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3人は外に出ると、旅に出るための準備を始めた。
その途中、ルースがダレンに尋ねた。
「ダレン、必要な素材はなんなんだ?」
「さっきあの子を見て確認したが、必要なのはこれだな」
ダレンはそう言って、必要な素材を2人に伝えた。
《必要な素材》
・真珠の葉の真珠 難易度☆1
・スケルトンの涙 難易度☆5
・いばら姫のいばらの棘 難易度☆8
素材の入手難易度は、星の数によって表される。
難易度☆1は、一般人でも入手可能。
難易度☆2は、冒険者であれば入手可能。
難易度☆3は、冒険者の中でも中級者であれば入手可能。
このように、星の数が増えるほど難易度は高くなっていく。
難易度は☆15まで存在する。
ただし、これはあくまでも《ある冒険者》が独自につけた難易度であり、正式な基準というわけではない。
それでも、最上級である難易度☆15の素材を入手できる人間は、世界に5人も存在しないとされている。
その一覧を見た2人は、再び驚きの表情を浮かべた。
「レア素材ばかりではないか! それに、いばら姫のいばらの棘となると……まさか、《植物王の城》へ向かうのか!?」
ルースが声を上げる。
「そうだ。それが必要だからな。彼女はこのままでは死ぬ。そんな簡単な旅になるわけないだろ」
ダレンは呆れたように答えた。
しかし、ルースが驚くのも無理はなかった。
《八貴族》。
それは、魔王の配下である8人の魔族の総称である。
彼らはそれぞれが一つの種族を統べる王であり、人間にとっては天敵とも呼べる存在だった。
今から400年前、彼らは突如としてこの世界に現れ、魔王への忠誠を誓った。
事態を重く見た人間たちは討伐軍を編成。勇者アーロンを含む8人の勇者が、《八貴族》の《王》たちに戦いを挑んだ。
しかし――。
誰一人として、帰還することはなかった。
それから400年。
今に至るまで、《八貴族》を倒した人間は一人も存在しない。
人間たちがこうして生活を営み、平穏な日々を送れているのは、ただひとえに――。
《魔王の気まぐれ》にすぎなかった。
だからこそ、ルースも理解していた。
今回の旅が、決して気軽な素材採取などではないということを。
「……その通りだな。分かった、行こう。回復アイテムも必要だ」
ルースは覚悟を決めたように頷いた。
それから3人は、真夜中にもかかわらず道具屋を叩き起こし、店主に謝罪しながら必要なアイテムを買い揃えた。
こうして、ようやく準備が整った。
あとは素材を採取するだけ。
しかし、いざ出発しようというところで、ルースが深刻な表情を浮かべた。
「ダレン……。今回は、八貴族の一人、《いばら姫》と戦うということでいいのか?」
「いや、そんなことはしない」
ダレンは即座に否定した。
「植物王の城には近づくが、城の中には入らない。あくまで素材を手に入れるだけだ。だが、城の近くには食人植物が大量にいる。気を抜くなよ」
ダレンは2人の顔を見ながら、念を押すように告げた。
「あ、ああ。もちろんだ。俺は何年も剣術を磨いてきた。以前は騎士もしていたんだ。そう簡単に殺られたりはしないさ」
ルースが力強く答える。
「私もです。魔法使いとして何十年も経験を積んでおります。どんな敵が相手だろうと、やっつけてみせます!」
オーウェンもまた、杖を握りしめて意気込んだ。
そんな2人の様子に、ダレンは苦笑した。
「2人とも運がいい。この場所に彼女を連れてきたのは正解だったな。なぜなら、ここから急いで向かえば、一日もあれば素材を手に入れられるからだ」
ほかの王の城であれば、ここから何か月も歩かなければならない。
そう考えれば、確かに運がよかった。
ルースは改めてそう感じた。
そして何よりも、この解除師が植物王の城の近くに住んでいてくれたことに感謝した。
「ああ、じゃあ出発しよう」
3人は歩き始めた。
最初に手に入れる素材は、《スケルトンの涙》だった。
⸻
――スケルトンの涙の採取――
スケルトンの涙。
それは、特殊な方法によってのみ入手できる素材である。
通常の方法でスケルトンを倒しても、手に入れることはできない。
