丈夫なの? リアと手合わせをして、毎日のように怪我ばかりしてるじゃない」


アストル「ああ、大丈夫だ。俺は丈夫にできてる。リアの鍛錬の相手は頑丈な俺しか務まらん。まあ、最近は手も足も出ないがな」


エリスは深くため息をついた。

テーブルの上には、彼女が朝から処理している書類の山。その手が一瞬止まり、窓の外を見やる。


エリス「……リアは天才だけど、時々、いや、常に常識がすっぽ抜けてるわ。あの年で父親を全力で吹き飛ばすなんてね」


アストル「ははは! だが才能は確かだ。剣も魔法も、俺が若い頃より遥かに上だ。天才ってのは大体そんなもんさ」


母の眉がぴくりと動いた。

優しいけれど、時折恐ろしい母の声が低くなる。


エリス「……あなたも少しは学びなさい。あの子が暴走したら止められるのは、私とあなたしかいないのよ?」


アストル「お、おう……心得ております、当主殿」


二人のやりとりに、僕は小さく笑ってしまった。

普段の母は冷静で完璧主義。でも、父の前だとちょっとだけ抜ける。

こういう空気、嫌いじゃない。


エリス「それに、ユラのほうも……あの子、最近ますますぬいぐるみ作りばかりね」


アストル「体が弱い分、できることを探してるんだろう。魔力は少ないにしても、器用さは天性のものだ。それに、もう俺より賢いぞ。ユラもリアと同じく考えが普通とはかけ離れているがな」


エリス「ええ……でもね、あの子、本当に魔力がないのかしら。」


アストル「医者の診断では“器官不全”だったが……まぁ、俺もたまに思うんだ。あの子の目、時々、底が見えない。まあ、ぬいぐるみが好きすぎるだけだろう」


エリスは、そばに置かれたぬいレイを手に取って撫でた。

真っ白な小さなぬいぐるみの◎の目が、かすかに瞬いた気がした。

(……やば、バレそう)


母は続ける。


エリス「この子たち……可愛いけど、不思議よね。まるで生きてるみたい」


アストル「ユラの想いが強いんだろうさ。あいつはきっと、何かを作るために生まれてきた」


……それは、正解でもあり、間違いでもある。


少し間を置いて、母がぽつりと呟く。


エリス「あなた……この国、どうなると思う?」


その声には、微かな疲れが滲んでいた。

父は椅子に背を預け、重く息を吐く。


アストル「どうもこうもねぇさ。国王は税を上げ、貴族同士は足を引っ張り合い。俺たちみたいな家はまだマシだが、平民はもう限界だ。……正直、移住も考えてる」


エリス「私も同じよ。でも、この国を出るのは簡単じゃない。あの“黒き錬金”が、王直属の監視役についてるでしょう?」


アストル「はっ、あいつか。金と錬金術で国を支配してるような男だ。気に入らねぇ」


エリス「だから、あなたが余計なことをしないように見張ってるの。まさか“反乱でも起こすか”なんて、冗談でも言わないでね?」


アストルは苦笑し、肩をすくめた。


アストル「いやぁ、言おうと思ってたんだが……冗談だ冗談」


エリス「あなたの冗談ほど心臓に悪いものはないわ。この状態が私たちの代で終わればいいけど。もしリアが当主になった時この状況が変わらなかったら」


アトラス「間違いなくリアなら喧嘩を売るだろうな。しかも、リアが当主になるぐらいの年齢になったらリアの強さは想像もつかない。国全体がリアによって凍らせられたりとかあったりしてな」

父は冗談を言う。しかし母はそれを真剣に捉え、

エリス「ええ。間違いなくそうなるわ。リアならやりかねない。そんなことにならないように何かできいればいいのだけど」



アストル「お。おう。冗談のつもりだったんだがな……ところで、最近妙な噂を聞いた。近くの領地に、有名な盗賊団が潜伏してるらしい。森の方だ」


エリス「……物騒ね。討伐隊は?」


アストル「ああ、有名な冒険者たちが向かってるらしい。だが、万が一、奴らがここに流れてきたら……ユラが危ない」


エリス「あなたは家にいなさい。森になんて行かせませんよ。あなたには、やるべき仕事が山ほどあるでしょ?」


机の上に積まれた書類の山。

父はちらりと見て、苦い笑みを浮かべた。


アストル「はいはい。了解しました、当主殿」


エリス「ふふ、素直でよろしい」


そんな二人を見ながら、僕は思った。

(やっぱり母と父仲良しだね。いい家族)


