なんか再会しちゃった。
「――げっ」
依頼を終え、“冒険者の街”セイグラッド、その冒険者ギルド本部の扉を開いた霧也は、思わず、と言った様子でそう呟く。
「どうしました? ご主人様――あっ」
中に何かあったのだろうか、と扉を覗き込んだソニアも、同じような声を上げる。
しかし、その理由が全く分からないエルフが1人。
「何よ、2人して。ほら、早く行きましょう?」
そう言いながらリラは、ズカズカとギルドに入っていく。
ところで、彼女はエルフである。エルフは総じて顔の造形が美しい、というのは、この世界でも、……いや、この世界ではどうか分からないが、少なくとも地球のサブカル的には常識中の常識だ。
それはともかくとして、リラは、普通にしているだけでも人目を引く。
――ましてそこにいるのが、思春期の少年達であれば、尚更に。
この日、この時は、珍しく、3、40人程の団体がここに来ていた。その初心者達は、全員が、16、7歳の少年少女。つまり、霧也のクラスメイト達であった。
霧也はその姿を、ギルドの扉を開いたところで目にしていた。だからすぐには入らなかったし、こいつらがいなくなるまで待ってようか、などと考えたりもした。もちろん、彼等の姿を知っているソニアも、霧也のその意図を察して、中に入ったりはしなかった。しかし、リラは全く事情を知らないのだ。
堂々と入って、当然のように男子達の視線を集めるリラ。そしてもちろん、その視界には、リラの近くにいた霧也の姿も入る訳で。
「村崎君!?」
最初に声を上げたのは、やはり、と言うべきか、勇者・天野紘輝。
「霧也君だ! 何で!?」
次は、これまたやはり、聖女・橘琴音。
「…………」
それに対し霧也は、まさかのガン無視である。さすがのソニアも、この状況なら何かしら反応はすると考えていたのだろう。驚いたような表情をしている。
しかし霧也は、そちらも気にはせず、ランクⅢ依頼の受付がある2階に続く階段へと向かう。先行していたリラを追い抜くほどのスピードで。
(だって面倒じゃん?)
霧也が内心で、誰かに言い訳している。
「ちょっ、村崎君、待って! 待ってくれ!!」
しかしクラスメイト――というより、紘輝と琴音は、そんな霧也を走って追いかける。そう、歩いている霧也に対して、走ってだ。よく見ると、霧也の周りを、うっすらと紫色のスパークが飛んでいる。
「ちょっと、キリヤ! 速いわよ!」
リラの抗議の声も聞かずに、霧也は階段を上って、2階の受付に到着する。
そのまま達成報告をしてやろうと考えた霧也だが、
(やっべ、飛ばし過ぎた)
ソニアとリラがまだ追いついていないのだ。
依頼をパーティーで受けた場合、達成報告は、特殊な場合を除いて、パーティー全員で行わなければならない。特殊な場合、というのは、どうしても全員が揃わない場合だ。つまり、依頼中にパーティーメンバーが死亡した場合、など。
もちろん霧也のパーティーは、全員しっかりと健在である。だから、ソニア達が来るまで報告が出来ない。そして、ステータス的に、ソニア達よりも紘輝達の方が早く追いつく事になる。
それを理解した霧也が深くため息を吐くと同時、紘輝達が階段を駆け上がって来る。
「はぁっ、はぁっ……やっと、追いついた。村崎君、速すぎないか?」
紘輝が息を切らしながら言うが、霧也はどこか虚空を見つめている。ソニア達が来るまでこうしているつもりなのだろう。
「村崎君。急にいなくなるから、皆君の事を心配していたんだよ?」
「そうだよ、霧也君。エステリア様には、何故か『大丈夫ですよ』って言われたけど……」
その琴音の言葉に、霧也が軽く反応を見せる。と言っても、少しだけ眉を上げるだけという、注意深く観察していないと見えないほどの小さな反応ではあったが。
(エリー……)
霧也は心の中で、それだけ呟く。
おそらくエステリアは、事情を知らないフリをしながらも、霧也が自由に動けるように、クラスメイト達に声をかけておいてくれたのだろう。彼等が何故この街に来たのかは分からないにしても、結局遭遇してしまった訳ではあるが、さすがにそこまで手が回るものでも無い。簡単にとはいえ、計らってくれただけでも十分、と霧也は考える。
(……それにしても)
「モノマネ、全然似てねぇの」
霧也が思わずそう呟き、笑う。
それを聞いた琴音が、羞恥で顔を真っ赤に染める。しかしそれを気にせずクスクスと笑い続ける霧也。
そんなことをしている間に、ソニア達も2階に到着する。
「何でキリヤ、そんなに速いのよ……歩いてるだけなのに……」
リラは、故郷でよく狩りをしていたと言う。そのためか、特に息を乱した様子もなく文句を言っている。
「……そうですね。ご主人様にはもう少し、私達のことを考えて欲しいです」
ソニアも、口を尖らせながらそう言う。
それに、片手を上げながら、悪り、と簡単に謝る霧也。
そして、その光景――美女2人と気軽に会話を交わす元ぼっち、という光景に、怨嗟の声を撒き散らす紘輝を除くクラスメイト男子一同。女子の大半は、目をキラッキラさせている。色恋沙汰大好き系女子(新ジャンル)の方々だ。
それに気が付いた霧也は、再び、今度は軽めにため息を吐き、
「さっさと報告しちまおうぜ」
そう言って受付へと向かう。
それに対し、紘輝がまた声をかけてくるが、完全に無視である。ソニアとリラも同様だ。どうやら、リラのスルースキルも順調に育てられているらしい。早い。
依頼票と3人分のギルドカードを受付に置く霧也。
「はい、達成報告ですね。少々お待ち下さい」
それに対応したのは、1階でランクⅠ・Ⅱの受付をしていたはずのサーラだった。霧也がゴレフと闘ったその日に、2階の担当になったらしい。本人の希望では無く、ゴレフに勝手に決められたのだと言う。霧也的には、下手に人間関係の輪を広げずに済むので好都合である。異世界に来てコミュニケーションがかなり増えたとは言え、基本的な性格も、考え方も、そう変わるものでは無いのだ。
「……はい、確認できました。今回は常識的な結果でしたね。それでは、ギルドカードをお返ししますね。そしてこちら、報酬になります」
「あぁ」
サーラの言葉に苦笑しながらギルドカードと報酬を受け取る霧也。クラスメイトの全員が、その黄金の輝きに、目を奪われている。
「むっ、村崎君!? そ、それ、ランクⅣの、金のギルドカードじゃないのか!?」
紘輝は、声を裏返らせながら、そう叫ぶ。驚きすぎである。
霧也はそれに、見りゃ分かんだろ、とでも言いたげな目を向ける。この世界のことをよく知らない紘輝達には分からない可能性もあったが、そんなことは知ったことではない。と言うよりも、最初に霧也のギルドカードを見て声を上げたのは紘輝だ。分からないはずもないだろう。
そして霧也は、驚きで口をポカン、と開いている紘輝を尻目に、さっさとギルドを出て行くのであった。
クラスメイト達は、霧也は関係なく、冒険者になるためにセイグラッドに来てます。戦闘経験を得るにはこれが1番手っ取り早いだろう、ということらしいです。