採取方法は、まずスケルトンにある程度のダメージを与えたあと、聖水を少量ずつ、何度も与えるというものだ。
すると、スケルトンの目から、本来ならば出るはずのない涙が徐々に滲み出してくる。
ただし、聖水の適切な量はスケルトンごとに異なる。
少しでも量を間違えれば、そのままスケルトンを倒してしまう。そのため、聖水の量を正確に見極めるのは、熟練の冒険者であっても難しいとされていた。
さらに厄介なことに、スケルトンの涙は、スケルトンが倒された瞬間に蒸発してしまう。
そのため、涙を採取したあとは、スケルトンを倒さず、そのまま一定時間放置しなければならない。
一定の時間が経過すれば、ようやく涙は蒸発しなくなる。
その時間もスケルトンによって異なるが、最長で3時間ほどかかる場合もあるという。
つまり、スケルトンの涙を入手するためには、スケルトンを倒すことなく、涙が滲み出るまで聖水を与え続けなければならないのだ。
「ってことで、目の前のスケルトンから素材を採る」
ダレンは目の前に立つスケルトンを見据えながら言った。
「では、どうしましょうか?」
オーウェンが尋ねる。
場所は変わり、数時間歩いた先の夜道。
3人はスケルトンに遭遇し、《スケルトンの涙》を入手するために悪戦苦闘していた。
「俺が聖水をかける。これだけは絶対に譲れない。でなければ、素材は採れないだろうからな」
ダレンは聖水の入った容器を手にしながら答えた。
「はい。よろしくお願いします」
オーウェンが頷く。
「オーウェン、魔法で攻撃してくれ。俺が大丈夫だと伝えたら、攻撃をやめてくれ」
「分かりました! 魔法で攻撃します!」
オーウェンは杖を構え、魔法の詠唱を始めた。
「――サンダーボルト!」
杖の先端に、黄白色の光が宿る。
次の瞬間、閃光とともに轟音が響き渡り、雷がスケルトン目掛けて飛んでいった。
雷撃が直撃した瞬間、スケルトンの動きが鈍くなる。
「オーウェン、ナイスだ!」
ルースが声を上げる。
オーウェンは軽く手を挙げて応えた。
その隙を逃さず、ルースは剣を構えてスケルトンへと斬りかかる。
一方、ダレンは聖水を手にしたまま、じっとタイミングを見計らっていた。
そして――。
「今だな」
ダレンが動いた。
その動きは、2人が目で追うことすら難しいほど速かった。
一瞬にしてスケルトンとの距離を詰めると、その顔を掴み、近くにあった木へと勢いよく叩きつけた。
「は、速い!」
ルースが思わず声を漏らす。
ダレンはそのまま紐を取り出し、スケルトンの身体を木に巻きつけた。
これで、簡単には動けない。
その間、ルースとオーウェンは呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。
「ダレン殿……。先ほどの動きは……」
ルースは思わず言葉を詰まらせた。
明らかに、この男は強い。
それも、ただの冒険者とは思えないほどに。
たった今の動きを見ただけで、2人はそれを理解していた。
「2人とも、周りのスケルトンを頼む」
ダレンの声に、2人は我に返った。
周囲には、ほかにもスケルトンがいる。
ルースは剣を構え、オーウェンは杖を向けた。
2人が周囲の敵に対応する一方、ダレンは聖水を取り出した。
「ふぅ……」
小さく息を吐き、集中する。
そして、ほんの一滴か二滴ずつ、スケルトンへと聖水を垂らし始めた。
その瞬間、ダレンの額に汗が滲む。
一滴。
スケルトンが苦しそうに身体を揺らした。
二滴。
スケルトンが苦しそうにもがく。
三滴。
スケルトンは、先ほどよりも激しく身体を動かした。
聖水の量を間違えれば、すべてが台無しになる。
ダレンは焦ることなく、スケルトンの反応を注意深く観察しながら、一滴ずつ聖水を与えていった。
その間に、ルースとオーウェンは周囲のスケルトンをすべて倒し、ダレンのもとへと駆けつけた。
しかし、ダレンは2人に目もくれず、作業を続けている。
2人は息を呑み、その様子を見守った。
「ルース様……。ダレン殿の動きは異質です。あの身のこなし……王国の冒険者を思わせます」
オーウェンが小声で呟く。
「ああ、分かっている。だからこそ、信頼できるんだ」
ルースは真剣な表情で答えた。
ダレンは額に滲んだ汗を手で拭う。
そして、十一滴目。
