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第一話「失われた帝国」

 ──極東に位置する島国、”テラス帝国”。超大国との戦争により疲弊したこの帝国は、超大国の内部工作による革命によって崩壊した。その後成立したナド帝国は独裁政治を開始し、かつての栄光は過去のものとなっていった。──




 炎天下、圧倒的な威圧感を放つ帝国城の前に総勢四万人の大軍が寸分の狂いもなく整列をしていた。

その大軍の前には赤いマントを翻し、圧倒的なオーラを放つ皇帝ディクタトーラ二世が立っていた。


「私は今日、偉大なる功績を成し遂げた!それは我が民族の歴史において私以外の誰も達成することはできないものであり、後世に永遠に語り継がれるべきものである!100年前、この島は腐っていた!テラス帝国という理想論者の阿呆どもによって統治されていた!......それをテラスの神が許すと思ったか?否!!!!奴らが狂ったように讃えていた諸悪の根源、「皇帝・ワーリッド」は我々の"正義の裁きの鉄槌"の下に完全に敗れ去った!そして、皇帝を失った帝国の残党どもに対し、ナドの大熊は一ッッッ切の迷いも無く狩りを開始し、民族を浄化した!そして、浄化されたテラス民族を、我々はさらに偉大なナド民族へと引き上げた!そして、今日!完全に完成された我が帝国はついに100年の時を迎えたのだ!」


大軍は一斉に歓声を上げた。そして、最後にディクタトーラ二世はこう締めた。


「永遠なるナド帝国の旗をっ、天よりも高く掲げよ!」


ディクタトーラ二世は拳を突き上げ、各地で天まで届きそうなほど高く旗が掲げられた。全ての兵士が何度も拳を突き上げ、島の端から端まで届くような大声で叫び続けた。




 日の光が全く届かない、湿った狭い地下空間にボロボロの服を身にまといながらも、真剣な眼差しから圧巻のオーラを放つ数十人ほどの人々が微動だにせず整列していた。

その人々の前にはぼろぼろの服の胸当たりに土をかぶり傷ついてなお輝く勲章を身に着けた厳格な雰囲気の男性が立っていた。


「今日、我々の反乱軍に新兵、新たな同志が加わった。大変喜ばしいことである............我々の目標は!今はもう面影すら残っていない、かつての美しいテラス帝国を取り戻すことである!そしてここにいる全ての人間はそのために命を懸ける覚悟を持っている、私はそう思っている、そうだろう!?しかし、今の帝国を見よ!もはや旧帝国の人々は一人もおらず、かつての帝国の景色、記憶がこの島から完全に失われた!人々の幸せに埋め尽くされていた大地は、今やかつての同志の血と、真っ黒な奴らの魂により悲惨な姿となってしまった!そんな今でもっ、なお!!!!我々の心に刻まれた"皇帝・ワーリッドの導き"と"テラス帝国の魂"は我々を奮い立たせ、そして戦いへと駆り立てている!どれだけ帝国の大地穢されようとも、魂だけは、永遠に死せず!そして我らの美しい帝国は再び蘇る!そのために、今!再び、我らが失われた皇帝・ワーリッドに忠誠を誓うことを宣言せよ!」


「「「我々はかつての美しい帝国を取り戻すために、再び陛下に忠誠を誓うことを宣言する!」」」


 新兵を含めた全反乱軍は一瞬のずれもなく左腕で挙手の敬礼に拳を握り締めたワーリッド敬礼を行った。彼らは再び、皇帝・ワーリッドに永遠の忠誠を誓ったのだ。

そして、最前列の真ん中には、青い目の若き青年が何か強い憎しみと意志を持っているような目で前を見ていた。それは、後に英雄と呼ばれることになるテラであった。




 テラが地下拠点で座り込んでいた。数分後の招集まで休憩しているようだ。帝都ベスニヤード西部に位置するこの地下拠点は日の光が入ってこず、湿っていて、狭い、まさに地獄のような環境であったがその代わりに独裁者どもの手先に簡単に見つかることはない場所だった。

テラが理想の帝国と世界を思い描いている間に数分が経ち、招集の列に並んだ。


前に立つのはレジース総長、そして最前列に並ぶのは各部隊の長官だった。入隊式では新兵が前に並んだがそれは入隊式の話で、平時はこの整列体系が普通だ。若干しゃべり声が聞こえる中でレジース総長は深く息を吸い口を開く。


「静粛に!」


レジース総長は総勢五千人の兵士の様子を伺いその後再び話し始めた。


「今年、4月に我々は偉大なる何かを成し遂げる。それが何か、君たちにはまだ明かさない...その時になったら明かす。重要なのはそこに構えておいてほしいということだ。」


