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ぼっちが転移で自由人。  作者: 浅野陽翔
とりあえず、異世界だから冒険者
22/271

ゴブリンの事情。

 前回のゴブリンは一体何者なのか、っていうのが少しだけ分かるかもしれません。

「だから悪かったって、そろそろ機嫌直せよ……」

 テンションが元(正気)に戻った霧也は、拗ねてそっぽを向くソニアを宥めていた。

 現在ソニアは、霧也の脚の中にすっぽりと収まり、髪を乾かされている。

 あんな台風と見紛うほどの雨風に晒されれば髪が濡れるのは自然だし、霧也LOVEなソニアがそれを利用して甘えるのも自然な流れだ。

 という訳で霧也は、複合魔法という無駄に高度な技術(チートステータス以下略)で手から温風を出して、ソニアの髪を乾かしていた。というか、とっくに乾いている。それでも霧也がソニアの髪を手櫛で梳いているのは、ソニアの機嫌を取るためか、霧也がソニアの髪の手触りにハマってしまったのか。2人の表情を見る限り両方だろう。

 と、なんとなく幸せそうな表情のソニアが、どことなく幸せそうな表情の霧也に答える。

「……血」

「ん?」

 聞き返す霧也の方に顔を向けたソニアが、少し唇を尖らせながら、しかし目元は楽しそうに、嬉しそうに笑いながら小さな声を出す。

「……血、吸わせてくれたら、許してあげます」

「あー……」

 霧也は、そういや禁止してたな、と思い返し、苦笑して、

「……まぁ、それくらいなら別に――」

「わぁい!」

「うおっ!?」

 いいよ、と言おうとした霧也は、声を遮って至近距離から子供っぽい声を上げて飛びかかってきたソニアを避け切れず、押し倒されてしまう。

 そのまま、トロンとした目で霧也の首筋を撫で、舐めるソニア。

 そのままソニアは牙を立てて、

「いただきまぁす」

「っ……」

 既に結構な回数血を吸われている霧也だが、それでも痛みなど慣れるものではない。

 霧也は少し呻き声を上げながら考える。

(なーんか最近、こんなんばっかだよなぁ……)

 霧也の暴挙に巻き込まれた不憫なゴブリンは、唐突に作り出された不思議な空間を居心地悪そうに眺めていた。


==========


 その後、久しぶりの吸血で歯止めがきかなくなっていたソニアをなんとか離した霧也は、恍惚とした表情を浮かべる彼女を横たえ、存在が忘れ去られていたゴブリンに目を向ける。

 身を竦ませるゴブリン。

 しかし霧也はそれを無視して、ジッと観察する。

 先程から今に至るまで、いや、今ここにいること自体が、魔物ではないような気がして、もっと言うと人間じみていて気になっていたのだ。

([鑑定])


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 体力    C

 攻撃力   C

 防御力   C

 敏捷    C

 魔力    C

 魔法攻撃力 C

 魔法耐性  C


 スキル



 状態

 変身(ゴブリン)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それを見た瞬間、霧也が目を見張る。

 ステータスが低い。スキルが無い。確かにそれもおかしいだろう。

 しかし今はそこじゃない。初めて見る、「状態」という項目。その中に、変身の文字。

 つまり、

「本当は、ゴブリンじゃ、無い……?」

「えっ?」

 霧也が漏らした呟きに反応して、これまた人間のような声を上げるゴブリン。

 改めて聞けば、女性の声のようにも聞こえる。ゴブリンらしく濁声になってはいるが、それと分かるような声。

「……お前、話せるか?」

 その質問に、首を横に振るゴブリン。どうやら、ちょっとした声なら出せても、意味のある言葉を話すことは出来ないらしい。

 霧也は少し考えて、

「そういや、筆箱とノートが……」

 霧也達が転移して来たとき、手に持っていた物や身につけていた物は一緒に飛ばされていた。そして霧也は、転移の直前、家に帰るところだった。それはつまり、学校に持って行っていた勉強道具も持っていたということ。