ようやく、スケルトンに変化が訪れた。
先ほどまで激しく暴れていた身体が、ぴたりと動きを止めたのだ。
まるで、最初から何も動いていなかったかのように。
そして、十二滴目。
聖水を与えた瞬間、カタッ、と乾いた音が響いた。
スケルトンの頭がわずかに動き、そのまま沈み込む。
その目元から、本来ならば存在しないはずの水が、ゆっくりと滲み出してきた。
「……きた」
思わず、ルースとオーウェンの口から声が漏れた。
「これが……スケルトンの涙……?」
「すごいですぞ、ルース様!」
2人はまるで子供のようにはしゃいだ。
しかし、ダレンは相変わらず冷静だった。
細長いガラス管を取り出すと、スケルトンの目から滲み出た涙を慎重に採取していく。
一滴たりとも無駄にはできない。
ダレンは時間をかけ、必要な量を確実に確保した。
やがて作業を終えたダレンは、静かに立ち上がった。
「ふぅ……」
小さく息を吐く。
「終わったんだな」
ルースが安堵したように呟いた。
「ああ、採取完了だ」
その言葉を聞いて、2人はようやく肩の力を抜いた。
普通なら、スケルトンは倒すべき敵である。
しかし、今回は違う。
素材を採取するためには、倒してはならない。
しかも、採取したあとも、一定の時間はそのまま放置しなければならないのだ。
普段の冒険とは、まるで勝手が違っていた。
「……暗幕」
ダレンが魔法を詠唱する。
すると、スケルトンの姿が徐々に見えなくなった。
周囲の景色に溶け込むように、その姿が消えていく。
「暗幕とは……また古い魔法ですね……」
オーウェンが感心したように呟く。
「ああ。これでも魔法使いとして生活してきたからな。魔法は《新魔法》も《現魔法》も《旧魔法》も《古代魔法》も、扱えるようにはしているよ」
その言葉に、2人は驚いた様子でダレンを見つめた。
「それはすごいですね。今の時代は、《新魔法》と《現魔法》が主流ですから」
オーウェンが感嘆の声を上げる。
この世界には、魔法にもいくつかの分類が存在する。
《新魔法》――新たに生み出された魔法。
《現魔法》――現在、一般的に使用されている魔法。
《旧魔法》――かつて使用されていたものの、現在ではほとんど使われなくなった魔法。主に百年前まで使われていた魔法や、より上位の魔法が生み出されたことで廃れた魔法を指す。
《古代魔法》――数百年前に使用されていた魔法、あるいはダンジョンなどから発見された古い魔法。
時代が進むにつれて魔法は発展し、より便利で強力なものが生み出されてきた。
その結果、《新魔法》や《現魔法》が主流となり、《旧魔法》や《古代魔法》は徐々に使われなくなっていったのだ。
「確かにな。ただ、解除師にとって必要のない魔法はない」
ダレンは静かに語る。
「《新魔法》や《現魔法》が、呪いや病気に通用しないこともある。《旧魔法》や《古代魔法》でなければ対処できない。そんなことがあるんだ。特に……《八貴族》の呪いにはな」
その言葉に、2人は静かに頷いた。
「私たちは、戦闘や利便性の向上を目的として魔法を使用してきました。しかし、あなた方にとっては、《旧魔法》や《古代魔法》こそが必要な魔法なのですね」
「ああ。恐らく《医師会》の人間に聞いても、同じような答えが返ってくるだろうな。ただ、今回のスケルトンについては、《暗幕》である必要はない。消費する魔力も少ないから使っただけだ」
ダレンは何でもないことのように答えた。
「ダレン殿は若いのに経験があり、知識も豊富だ。それに、頼りがいもある。ルース様、ダレン殿は目標にすべき人ですぞ」
オーウェンが感心しきった様子で言った。
「ああ。話を聞いているだけでも、そう思うよ」
ルースも同意するように頷いた。
「ダレン、あんたは本当にすごい人だ。俺にとってスケルトンなんて、ただ倒すべき敵でしかなかった。でも、あんたたちにとっては違うんだな」
「人によるだろう。今回は、たまたま《スケルトンの涙》が必要になっただけだ」
ダレンは淡々と答える。
そんな彼の様子を見て、ルースは口角を上げた。
「よーし! スケルトンの涙は手に入った! 次に行こう!」
こうして、ダレンたちは一つ目の素材を手に入れた。
2人から賞賛されても、ダレンは浮かれることなく、次の目的地へと歩き始める。
