神マッサージで勇者来た。
ソニア可愛いです。あと、サブタイの文脈がおかしい。
「……ちょっと待て」
少し照れてしまっていた霧也だが、ソニアの口から聞こえた不穏な単語に顔の向きを戻し、ソニアと目を合わせる。ソニアは両手で顔を挟んできゃあきゃあ言っていたが、霧也は無視した。
ソニアは、霧也の言葉に正気を取り戻し、霧也を見返す。ニマニマしながら。
「何でしょうか、ご主人様」
「それだよ、それ。そのご主人様呼び。急に何?」
「……いけませんでしたか?」
「ゔっ……」
(なんか変な気分になるからやめさせようと思ってたんだけど……)
目を潤ませながら言われると、さすがの霧也も弱ってしまう。ソニアのこれはある意味才能だ。
「……ったく。分かった、もうそれで良いよ……」
「えへへ、ご主人様っ!」
「くっ……」
(わんこだ。こいつぜってぇわんこだよ)
ソニアの嬉しそうな様子は、霧也がピンと立った犬耳とブンブン振り回される犬尻尾を幻視してしまった程だ。
「はぁっ。なぁソニア、飯まであとどれぐらい時間ある?」
「2時間程です」
嬉しそうにしながらもしっかり答えるソニア。メイド長の名は伊達じゃない!
「2時間か……スキルが気になるけど、それは後で良いか。ソニア、この城に俺が読んでも問題無い本はあるか? この世界について知っておきたい」
「でしたら、召喚された勇者達に利用が許された書庫があります。そこであれば、ご主人様も自由に出来るかと」
「分かった。じゃ、案内してくれ」
「かしこまりました」
ソニアは、恭しくお辞儀をする。メイド長の名は本当に伊達じゃないのだ。
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「んーっ」
書庫にある本を適当に読み漁っていた霧也は、疲れたのか伸びをして気持ち良さそうな声を漏らす。
「ご主人様、マッサージはいかがですか?」
そして、霧也が本を読んでいる間、お茶を入れたり読み終えた本を戻したりと甲斐甲斐しく世話を焼いていたソニアが、そんな提案をする。
実際、ずっと下を向いていたせいで肩が凝って来ていた霧也は、肩をクイッと差し出して了承の意を示す。
その行動はソニアにちゃんと伝わったようで、ソニアは霧也の後ろに立つと、両肩に手を置く。そして、一揉みっ。
「ふおぅっ!?」
その瞬間、体をビクッと動かしておかしな声を上げる霧也。
ソニアは驚いたようで、手を離して若干後退る。
「ご、ご主人様、どうしました!?」
「あ、あぁ、いや、何でも無い。ちょっと気持ち良すぎただけだから。マジで。続けてくれ」
「は、はい……」
恐る恐る戻ったソニアは、再び霧也の肩を揉み始める。その度に霧也の口から漏れる声。あーとか、うおーとか、ふへぇーとか、表情と共にどんどん蕩けて行く。
「なんか、すっげぇ眠くなって来た……」
瞼を重そうにしながら言う霧也に、ソニアは微笑を浮かべる。
「お食事の時間になったら起こしますので、そのまま眠ってしまってもよろしいのですよ?」
「じゃあ、遠慮無くそうさせてもらうわ」
そう言って、霧也は机の上の本をどけて空いたスペースに突っ伏す。
「そんじゃ、おやす――」
「あれっ、そこにいるのは村崎君かい?」
そして夢の世界へと旅立とうとした時、その声が聞こえた。
良く聞くが、自分に向けられる事はほとんど無かったその声に、霧也は煩わしそうに身を起こす。
「……はぁ」
そしてこちらを見るその姿を視界に収め、霧也は思わず溜め息を吐いてしまう。
無視して再び眠ろうとする霧也だが、念の為色々な人とコミュニケーションを取っておいた方が良いかと思い直し、口を開く。
「んだよ、天野」
そう、声をかけてきたのは、霧也の高校随一のイケメンにして召喚されし勇者である、天野紘輝だった。
ちなみに、面倒臭そうな言い方をする霧也だったが、その実、ソニアの神憑り的マッサージテク(継続中)により声も顔も蕩け切っていたので、威厳など粉微塵も存在しない。
霧也がしっかり返事を(ふにゃっとしているとはいえ)して来た事に目を見開く紘輝だが、すぐに学校中の女子を虜にした勇者スマイルを浮かべる。
「いや、この世界について知っておきたいと思ってね。部屋まで案内してくれたメイドさんに、ここの事を聞いたんだ」
「ふーん」
(なるほど、同じ事を考える奴もいるんだな)
適当な返事をする霧也を尻目に、紘輝は当然のように向かいの席に座る。霧也はそれを見て辟易したように目を細め、ソニアの手を叩いてマッサージをやめさせる。
(と言うか、ソニアは何故天野を無視してマッサージ続けてたんだ……)
と言う思いを込めてソニアを見ると、ソニアは一瞬目を合わせた後すぐに目を逸らす。霧也の目に込められた思いに気が付いたのだろう。
霧也は内心溜め息を吐いて読書を再開しようとするが、紘輝がそれを許さない。
「村崎君、そこのメイドさんは?」
(絡んで来やがった……)
嫌そうな顔を隠そうともしない霧也だが、紘輝はそれを柳に風とばかりに受け流す。霧也は3度目の溜め息を、今度は声に出して吐こうとするが、それより早くソニアが口を開く。
「メイド長兼、ごしゅっ……キリヤ様の専属メイドをさせて頂いております。ソニア=グランディと申します」
「……専属メイド? と言うのは、何だい? 村崎君」
首を傾げて聞いて来る紘輝。霧也としては、そういう行動をイケメンが取るなと言うばかりだ。彼自身見た目は良い方だと言う自覚は、霧也には皆無である。
「俺に聞くんじゃねぇよ……なぁ、ソニア。ここにある本って、部屋に持って帰ってもいいのか?」
「はい、問題ありません」
「そうか」
紘輝と一緒にいてもゆっくり本など読めないと察した霧也は、それを聞いて早々に席を立つ。紘輝が「あ、ちょっ」とか言っているが、霧也はやはり気にしない。
そして、とても自然に本を持とうとしたソニアを制止して、少し驚いたような顔をするソニアの頭に手を乗せ、ふわっと微笑んで一言。
「いくらメイドっつったって、女の子に荷物は持たせらんねぇよ」
ソニアの顔は真っ赤になった!
霧也は昔、1度だけ沙菜に言われた事があった。「霧兄って、時々気障な言動取るよね。しかもそれがナルシストに見えないの」と。
(あー、何か、またやっちまった感が……)
遠い目をする霧也だった。
あの霧也が蕩けるマッサージ。気になる!
……え、勇者? 誰それ、知らない。




