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ぼっちが転移で自由人。  作者: 浅野陽翔
とりあえず、異世界だから冒険者
33/271

という訳で、さようなら。

「という訳で、この街を出て行こうと思います」

 宿に戻った霧也は、開口一番、そんな宣言をする。

 それに対し、首を傾げるソニアとリラ。

「なんで(ですか)?」

「だって、このままこの街に留まってたら、絶対あいつら絡んでくるじゃん」

 あいつらとは、お察しの通り、異世界組クラスメイトの事である。確かに彼等なら、というか紘輝と琴音なら、何かしらの手段で霧也が泊まっている宿を調べて乗り込んでくるくらいの事はしそうである。

 それを察したソニアは、なるほど、と頷くが、事情を知らないリラはそうはいかない。

「そもそも、さっきギルドにいた人達は誰なのよ?」

「……あぁ、そっか、そこからか……」

 霧也がめんどくさそうにそう呟き、目線でソニアに丸投げする。その意図を汲んだ彼女は、リラに向かって説明を始める。

「リラさん。1ヶ月程前に、この国の王城で勇者召喚が行われたのはご存知ですか?」

 そう問いかける口調は、霧也に対するときよりも丁寧である。霧也の専属メイドなはずなのに、何故だ。

「……あぁ、そういえば、そんな噂を聞いた気がするわ。異世界から、魔王を倒すために勇者を召喚したとか……」

 勇者召喚については、霧也達がこの世界に転移して1週間程が経った頃に、エルガド王国全体に向けて発表したと、国王であるアルフレッドにより聞かされていた。

「その通りです。そして――」

 ソニアが一瞬溜め、リラにまっすぐ視線を合わせて、口を開く。

「ご主人様も、その1人なんです」

「へぇ、そうなの」

「反応薄くないですか!?」

 あろうことか弓の手入れなんてことをしながら言葉を返すリラに、ソニアが思わず腰を浮かせてツッコむ。しかし、

「そりゃ、あそこまで言われたら、なんとなく予想は付くわよ」

 と、いうことらしい。

 確かにその通り。あんな前置きがあったら、「霧也が異世界人」ということ以外にどう繋げるのか考える方が難しいだろう。

(だけど、そこはちょっと大げさにリアクション取って欲しかったよな)

 霧也がベッドに寝転がりながらそう考える。オーク戦以上の寛ぎモードである。宿屋の部屋である以上なにもおかしい事は無いのだが。

「……そ、そうですか、そうですよね。……こほんっ。それでですね、先程ギルドにいた方々も、その勇者召喚により召喚された勇者達なんですよ、ご主人様と同じで」

「まぁ、職業が勇者になってたのはあの金髪だけだったけどな」

 霧也が眠そうにしながらそう補足する。

 放っておくと眠ってしまいそうだったので、ソニアがすかさず膝枕をする。これには霧也もリラも、全く意味が分からない。むしろ寝る。

 そのまま霧也の頭を撫で始めるソニア。甘やかしモード全開である。霧也の瞼が落ちていく。

 だからリラは、とりあえず、阻止してみることにした。

「――《風爆バースト》」

 右手を向け、詠唱を挟んで、魔法を発動する。

 風属性魔法ランクⅡ、《風爆バースト》。指定した場所に空気を圧縮し、開放する魔法だ。その爆発自体に殺傷力は無いが、威力は十分。リラでも熊くらいなら簡単に吹き飛ばせるし、魔法攻撃力の値が常人の20倍ある霧也なら、軽トラックくらいなら飛ばせるのではないだろうか。下手をすれば、バスでも一瞬浮かせるくらいは出来るかもしれない。

