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ぼっちが転移で自由人。  作者: 浅野陽翔
迷宮攻略とか何そのヌルゲー
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自分の力

 ……うん。なんかめっちゃ長くなったし、無駄に真面目な話になってしまった。

 最近は、休日前しか襲われなくなった霧也。

 自分の時間が出来る! と、やっと手にした自由な夜の時間、霧也はいつも、本を読んでいた。

 もちろん、こちらの世界の本だ。技術の発展していないこの世界では、紙もとても高価なものだし、まして本など、それこそ今霧也がいるような王都などの、大規模な都市でないと買うことなど到底不可能である。そもそも、識字率もさほど高くないので、本を売るメリットが少ないのだ。

 そんな理由でとても貴重な本だが、当然字は読める上、金にも余裕のある霧也は、少しでも興味を引かれるものを見つけるたび、迷わず購入していた。召喚前から、本は好きだったのだ。

 小説はもちろん、伝記や歴史書、果ては魔法やなんかの教本に至るまで、数は少ないくせして種類だけは豊富な本の数々。霧也は既に、百を超える数の本を所有していた。まぁ、まだその全てを読んだわけではないが。

 そして、霧也が現在読んでいるのは、『ヴァルネイア冒険記』という本。その名の通り、世界中を旅したという探検家、ヴァルネイア=ネクトが残した冒険記だ。

 なんでも彼は、旅の合間合間に日記を書いていたらしく、世界中を見て回って隠居を始めてから、自分の冒険を後世に残していきたい、と考えたそうだ。

 笑いあり涙ありのストーリーに、世界各地の情報や、数ある謎に対するヴァルネイアの考察まで載っているこの本、どうやらベストセラーらしく、読書家ならこれを読まない手はない、とこのアルカイナ王都に一つだけある本屋の店主に太鼓判を押されたのだ。

 実際、霧也からしても向こうの世界の本にも劣らぬ面白さで、結構気に入っている。これを薦めてくれた店主曰く、この本の作者であるヴァルネイアはまだ生きているらしいとのことなので、機会があれば是非とも会ってみたいものである。

「……ん、もう終わりか」

 上・中・下巻の三部構成で、中々の大長編な冒険記の中巻を読み終えた霧也は、ベッドに仰向けに寝転がった体勢のまま、本を枕元に置く。……普通であれば、こんな分厚い本を長時間持ち上げていたら腕が使い物にならなくなりそうだが、さすが、霧也の体力スタミナ値はチート級である。

「そういや、下巻は売り切れてたんだっけか……。取り寄せてくれるっつってたけど、もう届いてっかな」

 明日迷宮ダンジョンに行く前に寄ってみようか、と考えながら中巻を《時空庫ストレージ》にしまった霧也。灯りを消すために立ち上がったと同時に、コンコン、と扉をノックする音が。

 どうせついでだし、と霧也が扉を開けるとそこに立っていたのは、

「……天野。珍しいな、なんか用か?」

「やぁ。こんな時間にごめんね。少し、聞きたいことがあってさ」

「そう思うなら、もっと早く来るか、明日に回せっつの。入れ」

 霧也が扉を大きく開けて促すと、「お邪魔します」と言いながら入ってくる紘輝。霧也は、所在なさげに立ち尽くす彼を、部屋に置かれた椅子に座らせる。

「ソニアさんたちは、いないんだね」

「女子会だとか言って出て行ったぞ。多分、橘とか遠野あたりと喋ってんだろ」

 霧也がソニアたちと同じ部屋で過ごしているという事実にすっかり慣れてしまった様子の紘輝の言葉に、霧也は最低限のもてなしとしてお茶を用意しながらそう返す。普段なら絶対にしない行動だが、冒険記を読んだときの高揚感が残っているのだろう。

「ほれ」

「ありがとう、いただきます」

 テーブルに置かれたティーカップを手に取り、軽く冷ましてから一口飲む紘輝。

「……美味しい」

「まぁ、いい茶葉使ってる上に、ソニアがやってんの見てるしな。スキルだってあるし」

 自身もお茶を口に含みながら、紘輝の言葉にそう返す。

(……でも、アイシャには届いてねぇ気がすんだよなぁ)

 なんて、いつだかアイシャに淹れてもらったお茶を思い出しながら考える霧也。

 ティーカップを置いた霧也が問いかける。

「で、聞きたいことってのは?」

 それに、紘輝もティーカップを置き、まっすぐ霧也の目を見ながら答える。

「君の、強さの秘訣を教えてほしいんだ」

 そう、強さの秘訣。夕食の後、琴音と話していたことだ。

「……強さの秘訣っつったってなぁ……スキルのことは話しただろ?」

「確かに聞いたよ。でも、そうじゃない。俺が聞きたいのは、そうだな……技術面、と言うべきなのかな」

「技術? なんで俺に」

「……君はさ、その[完全模倣コピー]っていうスキルがランクⅡになるまで、大したスキルは持っていなかったんだよね?」

 その紘輝の問いに、霧也は頷きを返す。

「それでも君は、ステータスでもスキルでも、経験でも勝るはずのアイシャさんと――近衛騎士団の副団長と、互角に渡り合ってみせた。それは、ひとえに君の技術が飛び抜けていたからじゃないのか?」

