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ぼっちが転移で自由人。  作者: 浅野陽翔
迷宮攻略とか何そのヌルゲー
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バイコーン

 それから、半月以上が経過し。

 霧也たちはついに、八十階層に到達した。

 六十階層台が一日一階層、七十階層台は三日で二階層ほどのペースだったので、魔人と戦った日から数えると二十日といったところか。もちろん、あくまで大体だが。

 そして現れた、八十階層のボス。

 それは、かつて霧也が消し炭にしたユニコーンと対を成す存在と言えるだろう魔獣・・、バイコーンだった。

 そう、魔獣。魔物とは違う、魔界に存在する獣だ。通常、魔属性の魔法でのみ呼び出すことが出来、その力はそこらの魔物を遥かに超える。

 黒い体毛に、二本の角を持つバイコーン。先日のユニコーンよりも強い力を持っているのは、ここが八十階層のボス部屋であるという事実からも、そして、バイコーン自体が持つ雰囲気からも明らかだった。

([鑑定])

 相手の力がどの程度なのか知ろうと、霧也は[鑑定]を発動する。しかし、

「……あれ」

 ステータスが、表示されない。

 これは霧也が知る由もないことだが、本来、魔獣やかつてソニアが呼び出した悪魔、また、聖獣も、ステータスなどというものは存在しないのだ。何故なら、その両方とも、『魔界』や『精霊界』という、別世界の住人なのだから。

 ならば、何故あのユニコーンはステータスが表示されたのか。

 それは、長らくこの世界に居着いていたことにより、こちらの世界の“システム”に適応したから。霧也は今までやったことがないが(忘れていただけ)、ロウも[鑑定]したところでステータスは表示されなかっただろう。まだこちらの世界に来てからあまり経っていないし、精霊界にいることが多いからだ。

 閑話休題。

 眉をひそめる霧也を見たソニアが、不思議そうに問いかける。

「ご主人様? どうしました?」

「……いや、[鑑定]が効かねぇから……ま、いいか」

 見えなくても大した問題ではないだろう、と、すっぱり切り捨てた霧也。相変わらずである。

 ただまぁ、前回、七十階層のボスの強さや、各階層のボスの強さの差を考えてみても、このバイコーンはまだまだ余裕で勝てる相手、のはずだ。霧也の態度が変わるはずもない。

「でさ、霧兄。そろそろ入らない? あの馬、ずっとこっち睨んでるよ……」

 沙菜の言うとおり、扉を開けてからずっと、バイコーンは霧也たちを睨みつけている。ボスがボス部屋から出ることは出来ないので、霧也たちが入らないと何も出来ないのだ。

「あぁ、そうだな」

 そう返した霧也が、一歩足を踏み出した、その瞬間。

「わぅっ!」

「うおっ、と」

 突如精霊界との門(比喩表現)が開き、ロウが現れる。

 ロウは霧也の前に降り立つと、そのままバイコーンを睨んで、「グルルル……」と威嚇するように唸り始める。

「……ロウ、どうした?」

 訝しげな霧也の問いかけにも、ロウは答えない。その後ろ姿はまるで、自分が戦うんだと、そう訴えているようで。

「お前、やる気か?」

「わぅっ!」

 もちろん! と、そう答えるように一つ吠えるロウ。

「お前に勝てる相手じゃねぇってことぐらい、分かってんだろ」

 霧也の言うとおり、今のロウでは、あのバイコーンには遠く及ばない。どころか、十階層のボスであるエルダートレントといい勝負だろう。いくら聖獣とはいえ、ロウはまだまだ幼いのだ。

 しかしロウは、それを聞いてなお、その態度を変えようとはしない。

 霧也は、諦めたようにため息を吐くと、

「……分かった、好きにしろ」

「わぅっ!」

 ロウは答えるように鳴くと、バイコーンへ向け駆け出す。対するバイコーンは、まるで親の敵を見るような目で、ロウを睨んでいた。

「聖獣と魔獣って、仲が悪いのかしらね」

「……今度から、《召喚サモン》を使うときは近くにロウちゃんがいないか確認しましょうか……」

 聖獣に襲いかかられては堪らないと、ソニアが一つ決心する。

 そんな間にも、ロウとバイコーンの戦いは始まっていた。

 小柄な分、ロウの方がいくらか俊敏さに分があるか。しかし、いくら引っかき、噛み付こうとも、バイコーンにダメージが入った様子はない。

 獣として、生物として格が違うのだ。赤子がいくら大人を攻撃しようとも大したダメージにはならないように、ロウがいくらバイコーンを攻撃しても、バイコーンに傷は付かず、ただロウの体力を徒に消耗するだけ。

 次第に、バイコーンはロウの攻撃に対応しようとすらせず、ただ無駄な攻撃を続ける小さな狼を蔑んだような目で見るようになる。

 その屈辱的な視線を受けたロウがよりいっそう攻撃を激しくするが、やはりダメージは入らない。

 ロウは物理攻撃だけではなく、ユニコーンも持っていた[聖獣の加護]による聖属性魔法も使い始めるが、魔獣に対しては特に大きな効果を発揮するはずのそれも、バイコーンには通らない。未熟な体で放った魔法などでは、いくら聖獣でも、いくら聖属性でも、バイコーンにダメージを与えることは出来ない。

 ロウの動きが精細を欠き始める。絶え間ない攻撃による体力の消耗と、魔法の乱発による魔力枯渇だ。

 それでも攻撃をやめないロウだが、いい加減にそれを煩わしく思ったのだろう、バイコーンがついに反撃に打って出る。

「――ヒィィィイインッ!」

 ユニコーンとは違う、馬に近い鳴き声を発したバイコーンは、そのまま足元をうろちょろと動き回るロウを蹴り飛ばす。

「きゃんっ!」

 成す術なく吹き飛ばされるロウ。壁に激突し、土煙が上がる。

 バイコーンは、そんなロウからはとっくに興味を失ったかのように、標的を変える。

 そして、次に狙われたのは――

「……えっ?」

 ――沙菜であった。

 いや、だって、ロウに見せ場がなかったから。まぁ、今回はボコられただけだけど。

 大丈夫、次回活躍する予定です。

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