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第1話 トラックの光で知らないところに来たら、少女と少年と出会った

 暗闇を烈々と照らすトラックのヘッドライトが視界を埋め尽くし、うるさいクラクションが耳に響いた。


――あ、これダメなやつだ。


 そう悟った瞬間に意識が途切れ、次に目を覚ました時、俺――ユウキは見知らぬ土地でガレキの山に囲まれていた。


(あの光に包まれて……これって、まさか噂に聞く異世界ってやつか……?でもここは…街の跡…?家が崩壊していて酷い有様だ。)


「…こんなところでどうすれば…。もう日が暮れそうだけど、誰かいないか少し歩いてみるか…。」


 夕暮れ時、元の世界とは違う風景、手にはコンビニで買ったスープと弁当。人目をさけるように町外れの路地裏を通りかかった俺は、ふと足を止めた。


「……あれ? こんなところに迷子…?」


 崩れかけたレンガの影、冷たい石畳の上に二人の子供が座り込んでいた。ボロボロの服を着た儚げな少女と、その傍らで震えている幼い少年だ。


 少女は17、8歳、少年は12歳くらいだろうか。二人とも顔色が青白く、手足も凍りつくように冷たそうに見える。


(こんな寒い夕方、薄着で……可哀想に。お腹でも減ってるのかな。)


 放っておけなくなった俺は歩み寄り、腰を落として優しく微笑みかけた。


「大丈夫かい? ご両親とはぐれちゃったの?」


「うぐっ……うぅ……お兄ちゃん、お腹すいたよぉ……」


 少年が、ボロボロの袖で目元を拭いながら、涙目で俺を見上げてくる。その守ってあげたくなるような幼い仕草に、俺の警戒心は完全にゼロになった。


「よしよし、かわいそうに。ちょうどコンビニで買ったスープがあるから、それをあげるよ。」


 コンビニって単語の意味はわからないだろうけど、とりあえず袋からスープを取ろうとする。


「――ヒヒッ、かかったなバカめ!!」


 少年の表情が一変した。さっきまでの弱々しいうるうる顔は影を潜め、邪悪で狡猾なニヤリ顔へと歪んでいた。


(ガキだと思って油断したな!金縛りで動きを止めて、じっくり苦しませて殺してやる……!)


「縛鎖の強怨(ホールド・カーズ)!」


 少年の手から“暗黒の波動”らしきが解き放たれた。


「それに触れた人間は呪いで動けなくなるんだ。残念だったね、お人好しのお(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)」


「……ん?」


 波動は俺の肌を撫でたが、まるで早春のちょっと冷たい風のような心地よさだった。少しひんやりして、なんだか気持ちがいい。


「こらこら。これからご飯を食べるんだから、急に遊び始めちゃダメでしょ。食べたら付き合ってあげるから。」


「……は!?」


 少年は目玉が飛び出そうなほど目を見開いた。両手を突き出した体勢のまま、固まっている。


(な、なんで……!?なんで動きが止まらねぇんだよ!?死者の怨念だぞ!?)


「さっきまで泣いてたのに急に元気になったねぇ。ほら、用意できたからお食べ。お姉ちゃんも一緒に。」


「そういう問題じゃねえだろおぁぁっ! シロ姉ちゃん! こいつおかしいよ! 僕の金縛りが全く効かない!!」


 パニックになった少年は、隣にいた髪の長い少女にすがりついた。


 彼女はゆっくりと首を傾げた。瞳には透明感があったが、どこか困惑の色が浮かんでいる。


(……?)


 言葉を発することのない彼女だったが、その表情は『……なぜ平気なの?』と雄弁に物語っていた。


 シロは静かに立ち上がると、何も言わず抱きつくように俺に近づき、胸元に優しく手を置いた。


 ———冷気。彼女の手のひらから、俺の全身へ冷気が流し込まれる。


「うわぁ……」


「(……ヒヒッ、勝った!)」


「すごく手が冷たいね。風邪ひいてるんじゃない?」


「……!?」


 横で少年が勝ち誇った顔をしていたが、俺の返答が彼らの予想とはかけ離れたものだったらしい。


 俺は少女の青白く冷え切った小さな手を、両手で優しく包み込んだ。


 「さぁ二人共、温かいうちに食べようか。」


 その場に三人で座り込む。一つしかないスープカップをまずは少年に渡した。甘い野菜と香ばしい肉の香りが、夕暮れの路地裏にふんわりと広がる。


「ほら、熱いから気をつけてね。」


「あ……あのさぁ……お前、本当に人間か……?」


「こら、お前って言葉を使っちゃダメだよ。俺はユウキって名前があるの。キミは?」


「ぼ、僕は…ノア。」


 少年は引きつった顔で俺とスープを交互に見つめている。


「お姉ちゃんはシロちゃんって言うの?」


「うん…。ちょっと事情があって喋れないんだ。」


「そう…なのか。手が冷たいのも、きっとそれが理由なんだね。」


「…(小さくうなずく)。」


「ほら、お姉ちゃんも…。」


 少年から手渡されたスープを飲むと少女の瞳には、温かいものが宿った。


 シロは小さく息を吐くと、隣でつまらなそうな顔をしているノアの頭を、ぽん、と優しく撫でた。


「シロ姉ちゃん……?」


 シロは静かに首を横に振る。


「(……この人は悪い人じゃない……)」


「……ちぇっ。シロ姉ちゃんがそう言うなら、今日のところは見逃してやるよ。」


 少年は気まずそうにぷいっと横を向いたが、お腹が「くぅ〜」と可愛らしく鳴ったのは隠せなかった。


「ふふ、随分と素直じゃないか。さあ、冷めないうちにこっちの弁当もどうぞ。」


 ノアはちらっと弁当を見て目を逸らすが、未練がましくまた弁当を見る。やはり食べ物の誘惑には勝てないようだ。我慢できなくなって俺から弁当を受取るとパクパクと食べ始めた。


「おいしい……こんな温かいの、久しぶりだ……。」


「…(コクコク、と小さくうなずく)」


「2人の口に合ってよかったよ。…さて、俺はこれからどうしようかな。」


「どうしようって?」


「俺はさっきここに来たばかりで、行く当てがないんだ。」


「じゃあ、僕の家に来ない?小さな家だけど、雨風は凌げるよ。」


「ほんと!?でもご両親は?」


「今出稼ぎでいないんだ。ほら、ご飯のお礼もしたいし。」


「……(不安そうな表情でノアを見る)。」


「そうなの?じゃあ申し訳ないけど、今日はノアのお言葉に甘えるとするよ。」


「全然遠慮しないで。シロ姉ちゃんも行こう。」


 ノアは立ち上がると「こっちこっち。案内するね。」と先頭を歩いた。


「…ヒヒ…ずっといて良いんだよ…死ぬまでね…。」


 ノアは邪悪な表情で歪んでいた。


 本日より連載が始まりました「幽霊たちの未練を叶えるお人好し転生者、気付けば伝説の霊たちに愛されすぎていました~怪異たちをケアしていたら、周囲から『無詠唱の即死魔法使い』と恐れられるようになりました~」の第一話を読んでいただきありがとうございます。


 トラック転生に始まり、ノアの狡猾な演技をものともしないユウキの天然ぶりが炸裂しました!


「シロ&ノアのコンビがもっと見たい!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価(★★★★★)をお願いします!


 明日も21:00に更新します!

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