「次は真珠の葉だな」
⸻
――真珠の葉の真珠の採取――
次に必要なのは、《真珠の葉の真珠》である。
真珠の葉とは、葉の内部に真珠を蓄える植物のことだ。
葉が二枚貝のように重なり合い、その内側に真珠が形成されることから、その名がついた。
真珠の葉自体は、初心者の冒険者でも採取できる素材として知られている。
ただし、採取方法には少しばかり工夫が必要だ。
そのため、冒険者になったばかりの者が挑戦するクエストにも、よく採用されている。
《簡単な真珠の葉の採取方法》
1.まず、水と塩を用意する。
2.真珠の葉を見つける。
3.真珠の葉に向けて、水を数滴垂らす。
4.その後、塩をひとつまみ振りかける。
5.すると、真珠の葉が開くように動き始める。
6.この作業を何度か繰り返す。
7.やがて真珠の葉が完全に開き、内部から真珠が現れる。それを採取すれば完了だ。
以上が、真珠の葉の簡単な採取方法である。
「取れた!」
ルースが嬉しそうな声を上げた。
手の中には、真珠の葉から採取した真珠がある。
その喜びようは、まるで子供のようだった。
そんなルースの様子を見て、ダレンも思わず口角を上げた。
「いい調子だ、ルース。そのまま採取を頼む」
「任せろ!」
ルースは力強く返事をすると、再び真珠の葉の採取に取りかかった。
こうして、3人は無事に二つ目の素材も手に入れた。
残る素材は、ただ一つ。
《いばら姫のいばらの棘》だけだった。
それから一日半。
長い道のりを歩き続けた3人は、ついに植物王の城へとたどり着いた。
正確には、城から何キロも離れた場所に設けられた城門の前である。
時刻は真昼。
ここまでの旅路を振り返る暇もなく、3人は最後の素材を採取するため、気持ちを引き締めた。
残された時間は、あと一日半。
それまでに《いばら姫のいばらの棘》を採取しなければならない。
「着いたな。2人とも、気を引き締めてくれ」
ダレンが静かに告げる。
目の前には、巨大な鉄製のフェンスがそびえ立っていた。
城門から左右へと、どこまでも続いているかのようなフェンス。
その向こう側には、鬱蒼と木々が生い茂っていた。
外からでも、内部の様子をわずかに確認することができる。
しかし、ダレンたちが気になったのは、別のことだった。
ここに到着してからというもの、ずっと誰かに見られているような視線を感じていたのだ。
「……見られてるな。植物どもに」
ダレンが周囲を警戒しながら呟く。
「まさか……」
ルースとオーウェンは、思わず周囲を見渡した。
しかし、人影はない。
そこにいるのは、ただ生い茂る木々と草花だけだった。
それでも、視線は消えない。
いや、むしろ――。
周囲の植物すべてが、こちらを観察しているかのようだった。
そこでようやく、2人は理解した。
自分たちを見ているのは、人間でも魔物でもない。
この場所に生えている植物、そのものなのだ。
ここから先へ進まなければならない。
目的を果たすためには、どうしてもこの場所に足を踏み入れる必要があった。
2人の表情が、次第に引き締まっていく。
城門に近づいただけで、肌にまとわりつくような圧迫感を覚える。
まだ、城そのものすら見えていない。
それなのに、この場所には明らかに異質な空気が漂っていた。
なぜなら、ここは――。
植物王が支配する領域なのだから。
《植物王:いばら姫》
数々の冒険者を捕らえ、その身体を栄養分としてきた植物の王。
今から3人が足を踏み入れようとしているのは、そんな恐ろしい魔物が支配する領域だった。
普通ならば、自ら命を捨てに行くようなものだ。
だからこそ、ルースとオーウェンの目には、先ほどまでとは違う真剣な光が宿っていた。
ふと、ルースが城門へと目を向ける。
鉄製のフェンスで造られた門は、わずかに開いていた。
まるで、誰かが直前に中へ入っていったかのように。
あるいは――。
最初から、3人が来ることを知っていたかのように。
「……じゃあ、行くぞ」
ダレンが一歩、前へと踏み出した。
「ええ、参りましょう!」
オーウェンも杖を握り直し、力強く答える。
「おう!」
ルースも剣を手に、ダレンの後に続いた。
こうして3人は、植物王の城へと続く門をくぐった。