「……さぁ、それはどうなんだろうな。確かにアイシャにはセンスがいいって言われたけど、剣技自体はアイシャに仕込まれたもんだし、最後の模擬戦だって、意表を突いてなんとか引き分けまで持ってけただけだ」

「謙遜、するんだね。仕込まれた剣技を使いこなせたのは君の力だし、普通、意表を突くだけで騎士と互角に渡り合えたりはしないと思うよ?」

「それはあくまで一般論だろ。それに謙遜じゃねぇ。単純に、自分の力を信じてねぇだけだ」

 さらりと口にしたその言葉は、未だ誰にも話したことのないことだった。

「……信じてない? そこまで大きな力を持っているのに?」

「そうだな、確かにでけぇ力だよ。姿形を複写コピーして、物を複製コピーして、他人ひとのステータスやスキルを模倣コピーする。その上、模倣コピーしたステータスは更に倍に出来ると来たもんだ」

「そうだよ、そんな力があれば、誰にだって負けないじゃないか!」

「――SSで、千五百ってとこだろうな」

「え?」

 いきなり発せられたその言葉の意味が分からず、紘輝が首を傾げる。

「魔物のステータスだよ。俺が見たことあるのは、最大でSS。勝手な推測だが、多分人間こっち基準に直したら、千五百くらいだ」

「……それでも、君の方が圧倒的に強いだろう?」

「あぁ。それと比べてもまだ、倍以上のステータスがあるな。でも、上限が一体どこまであるのか、検討もつかねぇ。それに、魔物のステータスだけは模倣コピー出来ねぇ」

「君より強い敵がいるかもしれないって言うのかい? ……あり得ないよ。もし村崎君以上のステータスを持つ魔物がそんなにいるんなら、とっくにこの世界は魔物に支配されていてもおかしくない」

 首を振り、そんな推測を話す紘輝。しかし霧也は、それに対して更に首を振る。

「単純に、今まではいなかっただけかもしれねぇ。数の暴力には抗えないと考えたのかもしれねぇ。もしかしたら、俺たちには興味がなかっただけかもしれねぇな。……ともかく、前例なんざなんのアテにもなりゃしねぇんだよ」

 霧也はカップに残ったお茶を全て飲み干すと、目を伏せながら口を開く。

「……俺の力は、所詮他人ひとのを模倣しただけのもんだ。もちろん元は俺のスキルだから、借り物の力なんて使いたくないとか、綺麗事を言うつもりもねぇ。でも、それでも人間の限界は超えらんねぇ。……なぁ。天野、お前さ、あわよくば俺に魔王討伐に参加してもらおうとか、考えてただろ」

「っ!?」

 考えていなかった――と言うと、嘘になってしまう。もちろん、当初の目的は、霧也に言った通り、彼の強さについて教えてもらうこだった。しかし、機会があれば説得も考えていたのだ。

 そんな素振りは見せなかったはず。なのに見透かされた自分の思惑に思わず身を硬直させた紘輝を見て、霧也はやっぱりな、と呟く。

「……ガラじゃねぇけど、俺にも守りたいもんってのが出来ちまった。多分――いや、間違いなく、魔王は今まで戦ったどんな敵よりも圧倒的に強い。それこそ、五十階層で戦ったキマイラロードなんかも相手にならないほどに。もしかしたら、一対一なら戦えるかもしれねぇ。だけどな、俺はそんな勝手な憶測を信じるほど馬鹿じゃねぇし、都合よく一対一で戦える状況になると考えるほど楽天家じゃねぇし……何より、誰かを守りながらでもそんな強敵と戦って勝てると思うほど、自信家でもねぇんだよ」

 霧也のその言葉で、紘輝は彼が自分たちと協力して魔王と戦ってくれることなど、万に一つもないのだと悟った。いや、そう確信した。霧也が変なところで頑固なのは、短期間ではあるがともに過ごしてきた紘輝は、十分に知っていた。

「……そうか、ならそれは諦めるよ。でも――」

「悪いが、戦闘技術がどうこう言われても、俺にはどうしようもねぇぞ。自分にそんな技術があるとも思っちゃいねぇし、あっても教えられるほど熟達してるわけでもねぇからな」

 紘輝の言葉を遮って断る霧也。それに紘輝は、思わず苦笑してしまう。

「……分かった。俺はそろそろ部屋に戻るよ。迷惑をかけたね」

「ホントだよ、さっさと帰れ」

 しっしっ、と手で払うようにする霧也。

「それじゃあ、また明日もよろしく」

 紘輝はそう言い残し、部屋から出て行く。

 消灯し、ベッドに寝転がった霧也が呟く。

「……ホント、ガラじゃねぇよな。あんな無駄なことまで話すとか」

 ふん、と鼻を鳴らした霧也は、紘輝の来訪により妨げられた眠りにつくため、目を閉じる。

 もちろん、ロウを呼ぶのも、忘れてはいなかった。

 ソニアさんたちは、この後割とすぐ帰ってきたそうです。霧也が眠りに入る直前に帰ってきたものだから、安眠を妨害された霧也が不機嫌になったとか、なってないとか。

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