レジース総長は再び兵士の様子をうかがった。


「話しておきたいのはこれだけだ。この後、偵察隊はここに残ってくれ。解散。」


レジース総長が全兵士を招集した割には意外と短く、あっさりと終った。テラはこれに違和感を覚えた。しかし、レジース総長は何かを決意したような雰囲気だったし、兵士を招集したのだから何か戦いをするのだろういうことは兵士ならば容易に想像できた。




 テラは偵察隊であったので残った。偵察隊はレボル長官率いる百人の部隊だった。レジース総長は残った偵察隊にこっちに来いというような仕草をした。そうしてレボル隊長を中央に偵察隊が整列した。

レジース総長は偵察隊全員の様子をうかがった。レジース総長は兵士の様子をうかがうことが好きなようだ。テラはレジース総長と強く目が合ったような気がして、気を引き締めた。


「君たちに残ってもらったのは君たちにやってほしいことがあったからだ。さっき言った偉大なる何かに関連するものだ。偉大なる何か...君たちには話しておく。絶対に外に漏らすな。いいな?では話すぞ。」


レジース総長は少し息を整えてから小さな声でゆっくりと言った。


「我々は奴隷農場に攻め込む。」


テラは目を見開いた。おそらく全兵士そうだろう。奴隷農場に攻め込むことは、つまりこの島で革命を開始すると言ことだ。タイミングは確かに悪くはないだろう。現政権は疲弊している。もうここまで疲弊することは少なくとも今後二百年はないだろう。しかしそれでもこれまでにはなかった攻撃戦、それも奴隷農場という帝国の中でもかなり大きな場所だ。


「やってほしいことは一つ、中にいる奴隷の同志、諜報員から情報を受け取ってほしい。場所は農場の再北東部、日時はちょうど一か月後、つまり2月14日の深夜2時、私が言うのはこれだけだ。」


レジース総長はレボル長官の方へと目線を変えた。


「頼んだぞ。」


レボル長官はあまりにも大きすぎる任務に少し冷や汗をかきながらも、答えた。


「了解。」


その後、偵察兵全員がワーリッド敬礼をした。レジース総長もワーリッド敬礼で返した。まずは全員に、そしてレボル長官に、最後にテラに...




 二日が経った。この日は偵察部隊の小隊長の招集があった。内容は一ヶ月後の作戦に関する情報伝達だろう。

5人の小隊長が中央のボロボロの木製のテーブルを囲んで円状に整列した。その中には新兵のテラも入っていた。何故テラが小隊長という重要な役割を任せられたのかはよくわからないが、どうやら新兵中心の小隊を作ってみたかったらしい。しかし、他に小隊長を任せられた新兵は聞いたことがない。だから、テラは別の何かがあると考えていた。

全員がいることを確認し、レボル長官が話し出した。


「わかっているとは思うが、今から一ヶ月後の作戦に関する話をする。」


レボル長官は地図を広げた。どうやら奴隷農場周辺の簡単な地図のようだ。簡単というのは本当に必要最低限ということで、道と川、そして奴隷農場を囲う壁が書かれているだけであり、奴隷農場内部に関する情報に関しては何もない。


「さて、奴隷農場は石造りの格子などがない、つまり直接手渡しは不可能だ。ということなので、我々が狙うのは水門だ。警備がいるような水門は当然だめだ。だから専属の警備が存在しない小さな水門を狙う。」


そういうと、レボル長官は地図に印をつけた。ここが受け取る水門の場所のようだ。


「具体的には、長い棒をそこに突っ込んで紙を結んでもらうわけだが...まあ、向こうも結ぶのには良いタイミングと少しばかりの時間が必要になる。途中で警備が来たら終わりだ。これを防ぐために、回収地点からちょっと離れた場所で暴れてもらう役を作る。これは回収地点から左右両方の二隊分必要になる。つまり、回収隊と陽動隊2隊分の計3隊分必要になる。」


「西の陽動隊は私が指揮する。南の陽動隊はイーグル・ラング、お前に任せた。」


そして、レボル長官は最後にテラの方を見ていった。


「回収隊の指揮はお前に任せた、テラ。」


長官は頭がおかしくなってしまったのか?こんなに重要なところを別に特別な才能があるわけでもない新兵にやらせる?ありえない。私に務まるはずがない。

当然、テラは言い返そうとしたが、レボル長官は何も言い返すなと言うようにこちらを見つめていた。とても言い返せるような雰囲気ではない。


「安心しろ。新兵だけに行かせるわけではない。それに回収隊は戦闘のリスクは他の隊よりも低い。」


それは安心できる要素になるのか?


「わかった?わかったなら返事だ。」


「...分かりました。」


テラは渋々この役を引き受けた。

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