調子に乗るのってよくないね。
霧也が調子に乗りまくる回です。
翌日。
霧也は早速依頼を受けようと、ソニアを連れてギルドへとやって来ていた。
昨日揃えた装備もしっかりと身につけている。
「ご主人様、どの依頼を受けるつもりなんですか?」
霧也が依頼票が貼りだされているボードを見ていると、ソニアがそう聞いてくる。
霧也はそれに、依頼票を物色しながら答える。
「んー、やっぱ討伐依頼を……お、これなんかいいんじゃねぇか? ランクⅡ、ゴブリン5体の討伐」
「ゴブリンですか。本来ランクⅡでも上位の依頼ですけど、ご主人様には物足りないかもしれませんね」
「え、マジで? ゴブリンってランクⅡ上位なの?」
ソニアの言葉に自分の知識(サブカル)との違いを感じて思わず振り返る霧也。
「はい。少ないながらも知性がありますし、動きも素早いですし、ピンチになったらすぐに逃げますから。倒しにくいことこの上ないそうです」
「へぇ、なるほどねぇ。まぁ、別にいいか」
その理由に納得しながらも、全く意に介していないように依頼票を剥がし、受付に持っていく。
「はい、ゴブリン討伐依頼ですね。それではギルドカードをお預かりします」
冒険者ギルドでは、依頼の受領時と報告時に、本人確認と管理のためにギルドカードの情報を写しておく必要がある。更にこのギルドカードは魔法具で、討伐した魔物がカウントされるという優れものだ。
霧也がそのことを思い出していると、受付嬢に渡したギルドカードが返ってくる。
「それでは、お気を付けて」
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ゴブリン平原。
あまりのゴブリンの多さから、そう呼ばれている平原がある。
霧也のような日本人であれば、雑魚溜まりだとか、初心者用エリアだとか、そんなことを思い浮かべるだろう。
実際、ランクⅡ上位の魔物とはいえゴブリンはゴブリンだ。この世界でも、結局初心者用エリアの枠組みは出ない、そんな場所。
ここには普段、少し実力と自信の付いてきた冒険者や兵士がやってきて腕試しをしたり、彼女にいい所を見せたい男性がカッコつけてみたり、そんなどこか暖かい空気があった。
しかし今ここにそんな人は1人もいない。全員が逃げるように去っていったのだ。
代わりに今ここは、地獄と化していた。
緑色だった草原は血に染まり、断末魔の叫び声が響き渡る。
阿鼻叫喚の地獄絵図、というものを思わせる様相を呈していた。
1人の自由人の手によって。
「オラオラオラァァッ! 死にさらせやチビどもがあぁぁっ!」
「「「ギギャァァァッ!!」」」
そしてまた、今度は3体のゴブリンがまとめて胴体と別れを言うことになった。
「……」
その近くにいた一回り体の大きいゴブリンが、無言で後退る。
自由人――テンション最高潮の霧也が、そちらを睨みつける。
ゴブリンと目が合う。
「ヒィッ!?」
妙に人間らしい声を上げるゴブリン。
霧也はそれに構わず、ヤンキーが鉄パイプでやるように右手の紅煉で肩をトントンと叩きながら、ゆっくり、一歩一歩近付いていく。
しかし、そんな霧也の後ろに影が。
その影は手を振り上げ――
「おごっ!?」
霧也をぶん殴る。
「ご主人様、いつまで遊んでるんですか! もう、とっくに依頼数は達成してるんですよ!?」
霧也が後頭部を抑えながら、ハッ、と目が覚めたような声を出す。
「……あぁ、うん、つい楽しくなっちゃって。悪いな、ソニア」
「つい、で殺されたらたまったもんじゃありませんよ、まったく……」
その言葉に、アハハ、と乾いた笑い声をもらす霧也。
元々霧也の目的は、依頼と同時に、2つほど実験をすることだった。
1つは、自身の装備。紅煉、蒼天、紫電の性能チェックだ。そしてそれが今回の惨劇の元。あまりにも快適で、楽しくなってしまったのだ。
紅煉と蒼天は切れ味抜群で、斬るときに全く抵抗が無い。斬鉄剣も涙目の性能を発揮した。正直、魔武器としての能力を使うまでもなかった。