でも同時に、聞き逃せない情報があった。

“盗賊団”と“冒険者たち”――そして、“森の異変”。

先程の会話

エリス「それにしても、森の変異がまた活発になってきているわ」


アストル「三年前から続いてるあれか。魔物が強くなったり、増えたり、逃げ出したり。……まるで、何かを避けているようだ」


エリス「調査隊は全滅。冒険者ギルドも手を焼いてるとか」


アストル「この国、ほんとに終わってんな……」


母の小さな溜息。

そして沈黙。


僕はスクリーンを見つめながら、ゆっくりと考えた。


盗賊団、有名な冒険者、そして森の変異。

それはまるで、僕ためにわざわざ用意してくれたもののようだ。


「……これは、もう決まりだね」


アールを抱きしめ、口元が自然にゆるむ。

最高の“カモ”たちが、自ら森に集まってくる。

ぬいトピアの資金集め――いよいよ、始動のときだ。


僕は指先で軽く空をなぞった。スクリーンが切り替わり、ぬいレイの視界がいくつも展開される。


「さて……まずは、盗賊から」


映し出された映像の中、洞窟の前でうごめく影。

粗末な鎧、山のような荷袋、金貨の光――そして油断しきった笑い声。


「本当にいた。……いや、思ったより多い。これは相当儲かりそう」


画面を切り替える。次は森の変異について。

しかし、森の中心部だけ、なぜか真っ黒なノイズが走っている。


「ん? ぬいレイが……一体も近づけない?」


ノイズが走るたび、何かの“目”に見つめられているような感覚が背筋を這う。

ぬいレイの映像が一瞬、途切れた。


「……危険、ってことかな」


さらに、理性が警鐘を鳴らす。

けれど、心の奥底では――別の感情が跳ね上がっていた。


「いいね。こういうの、最高に燃える」僕は、そう心の中で呟いた。おそらく、ぬいレイは、本能的に危険な場所だと判断して、近づけないようになっている感じかな。それだけ危険ということには変わりないけどそういうところこそお宝があると言うものだ。


ここは後で自分が自ら確認していこう。


◇◇◇


※その頃、森の中心地にて。


巨大な木々が絡み合う森の奥――

そこは、光さえも踏み込むことをためらう“黒の領域”だった。


その中心で、夜の闇よりなお深い鱗を持つ龍が、静かに息を吐く。

吐息ひとつで、数百メートル先の木々が一斉に枯れ落ちる。


「……そろそろ、“あの方”が動き出すようですね」


龍の声は、地の底から響くような低音だった。

彼の金色の瞳には、森のすべて、いや、この大陸の流れすら映し出されている。


「これからどうなるのか……いや、考えても意味はないか」


その声には、千年を超える知恵と諦観、そしてわずかな期待が混じっていた。

と――背後から、ふわりと人の声が響いた。


「トカゲちゃん、紅茶でも探してきて」


龍は、ぴたりと動きを止めた。


この広大な森を統べる存在の眉が、かすかに引きつる。

だが、声の主に逆らうという選択肢はないらしい。


「……承知しました”。」


黒き龍は光の粒となって姿を変え、人の形を取る。

漆黒の髪に金の瞳。完璧すぎる美貌を持つ青年となった彼は、

ほんのわずかに肩をすくめると、ため息混じりに呟いた。


「紅茶。最高の物を用意しなくては。」


その身が森の奥へと消える。

木々がざわめき、闇の中で何かが目を覚ました。




同時刻――ユラ視点。


「……それじゃあ、次はリア姉を観察しよう」


アールを抱きしめたまま、僕は半透明のスクリーンを切り替える。

表示されたのは、リア姉の部屋。以前は何もなかった殺風景な部屋が、今ではとてもいい感じになっている。それはすべて、僕がプレゼントしたものか、一緒に作ったものだ。


シンプルな白い丸いクッション(ぬいぐるみ生地)や、リアが一番喜んでくれた、僕を模したぬいぐるみ。他にも、ユラとリアで協力して作った、溶けない氷でできたリュリュのだらしなく寝ている姿のオブジェなど。僕がリア姉のために作ったぬいぐるみやオブジェが、部屋を温かく彩っていた。


(リア姉、何をしているんだろう……?)


そして――スクリーンの中で、リア姉が動いた。


長い銀髪が、ゆっくりと肩からこぼれ落ちる。

彼女は机の前で静かに本を閉じ、まるで“何かを察したように”、

ぴたりと顔を上げ、こちらを見つめてきた。


(え……見てる?)


心臓がどくりと跳ねた。

リア姉の蒼い瞳が、真っ直ぐにカメラ(ぬいレイ)を射抜いている。


次の瞬間、彼女は音もなく立ち上がり――

ぬいレイ(白バージョン)を、指先でそっとつまみ上げた。


「……見つけた」


その声は氷のように冷たいのに、

どこか嬉しそうでもあった。


(ま、まさか……バレてる!?)

