第二話「戦友」
あれから一ヵ月、今日は作戦の決行日。正確には明日だろうか?そんなことはどうでもいい。これから行う作戦は反乱軍にとっては次の戦いの前座でしかない。しかし、テラにとってこれは初陣であり、そして大きな責任を負う作戦であった。緊張が解け切らないまま移動の時刻はやってくる。
移動は始まった。久しぶりに浴びる日の光はあまりにも明るくしばらくは目を開けることすら困難だったが次第に慣れてきた。テラは移動の時に帝国の建物を見た。初めて見る建物の数々は確かに進んだ技術で建てられており、屋根が高く非常に快適な暮らしを送ることができそうであったが、テラは不思議なことにこの建物達に惹かれることはなかった。その建物群はあまりにも空っぽだった。喜びが存在しなかった。内装がという話ではなかった。もし、この国が自由だったのならこの建物達は一瞬で華やかに生まれ変わることができるだろうに、ああなんて悲しいんだ。そんな風に考えながらテラは移動をした。この建物達は帝国がどれだけ腐っているかをテラに教え、そして勇気を与えた。
そうしているうちに、移動は完了した。深夜1時、情報の受け取りまであと一時間。そして精神統一をしている間にもうあと30分。すでに各隊ごとに分かれている。士気は十分。テラが右腕を上げる。作戦は、今始まった。
受け取り場所まではとにかくばれないように、ゆっくりと。途中、監視兵がいたので兵士を止めた。どうやらその監視兵は急いで東に向かっているようだった。つまり、もう陽動隊が戦いを始めているということだ。その後、すぐに水門についた。しかし、なんと素晴らしいことか。監視の兵が一人もいない。テラは陽動隊への感謝の気持ちとともに、監視兵が思ったよりも頭が悪いということを感じた。
テラの下手くそな指示でも兵士は忠実に行動してくれた。熟練兵はもっと早い方法だって知っていただろうに、本当に申し訳ない。さて、ここからは向こうから完了の合図が来るまでは待機だ。
向こうから合図が来た。その時だった。銃声がした。音は壁の向こうから、つまり何かしていることがばれたことだ。そして、こっちに来ることはほぼ確実になった。合図はもう来ているが、そこから回収するまでにはまた少し時間がかかる。敵がこちらに気づき、攻撃するには十分すぎる時間だ。
迷いはなかった。こっちに来たら確実に攻撃される。そして先に攻撃されるなら不利なのは圧倒的にこちらだ。なら選択肢は一つ、こちらが先に攻撃するのだ。テラは敵が来たら攻撃を始めると合図した。
向こうで事態を片付けた敵兵がこちらに来る。何人かの足音が聞こえる。しかし、顔が見えない。顔を出してこない。なぜだ。少し経ち、上から石が降ってきた。石はテラの頭にぶつかり、そしてはねて壁から少し離れた場所で止まった。この時点で、敵兵は明らかにこちらの存在に気づいている。今しかない。
「攻撃を開始しろ!」
そう叫ぶと、地面の砂をつかんで上に向かって投げた。効果があるかはわからない。一歩後ろに下がり壁上を見る。テラはここで衝撃を受ける。敵の姿が見えないのだ。テラは一瞬、衝撃で固まった。しかし、これはチャンスだ。急いで回収作業を進めた。突然、向こう側から怒号が聞こえてきた。
「何やってんだ腰抜け共!」
直後に、テラと同じぐらいの一人の敵兵が突撃をしてきた。一人が撃たれた。正確に頭を撃ち抜かれている。もう助からない。敵兵は機動戦を展開し、一人で善戦した。そう一人でだ。追加の敵は来なかった。それに焦る敵兵をテラは押さえつけ、銃を突きつけた。引き金を引こうとしたが、敵兵は暴れた。
「私を置いて撤退しろ!どうせ追加は来ない!」
テラの指示に兵士は従い、撤退を開始した。テラはそのまま敵兵を抑え続けた。
突然、敵兵は反撃をした。狙われたのは銃だ。テラはこれに反応できなかった。テラは銃を失った。しかし、敵兵も銃を持っていない。二人は格闘戦を始めた。テラは撤退するだけでよかったから攻撃をせずにタイミングを見計らった。
『今しかない!』
テラは一気に奴隷農場から反対方向に走り出した。敵兵も追いかけてくる。テラよりも足が速い。追いつかれる。テラは即座に迎撃をして距離を広げた。
こんなことをしばらく繰り返すうちに、二人とも体力がなくなってきてテラは追いつかれることもなくなった。振り切ることもできなかったが。こうなると、次は敵兵がこっちに声を飛ばしてくるようになった。
「なんでだ!なんであいつら来なかったんだよ!」
「なんで追いつけないんだよ!なんでだよ!」
こんな愚痴のようなものをテラはずっと聞いていた。そしてついに吹っ切れた。
「少しは静かにできないのかよ!」
敵兵は驚いていた。
「おい、お前もそう思うだろ?なんであいつら来ないんだよってさあ!」
『ついに質問をしてきたぞ...こいつは馬鹿なのか?なんなんだ?』
「確かにそうだな!周りがそんなので残念だったな!」
テラは何となく答えた。本当になんとなくだった。その後も、テラはこの兵士の愚痴に返答を続けた。
「お前、俺の愚痴聞くんだな...お前結構馬鹿だぜ。」
「逆にお前は敵兵に話しかけるんだな。お互い様だ。」
敵兵は驚いた後、少し黙ってから言った。
「なあ、俺ファステスト家の出身なんだ。お前知ってるか?」
「知らないな...聞いたこともない。」
「そりゃあよかった...!有名な一家だから知らない奴なんていなかったんだけどな。お前は知らないんだな、よかった...!」
よく分からなかった。言葉が出てこなかった。
「ほら、世の中知らない方がいいこともあるっていうだろ?それだよ。あんな一家ゴミだぜ!ゴミ!俺はあの一家から出てきたんだ!もうファステストなんかじゃないぜ!ファストだ、ファスト・ライト。もう戻って来いって言われても戻らないぜ。」
「それは良かったな。」
テラは適当に返した。そんな一家のことに興味はなかったし、そんなに余裕はなかった。
「お前は名前なんだよ。」
この質問に答えるか、テラは少し迷った。
「テラだよ...」
「へえ、姓は?」
「...知らん。」
「はあ?そんなことあるわけないだろ。」
「本当に知らないんだよ!自分だって不思議に思ってる...自分だけなんだ、姓を知らないの。」
「へぇ...そうなのか。」
そうしてテラとライトは走り続けた。もはや、戦い中ではなくただ雑談をしながら走っているだけだった。
4時頃、二人は拠点についた。この時間になると、外ではもう活動が始まっており捕まってもおかしくなかったのだがライトがいたおかげか反乱軍とは思われなかったおかげか安全に拠点まで行くことができた。拠点まではライトも入ってきた。入ってきた瞬間、二人とも倒れた。倒れる直前に見えたレボル長官がこちらに話しかけてきた。
「なんで監視兵がそこにいるんだよ。」
「...分かりません。」
テラは疲れ切ったカスカスの声で答えた。ライトが摘み上げられているのがかすかに見えた。
「おいテラ、こいつ誰だ...」
ライトも疲れ切った声でテラに聞いてきた。
「長官だよ...」
「...そういえばお前反乱軍の兵士だったな...」
レボル長官は唖然としていた。そしてしばらくして呆れたように大きなため息をついた。
テラは寝床に連れていかれた。寝床についた10秒後にはすでに寝ていた。