そして紫電は、ムラマサの言う通り電光石火の速度。一瞬で相手の後ろに移動して、二振りの刀で斬り伏せる。それが霧也にとって楽しすぎた。
楽しいだけで簡単に殺戮を繰り返している霧也だが、それはスルースキルが変な方向に力を発揮した結果だろう。
ちなみに2つ目の目的は、模倣は魔物相手でも出来るのか、というものだった。
結果から言えば、半分は不可能。もう半分は不明。
不可能だと判明した半分は、ステータスに関する事だ。項目は同じだったが、数値がアルファベットのランク表記、つまりA、B、Cで表されていたのだ。上限は不明だが。ちなみにゴブリンは敏捷がBでそれ以外はCだった。
そして不明のもう半分はスキル。ゴブリンが持っているスキルが[剣術]や[棒術]といった人間にもあるスキル、それも低ランクのものばかりだったので、全く参考にはならなかったのだ。
霧也の暴れっぷりには、それに対する八つ当たりが含まれていないことも無い。ゴブリンよ、恨むなら自分のスキルとマサムネとムラマサと霧也の性格を恨め。
閑話休題。
とりあえず落ち着いた霧也が改めて他よりも一回り大きいゴブリン(それでも霧也よりは小さいが)を見ると、すっかり縮こまって土下座している。
「……何やってんの、こいつ」
霧也がど思わずそんな声をもらすと、ゴブリンの体がビクッと震える。
と思ったら、霧也の視線が外れ、虚空を彷徨う。
何をやっているんだろうとソニアが顔を覗き込むと、霧也が唐突に鼻を抑えて、
「くっさ」
「ご主人様のせいじゃないですか」
間髪入れずにソニアがツッコむ。
「これだけ血が流れてれば、それは臭くもなりますよ」
「あぁ、なるほど、そりゃそうだ」
この平原は血に染まっている。
ゴブリンの血に。
この日を境にここからゴブリンは姿を消し、後にこの場所は虚無の平原と呼ばれ、魔物どころか動物すらも寄り付かない安全地帯になるとともに、1人の少年の恐怖の象徴となって人々に恐れられることになるのだが、そんなことは霧也には知る由もない。そもそも、知っても気にしない。
そんな平原のど真ん中に立っている霧也がおもむろに蒼天を持った左手を上げる。
「ご主人様?」
ソニアが声をかけると、霧也が蒼天に魔力を集めながら口を開く。
「天気予報だ。今日のゴブリン平原の天気は晴れ時々ゲリラ豪雨。その雨は1人の少年によるものでしょう、ってな。という訳でソニア、風邪引いても文句言うなよ?」
「「え」」
ソニアが素っ頓狂な声を出す。同時にゴブリンからも聞こえたのは気のせいだろうか。
しかし霧也は相変わらずスルーだ。
「さぁ、全てを洗い流せ! 《天災の蒼》!!」
霧也がカッコつけて叫んだ瞬間、辺りが暗くなり、嵐がやってくる。
大粒の雨が止まることなく叩きつけ、荒れ狂う風が吹きすさぶ。
「ご、主人、様っ! や、やりすぎです!! へくちっ!」
ソニアが講義の声を上げながらくしゃみをする。そりゃあ、大して厚着もしていないのにいきなり雨風に晒されれば寒い。風邪の1つや2つ引く。そりゃもう一瞬で引く。
「くちゅんっ!」
ゴブリンもくしゃみをしている。ソニアよりも薄い、というかほとんど着ていないのだから寒くないはずがない。
「はーっはっはっはっ!!」
しかし、霧也がこの状況を心底楽しんでしまっている。これは収まらない。
結局霧也が雨を止ませたのは、ソニアが寒さに耐え切れずにゴブリンと身を寄せ合い始めてからしばらく立った頃だった。
焼き鳥戦のとき、霧也のテンションが天元突破していると言ったな、あれは嘘だ。今回の方が圧倒的に上だ。あれが天元突破ならこれはなんなんだってくらいには上だ。だからといってあっちを修正するかとなると、そんなことはないんですけどね。
そして、なんか最近霧也のキャラがぶっ壊れてる気がするけど、そんなことはない。元々霧也は、喋らなかっただけで、結構茶目っ気溢れるタイプなんです。転移前だって、沙菜の前だと割と饒舌だったとかなんとか。