リア姉の掠れた声が聞こえる。


(僕の額に冷や汗が流れる。

まさか、ぬいレイを通じて僕が観察してるって――


けれど、リア姉は無言で、ぬいレイを手に持ったまま、

リア姉は何かをいじくったら、ベットの横に隠し扉が現れた。


(そんなところがあったの!? リア姉も同じようなこと考えているなんて……)


僕は驚きを隠せない。リア姉も僕のように秘密の場所を持っているのだろうか。そして、そこには何が入っているんだろう?


そう思っていると、リア姉は隠し扉を開けた中には……


「!?」


そこには、たくさんのぬいレイがあった。黒いもの、白いもの、僕が作ったものが、まるでコレクションのように並べられている。


まさか、リア姉がこんなにぬいレイを集めているなんて……。僕が遠隔からリア姉を観察しているのはバレていないようだけど、こんなにぬいレイを集めるなんて、全く想像していなかった。


まあ、リア姉ならいいけど。あとで、リア姉の部屋に行って、ぬいレイを回収しておこうかな。でも、リア姉、すごく気に入ってそうだし……。


うーん。今回は見なかったことにしてあげよう。ぬいレイはたくさんあるし少しぐらいなら、リア姉になら預けてもいい。


いや、待てよ。リア姉の部屋をぬいレイだらけにするなんて、面白そうだ。

部屋中いたるとこれにぬいレイで満たす。すごく楽しそう。


「今度、やってみよ」


僕はそう呟くと、次の観察対象へと意識を切り替える。


「それじゃあ次。セリス。どこにいるかな?」




僕はそう呟き、スクリーンをセリスの部屋に切り替えた。


映し出されたのは、自室で椅子に座るセリスの姿だった。

しばらくすると、窓が小さく叩かれた。

青い小鳥が、夜の冷たい風とともに部屋へ舞い込む。

セリスは自然な動作で左手を差し出し、小鳥がそこに止まる。


「……ご苦労さま」


わずかに微笑み、小鳥の足についた小さな筒を外す。

紙片を取り出し、目を通す。その間、眉一つ動かない。


(なにそれ……かっこいい……スパイ?それで、何が書いてあるの?)


気になって、僕はぬいレイをセリスに気づかれないように操作し、手紙が見える位置まで移動させる。天井の隅に張り付く。


『厄災は約3年後に起きるとより正確に予言されました。それと、近いうちに予言の子が何者かに襲撃されるという予言も出ました。部下を数人付近で待機させています。何かあればお知らせします。セリス様もどうぞお気をつけください。 護衛騎士団長代理ナーリアより』


セリスはそれを読み終えると、表情を一切変えずに、何か準備を始めた。


(何それ……? 武器?)


セリスはクローゼットの奥から、複数の弓と、見たこともないような細工が施された短剣を取り出した。そして、さらに奥から、爆弾のようなものまで取り出す。


(戦争でもする気かな?)


普段、完璧なメイドとして振る舞う彼女の、この裏の顔。

鳩からの手紙、厄災、予言の子、襲撃、そして、称号でもあったけど、やっぱりセリスは何か英雄的な、すごい人というかエルフなんだろう。

普段はメイドで、裏ではまだよくわからないけど、今はただのメイドとして偽ったとてつもない実力者。


かっこいい。


そう思っていると、部屋の雰囲気が急変した。セリスの顔から表情が消え、殺気立った空気が部屋を満たした。そして、彼女は僕が監視していたぬいレイに向かって、急に弓を放った。


ヒュンッ!


一瞬だった。

風を切る音が、ぬいレイのすぐそばを通り過ぎた。魔法の弓矢。


(……え)


ぬいレイ(黒バージョン)の、あとほんの少しで当たるというところを、矢がかすめていった。セリスは矢が外れたことを確認すると、いつものメイドの雰囲気に戻り、ぬいレイの方へ近づいていく。


「あら、ユラ様が作った小ぬいぐるみ?手紙を読んだ後だったから、つい警戒しすぎてしまいましたね」


セリスはぬいレイを手に取り、優しく撫でる。


「それにしても、いったいどうしてこんなところに? 全く、いつも本当に変なところに置くんだから」


その言葉と、穏やかな表情に、僕は安堵の息を漏らす。が、落ち着きと同時にこみあげてくる恐怖。


……怖い。


泣きそう。さっき、視界を共有していたせいで、本当に怖かった。今はアールに憑依していないから、あの万能感がない。もしアールに憑依していたら、きっと笑い飛ばせただろう。でも、今は、そんなことはないただの幼い子供だ。


(セレス怖い。普段優しいのに……少し距離置こうかな)


気を取り直して、最後はリュリュを探そう。


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