 霧也は、何かに使えるかもとそれらを旅に持ってきていたのだ。

 ノートとシャープペンシルを《空間庫ストレージ》から取り出した霧也は、シャープペンシルの芯を少し出してゴブリンに手渡す。

 ゴブリンはそれらを驚いたように受け取り、霧也を見る。

「書けるか?」

 それに頷くゴブリン。

「単刀直入に聞こう。一体何があった?」

 ゴブリンはその質問に再び頷きを返してから、サラサラとペンを走らせる。

『実は私、故郷から冒険者になるために出てきたのだけれど、その途中に遭遇したゴブリンキングに気にいられちゃったみたいで、捕まってしまったの』

 そこまで見せて、再び書き始めるゴブリン。

 その途中で霧也が思ったことは2つ。

(こいつ女だ! 女ゴブリンだ! つか、やっぱいるんだ、ゴブリンキング。面白そうだな、狩ろうかな)

 軽い。割と深刻そうな状況なのに、中々に軽い。だが、これが村崎霧也という男だ。軽くて何が悪いと、開き直ってしまうタイプなのだ。

 そんな霧也の様子には気付かずに、再びノートを霧也に見せるゴブリン。

『私も腕には多少の自信があるのだけど、獲物が弓だったから、囲まれると太刀打ち出来なくて……それでゴブリンの巣に連れ帰られて、初めて見るようなゴブリンに、こんな姿に変えられてしまったのよ。あれ、何だったのかしら……』

「変えられたってことは、ゴブリンメイジとかじゃねぇのか? いやでも、人間をゴブリンに変える魔法なんてあっていいのか? 異世界的に」

 霧也の呟きが聞こえたゴブリンだが、意味が分からず首を傾げるばかりだ。

 ゴブリンには、普通の、ただの棍棒を持っているだけのゴブリンの他にも、兵士のような格好だったり、盗賊っぽかったり、魔法使いっぽかったりと、バラエティに富んだゴブリンがいたが、霧也はそれらをなんの感慨も抱かずに斬り伏せていた。

「で、そんなお前がなんでこんなとこにいんの?」

 ペンを走らせ、ノートを見せる。この流れがだんだん早くなってきている。

『ゴブリン達の目を盗んで、どうにか逃げ出してきたのよ。もしかしたらなんとかなるんじゃないかって……そうしたらゴブリンを斬りまくっている人がいたから、一時はどうなることかと思ったのよ?』

 ゴブリンはそのまま、非難がましい目を向けてくる。霧也は思わず目を逸らす。

(しょうがないじゃん、楽しかったんだから)

 なんて言えない。

「ちなみにそれ、そのゴブリン倒したら戻る感じ?」

『さぁ、それは分からないわ。でも、どうして急に?』

 自分を助けてくれるのかと、ゴブリンの目が少し期待するようなものになる。

 それに霧也は、いつもの調子で答える。

「いや、どうせ暇だし、なんかゴブリンキングって面白そうじゃん? だからついで」

「えー……」

 ゴブリンの少ない語彙で落胆したような声を出す。

「いいじゃん別に。ついででも助かるんだから」

 ゴブリンは少し腑に落ちないように頷くが、霧也は既に見ていない。

 霧也はソニアの方を向いて、頬をペシペシと叩く。

「ふぇっ?」

 幸せを噛みしめるように目を閉じながら、クネクネと動いていたソニアが、それに反応して起き上がる。

「あれ、ご主人様?」

「という訳だ、行くぞソニア。ほら、ゴブリン案内」

「え? どういう訳ですか? ってゴブリン!?」

『どうも』

 全く状況を飲み込めていないソニアに淡々と、無理矢理に話を進めようとする霧也。ゴブリンはもうどうしようもないわね、とでも言いたげにため息を吐き、肩を竦める。

「何驚いてんだよ。お前さっきまで抱き合ってたじゃねぇか」

「え、何それ知らないです」

「まぁどうでもいいな」

「いや、ちょ、どういうことなのか教えて下さいよ!?」

「そいつに聞け」

 そう言いながらゴブリンを指差す霧也。ソニアは素直にゴブリンに話を聞いていた。

 という訳で、ゴブリンは元人間でした。第1章新ヒロインその1(それ以降出るかは不明)の予定。

 ソニア? あの子はプロローグからだから、第1章の新ヒロインではないですよ? 王女様も。

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