 もちろん威力を抑えて放たれた魔法それだが、場所のコントロールは精確で、霧也とソニアのちょうど間で爆発が起きる。するとどうなるか、

「おぼっ!?」

「ぐへっ」

 霧也は顔面から壁に突っ込み、ソニアは反対側の壁に背中を激突させる。

「全く……説明中にイチャイチャし始めるんじゃないわよ。それで? そんな異世界人のキリヤは、なんでこんなところにいるのかしら?」

 リラのその質問に、霧也が顔を抑えて起き上がりながら答える。

「っぅ……。俺が王城から出てきたんだよ」

「何それ、家出?」

「ある意味な。俺は束縛ってのは、するのもされるのも大っ嫌いなんだ。魔王討伐のために王城に縛られなきゃいけねぇんなら、俺はさっさと出るさ」

「そういうこと。要するに、キリヤが我儘なのね」

「なんでだよ……まぁそういう訳で、あいつらに絡まれたくないから、さっさとこの街を出て行く。ソニア、なんかいい行き先ねぇか?」

 リラへの説明を終えた霧也が、ソニアの方を見てそう問いかける。

 ソニアは涙目で背中を擦りながら問い返す。

「と、言われても、何かしらの条件がないと絞るに絞れないんですけど……」

 やはり、霧也が相手になると口調が若干崩れている。まぁ、霧也は相変わらず気にしないのだが。

 ソニアの質問に霧也は少し考えて答える。

「……じゃあ、『冒険者っぽいこと』がしたい」

「冒険者っぽいことですか……あ、それなら、アルカイナ王国などはどうでしょう? ここ、エルガド王国の隣国で、世界で唯一『迷宮ダンジョン』が存在する国です。迷宮ダンジョン自体謎が多く、まだあまり分かってはいないのですが、中には強力な魔物と、希少なお宝が存在する、とのことです。詳しいことは実際に聞いてみないと分かりませんが、多くの冒険者が挑戦しているそうですよ」

「よし行こう。今すぐ行こう……ふあぁっ」

 「迷宮ダンジョン」と聞いたあたりでアルカイナ行きを決めていた霧也が早速部屋を出ようとするが、口から欠伸が漏れる。

「……やっぱ明日にしよう」

 睡眠欲に抗う気はないらしい。

 霧也はそのままベッドに戻り、眠りについてしまう。ソニアとリラは完全に放置である。

「本当に自由ね、キリヤは……」

 リラが呆れたようにそう呟く。

 するとソニアが、リラの方を見て、少し真剣な表情になって問いかける。

「それで、リラさんは、アルカイナへ付いてくるんですか?」

 その質問に、リラは首を傾げる。

「それは、どういう意味かしら?」

「いえ。確かにリラさんはご主人様に借金をしていますが、それを返すためにわざわざ付いてくる必要もないのではないか、と思いまして」

「あぁ、なるほど、そういうことね。……もちろん、付いて行くわよ。お金を返すのにも都合がいいしね」

 リラがその言葉通り当然といった様子で答えるが、ソニアは疑惑の目を向ける。

「本当に、それが理由ですか?」

「え? 何よそれ、どういう意味?」

「ですから、他にも何か、もっと重要な理由があるのでは、という意味です。……例えば、ご主人様のことが……とか」

 ソニアは言葉を濁したが、そこに含まれた意味は十分に伝わる。

 それを理解したリラが聞き返す。

「貴女は、そうだと本気で思っているの?」

「はい、思ってます」

 間を開けずに答えるソニア。

 それにリラは、諦めたように口を開く。

「……そうよ、その通りよ。あんな、ある意味命の危機から救われたら、いくらついでだって言ったって、誰でも……」

 頬をほんのりと赤く染め、少し目を逸らしながら、そう話すリラ。

 それを見たソニアが、少し楽しそうに呟く。

「ふふっ……こんなの、ご主人様には絶対に聞かれる訳にはいきませんね」

「……そう、ね。キリヤ、ちゃんと寝てるわよね……?」

「……多分、大丈夫だと思います。……多分」

 ソニアが自信なさげにそう返す。

(……実はまだ起きてるなんて、絶対言えねぇ)

 霧也は、気まずそうにそう考えるのだった。


==========


 翌朝。

 しっかりと寝た霧也に対し、ソニアとリラは眠そうだ。どうやらあの後部屋に戻り、ガールズトークで盛り上がっていたらしい。

(あれ、うるさかったんだよな)

 霧也がそう考えるが、決して口には出さない。出してはいけない。

 宿屋を出る霧也達。すると、

「やぁ、キリヤ君!」

 宿屋の前に誰かが立っている。

「……あれ、副団長さん。どうした?」

 そう、エルガド王国騎士団副団長、アルク=クレントだ。

「いや、君がこの街を出るって聞いてね。僕も任務上君と一緒にいなきゃだめだから、迎えに来たという訳だよ」

「何それどこ情報だよ……こえぇんだけど」

「もちろん、自分で調べた情報だよ」

 胸を張ってそう答えるアルク。それに霧也は、複雑そうな表情をする。

「いや、セイグラッドここ出るって決めたの宿の部屋だし、その後も宿の外出てねぇはずなんだけど」

「まぁ、色々あるんだよ」

「なんだそれ、絶対『色々』で片付けたくねぇな……まぁいいや。ソニア、リラ、さっさと行こうぜ」

「はい」

「えぇ」

 そうして3人(と1人)は、旅に出る。

 とりあえず、第1章はこれで完結です。結局何がしたかったんだろう。

 次回から第2章、の前に、プロローグと1章の間にやった幕間のおまけとか、色々挟みます。

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